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第6話:衝突と、遭遇と②

 「………………」


「なんだよ、その締まりのねぇ顔。驚いて口も聞けないってか?」


「……いや驚かないわけないだろ……」

にわかに信じられるような話ではない。主神が本当に居たこと自体、めちゃくちゃ驚きなのに……この世界より発達した未来文明からの転生者だ? そんな事例、聞いたこともない。


 だが事実、コイツは持っている。

最初こそ、程度の低い魔法を使っただけで気を失った、体力のないモヤシっ子だとか……見たことない外見の魔法で、明らかに攻撃魔法に()()()から、()()()()だけ取り繕った高位の幻術魔法なのかと思ったが……。

雷の適性なんて神話クラス……神代の魔法使い達と同格レベルだ。今の時代にそんな魔法を使える人間なんて、俺の知る限り居ない。つまりは存在しないと言える。

……まぁ雷適性ではないにしろ、釣り合うくらいの魔法適性を持っている方なら若干一名心当たりがあるが……にしたってこれだけの適性と素質を持っているのなら、……信じてみようという気にもなる、と言うものだ。


 正直コイツの話を聞くまで、俺はアテが外れて落胆していた。あいや、引き摺ってきた時や裏庭でのやり取りを見ていた限りじゃ相当可能性は低いとは思ってたけど……、俺はコイツを最初、()()なんじゃないかと思ったんだ。

同類────つまりは、俺と同じように赤ん坊に転生させられた……もしくは、行方不明となっている俺の仲間達本人なのではないか、……と。

外見年齢も同じくらい。見たことのない変わった風貌の子どもと、「転生」というワードが聞こえた時には心臓が飛び出そうだった。だからこそ、ドゥランやオノム、ロズの名前を真っ先に聞いたのだ。…………英雄()のかけがえのない、仲間達の名前を。


 ちなみに言うと、それは危ない橋ではあった。英雄である俺が転生している、という情報が流れるのはメリットもあるがデメリットも大きい。自衛能力がないまま、こんなロクな戦闘設備もない村でそんなことが知れてしまったらアウトだ。

何より一番不味いのは、大人達は決して本気にしないだろう、ということ。本気にしないということはつまり、危機感に対する認識も甘い。

 帝国の差し金が万一村にやって来ても、誰もそれに対する身構えが出来ていない。そのままもし、「英雄の転生だとか変なことを口走る子がいる」という噂が独り歩きでもしたら……と思うと、安直に英雄という存在と、現在の俺を線で結ばない方が良いだろう。


 帝国の連中は、俺が生まれ変わっていることを知っている可能性がある。


 拾い子だという時点で、かなりの目印にはなってしまっているかもしれないのだ。いや、単に産みの親に捨てられただけかもしれないが。


 ……ともかくまぁそんなわけで、下手に英雄だった頃の記憶に関するワードや人名、他知識は使いたくないところだったんだが……コイツの場合気を失ったという時点でなんかもう、帝国の刺客だとかの警戒心は解いてたし。何よりあの魔法を見せつけられたら転生というのも満更嘘ではないかな? とも思えたわけで。

 転生者同士なら共感するところや助け合えるところもあるだろうし、思いきって聞いてみたら……。


 いやあ、予想の斜め上過ぎた。こんなバカみたいな話、聞いたことがない。


「……それで、主神様に殺されたからこの世界に来た、と」


「そうそう。で、雷の力もそん時にもらったってわけ」


「…………」


「何々? まだ信じらんない?」


「……いや、神代級の魔法使いでも、何年も練習を重ねてようやくそのレベルの雷魔法が使えるかどうか、くらいだろうし……その年齢でそれだけの作り話が出来るほど賢そうにも見えないから、信じるよ……」


「あ、そう。そりゃ良かった」


 そう言いながら芝生に寝転がるコイツ。ふとある疑問が胸の中に沸き上がる。


「……何で俺に話す気になったんだ? 俺ならそんなこと、見も知らぬガキになんて言わないと思うんだけど」


「……んー、そうだなぁ……」

腕を組んで頭を下げ、しばし考え込む。

「────まずお前がしつこそうだったってのと、どっちにしろ誰かしらには話さないといけなかったから、かな。この世界の知識が丸っきりないっていう俺の事情とかを知っててくれた方が、歴史だの魔法だの、そういうのについて詳しく教えてもらえそうだろ? なんの知識もないままじゃあ、成り上がり計画も建て辛くなるだろーし。効率のいい魔法の練習法とかも教えてもらいてぇなぁ……とは思ってたからな。信じてもらえそうにない大人相手に1から話すよりは、流れのままお前に話した方が手っ取り早そうだったから話した、それだけだよ」


「……驚いた、ちゃんと考えてんのか」


「んだよ、その言い草」


「あぁいや、すまん。……でもこの世界について知りたいんなら、子どもなんかに聞かなくないか?」


「お前が本当に何も知らないガキに見えたなら話さなかったかもな。……でも俺にはそうは見えなかった。変なところで庇って来るかと思ったら、人違いをしてるわけでもなさそうだし。……ぉら、俺の方は粗方話したぞ? 今度はお前の身の上話と、この世界について詳しく教えやがれ」


「……長いぞ?」


「知るかよ。割愛したけりゃしとけ、クソガキ」






 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄






 「────ふぅーん、お前も転生してたってわけか」


「まぁ、そういうことだ」


「なるほどなるほど……確かにそれなら、さっきまでの行動についても説明がついてるな」

 うんうんと頭を上下に振りながら、俺はほぼコイツの話をスルーしていた。まぁ要点はおさえたつもりだ、英雄、転生、赤ん坊、下手に動けない、そんなときに俺が来た……みたいな。

正直攻略対象じゃない奴の詳しい身の上話なんて、聞く価値がない。俺にとって重要なのはその先。


「そんじゃそろそろお前の話じゃなく、この世界について教えてくれよ。魔法とか、ここがどこだとか、文明の度合いとかを詳しく」


「文明の度合いって言われてもなぁ……、どういう表現をすればいいのか今一わからないな。まぁとりあえず話せる範囲からいくか……」


 そう言いながら不意に立ち上がったかと思うと、地面に転がっていた棒切れを手に取る。


「まずは魔法について説明すっか」


「おう、よろしく頼む」


「じゃあ……そうだな、まずは確認からだ。お前の居た世界にゃ魔法がないってのは聞いたけど、じゃあ人間の死体はどうなるんだ?」


「……? どうなるって? うーん、焼いてから埋めるとか?」


「なんで疑問系なんだよ」


「いやぁ……だぁらさ、俺が居た世界は文明のレベルが高いお陰で、誰かが死ぬとか誰かの死体だとか……そういうのは普通に生活してりゃ、時たまにしか経験する機会がなかったんよ。要するにそう言う場面に触れること自体がイレギュラー。誰かが死んでも、葬式の後あまり間を開けず火葬、ほんで墓地に埋められて~って感じだし」


「ふぅん……火葬か。……仮にそのまま放置したら?」


「…………肉は腐ってそのまま骨だけになって、白骨化死体とかってのは聞いたことあるな」


「ハッコツカシタイ? へぇ……一応肉体とかは無くなって、で骨だけ残るのか。変なの」


「なんだよ、この世界じゃ違うってのか?」


「骨も肉も一ヶ月もすりゃ跡形もなく消えてなくなるよ。この世界じゃ」


「……ぜ、全部無くなるのか……なんか悲しいな、それ」


「そうか? 俺にとっちゃそれが常識なんでな、一部とはいえ死んだ人の体が残ってる方が気持ち悪い」


「そ、そういうもんか……。で? それと魔法になんの関係が?」


「まぁちっと見てろよ」


 そう言いながら、先ほど拾い上げた棒切れを左手で持ち、右手で棒の先端に触れる。


「発火」

ボヒュッ──────っと、奴の指先からマッチサイズの火が出たかと思うと、そのまま棒切れに引火する。


「おおっ!」


 先端から煙が上がってゆき、煌々と火が揺らめく。──いやぁ、俺はさっき建物一つ焼き落としちまったわけだけど……あれはコントロール出来てなかったし、なんかこう、きちんと操ってるのを見せつけられるとスゲェってなるな。


「生き物が死ぬと……その血、肉、骨、……体の全ては1ヶ月前後の長い時間を掛けて、少しずつ少しずつ空気中へと溶け出していく」


 左手を下げて棒切れを腰の辺りまで持っていき、煙が俺とコイツの視界を若干ながら遮る。


「その時に生まれるのが魔法の元になるエネルギー────魔素ってわけだ。……って、口で言っても今一ピンとこねぇだろうから────」

右手で今度は握り拳を作りながら力み始める。


「────おぉ……!」


 今まで真っ直ぐ昇っていた煙が────いや、目に見えて煙が動いているだけで、実際は大気全体が────奴の拳へと吸い込まれていく。なんか黒い空気が集まっていくみたいで中二精神をくすぐられるな……! 闇の力の吸収、みたいな? 神秘的で……凄い!


「烈火!」

ボォン────軽い爆発音と共に拳大の火球が出現し、棒切れは一瞬の内に消し墨となった。


「はぁ……、はぁ…………。今やってみせたのが、魔素の回収で……そんでもって、その魔素を自分が扱える……エネルギーに変換するのに、体力を使うって……わけだ」


 激しく動悸が上がり、息切れを起こしながら途切れ途切れに話す。


「ちなみに消費する体力の……量は、使う魔法の規模や、質によって……変わる」


「おいおい、大丈夫かよ」


「……はんっ! ────自分の体力も把握しきれずに……気を失った奴に心配されちゃあ世話ねぇや。こんくらい、……全力疾走と大して変わんねぇよ」


「そ、そんだけ無駄口が叩けるってことは……大丈夫なのか。ま、まぁいいや。実演サンキューな」


「見た方が……口で説明するより分かりやすいだろ……よし、もう大丈夫……だ」

最後に大きく深呼吸して息を吐くと、コイツはなんとも自嘲気味な顔で話を再開した。


「────で、魔法ってのは扱える属性や、使いこなせる度合い、特に体力の消費量に大きな個人差がある」


「お、おう」


「で、今やって見せた烈火が、今の俺の──限界」


「……凄いことじゃないのか?」


「全然凄くないから嫌になってんの! あんなの前世の俺なら、ガキの頃でも軽く連発出来たのに……烈火みたいな初歩の初歩で止まってるようじゃ、適性なんて糞以下なんだよ」


「さ、さすがにそりゃ言い過ぎじゃ……?」


「言い過ぎじゃねぇよ。まぁ要するに、そんだけ個人差があるってわけだ。……お前みたいな例は初めて見たけど、雷以外の6属性なら俺達くらいの年齢で、既に高位魔法を扱える天才もいる。ソースは前世の俺」


 ────ソースお前かよ!


「……で? その6属性ってのは?」


「基本的に魔法適性は6種類なんだよ。本っ当に稀に、お前みたいな特別な魔法が使える奴もいるけど────ああいうのはその人固有の特技を無理矢理、魔法のカテゴリーに当てはめた、ってのがほとんどだな」


「例えば?」


「うーん……俺の知ってる奴には降霊魔法とか予知魔法を使う奴が居たなぁ。二人とも滅多に使ってなかったけど。……あぁ、それからもちろん、中にはお前みたいな6属性以外の属性魔法やら、時間操作やら、そういう魔法適性らしいのを持ってる奴もいるよ」


「時間操作魔法ねぇ……なるほど。基本の方の6属性ってのは、具体的にはどんなのがあるんだ?」


「まずは、今見せた火属性、反対属性の水属性、風属性、反対属性の土属性、光属性、反対属性の無属性……の、6つだな。二属性で対を成してるのが三組だ」


「……ん? 光の反対が……無?」


「? なんだよ、どっか可笑しいか?」


「い、いや……俺が居た世界じゃなんつーか、イメージ的に光の反対って聞くと闇が真っ先に思い浮かぶからさ。光の反対は闇属性なのかなーって思って聞いてたら、違ってたから驚いただけ」


「闇? あぁうん、言わんとしてることはわかるよ。……なんつーかな……ほら。闇ってのは光のない暗がりのことを指す言葉じゃん? そこには火や水、光みたいなエネルギーソースは無いわけで。だから反対は無なんだよ、確か」


「確かってなんだよ、確かって」


「いやぁ……俺も習ったのなんて10年近く前だからなぁ。何より前世の記憶が所々曖昧なんだよ、許せ」


「ふーん……まぁいいや、続けてどうぞ」


「……ok。魔法自体の特徴としては、自分の使った魔法で自分自身が傷付くことはないってのが一番に挙げられるかな。自分で変換したエネルギー塊だから、自分への害はない。から、お前が雷魔法を中途半端に発動しても、お前自身は無傷で済んだだろ? 同じ様に俺はさっき、烈火で左手ごと棒切れを燃やしたけど、この通り左手に火傷なんてない」


「……右手の方にはさっきの廃墟でやらかした火傷があるけどな」


「……」


「まぁ……なんだ、自分が傷付く心配がないってのはありがたいな」


「いや、流石に例外はあるぞ? 雷のせいで燃え出した部分に触れば、お前だって火傷を負うし。つまりは二次的に起きた事象では自分の魔法が元でも傷付く、ってわけだな。……他にも例外があって……そうだなぁ、例外中の例外が前世の俺なんだけど……まぁ、これはまた今度話すかな」


「? ……まぁいいや。適性については? なんかしら特徴とか傾向とかないの? 俺の適性が雷だけって、かなり味気ないんだけど」


「適性の特徴? ……そうだな、基本的に対になってる片方が使えれば、適性がバランスを取ろうとするから反対属性の魔法も使える、ってことくらいかな。まぁ大半はどっちかに偏ってるんだけど、中にはバランスよく適性を持って生まれてくる奴もいる。……ちなみに今の俺は火は使えるけど水はまるっきり使えない。一番高い適性で火だったからな、そもそもバランスを取る必要がないくらいの残念な適性ってわけだ」


「へぇ、じゃあ普通は火が使えれば水も使えんの?」


「……まぁ個人差はあれど、普通はな」


「で、お前は火()()しか使えないと」


「おう」


「へぇ~」


「……何? 俺に喧嘩売ってんの? 魔法適性は確かに糞だが身体能力はガキの範疇越してる自信あるぞ? そしてひとつ訂正しとくが、俺が使えるのは火だけじゃない。火と光だ」


「──でも無は使えねぇと」


「お前痛い目みねぇとわかんねぇみたいだな」


「あっ! 図星でやがんの!」


「テメェ……! ────っと、そういやまだお前の名前聞いてなかったな。いつまでもお前お前じゃ呼び辛いんだが」


「あぁ────」

 口を開き掛けて、一瞬躊躇する。

……前世の俺の名前をそのまま口にするかどうか、ついブレーキが掛かったのだ。


 前世との未練を断ち切るという意味でなら、仮名もしくは新しい名前を名乗るべきだろう。佑樹ではなく。……でも本当にそれでいいのか……?


「どうしたよ? 別に言いたくないなら言わなくても────」


 なに迷ってんだ、俺。ここで悩むことこそ、未練タラタラみたいじゃねぇか。気にしない、素のまま、それが一番!

「さ、西京──佑樹だ」


「サイキョウユーキ? 変な名前だな。流石は異世界人」


「お前は? 名前、なんていうんだよ」


「あぁ、俺は──ジズ。この体だとエルスって呼ばれてる。フェルシュタインがセカンドネームだけど、こっちは育て親のキークの名前だから呼び慣れてない。ジズは前世の名前でかなりの知名度があるから、人前で呼ぶのは避けてくれ。村のみんなの前ではエルスで頼む、サイキョウ」


「あぁ、了解だジズ。……エルスって名前で呼ぶことになんなら、俺のこともユーキでいいよ」


「ん? ユーキがセカンドネームじゃないのか?」


「俺が居た……世界っつうか、俺の生まれた国じゃ、苗字、名前の順に名乗るんだよ」


「へぇ、変なの。……まぁ、これからよろしく、ユーキ」


 そう言って手を差し出すジズ。


「ほーん、この世界にも握手の習慣はあるんだな。……こちらこそよろしく、ジズ」


 俺も手を差し出し、硬く握り締め合う。






 ゴキッ──────。






 手骨が軋む嫌な音がした後の、ぐあああぁぁぁ……という悲痛な唸り声は────誰に聞かれるでもなく、ただ虚空へと消えていった。

今回もほぼ説明回になってしまいました……。もうしばらく世界観の説明が続きます、ご了承下さい。も、もっとサクサクストーリーを進めたい……ッ!

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