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我儘王女は目下逃亡中につき  作者: 春賀 天(はるか てん)
第三章 【奉納祭】(~三年前)
48/80

奉納祭【8】~華麗なる至高の歌姫③

【24】




楽隊の音楽が静かに流れる。ざわついていた広間が静まり、頭に花冠をつけた白い衣装の子供達が小さなベルを鳴らしながら舞台袖の両側から舞台に上がる。この子供達は神殿の聖歌隊の子供達で、貴族平民問わず、とにかく歌が上手な子供達で構成されている。


どちらかといえば年齢からいって、私はこちらの聖歌隊に属するのだろうが、大人達の思惑によって特例の『祝福の聖乙女』の立ち位置にいるのだ。そんな祝祭にかこつけて利得を得る為に私を広告塔として利用しようとしているのは見え見えだが、こちらとしても多少なりとも思惑があるので、それに関して特に不快はない。


寧ろ普段から鼻持ちならない地悪な異母姉に“ささやか”な復讐を人目も(はばか)らず大っぴらに出来る絶好機会なだけに密かにほくそ笑んでいるくらいだ。



ふふっ、アニエス姉様の反応が|楽しみだわ。ーーああ、ローズも巻き込んでしまうことになるけれど、彼女も楽しみだと言っていたし、結果を得るには小さな犠牲も仕方ないわよね?



ローズロッテにはこれから起こる詳細を一切話してはいない。『敵を騙すにはまず味方から』私は『嘘』をつかなくてはならなくなる事態に陥るかもしれないリスクを避ける為だ。


以前、お父様がどうして先々に起こる事が分かるのかと不思議に思って何気に尋ねると、お父様いわく


『“先見の明”といってな、他人よりも常に優位に立つ為には、その行動を取った時に起こりうる、あらゆる事態を予測するのだ。そして己が不利になる状況を作らないよう危険分子は予め消しておく事で、行く先に起こる自分の不利益を回避出来るのだよ』


ーーと教えてくれた。その時の私は今よりもまだ幼かったのでお父様の言葉が分からずに首を傾げていると、


『ははは、リルディアにはまだ理解出来なくて当然か。ーーうむ、そうだな。リルディアの話す事や何かをした事がこれから先に起こる事に全て繋がっているのだよ。それは良い事もあれば悪い事もあるが、今はそれが分からないだろう? だから悪い事にならない為に、そういう事になりそうな事を今から色々考えておくのだ。そうすれば残るのは良い事ばかりだろう?』


そう言われて、なんとなく意味が分かったので理解を示すと、お父様は嬉しそうに私の頭を撫でながら、


『お前は本当に賢い娘だ。これからも分からない事はなんでも聞くといい。特に知識は武力に勝るとも劣らない己を守る力となる。そして王女であっても平民の母を持つお前には特に必要になる。ーーだが、それ以前にリルディアには女にとってこの上なく最強の武器である絶世の美貌があるからな。お前ならば労せずして天下すらも取れるぞ? わはははは』



そんな事もあり、お父様は疑問になんでも答えてくれたので、私は尚の事、子供らしからぬ知識が豊富になったのは言うまでもない。その内容によっては母様から『子供に何を教えているのよ!』と怒られてはいたがーー



*****



子供達が舞台の中心で円を描くように鳴らしながら周回すると、中央を開けて左右二手に分かれ演奏に合わせて歌い出す。その歌が終わると次は私の出番だ。


そんな私が険しい表情をしながら出番を待っていると、私が緊張しているとでも思ったのだろう、ローズロッテが私の手を両手でギュッと握ってくる。



「リルディア様、緊張されておいでですのね? 大丈夫ですわ。あのような大衆はそれこそ『馬鈴薯(じゃがいも)や南瓜』だと思えば良いのです。それでなくても皆、同じような正装をしているのですもの。見分けなど、ほとんどつかないのですから丁度良いですわ。しかもリルディア様ならば必ずや素晴らしい成功を収める事になるのですから、どうか自信をお持ち下さいませ」



大きな緑色の瞳で期待に満ちた眼差しを送られ、思わず苦笑いを浮かべてしまう。



「別に緊張しているわけじゃないけれど、ローズ、私が野菜嫌いな事を知っていて、今それを言う?」



するとローズロッテは一瞬、「あっ」と目を見開くも、すぐにニッコリと微笑む。



「ですがリルディア様は野菜嫌いを克服なされたのでしょう?ーーああ、でしたら果物とか他の物では如何でしょう。もしくは色鮮やかな鳥の方がよろしいかしら?」



見当違いであるのに、なにやら真剣に考えているローズロッテに思わずクスッと口許に笑みが浮かぶ。



「ふふ、ローズの言う通りね。あそこにいる人間達は皆、派手な色とりどりの極楽鳥だと思う事にするわ。それに私を誰だと思っているの? 私は『夜光の歌姫』の歌声を受け継いだ天下に名高い第四王女なのよ? 自信なんて初めからあるに決まっているじゃない。見ていなさい? あそこにいる大衆皆の耳を私の歌声の虜にしてみせるから!」



それを聞いたローズロッテは感嘆の声を上げる。



「ああっ、リルディア様、すごく素敵ですわ!しかもなんと頼もしきお言葉ですの!美しいご容姿に加え自信に溢れた気高く輝かしきそのお姿は、まるで天上の女神様のよう。いえ様そのものですわ! わたくしも勿論、すでにリルディア様の虜。そんな貴女様の『友人』でいられる事はわたくしの人生最大の栄誉です。わたくし、一生、リルディア様について行きますわ!」


「はあっ!? 一生!?」



どこか頭の中の変な所が刺激されたらしいローズロッテが、明らかに引きぎみの私の手を更に握りながら「ふふっ、絶対に逃しませんからね?」と、私の気持ちを先に読んだかのように念押しのように口にしながら、満面の笑みを浮かべている。



ーーまるで悪魔にでも魅入られた気分だ。まさか私がセルリアに嫁いでからも、今の関係を続けなければならないのだろうか。そういえば彼女の婚約者はセルリアの貴族だ。……あり得る。


しかも貴族の中でも一番厄介で性格もあまり好きじゃない彼女なのに、一生『悪友』を続けるだなんて、下手に敵に回せない相手だけに常に面倒事がついて回るじゃない!!



そうこうしている内に、子供達の歌が終わりそうな頃合いに入り、取り敢えず色々な感情はさておき、私は背筋を伸ばすと雑念を払うべく、自分の胸に片手をあてて大きく深呼吸をしてから舞台に中央に向かって真っ直ぐに視線を向ける。



「ーー行ってくるわ」



私の言葉にローズロッテは握っていた私の手をそっと離すと、自分のドレスの両裾をつまみ一礼する。



「はい。行ってらっしゃいませ。リルディア様」





【24ー終】

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