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大図書館の魔女

ランドローグ大図書館

作者: 山桜


ランドローグ王国の王都では、ある噂話が流れている。


『叡智の森には、とても大きな大図書館があるらしい。』

『大図書館には、世界中の書物が集められているらしい。』

『大図書館には、とても美しい獣がいるらしい。』

『大図書館には、しゃべる本があるらしい。』


そう人々は噂する。だがその噂の中でとても有名な話がある。人々はこう噂する。


『叡智の森の大図書館には美しい魔女がいる。書物を守っているらしい。』



ーーコツーーコツーー

静寂の中に足音だけが響く。

歩くたびに自身の黒髪が揺れる。


「...暑い」


そう一人呟く。

なにしろ夏を迎えたばかりだこれからまだ暑くなるのかと思うと気が滅入る。

さすがに上着は脱いでいるが、それでも少し暑くシャツのボタンを外したくなるが我慢する。だらしない格好をしているとあいつがうるさいからなーと思っていると向こうからとても美しい男がやって来た。


「ユリ、ここにいた。」


「ティア、どうした?」

何の用かと尋ねると、

「いや、そろそろあの子達が来る時刻だから」

そう言われて思い出す。


「ああ、そうだった!」


そう言うと、

目の前の男は、苦笑しながらしっかりして下さいと言う。

相変わらずどんな表情をしても美しいなと私は思う。

彼、名をミスティアと言い私は、ティアと呼んでいる。

白金の長い髪を三つ編みでまとめ、瞳は薄い琥珀色で肌は白く女性のようだと私は、思う。


「仕方ないだろ、新しい本が入ったんだから」

「いくら魔女でも休息は、必要ですよ?」


ーーそう私は、魔女だ、それも三百年近く生きている魔女だ。

師匠に拾われこの大図書館と契約したその時からずっと生きている。

............

そしてこの世界に落ちた元日本人だ。


「ああ、分かっているって、じゃあ先に行ってるから」


そう言って歩き出した。




椅子に座り目を閉じる。

私は昔の事を思い浮かべる。


『すまない...この大図書館で探したけれどどこにも帰れる方法は、無かった...』


師匠は、悲しそうに告げた。


『この大図書館では、世界中の本が集まるんだ』

『稀に異世界の本も集まることがあるんだよ』

『どこにもいけないなら、この大図書館で私の跡を継がないか?』


そう言って師匠は、泣き続ける私の傍に居てくれた。

だけどそんな日々は、ずっとは、続かなかった。

私が、魔女の跡を継ぎ、大図書館と契約した時から日に日に衰弱していった。

ついに寝たきりになった師匠は、言った。


『すまない傍に居れなくて、それに言わないといけないことがあるんだ...大図書館と、契約した...つまり次の跡継ぎが、現れるまで死ぬことができないずっと生き続けるそしてこの大図書館を守らないといけないんだ...すまないっ、君が現れたとき私の跡を継いでくれるんじゃないかって、私の長い生がやっと終わるんじゃないかってそんなこと考えて、やっと自由になれるって君の事を騙して私の身代わりにしてっ本当にすまないっ!』


そう師匠は涙を流しながら、言った。


(私は、私は...)


『私は、師匠の事を許しません』

『っ!』


『それでもっ師匠は私の傍に居てくれたっ!何も知らない世界に放り出された私を師匠は、一人ぼっちだった私を、泣き続ける私を救ってくれたっ!私は師匠に救われた、だからっ今度は、私が師匠を救う番です!』


涙をボロボロと零しながら言うと


『...ありがとうっありがとうっ...』


師匠は、涙で顔をめちゃくちゃにしながらありがとうと、何度も何度も言った。

その三日後に師匠は、旅立った。

師匠は、とても幸せそうに眠っていた。




コンコンとドアをノックする音が聞こえる。

私は、ハッと目を覚ますいつの間にか眠っていたらしい。

私は急いで「いいぞ」と、呼びかける。昔と今で口調も変わったなと思う。


「「失礼します」」


入ってきたのは、まだ幼さの残る美しい少女と美しい少年の二人と、その後に鍛え上げられた逞しい身体を持つ青年と細身だが身のこなしからして強いと分かる青年二人だった。


「久しぶりマリア、ルーカス」


呼びかけると


「お久しぶりですユリお姉様」

「お久しぶりユリ様」


とても嬉しそうにニッコリと笑う二人


「それに貴方達も久しぶりダルト、ヴァン」

嬉しくてそう微笑みかけると、


「久しぶりユリさん」

「お久しぶりですユリ様」


何故か照れ臭そうに目を逸らされた。


「?」


どうしたのか分からず首を傾げる。

すると

「ユリお姉様っ!」

と、マリアが私を呼んだ

「ん?どうした?」

「いっいえ、ただその...余り男性に微笑みかけるのは、止めたほうがよいかと...」

「へっ?」

意味が分からず首を傾げた。どういう意味か聞こうとしたが


「ユリ」


ティアが、ティーセットを持って来たので聞けなかった。

「あっティアありがと」

私達は椅子に座った


ーーマリアとルーカス、この二人は王都では有名だ、なぜならこの二人はこの国の上級貴族だ。

マリア、名をマリアローズ・アディンセルという。 この国のアディンセル公爵家令嬢で、薄い茶色の髪と、濃い茶色の瞳を持つ少し釣り目がちな可愛らしい少女だ。ルーカスとは、幼なじみで仲が良いそして、ルーカスの婚約者という、立場だ。

ルーカス、名をルーカス・ディア・ランドローグという。

そうルーカスは、王族だそれも、この国の第二王子という立場で、青みがかった黒い髪と濃い青色の瞳を持つ美しい少年だ。

どうして貴族の少年少女と仲が良いかというと狩りで森に来たが、護衛達とはぐれてしまい大図書館に迷いこんで来たのを、助けたところそれが、きっかけで仲良くなったという訳だ。

ちなみにダルトとヴァンは、ルーカスとマリアの護衛だ。

ダルトは赤い髪に金の瞳を持つ凛々しい青年マリアの護衛で、獅子のようだと私は思う。ヴァンはルーカスの護衛で、茶色の髪と、茶色の瞳を持つ優しそうな雰囲気の青年だが顔に似合わずサラっと毒を吐くので見かけによらないと思う。


「ユリ様」

「ん?どうした?ルーカス」

「実は、学園の課題で論文を書かないといけなくて、そのテーマが少し難しくその資料に本を貸して貰えないかと...」

「ああ、良いよ。でも学園図書館に置いてなかったのかい?」

「はい、余り参考になる本は置いてなかったので」


ランドローグ学園図書館は、この大図書館よりは、少ないがかなりの所蔵数を誇る。そこでも置いてなかったということは、かなり難しいテーマなのだろう私はルーカスから論文のテーマを教えて貰いそのテーマに合う本のタイトルをティアに告げ持って来て貰う。

するとルーカスが


「ユリ様は大図書館の本を全て把握しているのですよね?」

「そうだよ」

「どうしたらそのようなことができるようになったのですか?」

「うーん、三百年近くここにいたら覚える事ができたよ。」


苦笑しながら答える。これは本当だ三百年近く引きこもっていたら何か覚えることができた。


「そういえば!ユリお姉様っあの美しいミスティア様とどのような関係なのですか!?」


すると勢い良くマリアが聞いてきた。

「へっ?テ、ティアと?」

「はいっ!なにしろこの大図書館で、ミスティア様とユリお姉様は二人っきりです!お二方は、何か特別なご関係なのでは!?」

「ええっ!?いやいやティアと私はそんな関係じゃないぞっ!?」

「しかしミスティア様とずっと一緒なのですよね!」

「いや、だから」

「あっ私も気になります。」

「俺も」


何故かヴァンとダルトが、便乗してきた。

少々混乱したが、何とか答える


「えーっとティアとの関係は、仕事の同僚みたいなものだぞ。」

「同僚?」

「ああ、私がこの大図書館と契約しているのは、教えただろ?」

「はい、契約している限りユリお姉様は、その、死ぬ事が無いと...」


言いづらそうに答えるマリア


「そう、契約している限り死ぬ事も老いる事も無い。そしてこの大図書館を守り続ける、ティアは、私と同じ様な契約をしている。だけど少しだけ、契約内容が違うんだ。」


「内容が、違うとは...?」

ルーカスが、訝し気に、聞いてきた。


「ゴメン、契約内容はティアに聞いて。私が勝手に喋って良い事じゃないから。でもティアは、私よりもずっと、ずっと生き続けているんだ。それに、ティアは、人では無いし」


「人では、無いのですか?」

「うん?ああ、何時も人の姿だから分かんないか。本当のティアの姿は、とても美しい姿だよ。」

「へぇ、それじゃあ後でミスティア様に、聞いてみます!」


とても楽しそうに、話すマリアを見て、クスッと笑みが零れる。

その後は、楽しく談笑していると、ティアが本を数冊抱えて戻ってきた。


「ルーカス、これぐらいで良いかい?」

「はい!ありがとうございます!」


ルーカスは、嬉しそうにティアに、礼を言う。


「そうだ、ティア実は...」


先程話してた事を告げると、ティアは、余り詳しく話さないなら良いですよと、了承した。


「じゃあ、さっきティアが人じゃないって言っただろ?ティアは、この大図書館の守護獣なんだ。」

「守護獣ですか...?」

「そう、守護獣なんだよ」

「守護獣とは、その、ユリお姉様とどう違うのですか?」

「えっと、魔女が図書館を護るのなら、守護獣は、森と魔女を護るんだよ」

「そうなんですか」

するとルーカスがティアに、

「ユリ様が、ミスティア様と契約内容が、違うと」

「ああ、確か違うね。魔女は跡継ぎが現れると、代がわりするけれど、私は、跡継ぎは必要無いというか、できないんだよ。」

「できない?」

「そういう契約だからね」

「ということは...」

「そういう事だ。ティアは、森と歴代の魔女達をずっと護ってきたんだよ」


ティアの代わりに答える。

ルーカス達は、少しびっくりした表情をした。

するとマリアが


「そういえばユリお姉様が、ミスティア様の本当の姿は、とても美しいと、その、私達にも見せて戴く事は...」

「うん?良いよ?でもそろそろ遅くなるといけないから次の時にしようか?」


確かにもう日が傾いてきた


「そうですわね余り遅いと、皆様が心配するといけないからそろそろ帰りましょうか」

「そうだね」

マリア達が立ち上がる

「それではユリ様、本ありがとうございます論文が出来上がり次第返却致します」

「いや、ゆっくりで良いよ」

「ユリお姉様、ミスティア様次の機会を楽しみにしていますわ」

「うん、じゃあまたね」

「ああ、また次の時に」

「ユリ様、では」

「ユリさんそれじゃあ」

「皆、気をつけろよ」


そうして皆帰って行った




「ユリ、楽しかったですか?」


長い廊下を歩いていると、ティアが聞いてきた


「ああ、楽しかったよ」


楽しかった一時を思い出してクスッと、笑みを零す。まるで昔に戻った様に感じるから不思議だ

ふとあることを思い出す。


「そういえば、あの子達は、森を抜けられただろうか?」


ティアに、問い掛けると


「当たり前でしょう?あの子達は、私達の大切な友達なんですから」


そう言って彼は微笑んだ


「そうだったな 、森はお前が管理してるだった」

「そういえば...」


そう、ティアは森を管理して大図書館を護っている。そしてティアが許した者しか近づく事も立ち入る事も出来ない、それは彼が魔術を施しているからだ、そうやって侵入者から大図書館を護り続けてきた。


それなのにあの子達はーーー


「どうやってあの子達はあの時この大図書館に辿り着いたのだろうか?」


それはずっと、心の中で引っ掛かっている事だ。

そう、あの時あの子達は森で迷って大図書館に辿り着いた、それはおかしい事なのだ、なにせティアが、森で迷った者を魔術で気付かない様に送り返しているのに。


「もしかすると何かの加護を持っているのかもしません」

「加護?」

「ええ、この世界では、神の贈り物と呼ばれています」

「ああ、そういえばそんなのがあったな」


加護ーー

もしくは、神の贈り物と呼ばれているもの、しかし誰にでも贈られるものでは無い大陸一の王国誇るランドローグ王国でも加護を持っている者はかなり稀少だ、しかも加護を持っている事を本人も気付かず一生を終える場合が多いため、稀少だと言われているのだろう。それに加護のほとんどが危険から身を護る力だ。数少ない加護持ちの人間の多くが、危険な目に遭って加護を持っている事に気づくのだ。


「まぁ、害が無いなら別に構わない」


ぽつりと、呟く


「そうですね」

ああ、そういえば

「そうだティア、この間手に入れた本だが留め具の部分が傷んでいたから補強しておいたからな」

「そうでしたか、すみません」

「いや、私の仕事だからな謝る必要は、無い」


「そういえば、この大図書館は、王都では噂になっているらしいぞ」


マリア達から聞いた噂話をティアに教えるするとティアは

「へぇ、確かに結構当たっていますね 」

とても面白そうに笑った

「ああ、そうだな、世界中の本も、美しい獣も、喋る本もある。まぁどこからこんな噂話が流れたか分からんがな」


「おや、美しい魔女も、ですよ」

「っ!」


当たり前の様にニッコリと言うので目を見張る、そして顔に熱が集まるのが分かる。


「なっなんだ!いきなりっ」

「いえ、本当の事を言っただけですよ、それに顔が真っ赤で可愛いです」


クスクスと楽しそうに、笑う


「もうっからかうのを、やめろ!」

「だから、からかってませんって本当に可愛いですよ?反応とか」

「...おい、私で遊んでないか?」


思わず半目で、睨みつける。

するとティアは、もう堪えきれないとばかりに笑い出した。

いくらなんでも笑いすぎだ


「~っ!もう笑いすぎだっ!」


そう言って私は、走りだした。


(ぜったい許さないっ!)


そう心に誓い長い廊下を駆けて行った





* * * *


彼女が、走り去っていった廊下見つめる。

先程、笑いすぎて彼女を怒らしてしまった。


「ふふっ」


彼女の真っ赤になった顔を思い出すとまた笑みが零れる

まあ彼女は本気にしていなかったが


彼女の姿を思い浮かべる、黒曜石のような大きな瞳。余り外に出ないからか、肌は白く唯一赤い唇が色を添えている。そして黒く艶やかな髪を襟足だけ伸ばしている、まさに物語で、人々を魅了する魔女だと彼は思う。

まあ彼女の性格的にそんなこと出来ないだろう。


「まあ、私の事を意識し始めて貰えばいいか...」


ぽつりと呟く

以外に恋愛事に鈍い彼女だどんな可愛い反応するだろうか、どんな反応しても可愛いだろうと思う、まあ、意識して貰う事が先だが


「時間は、かなりあるからいいか」


その、言葉は静寂に包まれて消えていった。



読んでいただき有難う御座いました。

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