三十五話 恐れられるアマツカ
「おじいさん、僕が途中まで背負ってきますよ」
「すまんのう、若いの」
僕は逃げ遅れたおじいさんをおんぶする。おじいさんが自分で歩くより僕がおんぶして走った方が速いからだ。
「司!」
さなえに呼ばれて振り返るとマシンワイバーンのミサイルがこっちに向かってきていた。この状態じゃ避けるのも避けれない、当たる!
そんな僕の前に立ち塞がったのはさなえでも絵里香ちゃんでも、エミリアでもなかった。
「アマ…………ツカ………」
アマツカがMギアで召喚した姿になってミサイルを光の剣で切り裂いたんだ。爆発するミサイル、僕の方へ爆風が飛んでくる。
僕はなにもしてないのに、なんでアマツカの姿が変わって…………。いや、違う、ほんとになんでて思うのはそこじゃない。
「なんで、なんで出てきたんだよ!その姿になっちゃ駄目だって言ったじゃないか!」
僕は声を荒らげた。
「おお、天使じゃ、天使が現れたぞ」
僕の背中のおじいさんがアマツカを見て言う。その表情には恐れに近いものがあった。
「でも!俺が出なきゃお前はっ!」
その先は分かってる、お前はやられたんだぞ。アマツカはそう言おうとしたんだ。それを言う前に街の人が口を開いた。
「おい、あれ天使じゃないか?」
「ここにいたら襲われるぞ!」
「逃げろー!」
倒れている人達が一斉に息を吹き返したように立ち上がって逃げていく。マシンワイバーンに襲われても焦らないのに天使を見た途端に急いで逃げていく街の人達だ。
「お前、俺達を騙したのか!」
「俺達を殺すつもりだったのか!」
教会にいた悪魔の子供たちがアマツカを避難するように言う。
「違う!俺はただ………」
アマツカは子供たちの言葉を否定しようとした、けどその前に子供たちが先に口を開いた。
「もういい!帰る!行こうぜ」
「うん」
子供たちはそう言って去ってしまう。
「アマツカ…………」
僕はアマツカの顔を真っ直ぐ見ることすらできなかった。
「俺は大丈夫だ、気にするな。それよりもその爺さんを避難させろ」
「うん」
そう言うアマツカは無理をしている顔をしていた。
戦場から離れた位置まで行くと僕はおじいさんを降ろした。
「お前さん、勇者なのか?」
おじいさんが言う。
「ええ、まあ」
悪魔に天使が勇者を使役してるって言うのは気まずいな。
「伝説の勇者の中には天使を使役してるやつもいると聞いたことがある。最近は天使への憎しみばかりが多く言われて勇者に天使がいたことなんてあまり知られてないがの。わしは応援してるぞ」
「おじいさん……………」
僕はたとえ天使でもアマツカを応援してくれる悪魔がいて感動していた。
「ありがとうございます!アマツカに伝えてきます!」
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召喚された姿になったアマツカはマシンワイバーンとの戦闘を始める。
「きゃー!」
女性をマシンワイバーンの爪が襲う。
「グギャァー!」
そこへアマツカが現れマシンワイバーンの腕を切断した。
「逃げろ!」
「ひ、ひいっ!」
女性がアマツカの白い羽根や頭に浮かんだ輪を見て逃げていく。そんなやり取りが繰り返される度にアマツカは胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
そんな時、アマツカの周りに黒い霧が現れ彼を包み込んだ。
「なんだ?」
「先輩!」
アリエル達が見守る中アマツカはすっぽり霧に覆われてしまう。
アマツカが気がつくとそこは暗闇の中だった。周りを見渡すが仲間も建物もない。そこにいるのはアマツカともう一人、全身がなだらかな黒いアーマーに覆われた者だった。
その顔を伺うことは出来ない。いや、顔など元から存在しないのだろう。なにしろその形は人間というよりロボットのそれに近かったのだから。
「我はヤミマジン、マジンに名を連ねるもの」
ヤミマジンと名乗った者の目が緑色に光る。
「マジンがなぜこんなところに…………」
アマツカは二柱既にマジンと名乗るこの世界の神に出くわしたことがある。一方は戦いとは別の場で、もう一方はアマツカ達が敵に苦戦している時に会った。だが戦いに不利な状態でないにも関わらず現れることは初めてなのだ。
「なぜ我がここに、という問いは不要だ。マジンは管轄エリアの中ならばどこへでも現れる」
ヤミマジンが答えた。
「なら質問を変えよう、なぜ俺の前に現れた。俺はまだお前の力など必要としていない」
「我は戦うための力など与えない」
「なら何の力をくれると言うんだ」
力と言えば普通は戦うための力ではないだろうか。アマツカはそれ以外思いつかず不思議に思った。
「マジンは全てを見抜く。お前が、悪魔に恐れられ、避けられたことも」
ヤミマジンがアマツカを指差して言う。
「それがなんだと言うんだ!ここの種族に恐れられても関係ない、俺は暗黒ジャグラーズを、この世界を救う!」
アマツカは心の動揺を隠すように声を荒らげた。
「無理だな、今のお前は悪魔達に恐れられると同時に弱っている」
「馬鹿を言うな、俺は至って万全だ。弱ってなどいない」
「身体は、な。だが、心はどうだ?」
そう言われるとアマツカは言葉を失った。マシンワイバーンに襲われそうになった悪魔を助けた時の彼らの顔が思い浮かんだ。
「俺、は…………」
「恐いか?そうか、恐いだろう。多数の存在に恐れられることほど恐いものはない、自分が恐れられないと期待してるならなおさらな」
もうアマツカは言葉を続けることが出来ない、黙ってヤミマジンの言葉を聞くだけだ。
「それだけでお前は既に我が試練に合格している。さあ、受け取れ」
ヤミマジンが黒い霧をアマツカの中に送り込んでいく。
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悠side
アマツカを包んだ霧がなくなった時、やつの姿が変わっていた。霧がやつを覆っていたのはものの数秒に過ぎなかった。だがその時間はその何倍にも感じた。
「先輩っ!」
アリエルが口を覆い、悲鳴にも似た声をしていた。
「どういう、ことだ?」
俺はやつの変わりように声を漏らした。
「あれはいったい…………」
エミリアもわけが分からないというようにアマツカを見る。
「黒い、アマツカ?」
さなえがやつをそう呼んだ。そう、今のやつはいつもの白い衣装から真逆の黒い衣装に変わっていたのだ。羽根も白から灰色のくすんだ色に、頭に浮かぶ輪も赤黒く変色していた。
やつは敵を捉えると跳躍し、エネルギーの剣でマシンワイバーンの身体を一気に切り裂いた。
「グォオォォン!」
悲鳴と共にマシンワイバーンが消滅、跡形もなくなった。
「馬鹿な、レオパルドでも一体倒すのに四、五分はかかるのに一撃だと……………」
あの天使、化け物か!
「強い」
藤田もアマツカの強さに感心する。
「いいぞアマツカ!やっちまえー!」
二宮が拳を上げてアマツカを応援する。せめて自分の相棒も応援してやれ。
それからもアマツカはその力でマシンワイバーンの軍を次々と殲滅していく。その動きは見ていても気持ちが良かった。
「先輩………」
アリエルが心配するかのようにアマツカを見て言う。
「どうした?理由は分からんがスペックが上がった方が好都合だろう?」
俺はアリエルに近づいて言った。
「それだけだといいんですが…………」
「どうも煮え切らんな。何かあるなら言ってみろ」
「堕天使って知ってます?」
「堕天使…………、天使でも悪魔に近い力を得たやつか。なるほど、あの黒い見た目は堕天使と言われても違和感ないな。で、それのどこに問題が?」
「堕天使はみんな邪悪な力と心を持つと言われています。だから、先輩も…………」
「気にするな、その辺りは様子見だ」
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