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我儘王女は目下逃亡中につき  作者: 春賀 天(はるか てん)
第三章 【奉納祭】(~三年前)
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奉納祭【8】~華麗なる至高の歌姫③

【24】





楽隊(がくたい)音楽(おんがく)(しず)かに(なが)れる。ざわついていた広間(ひろま)が静まり、(あたま)花冠(かかん)をつけた(しろ)衣装(いしょう)子供(こども)(たち)(ちい)さなベルを()らしながら舞台(ぶたい)(そで)両側(りょうがわ)から舞台に()がる。この子供達は神殿(しんでん)聖歌隊(せいかたい)の子供達で、貴族(きぞく)平民(へいみん)()わず、とにかく(うた)上手(じょうず)な子供達で構成(こうせい)されている。


どちらかといえば年齢(ねんれい)からいって、私はこちらの聖歌隊に(ぞく)するのだろうが、大人(おとな)達の思惑(おもわく)によって特例(とくれい)の『祝福(しゅくふく)の聖乙女(おとめ)』の()位置(いち)にいるのだ。そんな祝(さい)にかこつけて利得(りとく)()(ため)に私を広告塔(こうこくとう)として利用(りよう)しようとしているのは()え見えだが、こちらとしても多少(たしょう)なりとも思惑があるので、それに(かん)して特に不快(ふかい)はない。


(むし)普段(ふだん)から(はな)()ちならない意地悪(いじわる)異母姉(いぼし)に“ささやか”な復讐(ふくしゅう)人目(ひとめ)(はばか)らず(おお)っぴらに出来(でき)絶好(ぜっこう)機会(きかい)なだけに(ひそ)かにほくそ()んでいるくらいだ。



ふふっ、アニエス姉様(ねえさま)反応(はんのう)(たの)しみだわ。ーーああ、ローズも()()んでしまうことになるけれど、彼女(かのじょ)も楽しみだと()っていたし、結果(けっか)を得るには小さな犠牲(ぎせい)仕方(しかた)ないわよね?



ローズロッテにはこれから()こる詳細(しょうさい)一切(いっさい)(はな)してはいない。『(てき)(だま)すにはまず味方(みかた)から』(わたし)は『嘘』をつかなくてはならなくなる事態(じたい)(おちい)るかもしれないリスクを()ける為だ。


以前、お父様がどうして先々に起こる事が分かるのかと不思議に思って何気に尋ねると、お父様いわく


『“先見(せんけん)(めい)”といってな、他人(たにん)よりも(つね)優位(ゆうい)()つ為には、その行動(こうどう)()った(とき)に起こりうる、あらゆる事態を予測(よそく)するのだ。そして(おのれ)不利(ふり)になる状況(じょうきょう)(つく)らないよう危険(きけん)分子(ぶんし)(あらかじ)()しておく事で、()く先に起こる自分の不利(えき)回避(かいひ)出来るのだよ』


ーーと(おし)えてくれた。その時の私は(いま)よりもまだ(おさな)かったのでお父様の言葉が()からずに(くび)(かし)げていると、


『ははは、リルディアにはまだ理解(りかい)出来なくて当然(とうぜん)か。ーーうむ、そうだな。リルディアの話す事や何かをした事がこれから先に起こる事に(すべ)(つな)がっているのだよ。それは()い事もあれば(わる)い事もあるが、今はそれが分からないだろう? だから悪い事にならない為に、そういう事になりそうな事を今から色々(いろいろ)(かんが)えておくのだ。そうすれば(のこ)るのは良い事ばかりだろう?』


そう言われて、なんとなく意味(いみ)が分かったので理解を(しめ)すと、お父様は(うれ)しそうに私の頭を()でながら、


『お前は本当(ほんとう)(かしこ)(むすめ)だ。これからも分からない事はなんでも()くといい。特に知識(ちしき)武力(ぶりょく)(まさ)るとも(おと)らない己を(まも)(ちから)となる。そして王女(おうじょ)であっても平民(へいみん)(はは)()つお前には特に必要(ひつよう)になる。ーーだが、それ以前にリルディアには女にとってこの(うえ)なく最強(さいきょう)武器(ぶき)である絶世(ぜっせい)美貌(びぼう)があるからな。お前ならば(ろう)せずして天下(てんか)すらも()れるぞ? わはははは』



そんな事もあり、お父様は疑問(ぎもん)になんでも答えてくれたので、私は(なお)の事、子供らしからぬ知識が豊富(ほうふ)になったのは言うまでもない。その内容(ないよう)によっては母様から『子供に何を教えているのよ!』と(おこ)られてはいたがーーー



*****



子供達が舞台の中心(ちゅうしん)(えん)(えが)くように鳴らしながら周回(しゅうかい)すると、中央を()けて左右(さゆう)二手(ふたて)に分かれ演奏(えんそう)に合わせて歌い()す。その歌が終わると(つぎ)は私の出番(でばん)だ。


そんな私が(けわ)しい表情(ひょうじょう)をしながら出番を待っていると、私が緊張しているとでも(おも)ったのだろう、ローズロッテが私の手を両手でギュッと握ってくる。



「リルディア様、緊張されておいでですのね? 大丈夫(だいじょうぶ)ですわ。あのような大衆(たいしゅう)はそれこそ『馬鈴薯(じゃがいも)南瓜(かぼちゃ)』だと思えば良いのです。それでなくても(みな)(おな)じような正装(せいそう)をしているのですもの。見分けなど、ほとんどつかないのですから丁度(ちょうど)良いですわ。しかもリルディア様ならば必ずや素晴(すば)らしい成功(せいこう)(おさ)める事になるのですから、どうか自信(じしん)をお持ち(くだ)さいませ」



大きな(みどり)色の(ひとみ)期待(きたい)()ちた眼差(まなざ)しを(おく)られ、思わず苦笑(にがわら)いを浮かべてしまう。



(べつ)に緊張しているわけじゃないけれど、ローズ、私が野菜(やさい)(ぎら)いな事を()っていて、今それを言う?」



するとローズロッテは一瞬(いっしゅん)、「あっ」と目を見(ひら)くも、すぐにニッコリと微笑(ほほえ)む。



「ですがリルディア様は野菜嫌いを克服(こくふく)なされたのでしょう?ーーああ、でしたら果物(くだもの)とか(ほか)の物では如何(いかが)でしょう。もしくは色(あざ)やかな(とり)の方がよろしいかしら?」



見当(けんとう)(ちが)いであるのに、なにやら真剣(しんけん)に考えているローズロッテに思わずクスッと口許(くちもと)に笑みが浮かぶ。



「ふふ、ローズの言う(とお)りね。あそこにいる人間達は皆、派手(はで)な色とりどりの極楽鳥(ごくらくちょう)だと思う事にするわ。それに私を(だれ)だと思っているの? 私は『夜光(やこう)の歌(ひめ)』の歌声を()()いだ天下に名高い第四(だいよん)王女なのよ? 自信なんて(はじ)めからあるに()まっているじゃない。見ていなさい? あそこにいる大衆皆の(みみ)を私の歌声の(とりこ)にしてみせるから!」



それを聞いたローズロッテは感嘆(かんたん)の声を上げる。



「ああっ、リルディア様、すごく素敵(すてき)ですわ! しかもなんと(たの)もしきお言葉ですの! (うつく)しいご容姿(ようし)(くわ)え自信に(あふ)れた気高く(かがや)かしきそのお姿(すがた)は、まるで天(じょう)女神(めがみ)様のよう。いえ様そのものですわ! (わたくし)勿論(もちろん)、すでにリルディア様の虜。そんな貴女(あなた)様の『友人(ゆうじん)』でいられる事は私の人生(じんせい)最大(さいだい)栄誉(えいよ)です。私、一生(いっしょう)、リルディア様について行きますわ!」



「はあっ!? 一生!?」



どこか頭の中の(へん)(ところ)刺激(しげき)されたらしいローズロッテが、(あき)らかに()きぎみの私の手を(さら)に握りながら「ふふっ、絶対(ぜったい)(のが)しませんからね?」と、私の気持ちを先に()んだかのように(ねん)()しのように口にしながら、満面(まんめん)の笑みを浮かべている。



ーーまるで悪魔(あくま)にでも()()られた気分だ。まさか私がセルリアに(とつ)いでからも、今の関係(かんけい)(つづ)けなければならないのだろうか。そういえば彼女の婚約者(こんやくしゃ)はセルリアの貴族(きぞく)だ。………あり得る。


しかも貴族の中でも一番厄介(やっかい)性格(せいかく)もあまり()きじゃない彼女なのに、一生『悪友』を続けるだなんて、下手(へた)に敵に回せない相手(あいて)だけに常に面倒(めんどう)事がついて回るじゃない!!



そうこうしている(うち)に、子供達の歌が終わりそうな(ころ)合いに入り、取り()えず色々な感情はさておき、私は背筋(せすじ)()ばすと雑念(ざつねん)(はら)うべく、自分の(むね)(かた)手をあてて大きく深呼吸(しんこきゅう)をしてから舞台に中央に()かって()()ぐに視線(しせん)を向ける。



「ーー行ってくるわ」



私の言葉にローズロッテは握っていた私の手をそっと(はな)すと、自分のドレスの両(すそ)をつまみ一礼(いちれい)する。



「はい。行ってらっしゃいませ。リルディア様」






【24ー終】

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