三十一話 朝ごはんと不思議な井戸の話
家が火事に遭ったので寝るのは集会所で布団を広げてみんな同じところで寝ることになった。
西洋風のお城暮しの長いエミリアは
「こ、これが布団ですか。初めての体験です」
と言って興奮していた。
翌朝、僕は朝食を食べながらみんなに言った。
「ねえ、次はどこ行く?なにか手掛かりとか掴んでる?」
「ねえよ、俺達も昨日この里に来たばっかでほとんどいなかったんだからあるわけねえだろ」
豊太郎が言う。
「二人はなにかないの?」
さなえが言う。
「いや、ないけど」
「うそだー。あまちゃんのことだからどうせまた夢に何か出てきてるんじゃない?」
絵里香ちゃんがからかうように言う。
「今日はなんも出てないよ、ていうか今回のはたまたまじゃないの?」
「なんだ、使えないの」
「五十嵐さんは何かお知りになっていないでしょうか」
エミリアが言う。
「俺か、確か…………最初にここに来た時か、老人会の連中が何か言っていた気がするな。アンデッドバーサーカーがアジトにしていた洞窟があったな」
「はい、それがなにか?」
「あの時はそれどころじゃなかったがあそこには黄泉に繋がる井戸があると噂だ」
「なにそれ」
僕は首を傾げる。
「以前からあそこは里の行事の肝試しをする場所として使われるがどうも怪しい。なにしろ肝試しに行った連中が全員帰って来なかったことがあるらしい、そのせいで里として公式に肝試しをすることはなくなったんだ」
「つまり、そいつらは全員死んだってことかよ………」
「ひえぇ…………」
豊太郎とアリエルちゃんが引きつった顔で言う。
「最初は原因が分からなかったが、ある時聞き分けのないやつらが行って一人が井戸に落ちて帰ってこないとの証言があったから間違いない。その後も同じようなやつが行って帰って来ないやつがいるらしいが」
悠が説明を続ける。
「待って、それ井戸が深いだけじゃない?長い縄でも投げて井戸に落ちた人がそれ掴んで上の人に引っ張って貰えばいいだけじゃないの?」
僕は異論を唱えた。
「と、思うだろう。里の人間もそれを試したらしい。普通の縄では足りず、複数の縄を繋げた状態にし井戸に投げたらしい。その長さは里の森を全て覆うほどだったらしい、だがそれでもその縄を掴む者はいなかったそうだ」
里の森全部を覆うて正確な広さは分かんないけどすごい長さの縄になりそう。
「は、どういうことだよ。落ちたならそこにいるはずだろ?そんだけ縄があんのになんで届かないんだよ」
豊太郎が言う。
「さあな、とにかくその井戸に落ちて戻ったやつはいない。だが井戸に落ちた人間が戻ってきたことはある」
「え、なんで?だってその井戸深いんでしょ?なんで戻ってこれんの?縄もないのにそんなこと出来るの?」
絵里香ちゃんが混乱した様子で言う。
「理由は不明だ、だが数年、数十年して戻ったきたやつらもいる。そいつらはみな普段この里の人間が着ないような服を着ていたらしい。それも里の外の貴族が着るような派手なシャツや光沢のあるズボンを着ていたらしい」
「なんだそれ、着替えに何年もかけてたってか?」
豊太郎が言う。
「意味分かんないし、絶対にありえない」
さなえが言う。
「でも戻ったやつは着替えてたんだろ?着替えしてたんだろ?」
「豊太郎は着替えるのに何年もかける?」
「はあ?」
意味が分からないという顔の豊太郎。
「そういうこと、着替えに何年もかけるとかありえない」
「でも戻ってきた方は服が変わっていた、外の街の格好で」
エミリアが言う。
「やっぱりそんなのありえないですって!井戸を通って別の街に行ってたとでも言うんですか?!ははは、おとぎ話でもありえないですって」
アリエルちゃんが笑って言う。けど悠の言葉はアリエルちゃんの予想に反したものだった。
「ああ、そう思ってる」
「は?」
「え」
「はい?」
僕達は呆気に取られた。
「まさか悠、お前のことはもう少しかしこい人間だと思っていたがこんなことを言うなんて…………馬鹿なのか?それとも頭のネジが吹っ飛んだのか?」
レオパルドが信じられないという顔で言う。
「俺は馬鹿でもないし頭のネジが飛んでもない、至って真面目だ」
「真面目に壊れたのか」
アマツカが言う。
「壊れてもないっ!」
悠が声を荒らげる。
「ならなぜ井戸に落ちた人間は別の街に行っていたと思ったのです?」
アンジュリアンさんが言う。今のアンジュリアンさんは人間の手のひらくらいの大きさだから朝食を食べる風景は小人が巨人の食べ物を食べているように見える。彼女は箸ではなく爪楊枝で朝食を取っている。
「あの井戸の底には次元の歪みが出来ていてあそこを通ると別の街へ移動することが出来る、俺はそう仮説を立てたんだ」
「やはりこの男、壊れているな」
ガルムが言う。
「ぐ、言ってろ。いいか、俺達はどうやってこの世界に来た?次元の穴だろ!そしてそれを開ける端末を!正確には開けただが俺と司を持っている!なら!意図的に開けるのなら偶発的に開いても違和感はないだろ!」
あまりに馬鹿にされたせいか一々言葉の語気を強めながら悠が言った。それを聞いて僕は目をギョロつかせた。
「そういう、ことかぁ…………。気づかなかったぁ………」
端末というのはマカイターミナルのことだ。
「偶発的に開いた次元の穴か…………」
豊太郎が苦い顔をした。
「もしそれが本当だとして、ちゃんと帰れるの?」
さなえが不安そうに言う。
「嫌ならまた司と二人で行くぞ、今はまだ疲れが残ってるが昼にでもあの井戸に行ってくる」
「ちょっと、僕を巻き込まないでくれる?!」
いきなり指名された僕は声を荒らげて反論した。確かに王都から出る時も悠とレオパルドと二組で出たけどさあ。
「あんた達、あの井戸に行く気か!くだらない与太話かと思ったが本当に行くと言い出すなんてふざけてるのか!?戻ってこれる保証はないんだぞ!?」
近くで話を聞いていたと思われる耕太郎さんが立ち上がって声を荒らげた。それはさっきの僕の比なんかじゃない、自殺に行く人を必死に止めるかのような勢いだ。
「まさかあんたに心配される時が来るなんてな」
悠がニヤリと笑って言う。
「冗談言ってる場合か、あの井戸は特別なんだぞ。毎年何人のも馬鹿があの洞窟に行って帰って来ないんだ、どうせあの井戸に決まってる。だから、勇者殿もくれぐれも、無謀な真似はやめてください」
辛そうに言う耕太郎さんからは心の底から僕達を心配してるのが見て取れる。
「悪いことは言いません。そこにだけはどうか、どうか行かぬようお願いします」
吉影さんが言う。
「心配してくれてありがとう。だが俺は可能性があるなら試してみたいんだ」
悠が大丈夫だ、心配するなと言うように微笑む。
「行ってくれるか、レオパルド」
悠が相棒の悠に声をかける。
「そこまで本気なら止めない、俺はマスターに従うだけだ」
僕はため息をついて言った。
「しょうがないなー。君達だけじゃ不安だから僕もついて行ってあげるよ」
「それを言ったらお前のパートナーである俺も行くことになるんだが、まあついてくんだがな」
アマツカが言う。
「司まで本気かよ、どうするよお前ら」
豊太郎が他の仲間に言う。
「わたし、行きます。それが勇者としての務めに繋がるなら」
エミリアが真剣な面持ちで言った。
「いいの?だってエミリアて王族じゃん、王様や女王様が心配しない?」
「父は王族であるお前が旅に出る必要はないと何度もわたしを止めました。けど母は、旅に出ることで得られることもあり、それが城に戻った時にきっと役に立つと言ってくれました。それに、センカさんもわたしが勇者の力になるだろうと言ってくれました。だから、両親のご心配を気にする必要はありません」
エミリアが旅を出来る理由を説明した。
「だがいいのか?繰り返すがあの井戸に行って戻ってくる保証はないぞ」
僕はそう言った悠の言葉に付け加えた。
「あの井戸だけじゃない、そもそも僕達の冒険は死ぬ可能性がどこかにあるんだ。それでもついて行くのかい?」
「はい。国の、世界のみなさんが苦しんでるのに何もしないなんてお断りです!」
エミリアが強い意志で言った。
「ならわたしも行く、司を一人でほっとけない」
さなえが言う。
「いや一人じゃないし、悠もレオパルドもアマツカもいるんだけど」
そう反論したけど………
「信用出来ない」
との一言でバッサリ切られた。みんな一応それなりに付き合いあるはずなんだけどな。
「へっ、てめえらが行くってんなら俺も黙ってるわけには行かないよな。付き合うぜ」
豊太郎が言う。
「あの、先輩。今回は遠慮しません?」
最後の一人、アリエルちゃんが控えめに言った。この全員乗り気な空気に水を指すような言葉に思わず朝ごはんのお盆を倒しそうになった。
「却下だ。お前が行かないのは勝手だが俺を巻き込むな」
アマツカが脱力しながら言った。子供の姿なのにこの時だけはおじさんに見えた。
「そうですか。なら、わたしも覚悟を決めました。愛する先輩のため、井の中、異界の中、飛び込んで参ります!」
大丈夫かな、アリエルちゃんとの付き合いは浅いからちょっと不安だ。
「では行ってくる」
お昼ご飯を食べて洞窟に行く前に悠が吉影さん達に別れの挨拶をする。
「うむ、気をつけてな」
吉影さんが頷く。
「待って!」
呼留が僕達を引き止めて走ってくる。
「これ、忍者の携帯食糧の兵糧丸て言うの。一個食べたらお腹が膨れるから、向こうで食べて」
「ありがとう、助かるよ」
「わざわざわりぃな」
「最後まですまない」
「いいっていいって、お客さんには精一杯のおもてなしをしないとね」
「何かあったら、また来てもいいのよ」
後から歩いてきた黄莉恵さんも優しい瞳で言う。
「ま、あの井戸に行って帰ってくる保証なんてないけど」
黄香さんが腕を組んで言った。
「と、言いますが必ず戻ってくるんですよ。あなた達は世界を救う勇者なんですから簡単に死なれたら困ります」
耕太郎さんが言う。一応敬語で僕達のことは嫌いみたいな喋り方なんだけど最初の方よりは距離を感じない気がする。
「ああ、必ずな」
悠が拳を突き出すと耕太郎さんもそれに合わせる。
「わたし達も、お帰りをお待ちしております」
「その時には里をゆっくり案内するでござる」
伝助さんと秀信さんが言う。
「はい、その時はお願いします」
「みんな、今度こそ行くぞ」
悠の呼びかけで僕達は集会所を出る。
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