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我儘王女は目下逃亡中につき  作者: 春賀 天(はるか てん)
第三章 【奉納祭】(~三年前)
49/80

奉納祭【9】~華麗なる至高の歌姫④

【25】




………はあぁ~なんかモヤモヤする。



ローズロッテに見送られながら舞台の中央にゆっくりと歩いて出て行く。大衆から一際大きな歓声が上がり、私への期待と賛美の声が当然のごとく聞こえてくる。しかしそれを聞いても美辞麗句など日常言われ慣れているだけに、自分を喜ばせるような興味もたいして引かなかった。そんな事よりも先ほどから気分がモヤモヤとして、どうにも不快感がこみ上げてくる。


今ここにいる観客達は王族や貴族、豪商などブランノアの大神殿側に多額の奉納金を納めている財力のある者達ばかりだ。招待客を選ぶのは大神殿側にあるので、聖職とは表向き、治外法権をいい事に裏でちゃかり私腹を肥やしているのは上層部の神官達である。なので大神殿側にとってもこの奉納祭の儀式は一番の稼ぎ時であり、特に力を入れている行事であろう。


まあ、神に仕える者とはいえど、一人の人間であることにかわりないので、俗物的で欲にまみれていても仕方がないのだろうが、同じ聖職者でもセルリア国の大神殿の清廉潔白な神官達とはえらい違いである。


とどのつまり、ここはいわゆるもう一つの社交場であり、しかも厳選された上層部の人間だけが集まる場所だ。労せずして同じく財力を持つ者同士がもっとも繋がりを作りやすい場なのである。


そのような大人達の思惑の場に表向きは国の祭典と称し、王女である自分が金儲けの客引きの材料として使われるのは内心面白くもないし、正直いって不快感ではあるが、今回ばかりはこちらの事情もあり、私も子供とはいえ、何も考えないほど馬鹿ではない。


大神殿側が俗物的な事が幸いして、この国の政治の中枢である枢機院が王妃側にある以上、後ろ盾のない市井出身の愛妾親子である私達にとって大神殿は味方にしておいて損はない相手だ。


それでなくても枢機院と大神殿の互いの関係はあまりかんばしくない事もあり、大神殿側は国王の寵愛を一身に受けている私達と繋がりを持ちたがっていたので、母様は神殿側を嫌ってはいたが、私はお父様を介して敢えてその手を取った。


初めは幼い子供である私に大神殿側と仲良くしたいと言われ大変驚いていた父王だったが、すぐに私の意図を汲んでくれ、愉快そうに大笑いをしながら快諾してくれた。ただしあくまで私は子供なので足元を掬われない為にも、本人の意思である事は相手に隠して、国王である父を介す事で相手の出方を観察する事にした。


なので表立って大っぴらには出来ないが、いざとなれば大神殿側も治外法権も規律も関係なしに私の言いなりにする事が出来るので、寧ろ相手を利用しているのは私の方だったりする。


世界の覇王である国王からの寵愛と、国家権力の一つである大神殿、そして諸外国に顔の広い大貴族であり大豪商のデコルデ侯爵家を味方に引き入れている私にとって、畏れるものなど何もない。実際、王妃親子達も枢機院も私が何を言っても何をしても全て黙認し、そのまま放置している。


事実上、私はこの国において父王に継ぐ最高権力者といっても過言ではなく、望めば全てを手中に納める事が出来る。……なのになぜ、他人の心まではこうも思い通りにならないものなのか……



「おおーっ、リルディア王女のお出ましだ!!」

「リルディア王女!!なんとお美しい!!」

「素晴らしい!!まるで女神が降臨したようだ!!」



観客席から上がる声に舞台上にもかかわらず、ため息をつきたくなる。



ーーはあぁ、人の気も知らずに呑気なものね。私が美しいのは一目瞭然、当然なのに、そんな今更分かりきった事をいちいち大声で叫ばないでよ。見世物動物じゃあるまいし。お父様や私のご機嫌取りなのは分かるけれど、王妃親子達もいるのに思慮浅はかとしか言いようないわ。後で目を付けられても知らないから。



「リルディア王女の歌声が聴けるとは、なんという幸運!!」


「本日の入場券を手に入れるに、どれほど苦労したことか」


「ここだけの話。大神殿側も今回はかなり懐が潤ったようですな~いやぁ、羨ましい」



ーーはいはい、聞こえているわよ。そういう大人の裏事情は場所を選んでお話なさいな。貴方達、国王一族がいる事忘れてやいない? まあ、今ここでそんな事を気にする人はいないだろうからいいけど。


大神殿側も今日の入場券を売ってずいぶんと荒稼ぎしたようね。私のおかげなんだから感謝して貰いたいわ。その分、大神官長には恩を売らせてもらうけど。


聖歌隊の子供達が歌い終わり私の姿が中央まで来ると、持っていたベルをリーンリーンとゆったりと5回ほど鳴らす。それが合図。最後のベルの音の余韻が広がる中、私が歌い始めると辺りが沈黙に包まれた。私の歌声以外の音はドレスの衣擦れの音だけ。観衆の視線が私に集中する。


気分的には少々不快ではあるものの歌えないほどではない。なにより自分より小さな聖歌隊の可愛い子供達が前座を一生懸命務めているのに、王女の私が苛々するから歌えないなどと我儘を言うつもりもない。……ひと昔前の私なら言っていたかもしれないけれど。



歌い始めはゆっくりと子守唄のように、そして徐々に透き通るごとく遠くまで響くように声色を真っ直ぐに伸ばす。そして私の歌声に合わせるように楽隊が小さな音色で演奏を始める。


私の歌声は母親譲りでそっくりだと言われているが、実のところ少し違う。『夜光の歌姫』は透き通るような伸びやかな高音が特徴であるが、私の場合は母様よりも声の音域の高低差があるようで、低音でかすれるような歌い方も出来る、


初めの内は母様の真似をして歌っていたが、母様が私の音域の広さに気付くと、「人真似ではなく自分自身の歌い方を覚えなさい」と言ってきた。その当時は今よりまだ幼かったので、何をどうすればいいのかなんてさっぱり理解出来なかったが、母様はーー



「そんな難しいことなんかないわ。あんた自身が感じたままに歌えばいいのよ。今の歌い方は私の真似をしているだけで何も考えていないでしょう? だけど本来、歌う時ってね、自分の感情次第で変わってくるの。


嬉しい時、寂しい時、悲しい時、怒っている時、その時の様々様々な感情によって歌に『色』が出てくるのよ。


だから人を惹き付ける歌には『色』がある。自分の歌が上手いから皆に聴かせたいとかっていうだけなら、ただの自己満足。悪く言えば傲慢ね。そんなものは一時の人の関心はひくけれどそれだけよ。一方的すぎて何も残らない。


あんたは私よりもはるかに感受性が豊かだから、自分の『色』を持つ事が出来たなら、きっと将来すごい歌姫になると思うわ。まあ、私のように歌を生業にしていると、感情を隠してそれなりに歌う事も出来てしまうのだけれど、それは大人になってからの話。とにかく歌う事は自分自身にも良い薬だから自分の『色』を探しなさい」



……『色』ってなんだろう? 単に赤、青、緑、とかの色じゃないの? 母様の言う事は時々分からない事がある。という以前に、私がまだ幼い子供だというのを忘れてない?



ーーと、当時は分からないものの、自分の歌いたいように歌えと言うので、気分がいい時は歌い、悪い時は歌わない。明確にはっきりと態度に出るようになった。特に嫌いな人間がいるところでは歌う事が無くなったので、私が公の場で歌う事は滅多に無くなった。


母様は「はあぁ……極端すぎるのよ」と、ため息混じりで呆れていたがーー



それでも今の私は少し大人になった事もあり、母様の言っていた『色』がなんとなく分かる。


そう、歌い方一つで聴衆の耳を奪う方法。私の声量と広い音域、感情を少し乗せる事で生まれる情感。そして私の容姿が合わさったことで、私の歌を聴いた者はそのほとんどが釘付けになる。


歌いながら貴賓席の中にお父様の姿を見つける。すごく上機嫌で満足そうに私を見て微笑んでいる。対照的に母様は柳眉をしかめて、もの言いたげに心配そうな表情だ。


きっと私が何か失敗すると思っているーーまあ、失敗というより、これからひと騒動を起こす予定だから、後で起こられるかもしれないけれど……



そして少し視線をずらすと、セルリアのユーリウス王子ご一行の姿が目に入る。その中にはセルリアの大神殿の神官達の顔も見える。さすがに大神官長は来てはいないようだ。


そんなユーリウス王子は相変わらず神々しくも優しげな微笑みを浮かべていて、私と目が合ったのが分かったのか、さりげなくそっと片手を上げる。さすがは天下一の|麗しい王子様。気遣いの所作は完璧だ。


そしてーー楽隊の方に視線を向けると、クラウスは楽譜に視線を落としながら弦楽器を演奏していた……私の方には少しも目も向けずに。



ムカッ!! ますます胸がモヤモヤしてくる。そもそも、どうしてそこにクラウスがいるのよ!? クラウスが演奏するなんて私、全然聞いていないんだけど? しかも私がクラウスを避けているのを知っているくせに、私の歌の伴奏させるとかあり得ない!しかも当の本人も全然私の方を見ようともしないし、きっとまだ私の事を怒っているのよ。そうに決まっているわ。だってクラウス石頭で頑固なんだもん!


その時の私の歌声が少々荒々しくなっていたらしいが、私には知る由もない、ひたすら叔父のクラウスに視線を送る。



ムカッ!ムカッ!! ーーなによ、なによ。普段、楽器なんて演奏しないくせに、どうしてそんなに上手なの? そんなに上手なら隠さないでもっと早くに演奏して見せてくれてもいいのにーー


いや、だめ!だめよ!!どうしてここで演奏なんかしてるわけ!? そんな事をするから頭が空っぽでお花畑の女達が馬鹿みたいに色気づくんじゃない! それでなくても独身の王族で女達から狙われているのに、また結婚話が持ち上がって言い寄られたらどうするの!? そういうのすごく苦手なくせに!!


こんなに視線を送っているのにクラウスは一向に気付かない。ユーリウス王子は私が視線を向けた一瞬ですぐに気付いたのにーー



今度は胸が締め付けられるようなモヤモヤが沸き起こる。



ーー馬鹿……クラウスの馬鹿。どうして私を見てくれないの? 私の歌の伴奏をしているくせに、歌姫を無視することないじゃない。可愛い姪が初めて『祝福の聖乙女』になったのよ? クラウスの姪はアニエス姉様だけじゃないでしょう?


それに皆が私の姿を綺麗だって褒めてくれたわ。なのにクラウスは何も言ってはくれないの? 私、すっごく頑張ったんだから。この短期間で奉納祭の踊りも歌も一生懸命覚えたのよ? おかげで寝不足で目の下にクマまで出来たのに。よく頑張ったなって褒めてくれないの?


ーーねえ、こっちを見て。私を見てよ。ちょっとくらい、こっちを見てくれてもいいじゃない!!このっつ!クラウスの馬鹿!鈍感!意地悪王子っつ!!





【25ー終】


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