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我儘王女は目下逃亡中につき  作者: 春賀 天(はるか てん)
第三章 【奉納祭】(~三年前)
45/78

奉納祭【5】~ひとときの『逢瀬』?

【21】




「リルディア(さま)! こちらへお(はや)く!」



「ローズ、ちょっと()って! どこに()くの? もう時間(じかん)がないのよ? そろそろ神殿(しんでん)(ひか)えの()(はい)らないとーーー」



もうまもなく奉納祭(ほうのうさい)開始(かいし)合図(あいず)(かね)()ろうとしている矢先(やさき)突然(とつぜん)ローズロッテが(わたし)是非(ぜひ)()せたいものがあると()って、私達は神女長(しんにょちょう)()(ぬす)み、目立(めだ)たない(よう)薄手(うすで)のマントを(かぶ)って通路(つうろ)足早(あしばや)移動(いどう)している。


しかもこんな儀式(ぎしき)(まえ)急遽(きゅうきょ)見せたいものとは一体(いったい)(なに)があるのか()いてみても、ローズロッテは「()ってからのお(たの)しみですわ」と詳細(しょうさい)一切(いっさい)(おし)えてはくれず、私は彼女(かのじょ)(あと)(うなが)されるままに()いて行くしかない。



大丈夫(だいじょうぶ)ですわ。控えの間に行く途中(とちゅう)にある場所(ばしょ)ですもの。それにきっとリルディア様もお(よろこ)びになられますから、ついていらして?」



「ねえ、それって儀式(ぎしき)()わった後じゃ駄目(だめ)なの? 時間も無いのに(あわ)ただしいったらないわ。 それに儀式が(はじ)まる(まえ)に、一応(いちおう)武具(ぶぐ)最終(さいしゅう)確認(かくにん)だってしたいのに」



「ふふっ、儀式が始まる前だからよろしいの。しかもこれはリルディア様の儀式のご成功(せいこう)にも(つな)がる(こと)でしてよ?」



「だからって『祝福(しゅくふく)聖乙女(せいおとめ)』が儀式前にこんな(ところ)をウロウロしていたら不味(まず)いと(おも)うわよ? (まん)(いち)、儀式が始まってしまったらーーって、え?」



突如(とつじょ)、ローズロッテが私の(うで)(つか)んで()()まり、私も立ち止まったその前方(ぜんぽう)神殿(しんでん)への通路が(つづ)()()(ぐち)人影(ひとかげ)が見えた。


その人物は(しろ)衣装(いしょう)銀色(ぎんいろ)(ふち)(かざ)り、(あざ)やかな(あお)いマント、そして左耳(ひだりみみ)には王太子(おうたいし)(あかし)でもある銀色の耳飾(みみかざ)りが()れている銀髪(ぎんはつ)(うつく)しい青年(せいねん)である。



「ま、まさか、ユーリウス王子(おうじ)!?」



それはセルリア(こく)の王太子で私の婚約者(こんやくしゃ)。ユーリウス=ランジェフェリエ王子だった。


(おどろ)いてその()で立ち止まったままの私にユーリウス王子の方から(ある)いてくると、私の前で()まる。


するとローズロッテは()(ぶん)のドレスの(りょう)(はし)をつまんで王子に挨拶(あいさつ)の『(れい)』を()ると私の後方(こうほう)(はな)れて()がっていった。そんなユーリウス王子の後方では彼のお()きの二人(ふたり)騎士(きし)(たち)が私達に()けて(おな)じく挨拶の『礼』を取っている。



「ユーリウス王子? ど、どうしてこんな所にいるの? (たし)貴賓室(きひんしつ)はここから神殿の反対側(はんたいがわ)にあるはずよね。しかもここは神女(しんにょ)(やかた)敷地内(しきちない)男性(だんせい)は立ち入れない場所だわ。こんな所を誰かに見られでもしたら大変(たいへん)よ! もしかして(みち)(まよ)ったの?」



私は王女(おうじょ)としての挨拶の『礼』もすっかり(わす)れて、しかも()のままの状態(じょうたい)でユーリウス王子に(はな)()けると、王子の方は礼儀(れいぎ)(ただ)しく優雅(ゆうが)に挨拶の『礼』を取ると(やさ)しげに微笑(ほほえ)む。



「リルディア(ひめ)。こうしてお()わりなきお姿(すがた)拝見(はいけん)出来ました事、大変(たいへん)光栄(こうえい)(ぞん)じます。 本日(ほんじつ)の姫の初舞台(はつぶたい)日々(ひび)(たの)しみにしておりました。そして『祝福の聖乙女』なるそのお姿、大変よくお似合(にあ)いです。姫の美しいそのお姿には誰もが称賛(しょうさん)する事でしょう。 

そんな姫の婚約者を名乗(なの)る事の出来(でき)()()がどれほど果報者(かほうもの)であるのか(あらた)めて実感(じっかん)(いた)します」



大雑把(おおざっぱ)な私とは(ちが)い、さすがは立派(りっぱ)王族(おうぞく)であるきちっとした礼儀作法(さほう)(ともな)い、(さら)には婚約者への美辞麗句(びじれいく)を挨拶に()()む事も忘れない完璧(かんぺき)な王子様ではあるが、


私はというと、時間が無い(うえ)に、しかも誰かにこの状況(じょうきょう)を見られてしまうのではないかと思うと、()(あせ)って(あた)りをキョロキョロと()(まわ)しながら王子のマントを(つか)んでクイッと自分の方に()()る。



「ああ~もう、そんな(かしこ)まった挨拶はいらないわ! それに私なんかよりも貴方(あなた)のその神々(こうごう)しくも(うるわ)しい姿を見た国中(くにじゅう)(おんな)(たち)の方が(たお)れてしまうわよ。


それから、こちらのデコルデ侯爵(こうしゃく)令嬢(れいじょう)は私の素をよく()っている勝手(かって)知ったる(なか)だから、堅苦(かたくる)しい礼儀作法もここでは必要(ひつよう)ないから気にしないで?


そんな事よりも貴方がここにいるのは非常(ひじょう)に不味いのよ。とにかく神女達に見られない(うち)に早く貴賓室に(もど)って。(とく)にここの神女長は規律(きりつ)順守(じゅんしゅ)ですごく(きび)しいの。(たと)え王族であろうと容赦(ようしゃ)なく(おこ)られるんだから!

それにしてもここの門番(もんばん)達は何をやっているのかしら? 王子にきちんと道を教えてあげないなんて」



私は警備(けいび)手薄(てうす)さにブツブツと文句(もんく)を言いつつ、王子のマントを引っ張って神殿側に歩き始めようとするも王子が困惑(こんわく)した表情(ひょうじょう)(くち)(ひら)く。



「リルディア姫、違うのです。それと私にその様に()れてはなりません。『祝福の聖乙女』は異性(いせい)に触れてはならぬ()まりと聞いております」



それを聞いて私は「あっ」と思い出した様に王子のマントから手を離す。



「ああ~もう面倒(めんどう)くさいったら。異性接触(せっしょく)禁止(きんし)とかで女だらけの(やかた)()じ込められるし、やっぱり『祝福の聖乙女』なんて引き受けなければよかった。しかもお父様(とうさま)とも()わせて(もら)えないのよ?


所詮(しょせん)形式(けいしき)だけの規則(きそく)でしょう? なのにそこまで(まも)らなければならないほど『聖乙女』なんて重要(じゅうよう)かしら? それこそ既婚(きこん)であろうと無かろうと誰がなっても良いと思うわ」



そんな私の言葉にローズロッテが王子がいる手前(てまえ)、やや遠慮(えんりょ)気味(ぎみ)(ちい)さく笑う。



「ふふっ、リルディア様らしいお言葉ですわね。ですがこれは我が国伝統(でんとう)神事(しんじ)でもありますもの。神事というものは(けが)れの無い(きよ)らかな乙女の(いの)りを神様(かみさま)(この)まれるのですわ。


そんな神様も中々会うことの出来ない引き離された恋人(こいびと)達のひと(とき)の『逢瀬(おうせ)』を邪魔(じゃま)をするほど無粋(ぶすい)ではありません事よ? きっとここでの出来事も目を(つむ)っていて下さいますわ。


それにここにはお二人の邪魔する者は誰もおりませんもの。ですから時間はあまりありませんけれど、お二人はご婚約者同士(どうし)『口付け』するくらいのお時間なら十分(じゅうぶん)にありましてよ?」



「ロ、ローズ!!?」



「けほっつーーー」



ローズロッテの(しん)じられない発言(はつげん)に私は()いた口が(ふさ)がらず、ユーリウス王子の方は思わずむせてしまったらしく、片手(かたて)口許(くちもと)(おお)って(せき)(こら)えている。



「ローズ!! 貴女なんて事を言うの!? しかも王子の前で! ()ずかしくないの!?」



これが貴族(きぞく)のご令嬢達との茶会(ちゃかい)ならいざ知らず、よりにもよって異性の、しかも他国(たこく)の王子の前で『口付け』などと、いくら子供(こども)である私でも恥ずかしい事この上ない。しかしローズロッテはシレッとした表情で(じつ)(さわ)やかな笑顔(えがお)である。



「あら? (わたくし)はただ、婚約者だけに(ゆる)された手の(こう)への『口付け』の事を(もう)し上げただけなのですけれどーー異性への接触は(きん)じられているとはいえ、その行為(こうい)正式(せいしき)な貴族社会(しゃかい)の作法ですもの。何も恥ずかしい事ではありませんでしょう?」



「え? あ、ああ、婚約者の挨拶の『礼』の事? そ、そうよね。そういう事。あはははーーー」



ーーな、なあんだ。そうか。そういう事。


ローズロッテが『逢瀬』とか、やたら恋愛(れんあい)雰囲気(ふんいき)っぽい話し方をするし、しかも『口付け』とか意味深(いみしん)な言い回しとかするから思わず深読(ふかよ)みしてしまった。


だけどそれもこれもローズが変な言い方をするからだよね?



そんな私はユーリウス王子と視線を合わせ気恥ずかしさを(たが)いに笑顔で場を取り(つくろ)っていると、ローズロッテが私達を見て「ふふ~ん?」と(ふく)み笑いを浮かべる。



「うふふ、お二人は(わたくし)とは違う意味で(とら)えていらしたのかしら? 勿論、『口付け』は手の甲ではなくてもよろしいのですよ? お二人にはそれが許されている仲なのですもの。なんでしたら(わたくし)(うし)ろを向いて離れておりますから、お邪魔は致しませんので存分(ぞんぶん)にお二人のひと時の『逢瀬』をお楽しみ下さいませ」



「ローズロッテっ!!」



「ーーっつ、けほげほっーー」



ーーああ、やっぱり『確信犯(かくしんはん)』か!!



私の声と同時(どうじ)にユーリウス王子が再びむせて咳き込んでいる。ローズロッテの(わる)ふざけは今に始まった事ではないが、王子がいる手前、これは(いささ)かやり()ぎだ。



「ローズロッテ! いい加減(かげん)にして! しかもこれも(すべ)てはローズの仕業(しわざ)でしょう? わさわざ王子をこんな場所まで引き入れて誰かに見つかったらどうするの!? 私だけならいざ知らず、王子にまで迷惑(めいわく)を掛けてしまうわ!」



そんなローズロッテに苦言(くげん)をしようとすると、何故(なぜ)かユーリウス王子が私に頭を下げる。



「リルディア姫、申し訳ありません。これは私が悪いのです。デコルデ侯爵令嬢にはご協力(きょうりょく)(いただ)いただけ

ですので、どうか()()は全て私に(おっしゃ)って下さい。


実はこちらの侯爵令嬢から、貴女が初舞台を前にして儀式の練習(れんしゅう)時間も(みじか)く、大変不安(ふあん)になられていると(うかが)い、私も姫が心配(しんぱい)で、こちらの勝手な我儘(わがまま)ではありますが私から大神官長(だいしんかんちょう)(ねが)い出て貴女に一目(ひとめ)お会いし、言葉を掛けさせて頂く許可(きょか)()たのです」



そう言うとユーリウス王子はローズロッテに向けて感謝(かんしゃ)を述べると自然(しぜん)な美しい所作(しょさ)紳士(しんし)の『礼』を取る。



「そそ、そんな! わ、(わたくし)(たい)した事はしてはおりませんわ! た、ただ、どうしてもお二人をお引き合わせしたくて、それでリルディア様がお元気(げんき)になられたらとーーああ、どうしましょう。(わたくし)、王太子様に大変な失礼を致しました」



見るとローズロッテの顔は耳まで()()になって、(めずら)しく(あわ)てふためいている。こうして見るとローズロッテも(とし)相応(そうおう)に『(おんな)()』である事を実感(じっかん)する。



ーーユーリウス王子にこんな(ふう)にお礼を返されて、その魅力(みりょく)に当てられない女なんていないわよね~ 私も()れているとはいえ、こればっかりは心臓(しんぞう)に悪いもの。 ふふっ、ローズロッテもからかう相手(あいて)が悪かったわね。



「いえ、失礼など全く受けてはおりませんし、こうして私が姫に会えた事も貴女のご協力があってこそなのですから。本当に貴女には大変感謝しているのです。リルディア姫に貴女と言う良き友人(ゆうじん)がいて本当によかった」



そして何も知らない純粋(じゅんすい)なユーリウス王子の目映(まばゆ)いばかりの微笑みに、ローズロッテの顔は更に真っ赤に()まり口をパクパクと動かしながら王子の顔を直視(ちょくし)出来ずに(あわ)てて淑女(しゅくじょ)の『礼』を取る。



あははーーローズが面白(おもしろ)いわ。しかもこの慌てぶりったら滅多(めった)に見られるものではないわね。


………そうね、今後(こんご)何かあったら、これをローズへの牽制(けんせい)()(だい)にでもしようかしら?



「そ、そのようなありがたきお言葉を頂き身に(あま)る光栄に存じます。これからもお手伝(てつだ)い出来る事がございましたら、なんなりとお申し付け下さいませ」



ローズロッテはずっと頭を下げたまま、その声が(きん)(ちょう)しているのが分かる。これに()りて今後はローズもさすがに王子に対してからかう様な真似(まね)はしないだろう。


王子からの『お返し』は本人(ほんにん)意識(いしき)してはいないからこそ、女が受ける脅威(きょうい)は計り知れない。



ーーもしかしたら、これでローズがユーリウス王子に(こころ)(うば)われ()れてしまうかも?


それでも、ローズには絶対に王子はあげないわ。私同様(どうよう)腹黒(はらぐろ)な侯爵令嬢も(じゅん)(しん)なユーリウス王子には相応(ふさわ)しくないもの。



「ユーリウス王子。私を心配してここまで来てくれて本当にありがとう。貴方には前回(ぜんかい)訪問(ほうもん)の時といい、お(いそが)しい身であるのに心配や迷惑ばかり掛けて大変申し訳ないわ」



するとユーリウス王子は首を横に振って私を真っ直ぐに見つめる。



「いいえ。迷惑などと微塵(みじん)にも思ってはおりません。 (むし)ろ嬉しいのです。貴女をこうして心配出来る事も婚約者である私の『特権(とっけん)』でもあるのですから。


それに申し上げましたでしょう? もし何か心配事があるならば私を(たよ)って()しいと。いつ何時(なんどき)でも貴女の力になりたいと。例え離れていても私の心は(つね)に姫のお傍に有りたいのです」




「貴方の心配性も私のせいで(ひど)くなる一方(いっぽう)ね。でも大丈夫。今日の儀式での『(どく)(しょう)』は私の大切(たいせつ)な人達の(ため)(うた)うから(かなら)ず成功するわ。ーーまあ、その後はどうなるか分からないけれど。とにかく賓客(ひんきゃく)である貴方にも我が国の『奉納祭』を少しでも楽しんでいってもらえると嬉しいわ」



ーーふふっ、それでなくとも今回の『儀式』では、アニエス姉様中心に引っ()き回すつもりだから。しかも緊張(きんちょう)や不安どころか、今から楽しみで仕方(しかた)ないのよね。



私はこれから起こるであろう事を想像しながら一人でクスクスと笑っていると、



ーーゴーン、ゴーン、ゴーン……………



『奉納祭』開始の鐘が鳴り(ひび)く。




「ーーああ、『奉納祭』が始まったわね。私達はもう控えの間に行かないとーーー」



私は鐘が鳴っている方角(ほうがく)を見つめながら(つぶや)くとそんな私の前に突然ユーリウス王子が(ひざまず)く。



「え? ユーリウス王子?」



「我が婚約者であるその御手(おて)に触れられぬがゆえ、どうか貴女の(ころも)(すそ)に触れる事をお許し下さいーーー」



言うなりユーリウス王子は私のマント裾を手に取るとそっと『キス』を落とした。



「我が心は常に貴女のお傍にーーそして『聖乙女』の祝福を私にもお(あた)え下さい。ーー貴女の此度(こたび)のご成功をお祈りしています」



「「!!!!」」



その場にいた私とローズロッテはユーリウス王子の魅惑的(みわくてき)過ぎる所作を目の当たりにし、声にならない“心の悲鳴(ひめい)”をほぼ同時にあげると、私達はその場に(かた)まったまま放心(ほうしん)状態(じょうたい)になったのは言うまでもない。



ーーユーリウス王子。お願いだから手加減して欲しい。その内、いたいけな乙女の死人(しにん)が出ると思う……………






【21ー終】



































 





 










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