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我儘王女は目下逃亡中につき  作者: 春賀 天(はるか てん)
第二章 【三年前】
36/78

【6】後遺症

【12】




ユーリウス王太子(おうたいし)一行(いっこう)帰国(きこく)してから数日(すうじつ)(しろ)侍女(じじょ)(たち)がその(うるわ)しい王子(おうじ)来訪(らいほう)余韻(よいん)名残(なごり)()しそうに(ひた)っている(ころ)(わたし)はというと、(はは)部屋(へや)でソファに(よこ)になって、クッションを()(かか)えながら()そべっていた。


(さき)ほどからもう何度目(なんどめ)になるか()からないため(いき)がついて()る。 そんな私の様子(ようす)読書(どくしょ)をしていた母が()んでいた(ほん)()じて私に(かお)()ける。



「もう、なに? 辛気(しんき)(くさ)いわね。どうしたのよ? まだ、(なに)(なや)んでいるの?」



「………(べつ)に、ただ(すこ)(つか)れているだけよ」



母に(はなし)かけられても寝そべった体勢(たいせい)は、そのままで()だるげに(こた)える。王女(おうじょ)がこんな格好(かっこう)をするなど、はしたない事だが、ここは母の部屋で特定(とくてい)人間(にんげん)しか出入(でい)りが出来(でき)ないからこその出来る格好だ。



…………(なや)みなどあるに()まっている。


世間(せけん)でいうなれば私は年頃(としごろ)(むすめ)だ。年頃の娘は(なや)みが(おお)いと()うではないか。ーーとは言っても今の私の悩みは(ふた)つだけなのだが………



「若い娘がなに年寄(としよ)りくさい事を言っているのよ。あんたのそのため息聞いていたら、こっちまで辛気臭くなるじゃない。今日は父親とは出かけないの? 最近(さいきん)はいつも一緒に出かけているでしょう?」



「………お父様は今日はお仕事(しごと)に行かれたわ。ああ、行かれたーーというより、ヴァンデル第一(だいいち)騎士団(きしだん)隊長(たいちょう)が引きずって行ったーーのだけれど」



ユーリウス王子の帰国後、私は早速(さっそく)父と(なか)(なお)りをした。それには城中の人間が安堵(あんど)した様子で取り分け、父の臣下(しんか)達からは口々(くちぐち)にお(れい)を言われてすごく感謝(かんしゃ)された。


どうやら母の言っていた(とお)り私が部屋に(こも)っている間、父の機嫌(きげん)がかなり(わる)かったらしく本当に(みな)心底(しんそこ)困っていたようだ。その反動(はんどう)なのだろうか? 今度は私が心底困る羽目(はめ)(おちい)っている。



「ああ、だからそんな不景気(ふけいき)な顔をしているの? でも仕方(しかた)がないわよ。国王(こくおう)毎日(まいにち)(あそ)(ほう)けているわけにはいかないもの。しばらくは(いくさ)()予定(よてい)もないようだし、仕事が()わったら相手(あいて)をしてもらえばいいじゃないの」



どうやら母は私が父に相手にしてもらえないので不貞腐(ふてくさ)れていると(おも)っているようだが、その(ぎゃく)だ。



「…………(ちが)うわ。 やっとお父様(とうさま)がお仕事に(もど)ってくれてホッとしているのよ。ヴァンデル隊長(たいちょう)出待(でま)ちしていてくれて(たす)かったわ。あのお父様を()められるのはヴァンデル隊長しかいないでしょ? 隊長がお父様を()きずって行ってくれたおかげで、私は()れて自由(じゆう)()になれたわ」



私のげんなりとした様子に母が(めず)しそうに私を見る。



「あら? 珍しいこと。いつもは父親べったりの父親っ子のくせに。それに最近はあの人も戦にも行かずに

ずっとあんたの傍にいて、毎日一緒に出かけたりとかしてあんたの独占(どくせん)放題(ほうだい)じゃない。あんた(まえ)から言ってたでしょ。「お父様が毎日傍にいればいいのに」って、今の状況(じょうきょう)はまさに(ねが)ったり(かな)ったりなんじゃないの?」



私はそれを聞いて(なが)いため息を()く。(たし)かに父が戦に()()れて始終(しじゅう)(しろ)留守(るす)にするので、父に()えない(さび)しさや退屈(たいくつ)口癖(くちぐせ)のように吐いていた言葉だが、実際(じっさい)それが現実(げんじつ)になると、物事(ものごと)には何事にも限度(げんど)があるのだという事を私は(まな)んだ。



「…………そうね。 確かに私も今まではそう思っていたわーーでもね、母様。私、今回の事で学んだのよ。物事には何事にも限度があるって。


勿論、お父様を独占できるのは(うれ)しいのよ? こうして毎日一緒にいられる事も本当に嬉しいと思っているわ。けれどそれが四六時中(しろくじちゅう)(あさ)から(よる)まで毎日一緒ーーという事になると話も()わってくるわ。



ーーあの喧嘩(けんか)以来(いらい)、お父様が私から離れないのよ。朝、()きたら既にお父様が部屋にいるし、就寝(しゅうしん)()だって私が寝入(ねい)るまでずっと傍にいるのよ? 私が(ねむ)ったらご自分のお部屋に戻ると(おっしゃ)っていたけれど、どうだか。もしかしたら私の部屋で寝起きされているのではないかしら?


お父様はそんな事はないとは仰っしゃるけれど、限りなく(あや)しいわ。しかも私がどこに行くにも、くっついていらっしゃるし、勿論、お父様との外出(がいしゅつ)はすごく(たの)しいけれど、こうも毎日朝から夜まで一日中一緒ではさすがに私も疲れてくるわ。


ーーねえ、母様からお父様に苦言(くげん)してもらえないかしら? 私から言うと、(さび)しそうなお顔をされるから、それ以上、何も言えなくなるのよ」



そう、私の(なや)みーーその一つは、父の事だ。


ユーリウス王子の来訪(らいほう)によりすっかり気分(きぶん)()くなった私は王子の帰国後、すぐに父とは仲直りをした。そこまではよかったのだが、それ以来、父が私から離れなくなってしまった。


初めの内は、父が四六時中自分の傍にいてくれて毎日一緒に外出しあちこちに()れて行ってくれたり、私が少しでも興味(きょうみ)(しめ)したものは、ねだってもいないのに()ってくれたりと、普段以上に、父親が優しい上に激甘(げきあま)に甘やかすので、私もそれが嬉しくて父におもいっきり甘えていたのだが、


それが連日(れんじつ)に続き、その間も父は戦にも行く様子は全く無く、しかも大事(だいじ)執務(しつむ)すら(ほう)って(つね)に私から離れず、しまいには私の起床(きしょう)、就寝時にまで傍にいるようになってしまった。


それにはさすがに私もこう毎日ではと困ってしまい、父にやんわりとーーそろそろ、自分にもやるべき事があるので、私に(かま)わずにご自分のお仕事をされてはどうかーーと、言ってはみたのだが、


父は私の傍にいる事が自分の仕事だと言い、それでも私が父を離そうとすると父は「私を(きら)いになったのか?」とか「どうしたら、傍にいる事を(ゆる)してくれるんだ?」とか、


世間では暴君として恐れられている国王の姿(すがた)とは、誰も想像(そうぞう)する事など出来やしないだろう、他の誰にも絶対(ぜったい)に見せない、きっと母にすら見せる事はないであろう、私限定のまるで()てられた子犬(こいぬ)のような表情で(うっ)えてくるものだから、


父の事が大好きな私は父にそんな(かな)しそうな顔をさせたくはなくて、それ以上駄目(だめ)だとも言えず現在(げんざい)(いた)っている。




*****




そして今日(きょう)もまたいつものように朝から父が私を連れて外出しようとしていた所を、父の執務放棄(ほうき)(ごう)()やした父の一番の側近(そっきん)で、全ての騎士団の取り(まと)(やく)でもあるグレッグ=ヴァンデル第一騎士団隊長が


城の出入口(でいりぐち)(とびら)の前で、それはもう()にも恐ろしい表情で扉の前に()(ふさ)がるようにして(うで)()んでこちらを(にら)んでおり、その部下(ふか)の騎士達が少し離れた場所(ばしょ)両脇(りょうわき)(ひか)えるようにして立っていた。


それを見た父は眉間(みけん)(しわ)()せ、(しぶ)い表情でちっ、と小さく(した)()ちをしつつも私の手を引きながらヴァンデル隊長の方へと(ある)いて行く。


しかし私としては今すぐに引き(かえ)したい気持ちで一杯(いっぱい)だ。それというのも私はこのヴァンデル隊長が(だい)苦手(にがて)なのだ。どうにもあの強面(こわもて)の顔が(こわ)すぎて(ちか)くに行ったら(ころ)されそうな気分になる。しかも今は、いつも以上に恐ろしい表情でこちらをずっと睨んでいる。



ーーううっ、怖い。 ()げたい! 今すぐに!!



あまりの迫力(はくりょく)気圧(けお)されて思わず後退(あとずさ)りするも、父に手を(つな)がれているのでそれも(かな)わない。


父はそんな私を「大丈夫だ」と優しく(なだ)めながら(なお)足取(あしど)りの(おも)い私の()を引いていく。なので私は仕方なしに、なるべく父の()(かく)れながら、ヴァンデル隊長の姿が視界(しかい)に入らないように(すす)むと、父の足が止まった。



「グレッグ、そこに立っていたら邪魔(じゃま)だろう?」



「…………どこへ行く?」



ヴァンデル隊長の(しず)かな(ひく)い声が静まりかえったホールに(ひび)く。その声色(こわいろ)から分かってしまう。これは絶対に怒っている声だ。怖いので、その姿を(うかが)い見ることは出来ないが、きっと彼は間違いなくすごく恐ろしい顔をしていることだろう。



「ああ、言ってなかったか? 領地(りょうち)視察(しさつ)に行ってくる」



「…………今日で三日目(みっかめ)だな、その言葉を聞くのは。しかも王女(おうじょ)を連れてか?」



「フッ、()領内(りょうない)(ひろ)いからな。一日やそこらじゃ見回ることが出来んだろう? それに、たまには父親である私が自分の娘に社会(しゃかい)勉強(べんきょう)として(そと)世界(せかい)(おし)えるのも親としての(つと)めだろう?」



「ものは()(よう)だな。(もっと)もらしい言い訳だが、(かえ)ってくる(たび)沢山(たくさん)()(もの)をしてきたと言わんばかりのあの(はこ)(やま)(なん)だ? それが社会勉強の視察か?」



ヴァンデル隊長の言葉に私は父の背中(せなか)でドキッとする。


あの沢山の箱の山は私が父に買って貰った服飾品(ふくしょくひん)などだ。それらの箱はひと目で中身(なかみ)が何なのか()かるように女性(じょせい)客用(きゃくよう)綺麗(きれい)な箱に大きなサテンのリボンが掛けられているもので、どう見ても武具(ぶぐ)などの品物(しなもの)ではない。


しかしこうして買って貰った以上、今更(いまさら)言い訳でしかないが、その(ほとん)どは私が()しくてねだった物ではなく、父が私に似合うといって買ってしまったものだ。


しかも私がいくら必要(ひつよう)ないと言っても、父が娘の私に買い(あた)えるのも自分の楽しみの一つだと言うので、それを取り上げるわけにもいかず、父の好意(こうい)を甘んじて受けていた

わけで、これは私の我儘(わがまま)などではないとは思うが、ヴァンデル隊長に自分が()()められているような気分になって、父の背中にギュッとしがみつく。すると父の大きな手が後ろに()びてきて、私の頭を何度(なんど)も優しく()でる。



「グレッグ、そんなに怖い顔をするな。私の可愛(かわい)いリルディアが怖がっているだろう? 城下(じょうか)の視察の上で民達(たみたち)商売(しょうばい)協力(きょうりょく)するのも国主(こくしゅ)としての務めだろうが。それに品物(しなもの)購入(こうにゅう)も自分の私費(しひ)から支出(ししゅつ)しているものだ。何も問題(もんだい)はないだろう? そして城下の生活(せいかつ)状況(じょうきょう)を見るのは、リルディアには良い勉強になるからな。


それにいくら女だとはいえ、私はリルディアを教養(きょうよう)だけしかない容姿(ようし)だけが()(がら)無知(むち)でつまらない(おんな)にするつもりはない。ーーまあ、母親(ははおや)がアレだからな。まずそうはならないだろうが」



父が思い出すようにククッと笑うと、ヴァンデル隊長は組んでいた腕を解いて(こし)に手を置き深いため息をつく。



「…………本当に貴方(あなた)は頭も口もよく回ることだ。(はた)から聞けば、どれもこれも正論(せいろん)なのだからな」



それを聞いて父がニヤリと笑う。



「はははっ、そうだろう? 私は間違った事は何一つ言ってはいないぞ? それでーーだ。だから本日(ほんじつ)も娘の社会勉強も()ねて視察に行ってくるからな」



そう言って父が先に進もうとするもヴァンデル隊長は前を塞いだまま全く動こうとはしない。



「駄目だ! 今日という今日は何が何でも仕事をしてもらうぞ!? 一体どれだけ執務が(とどこお)っていると思っている!! それでなくとも、ここひと(つき)、貴方はまともに責務を(はた)していないだろうが! 親子(おやこ)喧嘩(げんか)解決(かいけつ)したのなら、直ぐにでも自分の執務に専念(せんねん)してくれ!」



ヴァンデル隊長のその言葉に私は再びドキッとする。どうやら父は私との親子喧嘩で自分の仕事をずっと(おろそ)かにしていたらしい。そしてその喧嘩が解決したらしたで、今度は父は四六時中私にべったりで全く仕事をしないので、ヴァンデル隊長を(ふく)めた周囲(しゅうい)側近(そっきん)達はきっと大いに困っているのだろう。



でも、それって私の所為(せい)? ーーいや、私にも多少(たしょう)なりとも原因(げんいん)はあるのだろうけれど、それでも仕事をしないお父様が悪いのよね?



そうは思っても何故(なぜ)か自分が()められているような気分になってしまう。



ーーううっ、ヴァンデル隊長が怖い。



しかし父は、どんなにヴァンデル隊長にその強面で(にら)まれても平然としていて、更には面倒(めんどう)(くさ)げに手を振りながらため息()じりに答える。



「ああ、分かった、分かった。外出から戻ったらその後でやるからそれで良いだろう?」



そんな父の言葉にヴァンデル隊長の怒号(どごう)がホールに響きわたった。



「駄目に決まっているだろう!! 今すぐに仕事しろ!! 今すぐにだ!! 枢機院(すうきいん)からの(いそ)ぎの書類(しょるい)もあるんだぞ!? 貴方が仕事をしないせいで俺が枢機院の連中(れんちゅう)から、どれだけ苦情(くじょう)を言われていると思っている! 俺が貴方の代理(だいり)で仕事をするにも限界(げんかい)があるんだぞ!? そもそも書類の最終(さいしゅう)決裁(けっさい)は国王の仕事だろうが!!」



ヴァンデル隊長は言うなり父の方に向かって、ずかずかと歩いて来ると、いきなり父の(かた)から首にかけて腕を回して羽交(はが)()めにする。



「グ!? グレッグ!? 何をするっ!!」



ヴァンデル隊長の突然の行為に父が驚いてもがいてはいるが、さすがは父と同様に大柄(おおがら)立派(りっぱ)な体を持つ第一騎士団隊長は筋肉(きんにく)隆々(りゅうりゅう)巨体(きょたい)の父が(あば)れても、その腕はしっかりと父の体を離さない。



「何をって、仕事をさせるに()まっている。どうせ帰って来たところで、仕事をするかどうかなんて分かったものじゃないからな! 俺だって(いそが)しいんだ! いつまでも国王代理(だいり)の仕事なんてやっている場合(ばあい)じゃない! 視察などいつでも出来るが、火急(かきゅう)の書類はもう待ってはくれないぞ!? ーーおい、お前達! 手伝(てつだ)え!国王を連れて行くぞ!」



ヴァンデル隊長の一声(ひとこえ)(かれ)の部下達が一斉(いっせい)に父の回りに(あつ)まってくる。



「おいっ! お前達! 私は国王だぞ!? 離せっ!!」



「申し訳ありませんっ! しかし我々も隊長が戻ってこないと、すごく困るんですっ!!」



「王、お願いですから隊長を自由(じゆう)にして下さいっ!! 我々では隊長の仕事を代務(だいむ)できませんっ!!」



第一騎士団の騎士達は自分達の君主(くんしゅ)である国王であるにもかかわらず、暴れる主の体を()さえながら口々にヴァンデル隊長を騎士団隊に戻してくれと必死(ひっし)に訴えている。


自分の知らない間に彼等も色々と切迫(せっぱく)していたのかと、その光景(こうけい)呆気(あっけ)に取られながら見つめていると、ヴァンデル隊長が父の体を押さえつつも私に向かって声を掛けてきた。



「リルディア王女ーーそういう事だ。国王は連れて行く。大変申し訳ないが本日の外出は中止(ちゅうし)だ。父王(ちちおう)の仕事が全て終えたら返すから、それまでしばらくは我慢(がまん)してくれ」



その言葉に私はヴァンデル隊長の強面が苦手な事も忘れてニッコリと微笑む。



「ええ、そういう事なら仕方がないですわよね。やはりお仕事が一番大事ですもの。ーーお父様? 臣下の方達がお困りになっていらっしゃるのよ? わたくしの事ならお気になさらずともよろしいわ。ここ数日、お父様と沢山過ごせて私は十分(じゅうぶん)満足(まんぞく)致しましたし、お父様は国王としてのお仕事にどうかお戻り下さい。


ーーヴァンデル第一騎士団隊長、お父様をどうぞ連れて行って(くだ)さいませ。そしてお父様がきっちりとお仕事をなされる様、なるべく“お部屋から出さずに”四六時中、しっかりと見張っていて下さいね? よろしくお(ねが)(いた)しますわ」



わたしは敢えて“部屋から出すな”という言葉をことさら強調(きょうちょう)して隊長に(つた)えると、私の言わんとしている意味(いみ)が分かったのか、珍しくヴァンデル隊長の強面が(ゆる)んだ。



「フッ、()(あらそ)えんな。ーー同じ事を言う。…………分かった。仕事が全て終えるまで“部屋から出さずに” だな? 安心(あんしん)するといい。国王は我々がしっかりと見張ることにする。おそらく、今まで仕事をサボった分、国王が全ての仕事を終えるには更にひと月以上は掛かるかもしれないが、貴女(あなた)はそれでもいいのか?」



「ええ、お父様にあまりお会いできないのはすごく寂しいけれど、お父様は国王なのですもの。お仕事を疎かにしてはいけないわ。だからひと月くらい、お父様と外出できなくとも我慢しますわ。私はお父様の娘であっても王女なのですから」



そんな残念そうな言葉とは裏腹に私の表情は自然と緩んで笑顔になってしまう。



「リルディア!?」



そして私の言葉に父が反応(はんのう)するも、それには満面(まんめん)の笑顔で手を振って(こた)える。



「お父様!! お仕事頑張って下さいね? わたしはお父様が“しっかりと”お仕事を終えるまで、待っていますから。だからヴァンデル隊長の言うことをよく()いてね? お仕事をサボって私に会いに来ても駄目よ? その分、私とのお出掛けの時間(じかん)遠退(とおの)いてしまうのだから。


本当は私もすごく寂しいのだけれど、お父様は私だけのものじゃないのですもの。今は我慢するわ。だからお仕事だけに専念してね? 私の事なら全く心配はいらないわ。だから私の為にも、お仕事を“きっちり”と終わらせてね」



「リルディア!! 私はお前と会えないなどとは、とても()えられん!! 私は国王の仕事よりもお前との時間の方が何よりも大切(たいせつ)なのだ!! お前が我慢できても私はーーー!!」



父が叫ぶも、ヴァンデル隊長達がその体をズルズルと引きずるように連行(れんこう)して行く。



「ーーそういう事だ。第四王女の聡明(そうめい)寛大(かんだい)なお許しが出たので、我等が国王を連れて行くぞ!


ーーリルディア王女、本当に感謝(かんしゃ)する。父王は我等が引き受けた。貴女は安心して、ゆっくりと(やす)まれるといい」



ヴァンデル隊長はそう言うなり、部下達と一緒に尚も暴れる国王を引きずりながら城内へと戻っていく。



「リルディアーーっつ!!」



父が悲痛(ひつう)な声で私を呼ぶも私は満面の笑みで持っていたハンカチを片手で振りながら、その遠退く姿を一人で見送(みおく)った。



ーーお父様~頑張(がんば)って!(喜)


ーーヴァンデル隊長、ありがとう!(喜)






【12ー終】





























































































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