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我儘王女は目下逃亡中につき  作者: 春賀 天(はるか てん)
第二章 【三年前】
39/80

【9】『悪友』と『私』【2】

【15】




「……あの、リルディア様? やはりお気に召しませんか?」



私の暫しの沈黙に、ローズロッテが心配そうに伺いを立ててくる。そんな私は周囲をぐるりと見回しながら、その光景に呆気に取られるばかりだ。



「……ローズ」


「は、はい?」



私がぼそりと彼女の愛称を呟くので、ローズロッテは私の反応を伺うべく恐る恐る返事をする。


私はそんな彼女の顔をジッと見つめると両手のひらを合わせてパンと一回打ち鳴らした。その音にローズロッテは驚いて一歩後ずさるも、私は自分の手を握り締めたまま、辺りをキョロキョロと見回す。


そしてーー



「すっご~い!!なにこれ!? やだ、超楽しい!!」



それは私の冒険心を大いに煽った為、気分は一気に再浮上し子供のようにはしゃぎまくる。


(いや、だってまだ子供だから)


彼女が私の為に用意したというその庭はとても異様な雰囲気に包まれていた。そしてそんな私の反応にホッとしたのかローズロッテは胸を撫で下ろすかのように小さく息を吐くと、ニコニコと笑いながら私の腕に自分の腕を回してくる。



「ーーはあ、よかったですわ。お気に召して頂けましたのね? 実は少しだけ不安でしたの。リルディア様が急に沈黙なさるものですから。でも今回は本当に自信作ですのよ? それもリルディア様がお部屋に籠られていらした時から、少しずつ準備をしていたのですわ。ご気分のすぐれないリルディア様に少しでも楽しんで頂こうと思いまして」



それを聞いて、私はユーリウス王子のサプライズを思い出す。



「ーーねえ、それってもしかして母様も協力してる?」



こんな立て続けの庭のサプライズなどとは、もしやまた母様が?とも思ったが、どうやら違うようだ。



「母様? ああ、リルディア様のお母上の事ですわね? いいえ、違いますわ。ーー実は我が父上の提案でしたの。リルディア様が早くお元気になられるようにいつもとは違うお庭での|茶会をしては? と申されたのですわ。ですからわたくしの協力者は父上ですの。


我が父上も本当にリルディア様の事を心配しておりましたのよ? ですが中々ご面会が叶いませんでしたので、この度、リルディア様を我が屋敷にご招待しようと計画致したのですわ。

ですから本来ならば我が父上もリルディア様にご挨拶申し上げる予定ではあったのですが、本日は生憎と仕事で留守にしておりまして本当に申し訳ありませんわ」



それを聞いてなるほど、と納得する。どうやら侯爵はユーリウス王子の今回のサプライズをどこからか聞きつけて早速私のご機嫌取りに動いたのだろう。でなければ、こんな常識外れの奇特な格好や異様な庭を作る事など、大貴族である侯爵がいくら愛娘のお願いであっても許可などするわけがない。しかもこのような大掛かりな庭を作るのだから、かなりのお金と人手がかかっているのは目に見えて明らかだ。



「ローズロッテ、私の為にありがとう。このお庭もすごく気に入ったわ。しかもこんなに楽しいお庭は初めてよ。貴女のお父上には今度お会いした時に改めてお礼申し上げるけれど、私がそのお気遣いに大変感謝していたとお父上に申し上げておいてもらえないかしら?」



私の言葉にローズロッテは満面の笑みで頷く。



「ええ、リルディア様に喜んで頂けて父上もきっとお喜びになりますわ!リルディア様がお元気になられて本当によかった」



……分からない。



私はこんなローズロッテを見ていて思う事がある。ローズロッテは何故かいつも私にだけ、こうして人懐っこく腕を回してくっついてきたり、お人形のように着飾らせてみたり、他のご令嬢とは出来ないような遊びを私に誘って来たりと、このように私を自分の屋敷にもよく招待してくる。


それは私が父王に溺愛されている王女で、自分の父親が懇意にしている利用価値のある人間だから私を『特別視』しているのは分かってはいるが、そんな貴族の“利”とは別に彼女から特に親しみを持たれている気がする。


それは彼女の他の令嬢と私への扱いが違うせいもあるが、彼女はそんな私の事を『親しい友人』だとも言っている。私にしてみれば、お互い“利”で繋がっているだけで、ローズロッテの事は趣味も性格も合わないし、本当の『友人』とも思ってはいない。敢えて言うなれば『悪友』である。


事実、私が自分の気に入らない人間を苛める時には、彼女が私側にいて一緒に参戦してきたり、時には私の知らない所で私をよく思わない令嬢達に意地悪をしていたりと、貴族の間ではデコルデ侯爵令嬢は第四王女の腰巾着と言われているが、私はそんな彼女に苛めの依頼をした事などは一度も無い。全て彼女が勝手に動いているだけなのだが、周囲は私とローズロッテが『親友』だと思っている。


けれど確かに私も貴族のご令嬢達の中で一番親しくしているのはこのローズロッテだけで、彼女を信用していないからこそ素で付き合える。そんな私達はある意味性格の良くない者同士、親友に類似した『類友』なのかもしれない。



「それにしてもこれ本当にすごいわね。まるで物語に出てくる『魔女の森』みたい」



私が感嘆するとローズロッテは小さく拍手をする。



「さすがはリルディア様。まさにお庭の題目は『魔女の森』ですの。しかも不気味さと可愛さを兼ね備えてみましたわ。まるで物語のお話の中にいるみたいでしょう?」



そんな彼女が披露する侯爵家の庭はあり得ないほどに様相が変わっていた。


それは迷路の如く樹木が生い繁るように設置され、更に劇場のお芝居で使うような細部まで丁寧に描がかれた情景画の大きな板が幾つも綺麗に並べられており、近くの噴水では薄赤い水が吹き出していて、そこから葡萄の良い香りが漂っている。


そして何とも奇怪なのは生い繁る草木の中のあらゆる所に、勿論作り物ではあるが鳥の羽が生えた黒い鹿や玉のようにまん丸に膨らんだ栗鼠。長いまつ毛がやけに印象的なつぶらな目の灰色兎など、到底、現実には存在し得ない動物達が置かれていて、更に人の形をした石膏像までもが無造作に並べられており、コンセプトのまるで分からない光景だ。



「……確かにこの格好じゃないとお庭の雰囲気には合わないわね。ーーうん、納得した」



私は頷きつつもローズロッテと共に庭に設置されているテーブルまで歩きながら辺りを観察する。



「だけど貴女がこんなに想像力の豊かな発想を持っている人だったなんて知らなかった。貴方のサプライズは私のお父様以上よ? 侯爵令嬢の意外な一面を見たわ」



そんな感嘆する私の隣でローズロッテがクスクスと笑う。



「ふふっ、残念ですけれど、これは私の発想ではありませんの。私の愛読書で双子の魔女が出てくるお話に(ちな)んでいるのですわ」



それを聞いた私はその“双子の魔女”という言葉に大いに心当たりがある。



「……それって、まさか、今、市井で出回っている『規制本』じゃないわよね?」



そんな私の言葉にローズロッテの瞳が(たちま)ち、キラキラと輝いた。



「まあ!リルディア様もご存知でいらしたのね? そうですわ。今、市井で大変人気のある、あの『本』ですわ!ふふっ、でもまさかリルディア様もあの『本』の愛読者だなんて、私達は本当に気が合いますわね!」



ーーいや、愛読者違うから。そして、やっぱりか!



私は慌てて首を横に振る。



「ち、違うわ。私は『本』自体を読んだ事は一度も無いわ。ただ内容を何となく聞いていたから知っているだけよ。それにその『本』は大人しか購入出来ない規制本でしょう? 内容だってローズのような上流貴族の深窓ご令嬢が愛読するようなものでは無いはずよ?」



するとローズロッテは意地悪っぽい笑みを浮かべながら小首を傾げる仕草をする。



「わたくしは市井の流行にも寛大だと申し上げましたでしょう? 世の中の情報は幅広く知識を持っ損は有りませんことよ? それにわたくしなどよりも全ての上流貴族の頂点であらせられる“深窓の王女様”がお読みになっていらっしゃるのですもの。そんな些細な事など宜しいではありませんか」


「だから、読んではいないんだってば。本当に内容を少しだけ聞き及んでいただけなのよ。だって無礼でしょう? あの『本』は私達王家の人間を題材にしているのよ? 私と母様が“双子の性悪魔女”だなんて……否定出来ないだけに面白くないわ。しかも主人公だって胸糞悪いったらないわよ。全く何なのよアレはーー」



母の話を思い出して、不機嫌そうな表情を浮かべる私とは対照的にローズロッテは声を抑えながらも笑いが止まらないようだ。



「ぷ、くっーーリルディア様。本当になんてお可愛らしいのかしら? 確かに信じられないような主人公ですものね。あれではどちらが悪者なのか分かりませんもの。


でもどちらかと言うとリルディア様のーーいえ、双子の魔女の妹の展開が面白くなってきていますでしょう? わたくし、今から楽しみで仕方ないのですわ。リルディア様ーーいえ、魔女の妹がどちらの殿方を選ばれるのか。


わたくしと致しましては美しい王子様も良いのですけれど、強引で積極的な王太子様の方をお薦め致しますわ。わたくし個人の好みの男性のタイプはそういう殿方が好みなんですの。ーーふふっ、それに略奪愛なんて憧れますわ。素敵ですわよね~」



まるで夢見る乙女のように、うっとりと遠くを見つめるローズロッテを見ながら私は小さく肩を竦める。



「……ローズ。 現実はそんなに甘くはないと聞くわ。物語と言うのはあくまで主人公が主役でしょう? 所詮、魔女なんてものは主人公の存在を引き立たせる為の脇役にしか過ぎないのよ?


確かに私もあの展開は気になるところだけど、でもやっぱり最後には主人公がお決まりのそれ見たことか!と言わんばかりの展開になるんじゃない? しかも貴女が良いと言う王太子だって、あの第一王女のイルミナ姉様を参考にしているのよ? 私が妹魔女なら絶対死んでもイルミナ姉様は無いわ。毎日姉様にいたぶられて喜ぶ自虐趣味なんて持ち合わせてなどいないわよ。


それに強引で積極的な男なんて面倒くさいだけじゃない。それなら大人しくて優しい方が懐柔しやすいと貴族のご婦人達も話していたわ」



私の言葉に今度はローズロッテの方が小さく肩を竦める。



「リルディア様? それはそれ、これはこれ、ですわよ? 夫と恋人は違いますわ。勿論、夫にするならば、大人しい方が何より理想的ですもの。ですが恋人にするならば、積極的な方が恋愛は刺激的で面白いですわ。特にわたくし達のような貴族社会ではそんな使い分けも当たり前ですもの。リルディア様も今は分からずともいずれ自然とお分かりになりますわ」



私はその言葉に首を傾げる。



「それはどうかしら? 私には夫と恋人が別だなんて考えられないわ。私は一人だけで十分よ。人間関係も面倒くさいし、|多方面に心を分けるほどの器用さなんて持ってはいないもの」



そんな私の反応にローズロッテはふわりと優しい笑顔を向ける。



「ーーリルディア様に愛される殿方はきっと誰よりも幸福者ですわね。……本当にリルディア様はご自分に正直で真っ直ぐで、貴族社会には全くそぐわない綺麗な御方。それはまるでいつまでも変わらない穢れさえも知らない美しい『お人形』のよう。


……わたくしとは大違いですのね。ですが、綺麗であればあるほど一度汚れてしまえば忽ち真っ黒に染まってしまうのですわ。だからこそ汚してしまいたくなる……そうですわね。例えば真っ白な新しいシーツを泥で真っ黒にするとかーー」



意味深な視線で、それでも優しい笑顔を向けてくるローズロッテに思わず身を引いてしまう。



「ち、ちょっと、ローズ? その笑顔、なんか怖いから。それに物言いも何だか物騒に聞こえるわよ? しかも私が綺麗? 外見ではなく中身での意味なら、世間で我儘王女と呼ばれているのにそれは有り得ないでしょう? 私の意地悪だって貴族内からも定評されているのは、貴女も一緒にやっているのだから知っているじゃないの。


ーーそれと、そのシーツの例え、私、既に実証ているわ。だから貴女のその気持ちは分かるわよ? ーーそうね、あの時はすごく退屈で面白くなくて、たまたま日干ししてあった真っ白なシーツを見たら何だかに無性に汚したくなって、泥では無かったけれど墨汁で絵を描いてやったのよね。後でお父様から何故かすごく誉められたわ。なんでもその似顔絵が独創的で面白かったのですって」



*****



そう、思い起こせばーーあの時は城から脱出して一人で城下に行った罰で暫く城の外には一切出してもらえず、毎日が退屈で面白くなかったので、仕方なく城内をぶらぶらと散策していた時に、


洗い場のある庭に日干ししてあった沢山の真っ白なシーツが目に入って、それらが風でヒラヒラしているのを見たら何となくイラッとして、部屋に墨汁と筆を取りに戻ると、誰も居ない隙を狙って、その真っ白なシーツに父、母、騎士団隊長達など、知っている限りの人物の似顔絵を描いた。


その内、洗い場の侍女達が戻って来たので見つからないように急いで部屋に戻ったのだが、何故だろうか? 私の仕業を誰にも見られてはいない筈なのに、直ぐに父や母に私がシーツを汚した犯人だと気付かれてしまい、母からは叱られたが、


父からは私には“絵の才能”があると言われ、『あんな独創的な似顔絵を描けるのはお前しかいない』と大いに誉められ、しかもその私の力作?のシーツの絵を城の皆を集めて披露までされた。


そしてそのシーツを見た者達は皆、やはり何故か大いにウケて大笑いの渦が起こり、特にヴァンデル第一騎士団隊長などは自分が描かれた似顔絵を複雑な表情で見つめながら、



「……これが俺か? 陛下の絵よりも人間の形すらしていないぞ? しかも目玉も飛び出しているし、そこから稲妻がでている……これが俺なのか?……これが俺?」



いつもの強面が驚きを隠せない表情で言葉を失うヴァンデル隊長に父が大声で爆笑する。



「うははははっつ、グレッグ! この絵はお前の“特徴”をよく捉えているではないか。お前は目も大きいし、その目で睨まれたら、まるで稲妻が出ている様だと周りから聞いた事があるぞ? 我が娘ながら、なんと絵心のある素晴らしい出来ではないか!


おお、そうだ!この絵をこの大広間に飾ってはどうだろう? その辺のつまらない絵画よりもずっと面白くて素晴らしいだろう?」



それを聞いたヴァンデル隊長はげんなりとした様子で口を開く。



「……それだけはやめてくれ。貴方には面白いかもしれんが、俺は『これ』を見る度に確実に戦意を喪失する……」


「なんだ?これは我が娘の傑作なのだぞ? 失礼なヤツだな、ははははっ」



大笑いの父とは正反対に額を押さえて、その大きな背を丸めてガックリと肩を落とすヴァンデル隊長の姿がその時は、やけに印象に残った。


あのヴァンデル隊長の似顔絵は描いている内に次第に面白くなっきて、その場のノリと勢いで描いたのだが、あの時のヴァンデル隊長の様子を思い出すと、せめて人がたに描くべきだったと今更ではあるが思ってしまう。


ーー結局、その私の傑作?の絵を大広間に飾るという父の案は、ヴァンデル隊長は勿論、母や周囲から猛反対にあったので無論、却下されたのだがーー



*****



私の話を聞いていたローズロッテは自分の腕を私の腕に回し、私の肩に顔を隠す様にしながら自分の肩を震わせて声を押し殺して笑っている。



「ぷっ、ぷぷっ、リルディア様ったら、本当に楽しい御方ですわね。わたくしも今度是非、リルディア様にわたくしの似顔絵を描いて頂きたいですわ。ああ、わたくしの父上の似顔絵もお願い致しますわ。そしてリルディア様の傑作を是非とも拝見させて下さいませ。それにしても、まさか『例え』で申し上げました事が、すでに実証されていらっしゃっただなんて驚きましたわ。さすがはリルディア様ですわね。


ーーねえ? リルディア様? わたくし、本当にリルディアが大好きですのよ? ですからリルディア様はこれからも私の一番の美しい『お人形』でいて下さいね? わたくし、自分のお気に入りのお人形はとても大事にしておりますのよ?


先ほどは綺麗なものほど汚したくなると申しましたが、それが自分のものであればお話は『別』でしてよ。自分のものであれば逆に決して汚れない様、常に綺麗な状態にしておきたいのですわ」



彼女の言葉に私は、ああ、と納得する。彼女の趣味は人形やぬいぐるみ集めで特に自分のお気に入りの人形は自分以外の誰にも触れさせず、更に自分とお揃いのドレスをあつらえて着せ、常に自分の傍に置いて、まるで生きている人間を相手にするかのように人形に話し掛けたりと、とても大事にしている。


だから彼女が私を『お人形』と比喩するのは、私も彼女の今現在のお気に入りの『お人形』のようなものなのだろう。その感覚は私にはよく分からないのだけれど。



「ふふっ、リルディア様は現実はそんなに甘くはないと仰いましたが、わたくしはそうは思いませんわ。主人公が必ず最後には笑うだなんて何処のどなたがお決めになりましたの? 魔女が笑っても良いではありませんか。わたくしは断然、妹魔女の方を応援致しますわ。そして主人公がその邪魔をするならば、その“原因元”を潰してしまえば良いだけの事。もしわたくしがその物語に出てくるならば、大切なご友人である妹魔女の為にいくらでも働きますわよ? ですからわたくしがいる限り、決して主人公が笑う事はございませんわ。そんなものいくらでもねじ伏せてご覧に入れますわよ」



私の隣で悪びれもなくニコニコと微笑むローズロッテに、私は呆れた表情で小さくため息をつく。



「……つくづく、貴女だけは敵に回したくはないわね。……きっとその妹魔女も良い『友人』を持って喜んでいるわよ。ーーいえ、この場合、似た者同志『類友』もしくは『悪友』と呼ぶべきなのかしら?」



するとローズロッテは口角を上げてニヤリと笑う。



「まあ!素敵!『悪友』だなんて、すごく親密な感じで大変良いですわ~。ーーそこで早速ですが、その『悪友』からご相談があるのです。それこそ親書の“本題”ですわ」


「……ローズ。貴女のその笑顔はまるで“悪巧み”でも企んでいるような顔よ?」



私が怪訝そうに見つめるも、そんなローズロッテはどこか楽しそうだ。



「ふふっ、勿論そうとも言えなくもないですわ。なんと申しましても私達は『悪友』なのですもの。では、あちらのテーブルに参りましょう? 大事なお話は後ほどゆっくりと。まずはお茶とお菓子を楽しんで頂きたいですわ。こちらの方も我が家の料理長が腕によりをかけた、特別なお菓子をご用意しておりますのよ?」


「はあ……本当はお話だけ聞いたらお暇するつもりだったのにーーこれはいつも以上に長くなりそうだわ」



そんな私は深いため息をつきながら、ローズロッテに誘導されるままにテーブルのある方に向かった。



*****



私達がテーブルにつくと、直ぐに私達と同じような格好をした様々な動物の耳や尻尾をつけている若い侍女達が給仕に入る。私はその光景を眺めながら口を開いた。



「ーーそれにしても徹底しているわね。侍女達にまで私達と同じ格好をさせているだなんて。こんな風に皆が同じ格好をしていると見慣れてしまって、自分の姿が恥ずかしいと思わなくなるわ。これって一種の集団心理というものなのかしら?」



私が忙しなく動き回る侍女達を見つめていると、ローズロッテも私の視線の先の光景に視線を向ける。



「クスッ、慣れとはそういうものですわ。ですが本当はもっと違う演出を考えておりましたのに、それが実行出来なかった事だけが誠に残念でなりませんわ」



そう言いながら、本当に残念そうに落胆のため息をつくローズロッテに私は首を傾げる。



「演出?」


「ええ、本来であれば、私が計画しておりましたのは、このような侍女達ではなく、わたくしの選りすぐりの見目の良い若い執事達に耳や尻尾をつけて、リルディア様を接待させる予定でしたのよ? その方がずっと楽しいでしょう?


ですがそれは父上から『厳禁』されてしまいましたの。なんでも国王陛下の『厳命』でリルディア様には極力『若い男を近付けさせるな』と言うお達しとの事でしたわ。ですから残念な事にリルディア様とご一緒に異性とのお遊びが出来ませんの。


リルディア様のお父君は、あの様にお見えになられても実のところすごく厳しい御方ですのね? わたくしの父上などはその辺は寛大で『遊びであれば構わない』と異性との遊びも社会勉強の一つとして容認して下さっておりますのに」



そう言いながら再び残念そうにため息をこぼすローズロッテだったが、私はといえば苦笑いを浮かべるだけだ。


異性との遊びが社会勉強とは果たしてそれは深窓のご令嬢のお父上の言葉で良いのだろうか? だからこそローズロッテが“恋多き女”と呼ばれている所以(ゆえん)では?? とは思ったが、それこそ各家庭内のルールである事なので、自分の主観は敢えて口には出すまい。


そして私は侯爵家の料理長が腕をふるったと言う、これまた豪快な特大のホールケーキの中のキャンディを探すゲームや何の味かを当てる謎の焼き菓子など、思いの外、楽しい時間を堪能しローズロッテからこの庭の制作秘話などを長らく聞いていたが、ふと空を見ると、かなりの長い時間が過ぎていたようで、日が傾きはじめて空も夕陽の色にほんのりと染まってきている。このままだと私は“本題”を聞く前に城に戻らなくてはならない。そこで私は会話のタイミングを見計らって話を割り込ませる。



「ーーところで、ローズ? そろそろ“本題”に入らない? このままだと完全に日が落ちてしまうわ。さすがにそろそろ城に帰らないと皆に心配を掛けてしまうし、特にお父様は最近、神経質になられていらっしゃるから、こういう事には煩いのよ。あまり心配をかけてしまうと本当に城から出して貰えなくなるわ」



私が帰る時間を気にしながら口を開くと、ようやくローズロッテも私の話に耳を傾ける。



「まあ、もうそんな時間ですのね? リルディア様とご一緒だと本当に楽しくて、つい時間を忘れてしまいますわ。それでしたら是非夕食もご一緒に、と、お誘いするところでしたのですけれど、さすがに国王陛下にご心配をお掛けするわけには参りませんわね。リルディア様が|外出禁止になられては私も困りますもの」



ローズロッテはそう言うなり、周りの侍女達に指示を出して人払いをすると、ここは私達二人だけの空間になった。そんなローズロッテは周囲の状況を確認をすると、一息つくように紅茶を口に運ぶ。



「ねえ、まさか本当に“悪巧み”なの? 先に言っておくけれど、私はそういう事には一切、協力しないわよ? 私は意地悪をするにしても自分一人で実行する主義なの。誰かの手を借りるとか集団でつるんでとかそれは私の性分ではないわ」



人払いとか、やはり(ろく)な話ではないなーーと、悟った私は、ここは先手必勝とばかりに敢えて先に釘を刺しておく。しかしローズロッテの方はお構い無しといった表情だ。



「ええ、それは重々承知しておりますわ。リルディア様は曲がった事がお嫌いですもの。ですからこれはあくまでわたくし個人のご相談ですわ。その内容には少々リルディア様も関わっておいでになるものですから、どうしてもお話を聞いて頂きたくて不躾にもこうしてご足労をおかけしてしまいましたの。本当にわたくしの我儘の為に誠に申し訳ございません」



嘘か本心か、定かではないが、彼女が本当に申し訳なさそうな表情をするので、私はそんな彼女を疑っている自分に対して困惑してしまい慌てて首を横に振る。



「それはいいのよ。貴女が謝る必要なんてないわ。貴女の所に訪問する、しないは私の自由だし、しかも貴女の家の都合も構わずにいきなり不躾に押し掛けたのは私の方なのだから私の事は全く気にしなくても大丈夫よ。それに私もこうして十分過ぎるほど、楽しませて頂いたし、今日は本当にここへ来てよかったわ。私でよければ相談くらいなら受けても構わないのだけど、それに対して何かを望むのは期待しないで? 私は理由もなく他人に優しく手を差し伸べるほど、お人好しではないの」



身も蓋もない言い方だが、私も母と同様に誰彼問わず、無償で善を施すような善人ではない。しかしそれを聞いてもローズロッテは全く気にする様子もなくニッコリと微笑んで頷く。



「ええ、それで構いませんわ。ふふっ、リルディア様は他の方達とは違い本当にハッキリとした物言いをされるので、聞いていて気持ちが良いですわ。もし私が『男性』でありましたなら忽ち、リルディア様の魅力の虜になってしまいそう」



ローズロッテはそう言って上目遣いで悪戯な視線を向けてくるので、私はそれを呆れたように目を細め彼女の額を軽く小突く。



「ーーローズ。私にその手の趣味は無くってよ? “手当たり次第”は『男』だけにして頂戴。私は貴女が『女』でよかったわ。貴女が『男』だったらなんて、とても怖くて想像なんて出来ないわよ」


「う~ん、そうですわね。もしわたくしが『男性』であれば当然、リルディア様をどんな手段を使ってでも手に入れて、誰の目も触れさせず屋敷の中にずっと閉じ込めておきますわ。そうでもしないと毎日心配でおちおち屋敷も空けられませんもの。そしてわたくしだけが毎日、そのお美しいお姿を愛でますのよ。ふふっ、なんて素敵なのかしら?」



うっとりと微笑むローズロッテに思わず本能的に逃れようと体を引く。



「前言撤回……『女』でも怖いわ」



するとローズロッテは小さく舌を出すとクスクスと笑い出す。



「クスクス、冗談ですわ。そんなお顔をなさらないで? それにリルディア様を縛れる者のなんて、そう簡単にいらっしゃるわけがありませんでしょう? 世の殿方の間ではリルディア様は美しい女性の頂点に立つ大変|麗しい御方ですが、密かにこの世でもっとも“難攻不落”の女性とも言われていますのよ? ご|存知?」


「……知らない」



難攻不落? 何それ? 初耳だ……



私が複雑な表情をしているとローズロッテはそんな私の両頬を躊躇なく軽く引っ張る。



「ほら、リルディア様。そこは笑うところですわよ? リルディア様は本当に(ちまた)の“話題の中心”でいらっしゃいますのよ? リルディア様にお近づきになりたい殿方は、おそらくリルディア様がご想像すらつかないほど、自国どころか各諸国にも沢山おりますわ。


ですがリルディア様にはお父君であらせられる世界最強の国王陛下という“最大の壁”がおありなので、セルリアの王太子様のようにリルディア様からお望みにならない限り、どなたもお側に近寄る事すら出来ないのです。


ですからリルディア様のお相手がユーリウス王太子様で本当によかったのですわ。何と申しましてもお二人はこの世で一番美しいと称されている者同士の非の打ち所のない組み合わせですもの。本当にお似合いのお二人で羨ましい限りですわ」



そんなローズロッテにユーリウス王子とお似合いだと言われて、何故かチクリと胸が小さく痛んだ。



「……本当にそうかしら。お似合いだなんて……私は……」


「リルディア様?」



ぼそりと呟きながら表情を曇らせる私に、ローズロッテは首を傾げて覗き込んでくる。私はそんな彼女の顔を見てハッと我に返ると慌てて首を横に振る。



「ああ、何でもないわ。それよりもまた“本題”から離れているわよ? これではいつまで経っても帰れやしない。早くお話を始めましょう?」



私の言葉にローズロッテも「ああ、そうでしたわ」と態度を一転させる。どうやら私の先ほどの曇った表情はさほど彼女の気には止まらなかったようで、内心ホッと息をつく。



……周囲からユーリウス王子とお似合いだと言われる事が最近心苦しい。


以前の私ならば、お似合いと言われれば「そうでしょう?」と自慢するところではあるのにーー今の私は……ユーリウス王子には相応しくない。


私は彼をただ自分の我儘な独占欲で縛っているのだと薄々思い始めているそんな理不尽な婚約を私から強いられているユーリウス王子はそれでも私との関係をとても大切にしてくれている。


彼は本当に優しい人だから尚更、私の為に傷付けたくはない。だから本当は彼を自由にするべきだとーーそう思うのに。


私、このままでいいの?


そんな心の葛藤がふとした言葉で時々起こるから、こうして意識もなく胸がチクリと痛む。


それは誰にも言えないけれどーー




【15ー終】

























































































































































































































































































































































































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