十三話 魔界の神様の試練
というわけで僕達は今登山服を着ている。登山服と言えばポケットがたくさんあるダボダボのあの登山服だ。
「勇者様、わたしもご一緒しますよ。あの山は危険ですからね、わたしが案内役として同行しますよ」
同じく登山服を着たジルドレイさんが言った。さっきまでいなかったんだけど僕達がリュウエン山に行くと聞いたのか後から現れたんだ。
「いいんですかジルドレイさん、仕事あるんでしょ?あんなことがあったのに城を留守にしていいんですか」
僕は彼に聞いた。負傷者がかなり出てるからまともに動ける騎士の人は少ないはずだ。
「大丈夫ですよ、今朝の襲撃があったので今日はもう暗黒ジャグラーズが来ることはありません。それよりもあなた方を守りサポートすることが陛下から仰せつかった命ですから」
「もしかしてジルドレイさんて元から外からお客さんが来た時の護衛をやったりしてます?」
昨日からやけに僕達と一緒にいると思ったので聞いてみた。
「恥ずかしながらそういうわけです、ははは……………。まあ、昨日外で戦闘をしていたのはたまたま来賓の方を送り届けた後にデビルドラゴン達を見掛けて駆けつけたというわけです」
ジルドレイさんが頭の後ろをかきながら答えた。
「つまりはあまり戦闘向きの部隊ではないのだな」
「何か後ろの方であぶれてそうな連中だな」
アマツカとガルムが言った。
「ちょっと二人ともー、そういう失礼なのはやめようよー。ジルドレイさんも真面目にやってるんだからー」
僕は諌めるように言った。
「構いませんよ、実際そういう仕事ですし。さっき負傷した精鋭部隊の隊長の見舞いに行ったらお前達は後ろにいるからいつも楽な仕事でいいよなって嫌味も言われましたし」
「騎士同士の人間関係も色々大変ですね…………」
これには僕も苦笑いするしかない。
「でも、ジルドレイさんのおかげでわたしどもも色々助かっております。どうか気に病まないでください」
「王女様…………ありがとうございます!」
王女様の励ましにジルドレイさんが涙を流す。国の偉い人に励まされて感動しない人はいないだろうな。
城を出る僕達にエミリアさんがある場所を指さした。
「あそこにあるのがリュウエン山です。大昔は活火山で町に火山灰や岩石が来たりしましたが今の場所に都を移してからはもう活動をやめているらしいです」
大昔がどのくらいか知らないけど異世界でも遷都をしたりするのか。
「では行きましょう」
「ちょっと待って」
僕はエミリアさんが前を進もうとするのを止めた。
「はい?」
「あの、行くって徒歩で?」
「徒歩ですがなにか?」
正気か王女様。少なくともお城から出てさらに街を出るのに二十キロ、街からさらに三十キロ、歩いててっぺんまで数十キロ、歩いて何時間かかると思ってるんだ。
「あの王女様、じゃないエミリアさん、そんなことしたら行って帰ってくるのに日が暮れちゃいます。せめて徒歩はやめましょう、フレアドラゴンに乗ったりして途中経過は省きましょう、ね?」
さっき名前で呼べって言われたばかりで意識しないとまた王女様に戻っちゃうけど僕はなんとか意思表示をした。
「あ…………」
今気づいたように口に手を当てるエミリアさん。
「こいつやっぱり馬鹿」
エミリアさんを見てさなえがつぶやく。一見真面目そうな人なんだけどな。
「でも今からお父様に言って借りるわけにも………」
エミリアが迷うように言う。王女様と言っても乗り物を好き勝手に扱えるわけじゃないみたい。
「それなら…………お願い出来る?」
さなえがガルムを見つめて言った。
「そうか、ガルムの大きな背中に乗せてもらおうて作戦だね!」
「なぜわたしが、流石のわたしでも五人は無理だ。二人は自分で飛べ、特に貴様らは」
ガルムが最後の方を僕とアマツカを見ながら言った。
「まあ、魔法天使も結構な速さでるから大丈夫だと思うけど…………」
「ふん、貴様の上に乗るなど俺の方から願い下げだがな」
アマツカがガルムを睨みながら言う。君達ほんと仲悪いね、犬猿の仲て言うけどこの二人の場合狼天の仲かな。
空と陸を経由して山を走る、目的地の頂上まで一直線かに思えた。
「なにこれ、霧?なんか飛びづらいんだけど」
「羽根に水分がついて気味が悪い」
僕とアマツカが言う。
「こちらもだ、わたしには羽根がないはずなのに足が重い」
ガルムが言う。
「言い忘れてましたがこの山の上の方には特殊な霧があってドラゴンや馬などで速く登ることが出来ないんです」
エミリアさんが言った。
「どういうこと?」
「さあ?わたしにはこの山の神が作った特殊な結界としか……………」
理由はわからないけどそういうことなら仕方ない、ここからは僕も陸路で行こう。アマツカも同じように地に足をつけた。
「一つ聞いていい?神様って言うけどどんな神様なの?神様っていうくらいなら暗黒ジャグラーズくらい僕達勇者がいなくても倒せるんじゃない?」
「ごめんなさい、そういうのはよく分からないのです。わたしも知識でしか…………」
「とりあえず会ってみれば全部解決する」
「そうだな」
さなえの言葉にガルムが同意した。
頂上の方に着くと山というより神殿のように赤褐色の丸い柱が二本あってその上に炎が燃えていた。階段を登っていくと件の神様らしき人物がいた。階段を登りきり、石の床に踏み入れるとその全貌が見えてきた。
その姿見た時、僕達は空いた口が塞がらなかった。この山の神様と見られる人は全身が炎で出来ていてその上に鎧が乗っかっているという形で頭はバイザーと口元を覆うアーマーがあってその間に目が存在していた。
この人、人じゃないどころか生き物かすら怪しいよ。
「なんだ貴様らは」
神様らしき人が口?を開いた。
「えっと、この世界を救いに来た勇者なんですけど…………」
僕はしどろもどろに答えた。
「勇者だと!その勇者が、なぜ我を訪ねた?!」
勇者という言葉を聞いて神様の言葉に動揺が走る。
「実はですね、今日暗黒ジャグラーズの幹部に負けてしまいまして…………それに勝つ方法があればなあと思ったんですが……………」
ほんとは相打ちなんだけど細かいことはいいや。
「それはいけない、ぜひ力にならねば!」
神様の言葉が急に親近感があるものになった。
「すいません、ところであなたはどなたでしょうか?」
エミリアが口を開くと神様が押し黙った。
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…………………………………………………………………………………………。
五分が経過した。
「知らないで来たのかーーーーーー!」
ズドーンて山中に響く声で神様が言った。どんだけ驚いたのさ、間ありすぎでしょ。
「で、結局あなたはどちら様で?」
僕も彼に尋ねる。
「いいだろう、そこまで言うなら答えてやろう」
いや、ちょっと間空いただけでそんなゴリ押しして聞いたわけじゃないんだけど。
「我こそは!この辺り一帯を守護する炎の神、エンマジンである!」
炎、魔、神、頭の中でそう漢字に変換された。異世界なのにいや、もう突っ込まないぞ、突っ込まないからな。
「あの、神様ってことは暗黒ジャグラーズと戦ったりできます?」
「できぬ。我がここを動けばこの辺りは闇に飲まれる、我がここを動くことはかなわぬ。ゆえに世界は貴様ら人間を勇者にしたのだ」
闇が何かは知らないけどこの人がここを動けないのを分かった。
「ということは僕達…………」
「いや、力を授けることならできる」
「それじゃあ」
「お願い、力を貸して」
さなえも口を開いてエンマジンに頼みこむ。
「よかろう、だがただというわけにはいかぬ」
「もしかしてお金がいるとか?」
「お金ならわたしが国庫から…………」
僕がお金の話を出すとエミリアが乗り出した。国のためとはいえ王女様の独断で国庫のお金使っていいのかな。
「そうではない」
「ならばなにを」
ジルドレイさんが言う。
「腰の機械、そこな二人が勇者だな」
エンマジンが僕とさなえが指さす。
「は、はい」
「わたし達がなにか?」
「お前達には力を授けるための試練を受けてもらう!」
「なんだってー!」
エンマジンの言葉に僕は盛大に声を上げた。
「で、試練てなに?」
僕はエンマジンに聞いた。
「うむ、いい質問だ」
こういう言葉てあまり聞かないけど自分が言われるとちょっと嬉しいね。
「お前達は、モンスターを操る自分達をなんと心得る」
「え………」
「どういうこと?」
急に言われて僕達は質問に困ってしまう。
「戦うのはモンスター達で自分達は後ろで控えてるだけ、そう思っていないか?」
「いえ、僕道具あるので普通に戦えます」
「そういうことを言ってるのではない!」
僕は手を上げたけど注意されてしまった。
「なにが言いたいんだ」
「言いたいことがあるならはっきりしろ」
アマツカとガルムが焦れったそうに言う。
「勇者とはただモンスターの後ろに控えてるわけではない、モンスターと共に力を合わせ共に戦う存在なのた。そのためにモンスターと共に人間も強くなる必要があるのだ」
「そ、そうだったのかー!」
エンマジンの言葉に戦慄が走った。
「司、さっきから驚きすぎ」
さなえに冷たい目で見られてしまった。
「あ、ごめん。なんかこういうの漫画とかで見るけどいざ自分がその立場になると緊張しちゃって……………」
「それで、試練とは具体的にどのような?!」
エミリアがぐっと乗り出すように言う。もしかして、こういうの好みだったりする?
「うむ、その試練とは………」
「なんでこうなった!?」
僕は状況の分からなさに叫び声を上げた。今の僕達はぐつぐつと煮立つ鍋をつついている。人間界なら電磁調理器の上に鍋があるところだけどこの鍋の下にはエンマジンによる魔法のコンロがあった。足元はこたつでかなり熱い、鍋とこたつのコンボだ。ていうかこの空間そのものも暑い、エンマジンの力かな。
「むぅ、これはいい鍛錬になりますね」
汗をかいてるもののジルドレイさんはまだまだ大丈夫そうだ。
「なるほど、試練とはこういうことですか。大変励みになります」
エミリアはジルドレイさんよりだいぶ軽そうな表情をしていた。現役騎士より王女様のが熱さに耐えられるてどういうこと?
「あの、エミリアさんて熱いの平気なんですか?」
僕はおそるおそる聞いてみる。
「平気ですよ、修行でよく滝に行ったり目の前に大きな火を置いたり座禅したり色々やってますから」
通りで平気なわけだ。
「修行て王女様だから?王女様になるとやっぱり強い心とかいるの?」
「いえ、ただの趣味です」
「趣味で………」
趣味で滝行ったり火の近くに行く王女様、だいぶ変わってるんじゃないかな。
にしてもこの空間、熱い。熱さにいい加減耐えられなくなってきた。鍋は鍋でもこれキムチ鍋だから辛いしその面でも身体が熱くなる。
ぬぐってもぬぐっても汗があふれてくる、水は空になってもどこからともなく追加されるけどそれでも足りないくらいだ。
「はぁ、はぁ…………」
息もきれぎれになってくる、これ以上持つかどうか。
「もう、だめ……………」
さなえが机に倒れ伏す。
「さなえー!」
「大丈夫ですか!」
僕達の声が響く。さなえの顔はもう真っ赤っかでその割に汗が少ない。多分元から汗をかかない体質なのかな、その分体温が下がらなくて上がる一方になってしまったんだ。
「も、問題ない……………それよりも、水………」
言葉途切れにさなえが口を開く。
「はいお水です」
エミリアが水を差し出す。
ごくっ、ごくっ、さなえが一気に水を飲み干す。
「もうだめ、抜ける………」
とうとうさなえはこたつから脱出してしまった。
「我が主よ、もう少し頑張ってもらわねば使い魔のわたしの面目も立たぬのだが」
ガルムが言う。
「しょうがないじゃない、これ以上やったらわたし死ぬし」
「大丈夫、僕が代わりにさなえの分までやるから」
「ありがとう司」
僕は無言で親指を立てて返した。
「それよりも貴様の方こそ自分の心配をしたらどうだ、顔が真っ赤だぞ」
アマツカがガルムに言う。ガルムもレンゲを使って鍋の具を口に入れていた。ガルムも同じような状態てことは元からじゃなくて冷房の効いた室内にいるせいで汗の線が閉じてるせいとか?
「あまく見るな。わたしはこれでもモンスターだぞ、この程度の熱さで…………」
「あ………」
強がりを言うも途中で力尽きるガルムなのであった、ご愁傷様。
残ったのは僕とアマツカ、エミリアとジルドレイさんだ。僕とアマツカは別の世界の人から来たけれど毎年エアコンのない自分の部屋で夏の暑さに耐えてきたから簡単に熱さに負けるなんてことはない。
「日本の夏舐めたらいかんぜよ!」
僕は立ち上がって叫んだ。
「なんです、急に?」
エミリアが驚いて僕を見る。
「いえ、なんでもありません」
僕はこたつに座り直す。坂本龍馬みたいな喋り方するとか熱さでどうかしちゃったのかな。
「すまない司、俺はもう上がる…………」
倒れるアマツカ。
「く、アマツカ…………。君の分は僕が受け継ぐ、負けて………たまるかーーーーー!」
咆哮を上げ僕はお玉で鍋の中身をすくっていく。熱さもだけど鍋を食べてるから時間が経つにつれてお腹が膨れてくる。二重の意味での苦しみだよ。
「そろそろおじやだな」
エンマジンが口を開いた。見ると鍋の具が少ない、大量に具があったように見えたけど長い時間で大分減ったみたいだ。
「おじや、ですって………」
「最後の具は逃がさねえ!」
エミリアとジルドレイさんの目が見開きジルドレイさんが箸で一気に具をかっさらう、この二人異世界人なのに鍋やこたつにもおどろかなかったけどやっぱり鍋はこの世界だとポピュラーな料理なんだね。
このままジルドレイさんに鍋が蹂躙されるのを見続ければ楽に鍋が空になって修行が終わるんじゃないか、そう思ったけどそれはそれで負けた気がするのでまだまだ箸を伸ばしたくなった。
僕達の、というかほぼジルドレイさんの頑張りにより鍋の具が完全になくなりエンマジンにより代わりにご飯が入れられる。しばらくしておじやが完成するとごまのビンとレンゲが出現する。
「おじやなら俺ももらおう」
アマツカが再びこたつに戻ってくる。おじやのためなら熱いのも平気らしい。
僕もお腹が膨れてきたけど大丈夫、デザートは別腹だからね。
おじやをよそいごま振ってレンゲで口に入れていく。具のダシがいい感じに効いてて熱さが旨みをさらに盛り上げた。うん、やっぱり鍋の締めはおじやだね。
「うむ、ツカサ、ジルドレイ、エミリアの三人は合格だ。勇者であるツカサとサナエには我の力の一端を授けよう」
おじやを食べ終えるとエンマジンが言うと腰の辺りが熱くなった。確かめてみるとMギアが光っていた、どうやらこの力はMギアを介して手にするらしい。
「その力をどう使うかはお前達次第だ。だがサナエよ」
「は、はい………」
合格を貰っていないさなえは名前を呼ばれ萎縮してしまう。
「お前は試練に不合格になった、まだこの力を振るうには早い」
「う………」
改めて落第を突きつけられたさなえはうつむいてしまう。
「だがいつまたここを訪れるか分からぬゆえ今授けさせてもらった、いつかその力に相応しい人間になった時振るうがよい」
「はい!わたし、頑張ります!」
さなえが晴れやかな顔で言った。
でもこれが何の試練になるって言うんだろう、ただの熱さの我慢くらべじゃないか。
「貴様ら今これがなぜ試練になるのかなどと思っただろう」
エンマジンに言われギクッとした。この人エスパーか!
「神を甘く見るでないわ!その程度顔を少し見れば分かるというものだわ。いいか、先ほどの力は火の力、それを使う貴様らが火の熱さに耐えられずどうするというのか!」
「こ、これは失礼しました!」
「エンマジン様、どうかご無礼をお許しを!お許しを!」
エンマジンのいかにも理に適った言葉に僕達は平伏するしかなかった。
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