裏切ったのは……
【6】
荷馬車は再び走り出した。休憩場所からやや暫く走ると道幅が徐々に広くなり、その内、今までずっとガタガタ道だったものが、舗装された道に突如として変わる。
道が良くなったので荷台の揺れも小さくなり私のお尻の痛みも少なくなった。(もちろん、“お尻”なんて言葉は口には出しません。 王女ですから)しかも距離はあるものの木々のすき間からは遠くの町の明かりが見えてくる。
「ほら、皆さん、町の明かりが見えましたよ?」
ヘンドリックの声に母はホッとしたように息をつく。
「ああ、よかったわ。出来ればもう荷台は勘弁して欲しいわ。さすがに私もお尻が痛くって」
そういう母は腰を擦っているが、私はというと、そんな母を唖然としながら見つめてしまう。
ーー母様、今、“お尻”って言いました? しかもごく自然に…………
「え~なんだ、それならエルヴィラ様。隊長に椅子になって貰えばよかったのに」
「嫌よ。 荷台よりも硬そうな椅子なんてーーそれよりも、ヘンドリック。貴方、リルディアの時には自分が椅子になるって言ってたのに、どうして私の時には言わないのよ?」
さすがは母様、言葉の返し方が上手い。そしてヘンドリックは前を向いたままケタケタと笑っている。
「それはだって、エルヴィラ様の椅子になるなんて恐れ多くて、やっぱり隊長しかいないでしょ? それに俺は王女様専用だし」
「なんなのよ、それは。いつの間にリルディア専用になったのよ?」
「俺は初めっから王女様専用です! ーーだって、エルヴィラ様は怖いから逆に潰されそうだしさ、やっぱり椅子になるなら可愛い王女様の方が断然いいですっ!」
「………グレッグ、貴方、ちょっと御者やってくれないかしら? そしてヘンドリック、こちらへいらっしゃい? 貴方には私の椅子になる名誉を与えるわ。国王の愛妾の椅子になれるのよ。光栄でしょ? 思う存分座ってあげるわよ。ああ、なんだったら私をリルディアだと思えばいいわ。外見はそっくりなんだもの。問題ないわよね?」
「ええっ!! そんな名誉要らないし!問題ありですって! 俺は王女様がいいんですっーーって、ちょっと隊長??」
ヘンドリックの隣りではヴァンデル隊長が彼の手から手綱を奪い取っている。
「ああ、町まではもうすぐだ。後は俺がやるから、お前は休憩を取っていいぞ? それにもうずっと走りっぱなしで疲れただろう? 丁度いいから我らが主の奥方殿の椅子になる名誉を与えて貰え」
「結構ですっ! 俺、全然疲れてないし! ああ、ほら、隊長こそ疲れているでしょ? ここはやっぱりエルヴィラ様の椅子になれるのは第一騎士団隊長こそが相応しいですって!」
「フッ、誠に残念だが奥方殿は俺の椅子は硬くて嫌だそうだ。だからここはもうお前しかいない」
「それを言うなら俺だって同じでしょっ! 同じ第一騎士団隊で鍛えているんですよ!? 座り心地なんて悪いに決まっているでしょうが!」
「あら? それなら王女専用の椅子は却下ね?そんな座り心地の悪い椅子なんて誰も座りたがらないもの」
「うっ、」
ヘンドリックがそんな母の言葉に詰まっている。私はやはりその光景をただ見つめるだけだ。私ではまだこの3人の会話に入っていけるだけの経験値がない。
そして私達、一応逃亡中なのよね? と自分に問いかけてみる。すっかり和んでしまったこの雰囲気に今まで起こっていることがまるで夢物語のようだ。
ーーもしかしたら、目が覚めたら今、ここで起こっていることが全て夢で現実の私は自分の部屋でドレスを選んでいる途中で眠ってしまっただけなのかもしれない。
ーーだからもう一度目が覚めれば、すごく悪い夢を見ていただけで、きっとお父様が沢山のお土産を持って『今、帰ったぞ、リルディア!!』と言って、いつものように私を抱き上げて抱きしめてくれるのよ。
ーーきっとそう、だからこれは夢なんだ。今、こうしている私こそが夢なんだーーー
私は目を瞑って膝を抱える。そして次に目を開ければ私はこの悪い夢から目覚める。そんな小さな望みも母の声によって打ち消された。
「リルディア?」
私の様子に気付いて母が私の肩を揺する。私は静かに目を開くと、やはり現実はこちらの方だったのだと改めて再認識するだけだった。
分かってはいたけれど、もしかしたら……に縋ってみただけだ。
「ああ、大丈夫。ちょっと眠くなっただけだから」
私がそう言うと母の表情が胸を撫で下ろすのが分かる。
「そう。 ………無理もないわ。疲れているでしょう? でもあともう少しで町に着くわ。そうしたらすぐにベッドで眠れるわよ。ああ、それとも今眠る? 着いたら起こしてあげるから」
私は小さく首を振る。
「ううん、もう少し頑張るわ。町の明かりが見えたから、ちょっと気が抜けただけなの。心配しないで」
「そう、でも無理をしては駄目よ?」
母はそう言うと私の体を引き寄せて、自分の体にもたれ掛けさせた。今までは父がいたから母には一度も甘えたことなどなかったが今はもう私には母しかいない。母もそれを分かっているから、こうして甘えさせてくれる。
私は素直に母の体にもたれると、母はそんな私の頭を優しく撫でてくれた。そして私は母の体にもたれつつ目の前のヴァンデル隊長の後ろ姿を見つめる。
この人はあの父がただ一人、絶好的に信頼していた唯一無二の側近で第一騎士団隊長。そして全ての騎士団の頂点に立つ人だ。そんな彼がここにいるという事は国王がいない王城は今、どうなっているのだろうか?
こうしている間にも他国に侵略されてしまうのではないだろうか? ヘンドリック以外の第一騎士団隊の部下達は? 王妃様や姉王女達は? 私達と同様危険ではないの?
彼は非常に真面目な責任感のある人物だ。それなのに全ての責務を放ってまで私達を逃がすことを優先したの?
私はそんな彼の後ろ姿に疑問を投じた。
「ヴァンデル隊長、今ブランノアはーー国はどうなっているの? 他国から侵略されているのではないの?」
するとヴァンデル隊長は私の方を振り返ってくれる。
「いや、国は大丈夫だ。侵略もされてはいないから心配はいらない」
ーー侵略されていない? だってお父様が裏切られて殺されたのに? ーー国王がいなくなった今、他国が攻め入るには絶好の機会ではないの?
「どういうこと? 国王がいない今、諸国が攻め入るには絶好の機会ではないの? それに王妃様や姉様達は? 私達と同じくお父様がいなくなって危険ではないの? 本来ならば貴方が守らなければならないのは私達ではなく王妃様方の方ではなくて?」
ヴァンデル隊長は少し考えるような表情をしていたが、やはり私の問いには答えてくれる様だった。
「諸国が攻め入ってくることはまず無いだろう。一応は念のために第一騎士団隊の部下達には警戒させてはいるが。………リルディア王女、国王への裏切りは属国だけじゃない。我が国も同じだ。国の政治の中心である枢機院が密かに諸国と結託していた。だから国王は自分の国からも裏切られていたんだ」
「自分………の国から?」
ヴァンデル隊長は静かに頷く。
「国王をよく思っていなかったのは外だけではなかったということだ。ーーまあ、ああいう性分だったからな。そしてその枢機院の上層部は殆どフォルセナ側の息が掛かっている。
これがどういう事か分かるか? 先ほどは侵略されてはいないとは言ったが、ブランノアは内部から侵略されたといっていい。つまりはフォルセナ王家に乗っ取られたわけだ」
「フォルセナが!!? だってフォルセナは我が国の代々王妃様がその王族で、ブランノアとは特に繋がりの強い国だわ。まさかその王妃様が裏切ったというの? それも自分の夫を?」
「ああ、そうだ。もともと政略結婚で自分の事を全く見向きもせずに他の女を盲目的に溺愛している夫だ。そんな夫を裏切ることなどわけもない。だから王妃側が実権を握った今、貴女達親子が一番危険に晒されている。王妃がなにより一番に殺したいのは貴女達だからな」
それを聞いて思わず母と無言で顔を見合わせる。………殺される動機が有り過ぎて笑えない。これはますます捕まるわけにはいかない。国民に嫌われている私達親子とそれとは逆に国民から同情を受けている王妃。どちらが有利なのかはもう考えなくとも分かる。
王妃が私達に何をしようとも国民は誰も私達を庇ってくれるわけがない。しかも私は姉王女達にも非常に嫌われている。捕まればどんな仕打ちをされるのか、わかったものではない。特に弱い者をいたぶる事が趣味の第一王女からは八つ裂きにされるが必至!
私は思わずそれを想像しそうになって慌てて首を振る。
「でも、それじゃあブランノアは誰が王位を継ぐの? イルミナ姉様は夫に逃げられて子供もいないしミレニア姉様は夫に先立たれて娘しかいないしアニエス姉様はまだ独身だし、そうするとフォルセナの王子が王位を継ぐの?」
その問いにはヴァンデル隊長も急に口が重くなり、母様やヘンドリックまでがその表情を曇らせる。そして三人で顔を見合わせては私の顔を見つめる。
なに?
私が首を傾げていると、ヴァンデル隊長が何故か母に声を掛ける。
「エルヴィラ………これは話してもいいのか?」
すると母は私を見つめ、短いため息を零した。
「ええ、いずれ分かることだわ」
ーーえ?
ヴァンデル隊長も私を見つめながら、その重い口を開く。
「リルディア王女、ブランノアで王位を継げるのは今現在一人しかいない。………現国王の王弟殿下である、クラウス=ジェノーデン公だ…………」
「!?」
私はその名前に一瞬、耳を疑った。
ーークラウス?? クラウスが……国王??
「………クラウスが?? だってクラウスは三年前に国を出て行ったきり戻ってこないのよ?しかも彼は身内同士の権力争いを嫌がって、お父様が即位なさった時に王位継承権を放棄して、臣籍に降ってからも政治には一切関わろうとはしなかったという人よ? それなのにそのクラウスが国王だなんて、順当でいけば第二王子であるアーノルト叔父上ではないの?」
私が信じられないという顔をすると、母とヴァンデル隊長は再び顔を見合わせる。
「ジェノーデン公はブランノアの前国王とフォルセナの王家出身の現王妃の姉上である前王妃のご子息だ。いくら王位継承権を放棄していても現国王に後継ぎがいない以上、この二つの王族の正統な血を引く第三王子であるあの方が次の国王になる。
前国王の愛妾の息子である第二王子のアーノルト=ブランノアレーデ殿下は母上が市井出身であるから、いくらブランノアの王家の血を半分引いていても血統を何よりも重んじる王家では万が一、ジェノーデン公が亡くなるような事があって本当に後を継ぐ者がいなくなる様な事態にならない限り、あの方が国王の座に就くことは出来ない。それに今はフォルセナが実権を握っているから尚更だ」
確かに私も母様から本来ならば私は王妃にはなれないのだと言われた。何故なら私の母は身分の低い市井の出身だから。だからもう一人の私の叔父であるアーノルトも第二王子ではあるけれど、やはり母が市井出身だから王位は継げないという。
だけどクラウスは私やアーノルト叔父上とは違う。前国王である私の祖父の後妻として嫁いできたフォルセナの第一王女で現王妃の姉上でもあるアデイル様の息子だ。だから彼は第三王子ではあるけれど、正統な王家の血筋である為、王位を継ぐことができる。だけど彼はーーー
「クラウスは王家の権力争いを本当に何より嫌がっていたわ。だから自分の王位継承権すら拒絶していた人が自ら王位に就くとは思えないわ」
「いくら本人が嫌だと思っていても、それが王家に生まれた者の宿命だ。それはあの方も十分に理解しているはずだ。ジェノーデン公は聡明で賢くて自分にも他人にも厳しい方だからな」
「………それじゃあ、あのクラウスもお父様を裏切ったというの? そして……今は私達を………私を殺したいほど憎んでいるの?」
………クラウスが私を殺す??
………私は彼から存在を疎まれるほど憎まれている??
そう考えると体の内から何かが込み上げてきて苦しくて、悲しくて胸が押し潰されそうで…………これも罪悪感なの?
そう思うと泣きそうになる自分を必死で堪えていると、そんな私に気付いた母が慌てて否定した。
「そんなわけがないでしょ! あのクラウスがあんたや私を殺そうだなんて思うわけがないじゃない! 彼は王妃側の血族でもあるけれど、常に中立で正しい判断のできる人物よ? 王妃達が私達を憎んでいても仕方のないことだけれど、彼が私達を憎むなんて有り得ないわ!」
それを今度は私が否定をする。
「有り得ないはずがないわ!! 私は彼の人生を滅茶苦茶に壊した張本人なのよ!? きっと私の事をすごく憎んでいるに決まっているわ! その証拠に彼はあれから一度だってブランノアに帰ってこないじゃない!! だからきっとお父様を裏切ったように今度は私を殺したいのよ………」
我慢していた涙が溢れて視界がボヤけている。自分で言った言葉に自分が傷付いてどうするのよ。
ーー私は馬鹿だ。
ーー泣いたら駄目だ。
お父様が亡くなったと聞かされた時だって泣かなかったのに、どうして今、自分の言葉で泣かなくてはならないのよ? 全部自分のせいじゃないの。今更どうなることでもないのにーーー
そんな落ち込む様子の私を気遣うようなヴァンデル隊長の落ち着いた柔らかい声が掛けられた。
「リルディア王女、母上の言う通りだ。あの方が貴女達親子を殺そうなどと考える御方ではない。それがいくら他人に厳しくともだ。あの方は常に思慮深く正しい判断をなされる。今回の一件に関しても、何かしら事情があるのだろうとは思う。それにあのジェノーデン公が王女を憎むとは到底思えん。あの方も陛下同様にリルディア王女を大変可愛いがっておられた」
「そうよ、リルディア!! クラウスはあんたを甘やかしこそはしなかったけれど、本当にいつもあんたを心配していたわ! そんな彼があんたを憎むだの殺すだの、あるはずがないじゃない! 帰ってこないのだって、きっと何か事情があるのよ。彼はこのグレッグ以上に超がつくほど真面目な人だから!」
母の言葉にヘンドリックも腕を組んで首を大きく縦に振る。
「そうそう、俺なんて実はクラウス様って苦手だったんだよね~ あの人すっごい真面目で冗談も通じないんだもん。 逆にこっちが言葉に困っちゃったこと何回もありましたよ。
それならまだ隊長の方が付き合いやすいですよね~冗談も通じるし、隊長は一見強面で近寄りがたいけど慣れてしまえばなんてことないし。
それに比べてクラウス様は強面でもなんでもない普通の方なのに怖いくらいに冷静で近寄りがたい雰囲気ありますよね。俺、あの人が笑っている所なんて一度も見たことがないなぁ~
ああ? でもそういえば王女様はいつもクラウス様が来ると、まるで親鳥を追う雛みたいに後を追いかけていましたよね? 姿が見えない時は、城中を探し回られているところもよく見ましたよ?」
それを聞いて母様がクスクスと笑う。
「ふふっ、この子、小さい頃からクラウスがすごくお気に入りだったのよ。ーーね? リルディア?」
「なっ!?」
母様が面白がるように言うので思わずグッと言葉に詰まる。 しかも溢れてきていた涙もどこかに吸収されて干上がった。
「ああ、おかげで陛下がやきもちを焼いて、その度に俺のところに来ては愚痴を聞かされるから大変だった。可愛い娘を弟に取られただのなんだの、俺は忙しいと言っているのにおかげで何度仕事仕事を中断させられたことか」
…………知らぬ事とはいえ、ごめんなさいヴァンデル隊長。だからお父様、クラウスが来る時に限って私がねだる前にやたらと外に連れ出したのか、しかも必ず遠出だし…………
「ええっ!? それじゃあ王女様はああいうのが好みだったんですか!? 正直、クラウス様って全然女性に優しそうには見えないし笑わないし冗談も通じないし、しかも常に何かしら怒られそうで怖いし、あのフォルセナ特有の紺碧の瞳で睨まれたらイルミナ第一王女様同様、視線で射殺されてしまいますよ」
「お前な、ジェノーデン公に対してなんて言い草なんだ。それにああいうのとか言うな。不敬たろうが」
しかしヘンドリックは相変わらずのマイペースだ。
「はははっ、だから隊長がそれを言いますかってーーでもそうかぁ~王女様はクラウス様のような男性が好みだったんですね。
そうだよなぁ、クラウス様って見た目は普通で特に美形美形ではないけれど不思議と女性には人気があったんだよな~ ああ、だけど独特の雰囲気はあったか仕草とかにも男の色香あったしなーーしかも優秀で仕事も出来るし、
う~んーーそうか、俺もクラウス様の様になれば、王女様に好きになってもらえるのかーーよしっ! 頑張ろう!!」
「無理ね」
「無理だな」
またまた母様と隊長の声が重なる。
ーーこれはもう以心伝心? ーーってそんな事を言っている場合じゃなかった。
なんか話が変な方向に行っている。これは直ちに否定しなくては変に誤解されても困る。
「ちょっと待って! 好みとかそんなんじゃないわ! クラウスはお父様や周りの人達と違って私の我儘を唯一聞いてはくれない人だったから、なんとか言うことを聞かせてやろうと思って付きまとっていただけよ?
しかもヴァンデル隊長、クラウスが私を可愛いがっていたというのも違うわよ? いつもしつこく付きまとっていた私を迷惑そうにしていたし、その度に仕事の邪魔だと言って追い返そうとしていたわ。それで頭にきたから私も意地になって絶対に言うことを聞かせてやろうと思って追いかけ回してやったのよ」
すると何故かヴァンデル隊長が深いため息を零す。
「………エルヴィラ、本当に血は争えない様だぞ?俺は今の話に無性に過去の自分に心当たりがあるんだが、貴女にも身に覚えがあるだろう?」
母はそれには答えずに、ふん、とそっぽを向く。
「でも、あのクラウス様にそこまで邪魔扱いされても、あんなに熱心に付きまとえるのはすごい事ですよ。さすがはエルヴィラ様のご息女。俺、ますます王女様が好きになっちゃったなぁ。
そうか、そうすると俺のライバルはクラウス様かぁ~ これは今までにない強敵になっちゃうな~」
ヘンドリックは本当に人の話を聞いていたのか的外れな冗談を言い出すので慌てて止める。
「だから違うってば! ヘンドリック! 人の話聞いていた? しかもどうしてクラウスがライバルなのよっ! そもそもクラウスは私の叔父よ? 変な誤解しないでよ!」
しかしヘンドリックは前を向いたまま頷いている。
「う~ん、そうなると、叔父と姪の禁断関係かぁ………クラウス様まだ若いしなぁ。えっと確かクラウス様は俺より6歳年上だから現在は31歳か…………ということは王女様とは16歳差………
やっべ、全然有りじゃん。陛下とエルヴィラ様なんて23歳差だからなぁ。しかもクラウス様と陛下は異母兄弟だし王女様の叔父といっても血縁的には近くて遠い親戚みたいな感じだから恋愛に発展する可能性も大いにある。
いや、でも相手があの超真面目なクラウス様だからな。やっぱりここは俺の方が有利だろ? なんといっても俺の方が若いし優しいし。だからここは押しまくって、王女様に俺の魅力を分かってもらうしかないかーーっ痛!?」
人の話をまったく聞かずに、たぶん私をからかっている彼に私は無言の鉄槌を下す。先ほどの母様ではないが、その辺の投げてもよさそうなモノを彼に向かって投げつける。
「いっ、何!? 王女様っ??」
「…………」
私の方を振り返るヘンドリックにお構いなしにモノを投げつけていると、隣にいた母が私の手に投げつけるものを渡してくれる。
「リルディア、よくやったわ! あの馬鹿にはこれくらいやってやらないと、すぐに調子に乗るのよ。さあ、どんどん投げ付けておやんなさい!! 私も手伝うわ!!」
「うわっ、やめ、止めてくださいって!! っ、痛、痛いって!! うっわ、投げ付けるモノがだんたん大きくなってるよ!! やっ、それマジ、やべーからっ!! 二人とも止めろって!!」
すっかり素に戻っている? ヘンドリックに親子でモノを投げつける。もちろん手綱はヴァンデル隊長がいつの間にか彼の手から奪い取って握っている。
「隊長!! 二人を止めて下さいって!! 王女様までがエルヴィラ様みたいになってしまった!!」
しかしそんな部下の懇願もどこ吹く風のように聞き流している隊長は前方を見つめたまま、その強面に笑みを浮かべる。
「フッ、馬鹿だな。 ーーみたいじゃなくて、さっきも言っただろう? 血は争えないんだよ。似た者同士の母娘だからなーーー」
「隊長ぉっつ!!」
そこにヘンドリックの悲痛?の叫び声が上がったのは言うまでもない。
ーーフッ、この私を誰だと思っているの? 私は悪名高い我儘第四王女。母様同様性格悪いのよ?ーーー
【6ー終】