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我儘王女は目下逃亡中につき  作者: 春賀 天(はるか てん)
第三章 【奉納祭】(~三年前)
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奉納祭【6】~華麗なる至高の歌姫

【22】




ざわざわと大勢(おおぜい)人々(ひとびと)(こえ)神殿(しんでん)大広間(おおひろま)(つづ)(ひか)(しつ)まで()こえてくる。そして『祝福(しゅくふく)聖乙女(せいおとめ)』の六人(ろくにん)はそれぞれの担当(たんとう)する武具(ぶぐ)()()たりにしていた。

武具は練習(れんしゅう)(よう)模造品(もぞうひん)とは(ちが)い、豪華(ごうか)宝飾(ほうしょく)され(はな)やリボンが(かざ)られている。(わたし)(たち)はそれを各自(かくじ)()()った。



皆様(みなさま)儀式(ぎしき)(よう)の武具は模造品とは(ちが)い宝飾がなされている(ぶん)(おも)くなっております。()()いとはいえ武具は武具。くれぐれも取り(あつか)いにはお()()(くだ)さい」



そんな神女(しんにょ)(ちょう)注意(ちゅうい)喚起(かんき)する。



「ああ、やっとこの()()たのね。私、これを手にするのを子供(こども)(ころ)から(ゆめ)()ていたのよ」



「私もよ。でも本当(ほんとう)に夢みたい。ああ、どうしよう。お(きゃく)さんも沢山(たくさん)いるし、すごく緊張(きんちょう)して心臓(しんぞう)(くち)から()()てきそう。私ちゃんと上手(うま)(おど)れるかしら?」



大丈夫(だいじょうぶ)よ。そういう(とき)()きな(おとこ)(こと)(かんが)えていればいいのよ。自分(じぶん)()姿(すがた)を見に来てくれていると(おも)えば、いつも以上(いじょう)気合(きあい)いが(はい)るでしょ?」



市井(いちい)三人(さんにん)の聖乙女達はすごく緊張した面持(おもも)ちでそわそわと()()かない様子(ようす)だ。



王女(おいじょ)である(わたくし)にこのような(おも)(もの)()たせるだなんて(しん)じられませんわ。今回(こんかい)仕方(しかた)がないとしても、(つぎ)からはもっと(かる)素材(そざい)(つく)らせなくてはなりませんわね」



アニエスは武具を手に取るなり、またもや不満(ふまん)()らしつつ、すぐさま武具を()くとソファーに(こし)()けて手鏡(てががみ)で自分のお化粧(けしょう)具合(ぐあい)(ねん)()りに再確認(さいかくにん)している。そして私とローズロッテも(おな)じようにそれぞれの武具を手に取っていた。



「アニエス(さま)同感(どうかん)するのはかなり(しゃく)(さわ)りますが、(たし)かに女性(じょせい)が持つには重量(じゅうりょう)がありますわね。これでは後々(のちのち)筋肉痛(きんにくつう)になってしまうかもしれませんわ。これは改良(かいりょう)余地(よち)必要(ひつよう)ですわね。


(とく)にリルディア様が心配(しんぱい)です。この(なか)では最年少(さいねんしょう)でしかも一番(いちばん)(からだ)(ちい)さく華奢(きゃしゃ)でありますのに、これではリルディア様のお体に負担(ふたん)が掛かってしまいますわ。


宝飾は武具に()め込まれているので取り(はず)しも出来ませんし、ここはやはり即興(そっきょう)で踊りを変更(へんこう)し、なるべく(うで)に負担の掛からぬ(よう)(いた)しませんと」



ローズロッテは眉間(みけん)(しわ)()せた(むず)しい(かお)で武具を見つめている。そんな私も武具の(つるぎ)を「ふ~ん?」と見つめながら左手(ひだりて)で剣を(にぎ)るとそのまま左右(さゆう)(かる)()っていると、ローズロッテの(おお)きな()が更に大きく見開かれ、口を開けたまま()(ぜん)とこちらを見つめている。



「大丈夫よ、ローズ。このくらいなら大して(えい)(きょう)ないわ。かえって『(ほこ)』よりも(あつか)いやすいくらい」



「リ、リルディア様? その、(おも)たいですわよね。本当に大丈夫ですの? しかも(かた)()でそんなーーー」



ローズロッテが何故(なぜ)(きょう)(がく)しているが私は気にも()めずに剣の持ち具合を確かめながら刀身(とうしん)(ゆび)(すべ)らす。



「確かに模造品に(くら)べれば重いけれど、まあ、本来(ほんらい)の武具の重さに比べれば大した事はないわよ。だけど改良の余地はあるわよね。第一(だいいち)、儀式用とはいえ過度(かど)に宝飾し過ぎなのよ。模造品くらいが丁度(ちょうど)良いのに(うつく)しさを優先(ゆうせん)して使(つか)いやすさをまるで考えていない製作者(せいさくしゃ)自己(じこ)満足(まんぞく)代物(しろもの)ってところかしら」



「た、確かにそうですけれど、そういう事ではなく、リルディア様は見た目によらず(ちから)持ちでいらっしゃいますのね? その様なか(よわ)細腕(ほそうで)(ぎん)の剣を軽々(かるがる)と扱われるなんて大変(たいへん)(おどろ)きましてよ?」



あっ、そうだった。いけないーーー



私は咄嗟(とっさ)(われ)(かえ)ると(いそ)いで剣を置いて如何(いか)にもらしく左腕を押さえながら顔を(しか)める。



「ああ、やっぱりすごく重たいかも。それに何だか腕も(いた)くなってきたわ。皆に大丈夫だと安心(あんしん)させたくて無理に剣を振ってみたけれど、少し調子(ちょうし)に乗り過ぎてしまったみたい」



そんな私にローズロッテが(あわ)てた様子で心配そうに私の左腕を取る。



「だ、大丈夫ですか?リルディア様。すぐに医者(いしゃ)()んで手当(てあ)てをさせましょう?」



そう言って神女長に声を掛けようとするローズロッテを自分の方へ()()ってその口を片手で(ふさ)ぐ。



「ああいや、本当に大丈夫だから心配しないで? 一過性(いっかせい)の痛みだからこんなものは直ぐに治るわ。それにもう儀式が(はじ)まっているのに私が()けたとなれば進行(しんこう)にも大きな影響が出るでしょう?」



「ですがーーー」



(なお)も私の手を(はな)さず心配するローズロッテに私はニッコリと微笑みながら小声で(ささや)く。



「それに貴女がそんな顔をしているとアニエス姉様(ねえさま)がよろこんでしまうわよ? そんなの私は(いや)だわ。確かに私は普通(ふつう)の人に比べてちょっとだけ力持ちみたい。だけどそれはあのお父様(とうさま)()を引いているのだもの仕方ないわ。けれど女としてはあまり良い事でもないから人前では気をつけないと駄目(だめ)ね」



私はローズロッテに片目を(つむ)(かた)(すく)めて見せるとローズロッテもクスリと

笑う。



「クスッ、確かに国王(こくおう)陛下(へいか)怪力(かいりき)の持ち(ぬし)。その御子(おこ)が多少なりともそれを受け()いでしまうのは仕方のない事ですわ。けれどそれは女性にとって聞き覚えの良い事ではありませんものね。リルディア様のお気持ちお(さっ)し致します」



「ええ、そういう事なの。だから気にしないで」



ふうぅ………どうやら今の説明(せつめい)納得(なっとく)してくれたみたい。説明に(うそ)はないから良いわよね?


ーーでも本当に人前では気を付けないと。私の場合は“力持ち”とは言ってもお父様と同じ“怪力”の方だから………



すると今度はローズロッテが私の耳元(みみもと)でこっそりと囁く。



「リルディア様? 本当にアニエス様の武具に“アレ”を仕込まれておりますの? アニエス様がここで武具の確認をされてしまえば気付かれてしまうのでは?」



それを聞いて私は下を向いたまま意地悪(いじわる)げに笑う。



「クスッ、ローズ駄目(だめ)よ、あまり姉様に視線(しせん)を向けないで? 気付きはしないだろうけれど、また何かにとっつけて(から)まれるような事は()けたいわ。


それに彼女が武具を確認するわけないでしょう? 自分を美しく着飾(きかざ)る事しか興味(きょうみ)が無く、他の事には全く意識の向かない典型的(てんけいてき)貴族(きぞく)(むすめ)よ? その(てん)で言えばローズは彼女達と違うから『()わり者』と言われているのだけれど。だから今も武具に少し(さわ)っただけですぐに自分の事だけに夢中(むちゅう)でしょ? 全く単純(たんじゅん)よね」



「ふふっ、そこまで把握(はあく)されていらっしゃるなんて、リルディア様には(かな)いませんわね」



「それは相手(あいて)が相手だからよ。これがローズならさすがに私も貴女の思考(しこう)までは()からないわ」



そんな私達がひそひそ話をしているところへ神女長が近付いて来る。



「ーーお話中に失礼(しつれい)致します。リルディア様。少しよろしいでしょうか?」



「ええ、大丈夫よ。何か?」



私は神女長に体を向けると、神女長は相変わらず(りん)とした真っ直ぐな姿勢(しせい)で頭を下げる。



「この(たび)は色々とご迷惑(めいわく)をお掛け致しました。アニエス様のご説得(せっとく)を何度も(こころ)みましたが、最後(さいご)までご理解(りかい)(いただ)けず、武具の変更というリルディア様に更に負担を掛けてしまう結果(けっか)となり私としても大変(たいへん)(もう)(わけ)なく思っております」



「貴女が悪いわけじゃないから気にしないで? それに彼女の事はよく分かっているから、こうなる事も予測(よそく)()みだったし大して問題(もんだい)ないわ。それにあの姉様相手に貴女も大変だったわね。まあ、私も(ふく)めて(さわ)がせてしまったけれど、それも今日(きょう)(かぎ)りで()わりだから安心(あんしん)して? 私も姉様も今後(こんご)『祝福の聖乙女』になる事は無いと思うから」



それを聞いたローズロッテが私のドレスの袖を引っ張る。



「リルディア様!その様な事を仰らないで? あの御方はともかくリルディア様には毎年儀式の主役(しゅやく)として出て頂きたいですわ。それは私のみならず沢山の皆様がそう思っておりましてよ?」



「嫌よ。言ったでしょう。私は奉納祭の儀式なんて退屈なだけで興味も無いし、まして人寄せの主役なんて、もうまっぴらごめんだわ。それに本来私は(うた)いたい時にしか歌いたくないし他人(たにん)(しば)られるのも嫌よ。


今回はこちらの事情(じじょう)もあるから『特別(とくべつ)』に承諾(しょうだく)したけれど、それが毎度通るとは思わないで? 私は自分の意思(いし)でしか(うご)かない人間なの。 周囲(しゅうい)から自分本位(ほんい)傍若無人(ぼうじゃくぶじん)我儘(わがまま)王女だと言われていても私は私を変える気はないわ」




するとローズロッテは小さく(かた)(すく)めてため(いき)をつく。



「分かりました。リルディア様がそこまでお嫌ならもう“今回”は何も申しませんわ。けれど来年(らいねん)気分(きぶん)がお変わりになるかもしれませんし、また(つぎ)機会(きかい)にリルディア様のご説得に挑戦(ちょうせん)致します」



「はあ~貴女も本当にしつこいわね。でも確かに私も来年の自分の事は分からないから、まあ、無駄(むだ)(ぼね)かもしれないけれど精々(せいぜい)頑張(がんば)って?」



「ええ、しつこいのは私の特技(とくぎ)の一つですの。(わたくし)、絶対に(あきら)めませんから」



そんな私達の会話の()見計(みはか)らうように神女長が話し掛けてくる。



「リルディア様のお心遣(こころづか)感謝(かんしゃ)致します。リルディア様と過ごす時間はこちらとしても大変有意義(ゆういぎ)な時間でした。再び『聖乙女』となられます(さい)には私共も楽しみにしておりますので是非お世話(せわ)させて下さいませ。


しかし今回は私も心配なのです。それでなくてもリルディア様には独唱(どくしょう)と踊りとで練習時間も(ほとん)ど無かった上、突然の武具の変更(へんこう)などと、あまりにも無理があります。そこでリルディア様。儀式の最中(さいちゅう)には舞台(そで)の方をご(らん)下さい。我々が剣の踊りを先行(せんこう)して踊りますので、それで少しでもお(やく)に立ちたいと思っております」



「まああ、それは良い(あん)ですわ神女長殿(どの)! リルディア様!良かったですわね」



「え? ええ、そうね。すごく(たす)かるわ。神女長」



私は思いも寄らない神女長からの(きょう)(りょく)に、どう反応(はんのう)してよいやら分からず答えると神女長の顔に笑みが浮かぶ。



「皆様の儀式の成功(せいこう)(かげ)ながら(いの)っております。頑張って下さいませ」



神女長はそう言って私達に再び頭を下げる。



「神女長、貴女のお名前(なまえ)はなんていうの?」



私が名前を問うと神女長は不思議(ふしぎ)そうな顔をする。



「はい? 名前でございますか?」



「ええ、そうよ。神女の(やかた)でずっと顔を合わせていたのに、まだ名前を聞いていなかったから」



「それは大変失礼致しました。私は『ローレン=ノーマン』と申します」



「そう、素敵(すてき)なお名前ね。貴女によく似合ってる。また、お世話(せわ)になるかもしれないから(おぼ)えておくわ」



「まあ、リルディア様ったら。神女長殿を気に入っているのだと仰ればよろしいのに」



「う、うるさいわね。私は名前を聞いただけだわ。もしかしたらまたお世話になるかもしれないでしょう?」



「まあ? それでは今後も『祝福の聖乙女』になって下さいますのね? もう、リルディア様ったら、それならそうと先ほどもご謙遜(けんそん)などなさらず言って下さればよろしいですのに。()()さんですわね?」



「て、照れ屋さん? 違うからっ! 私は絶対に金輪際(こんりんざい)『聖乙女』なんかにならないわ! それなら母様(かあさま)のように武道(ぶどう)大会(たいかい)で歌う方がまだマシよ。少なくとも武道大会の方は退屈しないもの」



そこまで言って私はハッと気付く。ーーしまった………余計(よけい)な事を言ったかも。


(あん)(じょう)ローズロッテがニヤリと意味深(いみしん)に微笑む。



「うふふ、リルディア様。今、確かに仰いましたわね? 確かに武道大会の健勝(けんしょう)()は特に規制(きせい)が無く、しかも『祝福の聖乙女』は神殿側に決定権(けっていけん)があるに対してこちらの方は国王(こくおう)陛下(へいか)がお決めになるのですもの。


リルディア様もお父上様の決定事項(じこう)であれば無下(むげ)にも出来ませんものね。(しか)らば次の奉納祭ではリルディア様が武道大会の歌姫(うたひめ)で決定ですわ!」



「ちょっと!ローズ!? どうしてそうなるのよ? 私は嫌よ。言ったでしょう? 私は自分の意思でしか動かないわ」



私は慌ててローズロッテに()め寄るも本人は何()わぬ顔で微笑みながら私の顔を(のぞ)き込む。



勿論(もちろん)です。ですから先ほどリルディア様のご意思をこの場で確認致した上で申しました

のよ? リルディア様は仰いましたわ。『祝福の聖乙女』にはならないけれど武道大会の方であれば歌うと」



「う、歌うとは言っていないわ。私は聖乙女よりはまだマシだと言ったのよ」



「それは同じ意味ですわ。つまりは歌う意思があるという事ですもの。そしてリルディア様は決して(うそ)は口にはされない御方。ならば意思の確認()みという事ですわよね? 何よりリルディア様がお歌いになれば国王陛下が大変お(よろこ)びになられる事でしょう。ここは親孝行(おやこうこう)の為にも絶対になさるべきですわ」



私は(つづ)く言葉も出てこずに、クッと(くちびる)()()めて苦虫(にがむし)(つぶ)したような表情を向ける。



「この()っからの『商売人(しょうばいにん)』め。しかも人の一番(いちばん)(よわ)い所を突くなんて(きたな)いわよ、ローズ」



するとローズロッテは私の腕に自分の腕を(から)めて耳元で囁く。



「うふふ、それが『商売人』というものです。しかも言葉の()()きが特に(むずか)しいのですわ。ですからリルディア様も発言(はつげん)される際にはお気をつけあそばせ? この様に言葉を(ひろ)われて利用(りよう)されますわよ?」



私は深いため息をついて首を左右に振る。



「はあ………自分でそれを言う? 私も大した『悪友(あくゆう)』がいたものねーーー」





【22ー終】


























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