十六話 忍者の里での休息
俺が目を覚ますとそこは一面の銀世界、ではなく木の天井だった。起き上がるとヴァミラが和服を着た狐耳としっぽをつけた女の子と鍋を食べていた。
「どういうことだよ」
俺は思わず口を開く。ここは江戸時代の小屋か何かか?いやでも狐耳としっぽはおかしいだろ、やっぱここ異世界ってやつなのか。
「あ、起きたのね」
「先にご飯食べてるよー」
俺に気づいて女の子とヴァミラが言った。
「よかったぁ、森ですごい爆発があって見に行ったらあなた達が倒れてるんだもの。なかなか起きないから心配しちゃった」
女の子が俺に近づいて言う。この人、耳としっぽも気になるけど胸もでかいな。和服でも帯できちっと締めるやつじゃないから身体のラインが目立つのか。
「他に倒れてたやつは?ライオンと人間がいたりしなかったか?」
「いえ、いたのはあなた達だけよ」
俺が悠達の行方を聞くも女の子は首を振るだけだ。あの野郎、どこ行きやがった、司に殺しにかかったら容赦しねえぞ。
「ライオンとその人間てヴァミちゃんが言ってた人達かしら?」
「まあな。って、ヴァミちゃん?」
誰だそいつ。
「あなたの友達、ヴァーミリオンドラゴンて長い名前だからヴァミちゃんて呼んでるの」
「はあ………」
あいつ、ただでさえ略した名前で呼んでるのにさらにラまで抜けたのか。
「そのライオンと人間の友達に襲われたんでしょ?勇者も色々大変ね」
「勇者?」
あまり聞かない言葉に俺は首をかしげた。
「こっちの世界の人達はオレ達をそう呼ぶみたい」
ヴァミラが言った。
「勇者ねえ…………。まああながち間違っちゃいねえけど初っ端から仲間割れだぜ?勇者なんて大した柄じゃねえよ」
俺は吐き捨てるように言った。
「つうか他の仲間ともバラバラになったままだからなー。起きたし、もう行くわ」
そう言って俺は立ち上がる。じっとしてるわけにはいかねえや、さっさと司と合流しないと、悠にぬっ殺される前に。
「待って、今日はもう遅いし泊まっていったら?」
女の子の言葉に俺は驚いた、もうそんな時間かよ。
「マジで?」
俺は確認すべくドアを開けるといつの間にか日は下がっており月明かりが出ていた。
「マジ、かよ…………」
あれからどれくらい寝てたかは知らないが夜になったのは確実なようだ。だいぶ寝てたんじゃないかこれ…………。
「すいません、お世話になりまーす」
俺は狐耳の女の子に頭を下げるしかなかった。
「決まりだね。ささっ、座って。ホーくんも一緒に犬鍋食べよっ」
女の子が俺を座布団に座らせる。いろりに乗った鍋の上では肉や野菜がぐつぐつ鳴っている。野菜といっても森で採ったような花や根っこと言った野生の方の野菜だ。
「あたしコル、狐流忍者のコル、よろしくね」
「俺、豊太郎、二宮豊太郎」
女の子が名乗ったので俺も自己紹介をした。
「知ってる、ヴァミちゃんから聞いたもん。豊太郎が名字で二宮が下の名前でしょ。あたしも同じなんだ、あたしの名字は狐って書いて”こ”て読むんだ」
「漢字なのか」
「忍者だからね」
異世界なのに忍者てすごいな。
「てか犬鍋?」
箸をつけようとして彼女の言葉を反芻する。 中国だと犬を食べると聞いたことがあるが異世界にもそういう文化があるのだろうか。
「うん、犬鍋。この当たりよく犬とか出るの」
よく見ると小屋の中には犬の頭や毛皮と思しきものが置かれている。チワワのような小型犬ではなくシェパードのような狩りが得意そうな犬の顔をしている。犬って確か集団行動が得意なんだっけ。
「えっと、あの犬を狩ってご飯食べてるの?」
おそるおそる聞いてみる。
「ううん、あれはご飯用と副業のやつ。本職は忍者」
「忍者ぁ?!」
俺は意外な言葉に声を上げた。忍者いんのこの世界、びっくり仰天なんだけど。
「忍者ってすごいんだよー、水の中で息出来たり爆弾作ったりピッキングとか出来るんだよー」
ヴァミラが言う。水の中で息したり爆弾作ったりて俺の知ってる忍者と一緒じゃん、て………………
「ピッキング?」
ピッキングする忍者てあまり聞かないな。
「身分の高いが所有するお城や屋敷に入る時にはそれないと入れないから」
コルが言う。
「はあ………。忍者って言うけどどっか偉い人に仕えてたりすんの?」
「ドラグエンパイアって言う竜人の国よ。仕事がない時はみんなこっちにいるんだけど普段は王都や地方で寝泊まりしてるの」
目の前にいるのは獣人だけど竜人もいるのか。忍者というのは出張や単身赴任の多い仕事なのだろうか。
「やっぱり仕事はスパイ活動なん?」
忍者と言えば屋根裏に潜んで盗み聞きして情報を得るのが基本の仕事だ、水戸の御一行の弥七もやってたし。
「うん、主は貴族とかの家に使用人や護衛として侵入して謀反とか犯罪とかやろうとしてたら先に王様に報告して先に殺しちゃうの。国や周りの人から情報が入って後から潜入することもあるけど」
「うわ、忍者こわ………」
偉い人もいつ見られてるかわかんねえし悪いことも出来ねえな。
「まあ色々情報探らないと国も壊れちゃうからね。と言っても最近はみんな暗黒ジャグラーズの対応で忙しくて謀反どころじゃないけどね」
「ふーん、じゃあここでこいつらが暴れてるて話はほんとだったのか」
俺の世界にいたころ倒したモンスターがそんなようなことを言っていた。
「うん、戦争なら悪い人が便乗することもあるけど暗黒ジャグラーズは誰であろうと狙ってくるから。あ、鍋食べちゃって、早くしないとヴァミちゃんに食べられちゃうよ」
言われて鍋を凝視する。肉も野菜も食べたことないから食べづらいんだよなぁ。ええい、ままよ!
俺は犬肉を口に入れる。出汁が効いて美味い。口の中で咀嚼してみる。カリカリ、コリコリ、柔らかいというか弾む感じがする。つうか鳥じゃね?食感だけ見たら鶏の唐揚げじゃね?あれ、噛むごとに味が変わってきた。なんだこの、ぐにょおっとしたような色々混ざったような…………。
「てかさ、犬ってそもそも肉食じゃね?肉食のやつの肉て美味いの?」
そう言うとコルの目が下がり無表情になる。
「美味くないのか」
「だってこの辺りの動物って犬しかいないし鹿とかガゼルは犬が食べちゃうし」
一応他の動物はいるんだ。
「それに犬て一匹いたら周りに十匹いるから食料とかお小遣い稼ぎに便利なんだもん。大丈夫、食感はいいし力もつくから元気がない時にはピッタリだよ!」
集団行動が得意な犬をむしろ集団ごと狩ろうとする上に小遣い稼ぎでやるとかこええよ。流石忍者、忍者恐い。しかも人気って、日本とかアメリカ行ったらこの国のやつら袋叩きに遭うんじゃね?
「まあいつまた戦うか分からないし力つくなら食べときますか」
コルも箸を手に鍋に突っ込む。
野菜も食べていくと肉と違って味がもろに来た。てかこの野菜雑味強すぎぃ!音がシャリシャリという柔らかい音ではなくボリボリという固い音だ。野生の野菜てたくましいわー。苦味強めだけどな!これ薬とかに使えるんじゃね?肉も栄養価高いって聞いたしこれ医食同源て言うんじゃね?
あ、しいたけもある。あれ美味いんだよなーと思いながら箸を向けるとヴァミラとぶつかった。
「てめえさっきから食ってるだろ、俺にもよこせえ!」
「いやだよ、しいたけ美味いもん」
「なにドラゴンが菌糸類に手伸ばしてんだよ、しいたけとか高級品なんだから俺にもよこせよ!」
「いやだよ、この肉まずいし!」
「俺だってまずいわ!てめえだけ贅沢してんじゃねえ!」
「はい」
不意にコルが俺の口に何か入れた。モグモグ、これしいたけじゃん。
「だめでしょ、お友達なんだから仲良くしなきゃ」
「へーい」
「ごめんなさーい」
怒られてしまった。仕方ないのでここからは大人しく食べよう。
そして─────────
「あー、食った食った」
「もう食べられないよー」
あれだけあった鍋の具は空になり俺は寝転がった。ヴァミラは膨れた腹を抑えている。
「こーら、食べてすぐ寝ないの。牛になっちゃうよ」
「へーい。って、コルって母ちゃんみたいだな」
「お、お母さん?!」
何気なく言うとコルが声を上げる。
「お母さんてよくそういうこと言わね?」
「言われてみれば確かに…………でもあたしそんな歳じゃないんだけどな、子供いたとしてもまだ赤ちゃんだと思うし」
コルは15、6に見えるが忍者だと結婚や出産の年齢が早かったりするのだろうか。
食後に残っただし汁を飲んだ後は布団を広げ本格的に寝ることにした。いろりを消して羽毛布団をかける、冬というわけではないが夜は寒いので羽毛布団が必要だ。ただ問題なのが枕が硬いことだ。羽毛布団はあっても枕が硬いというのは金銭的な問題じゃなくて文化の違いだろうな、寝れるかなこれ。
朝、小屋の隙間から日が入って目覚める。なんだこれ、首がいてえ、頭もいてえ、ほんと寝づれえはこの枕。
「あら、起きたのね。ヴァミちゃんはもう朝ごはん食べてるよ」
コルが言う。
「ホータロー、お寝坊さんだね」
ヴァミラが言う。
「お前よくあの硬い枕で寝れるな、いつも使ってるコルならともかくあれ固くて寝れねえぞ」
「あ、ごめんなさい。もう少し柔らかい枕があればよかったんだけど」
俺が強く言いすぎたのかコルさんが謝ってくる。
「いえ、まあ、ないならないでしょうがないです。それで我慢しますよ」
布団から立ち上がって朝食の前に行く。お盆に乗った五目米と納豆、鮭の切り身や目玉焼き、味噌汁がある。
「けっこう豪勢だな」
昨日の夕食が夕食だけにもっと質素かと思ったが思いのほか普通で逆に豪勢に見えた。
「自給自足だよ」
「ええっ!?」
コルの言葉に俺は素っ頓狂な声を上げた。
「これ自給自足?デジマ?」
「この里畑も田んぼも川もあるからこれくらいなら自給自足出来るよ」
「じゃあ昨日の夕飯の野菜が森で採ったようなばっかなのは………」
「他の国なら作れるかもしんないけどドラグエンパイアで鍋に入れる野菜を作るのは気候的に合ってないのよね…………それで肉以外はあんな風になっちゃうの」
コルが気まずそうに言った。そもそも鍋に使うキャベツや人参て北国の食いもんだもんな、てことはここ冬っていう冬がねえのか。
「まあ、食い物にも色々あるからな」
「朝ごはんはおいしいの用意できるからそれで我慢して欲しいな」
「まあ、世話になってるからそんな好き勝手言えないけどな」
文句は昨日からなんだかんだ言ってるけどな。
「いただきます」
手を合わせ朝食に手をつける。醤油を入れ納豆をかき混ぜご飯に乗せる。口に入れると家で食べてるのとは少し違うが納豆ということは分かるし五目米の雑味も昨日の鍋ほど不快感はない。
鮭の身は家で見るのと違って白色をしていたが味としては違和感がない。
合間に味噌汁を入れる、俺はそこで首をかしげた。
「なあ、これ味薄くね?」
「あー、やっぱり?ヴァミちゃんもさっき薄いって言ってたんだよね、ホーくんの家って味噌汁の味濃いんだね」
「まあ、祖父さんの好みが強いから家」
豆腐は普通だ、目玉焼きは……………!
…………………………………………………………………………………。
俺は一瞬思考が止まった。なんだこの目玉焼きは、普通じゃない。
「えっと、この目玉焼きは…………」
思わずコルさんに聞いた。
「え、普通に焼いただけだけど?」
「じゃあ玉子」
「小屋で育てた普通の鶏のやつ」
「嘘だろおい」
意味がわからない、この目玉焼きの黄身は甘味の中に旨味という旨味が凝縮されていた。それが普通の鶏のだなんて、ありえない、絶対ありえない。
白身も食べてみるが黄身には劣るもののかなりの甘味と旨味を内包していた。白身をゆっくりと味わいながら俺は朝食をたいらげていく。
「ホーくん達はこれからどうするの?」
コルが聞いてきた。
「じっとしててもしょうがないんでそろそろ行きます、仲間を探さないと」
「なら王都に行ってみたら?そこなら王様もいるし他の勇者の情報も手に入ると思うわ」
「ありがとう、そうするよ」
「おかわり!」
ヴァミラが茶碗を差し出す。ヴァミラは既に二度おかわりしていてこれで四杯目だ。
「はーい、ちょっと待ってねー」
コルが茶碗を受け取りおひつを開ける。
「せめて量は自重しろよ………」
朝食を食べ終わった俺達は小屋を出る。
「昨日と今日はありがとな」
「お腹いっぱいになったよー」
「二人とも、王都はあっちだよ」
コルが目的地を指さす。
「さんきゅ、じゃ行ってくる。召喚!」
ヴァミラを巨大化させその背中に乗った。
「また会おうねー」
ヴァミラが空中に行くとコルが手を振った。俺も手を振り返す。
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