もしも、オタクと魔女が連結魔法を使ったら。
完結していませんが、反響次第では長編化したいと思います!
ぜひ評価の方、ご協力をお願いします
『魔女狩り』
中世ヨーロッパに大流行したそれは、宗教社会において歴史上最大の惨劇ともいえよう。
『魔女狩り』最盛期を迎えた16世紀後半から17世紀の間には、罪なき約50000人の血が流れた。
しかし、集団ヒステリーが作り出した中世の『魔女観』は、17世紀に登場する「ガリレオ」や「ニュートン」などの近代的知識人の影響で、衰退の一途を辿ることになる。
そして今や、人々は魔術よりも科学を信用するようになり、魔術などの「オカルト」を否定しようとさえした。
一部の人間を除いては……。
世界の大半を反オカルト派が占める中、それでも『魔術』の存在を訴え続け、『魔女』の存在を肯定した者達がいた。
彼らは俗に、『魔女宗』と呼ばれ、『魔女』を神と崇め、『魔女狩り』を負の歴史とした。
新異教主義。
中世では良しとされなかった、『聖母マリー』『神王ラース』以外の信仰(異教)が活発化する21世紀。
宗教社会の変化を危険視した、『聖母教会』を代表する元祖的宗教組織は、各々が異教への対抗策を打ち出した。
その最もたるもの。それは、
『魔女狩り』の復興だった。
『春眠暁を覚えず』
心地よいまどろみの余韻に浸りながら、彼は胸裏で『春暁』の一節をリフレインしていた。
春の静けさに耳を澄ましながら、欠伸を1つ。
今日は土曜日だ。
宗教的な意味合いでは安息日であるが、現在進行形で私立校生である鬼竜深夜にとってはただの登校日。
かくして、二度寝したい欲望をたしなめながら寝台を降りた彼は、部屋を見回すと、深い嘆息をこぼした。
「何やってんだ……俺」
彼の胸裏はいつでも自虐で満ち溢れていた。
父親の死を契機に、自暴自棄になった自分を、彼は責め続けた。
もっと他にやるべきことはないのか、と。
7時55分。
自虐タイムに一旦しおりを挟んで、彼が向かった場所。それは、本棚という名の宝箱。
読みたい小説を、5冊ほどカバンに詰め込んでから、朝の支度を始める。これが彼の日課だ。
小説といってもライトノベルだが……。語彙力を鍛える面では純文学と変わらない、彼は前向きに考えている。
「SKO……それとも俺ガイタか……」
読みたい本を厳選してうるうちに、時刻は8時を過ぎていた。
「よしっ!今日はエロマン教師で決定だ!」
5冊目の小説を選び終えた彼は、身支度へと戻る。
壁一面に貼られたポスターは、どれも2次元の女子が描かれた『萌え系』のイラストばかり。
しっかり掃除がなされた部屋は、そのポスターとの温度差で台無しだった。
いわゆる混沌。
住んでいる人の知性を疑わせる光景に、彼はまたしてもため息をこぼす。
「今月だけでフィギュアが5体。ラノベが50冊……何やってんだ俺ぇぇぇぇぇぇぇ!」
そう、彼が患うただ1つの欠陥。
それは、
『オタク』であった。
時は過ぎ、昼休み。
眼前の悲惨な光景に耐えかねた聖のリア友・水畑薫は、
「お前。またその服着てるのか?今日で何回目だよ……」
今日も自制に失敗し、オタクTシャツを着てしまった当の本人は、平然としている。
やはりイラストは『萌え系』。賞賛に値する徹底ぶりだ。
「俺は初志貫徹の男だからな。一度決めたら曲げないのが俺のモットー」
その殊勝な心がけを他のところに活かせ。と薫は思うが、面倒臭いので口には出さない。
「っていうかお前、テスト勉強はやってるんだろうな?今月の末だぞ。残り丁度1ヶ月じゃないか」
「残り1ヶ月もある。とリフレーミングしてみろよ。なんかやれる気するだろ?そんなネガティブにならず、 人生楽しく生きようぜ!」
こいつダメだ……。
薫はこいつみたいなダメ人間にはならまいと心に誓った。
翌日。
12月初日の私立西風高校は、何かとざわついていた。
昨日千葉区で起きた『集落連続殺人事件』の話や、体育館の壁が貫通していた。などと、様々な話がクラスで飛び交っていたが、彼にとってはどうでも良かった。
それよりも……
「今日、このクラスに女子が転校してくるらしいぞ」
「まじかぁぁぁぁぁ!!」
深夜は絶叫した。
彼は2次元女子オンリーだと勘違いされることが顕著だが、実際はそんなことない。
3次元(現実)の女子も恋愛対象になるし、結婚願望もある。
ただ、趣味趣向がちょっとアレなだけで、いたって一般人であるとあくまで自負している。
「それってどんな子だ!?ロリか?萌えなのか?」
「まあ、落ち着けって。俺もあまり詳しく知らないが、かなりの美少女らしいぞ」
「これはチャンスだ!俺は今日からリア充になるぞっ!」
逸る彼を正眼に、
「……無理だろ」
いつでも冷静沈着なお友達であった。
ついにその時がやって来る。
朝のHRを終えた教室は、常軌を逸する騒がしさだった。
「マジか!美少女だってよ!」
「絶対仲良くなってやるぞぉぉぉ!」
「私たちより美人だったら覚えてなさい」
最後に物騒な台詞が聞こえた気がするが、気のせいだろう。
ともかく、クラスの面々は思い思いに転校生への期待を膨らませていた。
この男もまたその1人。勝手な美少女像を頭で構築していた。
「身長は150ぐらいで……髪はロングで〜『萌え』で〜」
「完全にフラグだぞ……。お前、絶対後悔するからな……」
薫の忠告をも、右から左へ受け流してしまうほど、深夜は妄想に酔いしれていた。
「この事をパラノイアというのか」
薫の雑学が深まったところで、ついに教室のドアが開け放たれた。
一瞬で静まり返った教室に、担任教師に先導されながら歩く少女の足音が響く。
咲き誇るラベンダーのような紫髪を揺らす美少女は、まさかの……
「ロリきたぁぁぁぁぁぁ!!」(心の声)
「マジか……」(マジの声)
すなわち、フラグ回収のパターンもパラダイムシフトをする。 Q.E.D
さて、あの日からというもの……
見事にロリを引き当てた?鬼竜深夜は、次の段階へステップアップを試みていた。
休み時間は積極的に例の美少女に近づき、帰り道は、遠回りだが彼女と同じ方面へ帰った。
見るからに順調。な訳なかった。
「お前……それ完全にストーカーだぞ」
「え?」
「今気付いた……テヘッ」みたいな表情をする鬼竜深夜・17歳は、自分の無罪を主張する。
「だって、俺は草食…いや肉食系過ぎて逆説的に」
「ただのコミュ障だろ」
「言うなぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
やり手の検事・水畑薫は、自覚症状ありと断定。
「勘違いするなよお…はぁはぁ……俺は一般人なんだよ」
「自称ね」
さらに身分詐称も発覚。
深夜の投獄が確定したところで、話題を戻す。
「まあまあ。とりあえず、どうやって接近すればいいかを一緒に考えて欲しいんだろ?」
「ああ。習慣的にナンパしてそうなお前なら、なんか知ってるだろ?」
なんちゅうイメージを持たれてるんだ?と金髪美青年は癇に障ったが、ここは冷静な男。変に感情的にはならない。
「まあ、変な誤解されてるみたいだけど、協力はするよ。で、どんなシチュエーションがお望みなんだ」
「そりゃあ、出会って一目惚れされる。からの即結婚に決まってんだろ」
あー、こいつやっぱダメだ。
いたって冷静なお友達は、その場を静かに立ち去った。
一方、残された深夜は、必死にギャルゲーのイベントを思い出していた。
「あの時、主人公は、どうやってヒロインと接近したんだっけ……思い出せ、ギャルゲーマー深夜!」
ギャルゲーを人生の参考書にするこの男。ただものではない。
「そうだ!廊下でぶつかった時。ヒロインの本を拾ってあげたんだった!」
発進したら止まらない。それが鬼竜深夜という男だった。
To be continued
ぜひ、アドバイス・アイデア等ありましたら、コメント宜しくお願いします。
評価次第で、長編化にする予定です。
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