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魔導奏者りりかさん魔界編  作者: 兵郎
二章 不思議な夢と狐流忍者の里
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二十話 到着、狐流忍者の里!



狐流忍者がいると言われる森の前で僕達は竜車から降りた、なんでもこの森の中は竜車が降りづらいそうだ。運んでくれたユーリさんやゴローさんにお礼を言って別れる。


この森が新たな戦いの始まりかもしれないと思うと緊張してきた。 悠も緊張してるのか森を真剣な顔で見詰めるだけだ。あまりに真剣に見詰めてるので言ってやった。


「ねえ、もしかして恐いの?」


「誰が、俺がそういう風に見えるなら心外だな。俺が怯える?そんな馬鹿なことあるわけない」


そう言って悠が歩こうとするけど足がガチガチだ。その仕草に思わず僕は口元が緩んでしまった、僕の緊張が嘘みたいじゃないか。


「森の中入るだけだし、そんな恐がることないよ」


僕は彼の肩をポンと叩いて中に入る。


「案外普通、でもないな」


アマツカが言う。


「まさか本当に中まで竹があるとは思わなかったぞ」


レオパルドも中の竹に驚く。


「竹と広葉樹の組み合わせとか向こうじゃ見ないからね、ていうか竹やぶ自体行かないよ」


僕達が周りの景色に見惚れてると悠が自分の体を抱く動作をしていた。


「なに悠、寒いの?」


「いや、寒くはない」


寒いの?と聞いたのはわざとだ、これじゃないてことはやっぱり。


「恐いんでしょ?」


「だ、誰がそんな!俺はこんな森恐がったりなどしない!」


声が震えている、明らかに嘘だね。


「なにがそんな恐いの?」


「いや、なにがってわけじゃないが………」


悠が周りを見渡す。森?この森になにかあるの?僕達も周りを見渡す、すると妙な気配を感じた。邪悪、というか悲鳴のような…………。


「悲鳴だ!」


「おい待て!」


レオパルドが走りアマツカが追いかける。


「お、おい………」


僕も行かないとて思ったけど悠が足がすくんで動けないでいた。


「ほら行くよ!」


僕は悠の腕を引っ張って走る。


「誰か倒れてるぞ」


しばらく走るとレオパルドが叫んだ。見ると狐耳に狐のしっぽを蓄えた和服の人が倒れていた。もしかして狐流忍者ってこの人のことかな。


「おい、大丈夫か!」


アマツカが和服の人に駆け寄る。


「た、助けてください!」


和服の人、14、5ぐらいの女の子がアマツカの腕を掴む。


「あたしの里が、あたし達の里が!」


女の子が何か言うけど詳しいことは分からない。


「落ち着け。まず何があった、それから話せ」


アマツカが言う。


「悠、この人にお茶をあげて」


「いいのか?まずこいつに何があったか聞くべきだろう」


「いや、落ち着かせるのが先だよ。でないと話すものも話せないよ」


僕は悠に言った。僕は悠達より前から怪物退治をしてたからこういう状況の対処法も習ってるんだ。


悠がバッグから水筒を出してそのコップにお茶を入れる。この水筒は人間界から持ってきたんだけど三日目となると中身が腐ってそうだからドラグエンパイアを出る時に入れ替えたんだよね。


「ゴクッ、ゴクッ」


女の子がコップから口を離す。


「落ち着きましたか?」


「はい、ありがとうございます」


「おい、ここで何があった」


悠が聞いた。


「あたし、この先の狐流忍者の里のコルって言います。今朝、何者かの軍団が里を攻撃してきたんです。忍者にも強い者はいますがほとんどが王都に常駐してて里に残ってるあたし達だけじゃ太刀打ち出来なくて…………」


女の子、コルが説明した。


「アマツカ」


「ああ」


僕とアマツカは頷いた。


「悠」


「あ、ああ」


レオパルドも悠に呼びかけるけど悠は声が震えたままだ、まだビビってるの?


僕達はMギアを出して叫んだ。


『召喚!』


大きくなったアマツカとレオパルドが飛び出し森の向こうに行く。それを見たコルが言った。


「あなた達もしかしてホーくんやヴァミちゃんの仲間?」


「ホーくん?」


「ヴァミちゃん?」


知らない名前に思わず復唱するけどさっぱり分からない。


「ほら、Mギアっての持ってて人間界から来た………」


僕達の知り合い?ホーくんにヴァミちゃんて呼びそうなやつて誰だっけ、分からない……………あ、豊太郎とヴァミラだ。


「分かるかー!略しすぎて流石に分かんないよ!ヴァミラでギリギリ分かるのにラまで抜いたら分かんないよ!」


略称の分からなさに思わず叫んだ。


「まあ落ち着け、この女が二宮と会ってるのは間違いないんだ」


悠が言う。前は豊太郎のこと名前で呼んでなかった?もしかして昨日のこと怒ってる?


「と、とにかく。豊太郎の仲間の僕達が来たからにはもう安心です」


「ありがとう、あなた達は?」


「僕は天城司、こっちのビビりが五十嵐悠」


「誰がビビりだ」


僕が紹介すると悠が文句を言った、今も自分の体抱いてるくせに。


「つっくんと、ゆっくんね」


コルが僕達のあだ名を決める。下の名前一文字とはこれまたシンプルな呼び方だな。


「よっと」


僕は衣装を変えて羽根を生やして黄色の輪っかを浮かせた天使としての姿になった。


「て、天使だったの君?!」


「初めて見る格好だな」


僕の姿にコルと悠が驚く。僕はそのままコルの前にしゃがんで後ろに手を出した。


「しょってくよ」


「いいの?」


「大丈夫、この格好の僕体力あるし」


「じゃあお言葉に甘えて」


コルを背負うと体が重くなり女の子特有の柔らかさが乗っかってきた、普段の僕はちょっと貧者だから女の子一人背負うのも辛いかも。


「行くよ悠」


「ああ」


走っていくと戦いの悲鳴と怒号が聞こえてきた、もっと近づくと里の様子も見えてくる。


「ひどい………」


「これは………」


ゾンビみたいに腐った体に半身を機械にしたモンスターが人々を襲っている。コルの言う通り住民の人はモンスターにやられて怪我をしている。その中でアマツカとレオパルドがモンスターと戦っていたけど中には二人の存在などお構い無しに人々を襲っているのもいる。


マカイターミナルで見た情報だとモンスターはマシーンアンデッドって名前だ、腐った死体を機械で補強してるのか機械で無理に改造した体を使い続けたせいで生身が腐ったのか真偽が謎なモンスターらしい。腐敗した生身の影響で機械の体もサビが酷くなるようだ。アンデッドだから簡単には死なないんだとか。どっちにしろ腐ってるから見た目が相当気持ち悪い。


「う、気持ち悪い」


僕達は臭いに口を抑えた。なにか腐ったような臭いだ。


「見て、多分あれだよ!」


コルが指さすとアマツカに光の剣で切断されたマシーンアンデッドの死体があった、どうやらあそこから腐敗臭が出てるらしい。腐ってるから斬ったりすると臭いが広がるのか。


「タテガミバルカン!」


「ヒエー!」


レオパルドがたてがみにあるバルカン砲を浴びてマシーンアンデッドが爆発して動かなくなる。部品や身体がバラバラになったマシーンアンデッドが消滅していく。


「スキアリャー!」


マシーンアンデッドの一人がレオパルドに襲いかかる。


「レオパルド!」


悠が叫ぶとレオパルドが襲いかかろうとした相手にバルカン砲を浴びせる、爆発するマシーンアンデッド。


「マスター!」


レオパルドが悠を呼ぶ、レオパルドはこの姿の時は悠をマスター(主)と呼ぶんだ。


「レオパルド、状況はどうなってる?」


「住民のほとんどは非難させましたがまだ怪我人が多く残っています、まずはこのモンスター達を倒さなければ」


悠に聞かれレオパルドが説明する。


「しかもこいつら身体を完全に破壊しなければ死なない不死身の連中なんだ!」


アマツカが言う。


「そんな………」


中々死なないのは知ってたけど本当にそうだったなんて。


「不死身の生き物てこと?」


コルが言う。


「やめて、聞きたくない」


アマツカが光のブーメランを投げたりレオパルドが複数の相手に同時にバルカン砲を撃ったりして一気にマシーンアンデッドを仕留める。


「キッカちゃん!」


敵がいなくなるとコルが僕から降りて建物の外で倒れてる女の子に駆け寄った。


「コル、助け呼んでくれたのね」


キッカと呼ばれた子が答える。


「今手当てするから待ってて!」


コルが建物に入る。


キッカちゃんはマシーンアンデッドに斬られたのか腕や胸から血を出してて痛そうだ。


「あなた達は………」


キッカちゃんが僕達を見る。


「人間界から来た勇者です、コルに呼ばれて来ました」


「そう、あなた達が………う!」


キッカちゃんが痛そうに腕を抑える。


「大丈夫ですか!」


「あいつらにやられちゃって。はは、忍者なのに情けないわよね」


キッカちゃんが力なく笑う。


「キッカちゃん………」


見るのも辛い。これが戦いの惨劇、王都の時は砦で侵攻を止めてたみたいだけどひとたび街が襲われるとこんな酷いことに。僕には彼女が戦うのが仕事にしてるとは思えない、そんな人まで襲われると思うと胸が締め付けられた。


「あー、もう!あいつら家の中まで荒らしちゃってー!やっと包帯見つかったよー」


コルが苛立った様子で出てきた。


「どいてどいて!」


コルはキッカちゃんを抱き上げると木製茅葺き屋根の家の中に入っていった。


「来ないでよ、今服脱がすんだから!」


「ご、ごめんなさい!」


怒られてしまった、僕達は一旦外で待機して他の倒れてる人達を介抱することにした。


何人かの介抱を終えると何か悪いものが近づいてくる気がした。


「アマツカ」


「ああ、ここを離れるぞ」


僕はアマツカや悠と顔を合わせてここの人達を戦いに巻き込まないよう移動した。


集落を少し離れると目的のものと会った。


「よう、てめえらが異界から来た勇者共かい?」


マシーンアンデッドをパワーアップさせたようなモンスターが言う。マシーンアンデッドと違って頭にトゲが何本か生えてて生身の部分が腐り過ぎて真っ黒になってるんだけど筋肉隆々で機械の部分もゴツくて銀ピカに輝いていた。


「そうだけど、君は?」


「俺様は暗黒ジャグラーズ、マシーンアンデッド軍団のリーダー、アンデッドバーサーカーだ!」


モンスターが名乗りを上げた。


「暗黒、」


「ジャグラー」


僕達は目の前のこいつを見る、これが狐流忍者を襲ったやつらの首謀犯にして暗黒ジャグラーズの一人…………!


「突然だがてめえらには死んでもらうぜ」


アンデッドバーサーカーがそう言うと腕が青く光ってビーム砲になった。ビーム砲がこっちに向いて弾丸が飛んでくる。


「うわ!」


僕達は驚いたけど直撃はしていない。


「おっと、外しちまったか。けど今度は本気で行くぜ」


またビーム砲が向けられる。


「アマツカ!」


「レオパルド!」


「分かってる!」


「イエス、マスター!」


僕達の号令でアマツカとレオパルドがアンデッドバーサーカーに突っ込む。


「甘いぜ、甘い甘い甘い!」


バーサーカーが叫ぶと今度は腕が剣に変わって二人を斬り裂いた。


「ぐっ」


攻撃を受けて吹っ飛んでくる二人、怪我はしてないけどいい音がしていた。


「アマツカ!」


僕はアマツカに駆け寄る。


「俺は大丈夫だ。あいつ、かなり強い………!」


アマツカがバーサーカーから目を離さず言う。


「だったら!」


僕はMギアを構えると叫んだ。


「エンマジンの力よ!我が天使の力となれ!」


アマツカの足下から炎が出て包み込んだ。同時に僕の体温も上がる。


「おい、なんだこれは」


エンマジンの力を知らない悠が言う。


「ちょっとした秘密兵器さ」


僕は指を振ってもったいぶったように言った。


「はっ!」


炎が止むと手脚に炎をまとったアマツカが構えた。


「いや、燃えてるぞ」


悠が言う。


「そりゃ炎の力だから多少は燃えて………」


「アマツカじゃなくて森が」


「うそ!?」


悠の言葉にアマツカの周りを見ると草がさっきの炎で燃えていた。


「やばいやばい、早くけさなきゃ!火事になっちゃう!」


「あ、ああ!」


手脚の炎を消したアマツカと協力してまだ小さい火の手を足で踏んで消していく。


「なんだありゃ、シラケるぜ」


そう言って気がついた時にはアンデッドバーサーカーは姿を消していた。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



集落に戻ると大きな屋敷に案内された。ここにはマシーンアンデッド達の惨劇から逃げ伸びた人達が集まっている。中でも、奥の座敷で座ってるのは白くて長い髭と髪をたくわえたおじいちゃんだった。周りにもたくさんのおじいちゃんがいるけどその人が一番偉そうに見えた。


僕はそのおじいちゃんの目の前に正座している。このおじいちゃんがあまりに偉そうであぐらなんてかけたもんじゃない。


「勇者殿」


「はい」


おじいちゃんが僕達を呼ぶ、その威厳に返事をする時にも自然と背筋が伸びてしまう。


「こたびの活躍、まことに感謝いたす。この狐吉影こよしかげ我ら狐流忍者の老人会が里を代表してお礼を申し上げたい」


おじいちゃん達が頭を下げる。


「い、いえ。僕達は当然のことをやったまでですから!」


緊張で僕の声も震えてしまう。


「それに俺達は敵の首領を逃している、まだ礼を貰うべきではない」


悠が腕を組んで言った。君、よく吉影さんの前でそんな態度取れるね。


「しかしあなた方のおかげで死者は最小限で済みました、それだけは言わせてください」


吉影さんが言う。


「だがやつはまた仕掛けてくるだろう、その時の備えはあるのか」


「それが難しくて、先ほど各地の仲間に伝書鳩を送ったのですが早くて丸一日かかるかと」


「遅すぎるな、下手したらこれ以上の被害が出るぞ」


「ええ、なのでせめて勇者殿達には少しの間だけでもこの里をお守りして欲しいのです。お礼ははずみます。どうか、どうかお願いします!」


吉影さんが頭を下げる。


「どうする、悠?遥香ちゃんはいないけど、戦う?それとも通りすぎる?」


僕は聞いた。


「俺はそこまでの悪人じゃない、護衛くらいやるさ。というかお前が変なことさえしなければアンデッドバーサーカーを倒せたんだがな」


悠に睨まれ僕は口笛を吹いた。あー、恐い、あー、恐い。


「吹けてないぞ」


「うそ?」


「ああ、ただヒューヒュー言ってるだけだ」


「ちぇー、ちょっとショックー」


悠が吉影さんに向き直って言う。


「いいだろう、この里を守ってやる。ただし不要な外出は避け、なるべくこの建物に残っていろ。一箇所に留まっていれば守るのも容易だ」


「はは、そのように致します。みんな聞いたかー!必要のない時はここを出るんじゃないぞー!」


吉影さんが部屋全体に聞こえるような声で言った。


「とまあ、積もる話はここまでにして、ここからは宴会にしましょう。勇者殿達はまだ昼食は食べてませんか?ならここで食べて行きましょう。ささ、こちらへ」


それを聞いてアマツカやレオパルドの目が光った気がした。


「いや、あの俺さっき…………」


吉影さんが悠を引っ張って自分の隣に座らせる。悠が何か言おうとしたけどお構い無しだ。多分弁当食べたばっかって言いたいのかな、竜車の中で食べたおにぎり。お昼と言っても大分過ぎてる気がするんだけどね。正直、僕はお腹が空いてる。


レオパルドも一緒に連れてかれた。


「じゃあつっくんはこっちで食べよっか」


コルが僕を引っ張る。


「いいの?」


僕も悠と一緒に偉い人達と食べるべきじゃないの?


「あっちはあっちで楽しませておいてこっちはこっちでやっちゃおうよ」


「ならお言葉に甘えて、友達も一緒でいいかな」


「もちろん、君名前は?」


「アマツカだ」


コルに聞かれてアマツカが答える。


「じゃあ、あまちゃんだね」


『ああ?』


コルのつけたあだ名に僕達は彼女を睨み返した。


「じゃあ、あっくんで」


「ならいいや」


よりによってなんで絵里香ちゃんが僕を呼ぶ時のあだ名にするかな、もう。


座布団に座ってコルやキッカ達女の子を見るとみんな包帯だらけで中には目までぐるぐる巻きになってる人がいた。


「改めて自己紹介するね。あたしはコル、呼ぶに留まるって書いて呼留。お兄ちゃんが諜報部の隊長やってるんだ」


最初聞いた時はなんとも思わなかったけど漢字で聞くと変わった名前だな。


改めて呼留を見る。薄いピンクの狐型の耳としっぽを持っていて髪もピンク色をしている15歳ぐらいの女の子だ、あと歳の割におっぱいがでかい。王女様と髪色系統が似てるけどあっちより薄い色をしている。


「で、あたしがキッカ。字は黄色に黄に香って書くの。三人姉妹の次女で腕力には自信があるわ。因みに呼留はあたしより年下ね」


黄香さんが怪我してない方の腕を見せる。言葉通り女の子にしては筋肉がある腕だ。黄香さんは名前の通り耳としっぽが黄褐色をしていて髪と服も黄色っぽかった。


呼留より年上、らしいけど……………。黄香さんの胸が気になってしまう、呼留の胸は歳の割に大きいけれどこの人のは逆に小さい気がするんだ。


「て、なに見てんのよ!」


「いっ」


胸を凝視してたせいか頭の横をすごい勢いで殴られて倒れた。腕力には自信があるって言ってたけど殴られたとこがすごい痛い、頭がビリビリする。


「あー、もう、どいつもこいつも呼留と比べちゃって、なんなのよもう!見てなさい、その内こんなやつすぐ追い抜いてやるんだから!」


黄香さんが立ち上がって憤る。黄香さん、それフラグです。そんなこと言ったら逆に育たないかもです。


「あらあらまあ、黄香は相変わらず元気ねえ」


黄香さんと同じ色のしっぽと髪の女の人が朗らかに笑う。黄香さんはボブカットだけどこの人は腰を過ぎるくらいの長髪だった。


「お姉ちゃんが大人し過ぎるの!だいたい、あたしがいなかったらお姉ちゃん達逃げきれてないんだからね?!」


黄香さんが言う。呼び方からして黄香さんのお姉さんみたいだ。


「もしかしてその怪我………」


僕は黄香さんの包帯を指さした。


「まあ、みんな一緒に逃げてたら一緒にやられちゃうからね。誰かが時間稼がないと」


黄香さんがぎこちなく笑う。強い人がいないって聞いたけどそれでもモンスター達と戦うなんて、僕はその勇敢さと理不尽さに涙が出そうになる。


「そんな顔をしないで。黄香達のおかげでわたし達は死ななかったしこうして無事でいられるの。それに、黄香達もあなた達のおかげで助かった。だから誇っていいのよ」


黄香さんのお姉さんが笑う。お姉さんの膝に座ってる女の子が立ち上がって僕の頭を撫でてくれた。こんな小さい子に撫でられるなんて恥ずかしいな。


「自己紹介が遅れたわね。わたしは黄莉恵、黄色の黄に草冠の下に便利の利、恵みと書いて黄莉恵よ。こっちは娘の茶々」


黄莉恵さんか、結構難しい字書くんだな。黄莉恵さんは24歳ぐらいだろうか、髪も長い上に胸もすごく大きくてその顔にもどこか包容力を感じさせるものがあった。


「娘?!」


僕は黄莉恵さんの紹介した女の子に驚いた。さっき僕の頭を撫でた女の子なんだけどどう見ても8歳とか10歳くらいなんだよね。 耳や髪の色はお母さんと違って赤い色をしてる。茶々て織田家とか豊臣家にいそうな名前なんだけど。


「落ち着け司、そもそもここは人間界じゃない」


アマツカが言う。


「そうか!つまり結婚年齢が違うから若い人が10歳くらいの子供連れてても違和感ないんだ!」


「そういうことだ」


「あら、もしかして勇者様の世界では結婚する年が高い人が多いのかしら?」


僕の言葉を聞いて黄莉恵さんが言う。


「僕の国じゃ近年晩婚化て言われて結婚年齢は大分下がってますから」


「あらまあ」


黄莉恵さんが頬に手を当てる。その動作一つ一つが可愛いらしいお母さんて感じだ。お姉さんでも通じるけどね。


「なによそれ、あんたの世界遅れてるわねえ。結婚て言ったら15でするのが常識よ」


黄莉恵さん達と同じ黄色い耳と髪のツインテール子が言った。偉そうっていうか高飛車な感じの13歳くらいの子だ。


「こらこら、勇者様に失礼な態度取らないの。あっちにはあっちの事情があるんだから」


黄香さんが女の子を注意する。


「あ、この子黄乃。あたし達と同じ黄色の黄に乃の字の乃って書くの」


黄香さんが女の子を紹介する。乃と一瞬どの字かと思ったけど黄香さんが空中に指で書いてたので分かった。


その後も女の子達が自己紹介をしていき呼留が言った。


「因みに苗字はみんな狐、キツネの狐ね」


「みんな同じ?」


「一族だからね、つっくん達みたいに違う苗字じゃないんだ」


「名前被ったらどうするの?」


「あんまないけどお父さんやお母さんの名前で区別するんじゃない?」


「なるほど、そういう方法なんだ」


明治以前も日本だと苗字ない人のがほとんどだからそうしてたのかな。


話し合いも一段落したところで足のついたお盆に乗った料理が運ばれてきた。大きな白いシャケの切り身にこれまた大きな鶏のグリル焼きがおかずに主食の赤飯と汁物の豆腐の味噌汁や野菜のおひたしが添えてあった。シャケと鶏は他の人のお盆にはないから僕達勇者だけの特別仕様だ。


ゴクリ、僕は喉を鳴らした。これ、豪華すぎじゃないかな。


「さ、食べちゃって」


呼留が言う。


「いいの?」


豪華過ぎて食べるのを遠慮してしまう。


「いいのいいの、今日はお祭りよ。勇者が里にやってきた神聖なお祭り」


神聖なて言う割にアットムードがあるけど。


「祭りじゃ祭りじゃー!勇者祭りじゃひゃっひゃっひゃ!ふぅー!いえーい!」


て騒いでるおじいさんを見て、ああ、ここは騒がしい民族なんだなて思うことにした。


「食べるか」


と思った時にはアマツカは鶏にガツガツかぶりついていた。早い……………。


じゃあ僕も鶏から食べようか。


「ん」


鶏にかぶりついた時その香ばしさに目を見開いた。ただ焼いただけじゃない、しょう油でもかけた?この香ばしさはアマツカがガツガツ食べるのもうなずける。


「おいしい?」


僕達を見て呼留が言う。


「ええ」


僕は相槌を打ったけどアマツカはガツガツ食べるだけだ、そんなにおいしいんだ。


「よかった。それうちの農場で作ったんだ、何年も熟成させたすごいお肉なんだよ」


しょう油かけただけじゃなかったんだ、そもそも質が違うんだ。


「いいの?そんなの貰って」


「いいのよ、あなた達は里の窮地を救ってくれた勇者様だもの。これくらいしなきゃ」


黄莉恵さんが言った。いやまだ救ってないから、これから救うんだからね?もしかしてこの人達、気が早い気質なの?


再び鶏にかぶりつくと中身の味が際立ってきた、さっきは皮の味に気を取られたからね。中身がぎっしりというかジューシーな肉汁が口にぶわっと広がって美味、美味美味美味!美味だよこれ!僕は夢中で鶏を食べていく。


骨だけになった鶏を置いて赤飯を食べる、赤飯特有の甘みと味付けの塩が広がっていく。主食だからそんな味濃くないや。


味噌汁も飲んでいく、そこで首を傾げた。アマツカは構わず飲んでるけどなんか違和感あるような。


「もしかして、薄かった?」


呼留が言う。


「ええ、まあ」


「ホーくんも家に泊めた時薄いって言ってたんだよねー。みんなのところとは味付けが違うのかも」


「泊めた?!」


僕は呼留の衝撃の言葉に声を上げた。


「呼留、あんた………」


「知らない人をお家に泊めてしかもその方が勇者様の仲間だったのに言わないなんていうのはどうかしら?」


黄香さん達が呼留を責めるように言う。


「いや、だってわけありっぽいし、急いでたみたいだからみんなに話すどころじゃなくて………」


呼留がしどろもどろに言う。


「ほんとに変なことはないの?」


僕は呼留を睨みながら言った。友達が異世界で彼女作ってあまつさえ18禁な関係になったら絶交する用意まである。


「ないよ!だいたいそんな暇なかったもん!」


言い張る呼留。


「ほんとにー?」


僕は疑うのを止めない。


「ほんとだって!」


「まあそう言うならいいけど」


今日会ったばかりの人を必要以上疑ってもしょうがない。


気を取り直してシャケをつまむ。


「ん」


思わず息を漏らした。これはおいしいな、見慣れた赤い身じゃないけどぎっしりと中身の栄養分が詰まってる感じがした。養殖か野生か分かんないけどそれなりに育ったシャケじゃないかな。いける、いけるよこれは!て思ったけど駄目だ、塩が振ってあって食べづらい。


赤飯で味を緩め、あー!これ塩入ってるよー!シャケより少ないけど塩振ってあったんだー!まあでもないよりはマシかなー。でもやっぱり濃すぎるなーって思って味噌汁を飲む、濃い料理に薄い味噌汁はちょうどよかった。


濃いシャケ、合間に赤飯、さらに味噌汁という三連コンボで食べ進めていく。その間に呼留達が地元の話を聞いてくる。たまには宴会もいいかもしれない。しかも、周りには女の子がたくさん、これは役得じゃないかな、ニヒヒヒ。


その間アマツカは赤飯や味噌汁をすごいおかわりしていた、よく食べるねこいつ。黄莉恵さんが関心してたよ。

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