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馬鹿騒ぎの夜

果たしてその場に立っていたのは情報屋の方だった


無駄な動きのないはずの連携は見事に崩され

常人では考えられないようなその身のこなしに度肝を抜かした


こいつは本当に”ただの人間”なのか

完膚なきまでの敗北があの頃の記憶をまた照らす


自分じゃ何もできない


どうすることもできない


惨劇の記憶


『隣町にレイターを探しているガキがいるらしい…』


情報屋はそれだけ残すとゆっくりと店を後にした


この戦闘でおそるべきところは情報屋は一度も抜刀していないという点だ


抜刀の構えはとったものの抜刀はせず

鞘で弾く、身のこなしでかわす


2人組のレイターで本気で猛攻を加えても剣を抜くことすらなかった彼は一体何者なのだろうか…


情報屋の足音が消えると店には静寂が訪れた

しだれがこの事件に思い入れるのには理由がある

故郷が被害にあったから…というのもあるが彼は例の事件の際に双子の妹達をさらわれていたのだった


『ほら…元気だそう…?』


心配そうにしぐれが声をかけるが彼は耳を傾けようとしない

何かぶつぶつと呟いて放心状態になっている


『あのおじさんが言ってたことが本当なら大進歩だよ…!』


『無理だ、俺には助けられない…あの時と同じ結末をたどるだけだ…』


目の前でさらわれた双子の妹の伸ばした手


泣き叫ぶ声


雨の音


忘れもしない苦い記憶


しぐれが彼にそっと触れると小刻みに震えているのが伝わってきた

涙こそ流していないがもう彼の心は負の感情で満たされているのだろう


しぐれは辺りを見渡すと客が心配そうに見守っている事に気がついた


何かしだれを元気づけるものがないか…


必死で考えるとふと一つのアイデアが浮かぶ


思い浮かんだ直後、彼女の体は行動をはじめていた

カウンターまで走っていくと、未使用のジョッキを二本乱暴に取り出し

酒樽の中にジョッキを飛び込ませる


瞬間しぶきが上がるが気にしない

自分用にオレンジジュースを急いで入れると

迷いの中にいる彼の元へと歩いて行った


ドンッ


彼の後悔を断ち切るような大きな音が静寂を遮る


『お酒、飲むんでしょ…?』


音に驚いたしだれが反射で顔を上げると笑顔のしぐれが二本のジョッキを机に叩き置いていた


甘い蜜柑の香りと鼻を刺すようなアルコールの匂いが彼の鼻孔をくすぐる


しだれは彼女につられて笑うと


『…おう!もちろんだ!』


『よかった…いつものしだれだ…』


しだれが笑顔を咲かすと店内にいた客達も安堵したのか二人に思い思いの歓声をぶつける

店内は馬鹿騒ぎで溢れかえっていた


騒がしい夜の中、しだれが呟いた『ありがとう』は喧騒にかき消された


そして祭りの長い夜はあっという間に過ぎていった




『…むぅ…こうなるからお酒は嫌だったのに…』



朝日が昇る街の中、酔いつぶれた少年を背負い不機嫌そうにぶつぶつと呟きながら歩く少女は少年の寝言を聞くとそっと微笑み歩みを進めた







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