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我儘王女は目下逃亡中につき  作者: 春賀 天(はるか てん)
第三章 【奉納祭】(~三年前)
51/78

奉納祭【11】 ~貴賓席その1 ②

【27】




フォルセナ王家(おうけ)出身(しゅっしん)の王()政略(せいりゃく)結婚(けっこん)でこの(くに)(とつ)いできたが、(こく)王との夫婦(ふうふ)(なか)はあくまで儀礼的(ぎれいてき)でそこに愛情(あいじょう)はない。とはいえ、自分(じぶん)(おっと)正妻(せいさい)である自分には(まった)見向(みむ)きもせずに(わか)(うつく)しい愛(しょう)ばかりを人目(ひとめ)(はばか)らず(ちょう)愛している(こと)は、国(ない)はおろか諸外(しょがい)国にまで周知(しゅうち)されていえる。それをこんな(おおやけ)(おな)場所(ばしょ)(さら)されて(こころ)(おだや)やかではないはずなのに。王妃は淡々(たんたん)(まえ)を見つめていた。


国王がエルヴィラを国に()(かえ)ってきてからというもの、国王が王妃と(ねや)(とも)にした事は一度(いちど)もないらしい。それはエルヴィラも国王本人(ほんにん)から()いていた。


しかも数多(あまた)(おんな)(あそ)びもしなくなったので、臣下(しんか)(たち)気苦労(きぐろう)()った一方(いっぽう)、政治の上層部(じょうそうぶ)では国王に男児(だんじ)がいない(いま)世継(よつ)問題(もんだい)に気苦労が()えないと聞く。しかも唯一(ゆいいつ)寵愛している愛妾との(あいだ)には(むすめ)しか()まれず、その出産(しゅっさん)原因(げんいん)で愛妾に子供(こども)(のぞ)めない事は一部の関係者(かんけいしゃ)だけの秘密(ひみつ)でもある。



エルヴィラは王妃の(うし)姿(すがた)を見つめながら(おも)った。王妃はフォルセナの王(じょ)であるがゆえ、本人の性格(せいかく)もあるだろうが非常(ひじょう)自尊心(じそんしん)(たか)く、いつもどこか高圧(こうあつ)的で身分の()当然(とうぜん)のように肯定(こうてい)する人間(にんげん)だった。しかも(そと)(かお)では(たち)場上、(ひか)えてはいるが、高()血統(けっとう)の人間()外は(みな)(いや)しい者だと思っている潔癖(けっぺき)人間でもあった。


(はじ)めの内はエルヴィラも王妃から卑しい者の目で見られ、隠れた(ところ)での(いや)がらせもかなり()けたが、エルヴィラ自身が大変(たいへん)気が(つよ)()けず(ぎら)いであり(さか)(そだ)ちであることから、王妃達の嫌がらせなどモノともせずに、それどころか国王との(はげ)しい攻防戦(こうぼうせん)()(ひろ)げていたので、


その内、エルヴィラが(だい)二子(にし)(さず)かる事が出来(でき)ない事を知って(あん)心したのか、もしくは国王からの厳命(げんめい)(くぎ)()しを受けたからなのかは(さだ)かではないが、いつしか陰湿(いんしつ)な嫌がらせも()くなり、国王が愛妾とその娘に愛情を一心に与えていても全くの無関心である。


王妃は(かんが)えようによっては可哀想(かわいそう)な女だ。王家に()まれたばかりに自分の望む自(ゆう)はなく、いわば豪華(ごうか)鳥籠(とりかご)(なか)()われている()鳥である。


羽根(はね)があるのに自分の意思(いし)では()ぶ事は出来ない。ただ(とき)がくるまで大事(だいじ)に大事に()でられ育てられるだけ。そして時(じゅく)すと(あら)たな(べつ)の豪華な鳥籠に(うつ)される。同じように育てられた繁殖(はんしょく)だけを目的とした(つがい)と共に。その一(しょう)を共にする番すらも自分の意思では(えら)べない。(すべ)ては自分以外の(まわ)りの飼育員(しいくいん)達が(よう)意してくれる。それがさも当然のように。


しかし平民(へいみん)であるエルヴィラにそれは()てはまらなかった。本(らい)であれば自分の意思でどこへでも飛んで()く事が出来る野鳥(やちょう)であり、本当ならば一生を共にする番すらも自由に選べる立場だったーーはずだった。


しかし時熟す前にして野鳥の中でも一際(ひときわ)目立つ美しい鳥であったが(ため)に、狩人(かりゅうど)に見つかり(つか)まって無()やり鳥籠に()れられてしまったあげく、その狩人に早々(そうそう)()われてしまったのだ。



エルヴィラは心の中で苦虫(にがむし)(つぶ)していた。それはそれで(おのれ)の『運命(うんめい)』だったのだろうが、それでも(むかし)を思い(かえ)すだけでも(はら)立たしい。だから狩人の腹の中にあっても今(なお)抵抗(ていこう)(つづ)けている。


己の持てる全ての武器を最大限に生かし、利用出来るものはなんでも利用する。私は私の意思で決めるのだ。その為ならば『自尊心』など大したものじゃない。なにより他人に自分の人生を決められるなんて冗談じゃない!



ーー(わたし)から()わせてもらえば、王妃は要領(ようりょう)(わる)い女だわ。たとえ愛情の(とも)わない結婚でも、やり(かた)によっては(しあわ)せになれるのに。なのに自尊心をひけらかしてお高く()まっているようじゃ、(だれ)()ってきやしないわよ。しかも(おとこ)の方こそ自尊心が強い()(もの)なのに、(ぎゃく)反感(はんかん)()うだけたわ。たとえ男の前だけの演技(えんぎ)だったとしても、()びるくらいの可愛(かわい)げのある女の方がまだ(こう)感が()てるというものよ。


ブランノアの国王は理(かい)(くる)しむ非常(しき)破天荒(はてんこう)な男だけれど意外にも単純(たんじゅん)だし、あれでいて女の(あつか)いも上手(じょうず)だから、媚びを()ってでも愛(きょう)()()いていれば今みたいな関係にはならなかったのかもしれないのに。場()によっては世継ぎだって出来ていたかもしれない。


私はあの男が大嫌いだから当然媚びなんて売らないけどね。それで()きられて解(ほう)してくれるんなら、いつでも万々歳(ばんばんざい)だもの。だけど、こうして(かこ)われている以上は、あの男の傍迷惑(はためいわく)執着(しゅうちゃく)すらも()用するつもりよ。私も自分が一(ばん)可愛いし、大嫌いな男の()()(わが)が子であっても、自分でも意外だけれど母親(ははおや)としての愛情も持ち合わせているから、私達親子が幸せになる為なら、なんだってやってやるわ!


けれど、あの王妃は己の事ばかりで自分の娘達の事までは考えないのね。子供に(つみ)はないのだけれど、(ちち)親の関心を子供達が引けないのは母親である王妃が原因よ。自分の価値観(かちかん)を娘達にまで()()けているから、どの王女も可愛げがなくて性格に問題があるんだわ。


私もけしていい母親とは言えないけれど、(すく)なくとも娘に自分の(かたよ)った価値観を押し付けたりはしないし、悪い事は親の責任(せきにん)として苦(げん)はするけれど、なるべく本人には自分で物事の()()しを考えて選択(せんたく)出来る人間になって()しいから、(つめ)たくみえても敢えて(くち)出しをする事を控えている。


まあ、平民出身の酒場の娘という教養(きょうよう)もありもしない()野な自分には、貴(ぞく)社会の紳士(しんし)(しゅく)女の教養など付け焼刃(やきば)(てい)度にしか(そな)わっていないので尚の事、生まれながらにして王女育ちである娘には口を(はさ)めないだけなのだけれど。


しかも本当に意外なところで、子育てが大変(たいへん)上手な父親がいた為、母親である自分の出番はほとんど無く、(もと)より子供という無(じゃ)気な生き物が苦()だった事もあり、これ(さいわ)いと、子育て(およ)び教育全般(ぜんぱん)を全て押し付けてやった。


その結()予想(よそう)していた以上に娘は父親っ子に育ち、しかも成長(せいちょう)するにつれ父親そっくりの傍迷惑(はためいわく)な気(しょう)である事が発覚(はっかく)し、その父親からの(でき)愛があまりに度が過ぎて(あま)やかされて育ったので、すっかり自()中な我儘(わがまま)娘になってしまったのには、自分のあの時の選択(せんたく)がそもそも()(ちが)っていたのでは………と、事ある度に後悔(こうかい)する事もしばしばであるーー今更、後悔したところでもう(おそ)いのだろうが。



そんな娘の父親()の性格と我儘なところは別にしても、娘は沢(さん)の愛情を受けて、それはもう()()ぐに純(すい)すぎるくらいに感情(ゆた)かに育った。貴族社会の混沌(こんとん)毒気(どくけ)(うず)()く中にあっても、それはもう真っ直ぐに。しかも父親の(かしこ)いところまで受け継いで理解(りょく)(すぐ)れ、実年齢(じつねんれい)にそぐわないほど大人(おとな)びており、私の娘は()くも(わる)くも(つね)に人の関心を()き付けてやまない存在(そんざい)だ。


更に母親の打算(ださん)的なところも受け継いでいるのか、(おさな)いながらに自分の『使い方』を分かっているらしく、時に子供の愛くるしい『武器(ぶき)』を使って自分に(ゆう)利になるように大人達を上手く()らし()んでいる。



ーーさすがは私の娘ね。だけどいずれ『女の武器』を使うようになったら、それこそ(いくさ)でも()こるんじゃないかしら?………考えると我が娘ながら(こわ)いわね。



王妃ーー本当に馬鹿(ばか)な女。なにも『女の武器』は容姿(ようし)だけじゃないのよ? 容姿だけが良くたって愛嬌がなければ(だれ)も心も(うば)えない。それこそ王族の矜持(きょうじ)なんて男には必要(ひつよう)でも女にはなんの(とく)にもならないわ。


なのに、そんな(ふう)に意固地(こじ)な程にお高く留まって、さも当然と与えられるのを待っているだけだから、唯一(ゆいいつ)の夫にすら見向きもされない可哀想な王妃なんて周囲に同情されるのよ。そっちの方がよっぽど屈辱(くつじょく)的じゃない。


あんたもその()()ました自尊心を全部取っ(ぱら)って、娼婦(しょうふ)にでもなったつもりで逆にあの男を押し(たお)すくらいの気(がい)を見せたらいいのよ。


あの男はね、得に『奇策(きさく)』が大好きだから、(あん)外自分への関心を引く事が出来るかもしれないわ。それを上手く利用すれば、あんたには権力もあるんだから、私なんかよりも余程、自分に有利に持っていけるじゃないの。少なくとも今みたいに、私と比較(ひかく)されて同情されるような(みじ)めな事にはならないわ。


ーーだけど、そんな真()はあの女には絶対に出来ないから今があるんでしょうけれど………本当に馬鹿な女。私は周りみたいに可哀想なんて同情なんかしないわよ。所詮(しょせん)あんたは温室(おんしつ)育ちの苦労知らずの王女様。いつまでもその温室の中で(かたち)だけ大事にされて、ただ()れていくのを待つがいいわ。


私はあんたとは違うから。私はたとえ(こう)野だろうが汚泥(おでい)地であろうが、周りからあらゆる養分(ようぶん)吸収(きゅうしゅう)して、どこであろうと大輪(たいりん)(はな)()かせ続けるわ。



エルヴィラはそんな王妃の背中を見つめながら、(ふたた)び、ちっ、と小さく(した)()ちする。



ーー見ているだけで苛々(イライラ)する。本当は私達の会話はあんたの(みみ)にも聞こえているんじゃないの? だって周りの護衛(ごえい)騎士(きし)達がさっきから顔が気まずそうに引きつっているもの。


しかも国王は王妃を()ったらかしにして、大衆の面前で愛妾とずっとイチャついているのよ? それなのに何事ないかのように無関心を(よそお)うなんて。少しは嫉妬(しっと)する様子くらい見せたらどう? それとも同情される事を()えて選んだわけ? この男もそれを分かっていて、わざとやってるみたいだしね。本当に馬鹿みたいだわ。



そんなエルヴィラのしかめっ面を見て、国王がククッと(わら)う。



「どうした? そんなしかめっ面をしてもお前は美しいが、まだなにか不満(ふまん)があるのか?」



「よく言うわよ。あんたの『悪趣味』にひたすら(あき)れていただけ。いい加減(かげん)、少しは外面を取り(つくろ)いなさいよ。あんたのせいで私やリルディアが苦労するんだから」



「この私がお前達を守護(しゅご)しているのにまだ不安でもあるのか? 私はお前やリルディアを(まも)る為ならば“国一つ潰す”くらい造作(ぞうさ)もないのだぞ? それを分かっていながらお前達に(がい)をなそうとするのは、余程の無知か(おろ)かな阿呆(あほう)だな」



国王は(きゅう)に声をひそめるでもなく、わざと周りに聞かせるように、はっきりと口にする。その瞬間、王妃の(うご)きがピタリと()まる。そんな周囲の護衛達も息を()むように(かた)まっていた。



今の言葉は完全(かんぜん)に王妃に向けたもの。私達親子に害を()せば、国一つ潰す………それは即ち、王妃の故郷(こきょう)であるフォルセナ国の事を()しているのだ。代々(だいだい)、王家の婚(いん)などで(ふか)親交(しんこう)のある大国を、そのような理由でいとも(かん)単に潰すというのは、この男の性格上、到底(とうてい)冗談(じょうだん)には聞こえない。



その時、大衆から「わあぁぁー」っと声が上がり、拍手(はくしゅ)喝采(かっさい)と共に舞台上の第四王女への賛美(さんび)があちらこちらから()き起こる。いつの間にか娘の歌が(おわ)わっていたのだ。


なんて事だ。この男のせいで娘の歌声に集中する事が出来なかった。エルヴィラは国王の(うで)を扇で小()きながら(にら)み付ける。



「あんたのせいで可愛い娘の歌声に全然集中出来なかったじゃない! 一(たい)どうしてくれるのよ。もしあの子に感想を聞かれても、理由が理由なだけに言い(わけ)なんて出来ないでしょう?」



「そうか? きちんと最()まで聞いていたぞ? なんといっても私の可愛い(まな)娘の(はつ)舞台だからな。本当にお前に引けを取らないくらいに素晴(すば)らしい歌姫だった。父親である私の(はな)も高いというものだ。


それにしてもリルディアは昔とは違って(ずい)分と面白(おもしろ)い歌い方をするようになったな。色々な感情が見え隠れしていて、なかなかに良かったぞ。わはは、これはクラウスをわざわざ引っ()り出した甲斐(かい)があったな。もしや、お前が(さき)ほど言っていた『色』というのは、この事か?」



娘に賛美の拍手を(おく)る為に国王に手を引かれながら、前方の国王席の前の方に移動(いどう)するエルヴィラは、(とお)り過ぎる(さい)に王妃の様子をチラリと(よこ)目で見やるも、王妃は周囲への体裁(ていさい)からだろうが、拍手を娘に贈っているがその表情は無表情のまま、冷たく固まっている。そして私達の方にも少しも目(せん)を向ける事もなく、ずっと前方を見つめていた。



貴賓席の一番前に国王と愛妾は()()まない拍手と第四王女を(たた)える声と共に舞台上の娘に拍手を贈ると、我が娘は()顔で私達に手を振るも、いつも側にいる母親だから分かる事だが、その笑顔に戸惑(とまど)いが隠れているのが分かる。きっとそれはクラウスのせいだろう。



「ええ、そうよ。あんたの『奇策』のおかげで、リルディアの歌が初めの方で情(ちょ)不安定になっていたから、一()はどうなる事かと思ったけれど、どうにか(まる)(おさ)まったみたいで良かったわ。


それにしても、私と会話しながら娘の歌もちゃんと聞いていただなんて、結構()用なのね。私はあんたのせいで、()中から歌に全然集中出来なかったのに」



「フッ、職業柄(しょくぎょうがら)(ちゅう)意深くなくては(いのち)(かか)わる事もあるからな。ーーところで、エルヴィラ。今夜(こんや)の事だが、そのドレス姿のままで来てくれ」



「は? 嫌よ。今更()げたりなんかしないから、湯浴(ゆあ)みくらいさせてくれてもいいでしょ?」



国王と愛妾は大衆の賛美に手を上げて笑顔で(こた)えながら、正面を向いたまま大衆の沸き上がる声に自分達の声がかき()されるのを意識しながら、また(たが)いに小声で話し(はじ)める。



「いや、駄目(だめ)だ。その姿のままがいい。私がどうしてそのドレスをお前に()せたと思う? 男の(よく)情を更にそそるからだ。男が女にそんな(せん)情的なドレスを贈るのは、そういう『意味』がある事を知っているか? 私が贈ったドレスを己で引き()いて、お前の色々な姿をこの手で発(くつ)したいからな」



「………あんた、つくづく思うけど、本当に最(てい)なゲス男ね。それに私の姿なんか、もういいだけ出つくして(あたら)しいのなんて早々(そうそう)出てきゃしないわよ。まあ、いくら言ったところで、あんたは自分の思い通りするだろうし、


分かったわ。これは『契約(けいやく)』だから、あんたの望み通りに(したが)う。だけど、あんたの方はきちんと湯浴みしてよね。知っているだろうけれど、私は(あせ)(くさ)い男を(あい)手にするのは、さすがに嫌よ。それくらいは譲歩(じょうほ)してくれるでしょう?」



すると国王は愛妾の(かた)を自分の体に引き寄せながら、王妃が(そば)にいるのも全く構わずに愛妾の(あたま)に愛おしそうにキスを落とす。



「ああ、勿論(もちろん)だとも。お前も知っているだろうが、私はこう見えても清潔(せいけつ)好きだ。特に女に不(かい)な思いはさせないよう常に気は(くば)っている」



「それなら尚の事、私だって着()えてもいいんじゃない? それでなくても今日(きょう)は特に(あつ)いし、汗だって沢山かくもの。清潔好きなんだったら、汗臭い女なんて嫌でしょう?」



「いや、駄目だ。(たし)かに男の臭いは不快でしかないが、女の汗臭は逆にゾクゾクして股間(こかん)(うず)く。特に愛しい女の臭いは格別だ。だから今夜はお前の汗という汗を全身くまなく、この舌で()めとって綺麗(きれい)にしてやるから安心しろ」



「っつ!? あ、安心なんか出来るかあっ!! なに考えてんのよ!? この変態(へんたい)っ!! (しん)じられない!! 最っっ低っつ!!」



国王のとんでもないゲス発言にエルヴィラは(いか)りを(おぼ)え、ここが大衆の面前であるにもかかわらず、我を(わす)れてつい大声を上げてしまう。しかし国王はそんな愛妾の(こし)に自分の腕を回し、自分の胸の中に密着させるように()()めながら豪快に大笑いをした。



「わははは! お前のその威勢(いせい)のいい罵倒(ばとう)久々(ひさびさ)に聞いたな。(なつ)かしくて新鮮(しんせん)だ。それならこういう趣向も、たまにあっても良いか。よし、いいぞ? 私自身がどんな発言も(きょ)可するから、もっと私を罵倒しろ」



「はああ? なによ、それ!? どういう神経(しんけい)してんの!? 馬鹿、馬鹿なの!? 頭ん中、どっかいかれているわよ!?」



国王の広い胸の中でもがきながら、エルヴィラが怒りにすっかり我を忘れて罵倒すると、国王は尚更(うれ)しそうに上機嫌(きげん)だ。



「わははは、なあ、エルヴィラ。こうしていると、私とお前の初めて出会った頃を思い出さないか? あれ以来、お前の罵倒がクセになってしまってな。やはりお前の罵倒は最高だ」



「………あり()ない。私にとって、あんたとの出会いは“黒歴史(くろれきし)”でしかないのに。しかも罵倒されて喜ぶだなんて本当に『悪趣味』すぎる………」



昔の若い頃とは違い、罵倒すればするほど、この男が喜ぶのを知っていたエルヴィラは、(あきら)め顔で自分の怒りを(なだ)めすかすほか無かった。



ーーリルディアが生まれてさえいなければ、こんな最低『悪趣味』男。とうの昔に寝首(ねくび)でもかいて、とっとと(ころ)してやったのにーーー



ーーなどと、内心物騒(そうどう)な事を考えていたのは、誰も知る由もないだろう。ただ一人、第一騎士団(たい)長を(のぞ)いては………







【27ー終】






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