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第5話:衝突と、遭遇と①

 「うわああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──────」


 どこか聞き覚えのある、かといって俺のものとは思えないような……そんな甲高い声が、俺の喉から虚空へと溶けてゆく。


 俺は絶賛落下中だった。


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ」


 悲鳴というか、ほとんど絶叫に近い何かを上げながら猛スピードで死が近づく。こんな高いとこから落ちて死なないわけがない。


 何考えてんだ! あのおっさん!


「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬーッ!!」


 死ぬの連呼と共に、いつの間にやら着ていた服──それも相当上質な感じの半袖半ズボン──が、落下の勢いで煽られバタバタバタバタと激しく音をたてる。


 ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい、これはヤバい。早くどうにかしないと……ッ!


「おいおっさん! 早くなんとかしろおおぉぉッ! 俺に死なれたらあんたも困るんだろ! こんな高いとっから落ちたら俺間違いなく死ぬぞおおおおッ!」


 平常時なら死ぬのは別に構わないが、この時はそれよりも高いところから落ちているという恐怖心が俺を駆り立てていた。

聞こえるかどうかはわからないが、とにかく聞こえるように大声で叫ぶ。


「飛べ! さっきの羽で飛ばしてくれ! もしくは一気に地上に転移してくれ! 俺はもうこんな高い場所にいたくなあいッ!」


 不意に、上空から光が舞い降りて来たかと思うと俺を包み込む。おおっ! おっさんナイス! 対応早くて助かる! ところでこれ何の魔ほ……。


 パアアアァァァ──────


 羽が生えもしなければ、落下の勢いが和らいだり、地上に転移したりもしない。

────ぶっちゃけ何も変わっちゃいなかった。


『硬化魔法掛けといてやったから、まぁ落ちたくらいじゃ死なんだろ。ホンじゃあな』


「──はッ!?」


「ちょっ! まっ! ふ……ふっ……ふざけんなああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」


 悲痛な叫び声は空へと虚しく消えていった──────。






 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄






 ドオオオォォォン────という、小型隕石でも落ちてきたかのような轟音を立てながら俺は地上に激突した。


 痛みがないのは硬化魔法のおかげか、それともあまりの痛みに体が麻痺しているだけなのか、……はたまた恐怖心のせいで痛みも忘れていて本当は今にも死ぬところなのか。

……全く、せっかく偉大なる歴史の幕が開けたってのに、俺の転生記の出鼻を挫いてくれやがって……。


「……あのおっさん次会ったら絶対何か特典チート貢がせてやる……」


 あれ? 落ちてた時も思ったかもしんないけど、なんか声がおかしいな。異様に高いというか……風でも引いたか? ──んなわけねぇな。


 とりあえず両手を地面につき────。


「────んんっ!?」


 驚くほど腕が白い。細い。そして小さい。驚くほどというか、そりゃ当たり前だろうが驚いた。立ち上がりかけていたこともあって咄嗟に跳ね起きる。目線が低い。ってか地面が近い。


 ────俺の体は、およそ二十歳目前の元の体とは思えない、完全な幼児体型のものへと変貌していた。


「あらら────通りで声も高いわけだぁ……」


 ……まぁこの際だから容姿なんてどうでもいいか。声変わりすらしてないところを見ると肉体年齢は10歳になってるかどうかすら怪しい上、肌の色からしても元のザ・日本人のような姿とは似ても似つかない体だとは想像が出来るが……。気にしても仕方ないだろうし、愛着や執着があったほど元の俺、西京佑樹という人間の容姿に惹かれる何かがあったわけでもない。

 いや、言ってしまえば嫌悪感の方が強かった。


 転生して、容姿も変わって、完璧に元の世界と決別出来たとするならそれは寧ろ有り難いことだろう。鏡や水面に映る自分を見るたびに昔を思い出して沈んだりしたら嫌だし。

……まぁ、それはそれとして、ガキになってることは何かと不便が多そうだから、そこはアレだけども。


 アレだ、アレ。なんと言うか、要らぬ配慮というか……そう、余計なお世話的な? うまい言葉が思い付かないのはまぁ俺にとっちゃ日常茶飯事、気にしない気にしない。


「ふぅっ────んッ……とぉ……」

大きく伸びをして、改めて周りを見渡す。

出だしは最悪だったが、こんにちは異世界ってわけだ。記念すべき俺の計画の第一歩となる。


「……記念すべき第一歩にしちゃぁ……すっこし殺風景なとこだなぁ」


 殺風景と言うか、暗がりの場所と言うか。華やかな印象がなくてそういう記念のなんとかには向いてないってだけで、建物はあるから殺風景とはまた違うような気がするんだが……。


 とりあえず陰湿な雰囲気は漂う日陰の庭ってところだな。見たところこっち側に出口はなさそうだ、チーレム計画の迅速な遂行のためにもさっさとここから出ていって、ハーレム候補の捜索と世界事情の把握を済ませて成り上がり計画を建てねばッ!


 結論つけて振り返る俺。

目の前にあったのは──────。


「──────わぁお……」


 俺が落ちた衝撃で壊れたと思われる上半身のない石像。

足元には顔や胴体の残骸が散らばっている。……つぅかそうか。クレーターみたいなのがなんで出来てないのかってことを思えば、俺この石像に直撃したんだな。……そしてなんかこの石像の顔に見覚えが……。ん? これもしかしてあのおっさん巨人か? おお、なんか似てるぞ。腕に持ってるのもちゃんと稲妻っぽいし。ハハッ、あのおっさん自分の像を自分で壊してやんの。アハハッ。

 ……でもこれは早めにおいとました方が良さそうだな。


 バタンッ──────。


 唐突に、前方にあった扉が勢いよく開け放たれる。

そしてそこからシスター服を着込んだ30代そこそこの女性が現れた……かと思うと、俺と石像を見るなり、その顔がこの世の最後でも見たかのような凄まじいものへと変わってゆく。


「あは……は、ハロー?」

ご、ご機嫌いかがですかシスター服のおばさん?


「は……は……」


 肩を震わせながら何かを呟くおばさん。


「は?」


「ハロー……じゃあ……ありません……! しゅ、主神様の像を壊すなんて、な、なんということをしてくれたんですかっ!! 来なさい! あなた名前はっ! 一体どこの子です! ええい、なんて罰当たりな!」


 激しく言葉を浴びせながら、相当ご立腹な様子でズカズカと近付いて来るシスターおばさん。


「わぁお」

 これは──────なんか面倒臭そうな、予感。






 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄






「転……生……?」


 ──────俺の聞き間違いか? 転生……そう言ったのか? シスターは。


「全くこの子は……! もう一度しか言いませんからね、それでも言わないのなら村長の所へ行って……」


「ちょ、ちょっとタンマ、シスター!」

 尚も言葉を浴びせかけようとするシスターと、石像を壊したらしいソイツの間に割って入る。


「っ!? エルくん!?」


「え、エルス君? あなた一体いつからここに?」


「いやぁ、こ、コイツさ、親父の親戚の従兄弟んとこの子なんだよ」


「き、キークさんの……?」


「うんうん! だってほら、礼拝制度があって週に一度は教会に顔出さなきゃいけないのに、シスターが知らない子ってことは村の子じゃないのは明らかでしょ? コイツまだ魔法のコントロールが出来てなくてさ、多分それで像を壊しちゃったんだと思うんだよ! 要するに事故! ね? 石像の修復は俺も手伝うからさ、ここは見逃してやってよ」


「ま、まぁエルス君が言うなら……」

俺が言うならとか絶対嘘だろ。キークの名前が出たからだろ。


 まぁこれで手を引いてくれなきゃ打つ手なしでこっちも困るからな、せっかく庇った意味もなくなる。当の本人は状況が飲み込めてなくて黙りこくってるけど、何か下手にしゃべらす前に撤退するのが無難。

いずれバレる嘘だろうし、ここからはそのバレるまでの時間をいかに有効活用するか、だ。


「じゃあ俺とコイツは親父に呼ばれてるんでもう行きま……」


「あぁっ!!」

 黙っていたソイツが唐突に声を張り上げたかと思うと、暗がりに居て存在が空気と化していたセルファに近付いて────。


「ハーレム候補さっそく見っけぇ」

セルファの両手を掴みながら、わけのわからないことを呟いた。


 ハーレム候補? ハーレムってあれか? 王様が前までやってたとかいう、大所帯の側室みたいなの。……このなりで何言ってんだ? コイツ。


「お、おい! いいから行くぞ」

 なんか無性にイライラするのは置いておいて、セルファも何が何だかわからずたじろいているし、ここは一度引いて仕切り直す。それがベスト。

 シスターが違和感に気付いてしまったら何かと厄介だ。


 ソイツの腕を掴んで無理矢理セルファから引き剥がし、そのまま引き摺るような形で裏庭から脱出する。


「おい! 俺にゃショタコンの趣味はねぇぞ! やめろ離せ!」

 よくわからない言葉を喚きながら俺の腕を振りほどこうとする子ども。

 離せだ? フン、ガキの力でどうにかなるくらいの柔な鍛え方はしてねぇよ。離して欲しいなら自力で何とかしやがれ。


 尚も暴れるがそれを無視し、そのまま教会から出て人目につかない村外れを目指す。


「こ、コノォッ!」

パジリッ──────!

「離せって──」


「!?」

咄嗟にソイツの腕を手離し、地面を蹴って一気に距離を取る俺。


「────言ってんだろおおぉぉッ!」

ジラアアアアアアアァァァァァン────────。






 「…………」

ポカーン……と口を開けて呆然と立つ。

俺には一瞬何が起こったのか解らなかった。


 いや今も何が何だか解ってないけど、1つだけ言えることがある。それは────。


「……コイツあほだろ……」


 体力切れを起こして気絶してやがる。


 あほじゃないならバカだ。ガキでも自分の体力で扱える魔法の範囲なんて、体で把握してるぞ?

しかもたった一度の魔法で、全部の体力を持ってかれてる。


 あぁいや、一度じゃないか? 石像壊すときにも使ってたとしたら二度か。……それにしたって体力ねぇな、コイツ。

平均並みに体力があったとしたら高位の上級魔法でも使わない限り、一度や二度で気絶なんてするわけがない。

そしてガキがそんな高度な魔法なんて使えるわけないんだから、要するにコイツは運動不足だな。

 というか魔法使って気絶されるとか……起きるまで()()しかねぇのかよ。あぁくそ、せっかく礼拝はその場のノリでうやむやに出来たってのに……。


 そんなこんなでブツクサと文句を言いながら、気を失っている見知らぬガキを引き摺って、俺は村外れにある廃墟を目指した。






 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄






 「う……うぅん……?」

視界がボヤける。なんだこれ……そしてなんかすっげぇ体がダルい……。


「おっ、お目覚め?」


「なんだよ、寝てるのに気付いてんなら起こせ和───っと、どこだここ」

ボロボロの天井。木材が痛み過ぎていて所々腐っている。崩れていないのは木材の間から覗いている鉄骨のお陰か。


 ギシィッ……立ち上がろうとした俺を、柱ごと縛り付けられた縄が阻む。


「おおっ?」

何、拘束されてるわけ? 俺。


「────ここは村の外れにある廃墟。元々は森の開拓をする時に寝泊まりしてた場所だけど、魔物が出るようになってからは開拓なんてされなくなったから今は使われてない。戦争が終われば~って言うのを言い訳に、100年近く放置されてるってわけだ。────ここなら人目には絶対つかない」


 一人でペラペラと説明をする子ども。あぁ、思い出してきたぞ。コイツあれだ、なんかよくわかんないこと言って俺のこと馬鹿力で引き摺ってた奴だ。

 最初はうまい具合に誰かと勘違いしてくれたのかな~と思ったけど……なんか現状を見る限り違うっぽいな。


「お前に聞きたいことは大きく分けて2つ。……でもその前に先ずは聞いておきたい。確認というか────確かめとかないと、俺の気が済まない」


「お……おう?」


「ドゥラン・エンドラーハーク、オノミリガル・ゥタスナ、ロザリミジェロ・カゼリカルデ……この三人の名前に、聞き覚えは?」


「うん、ないな」


「はぁ……。よしわかった、……ありがとう」

先程までの覇気がなくなり、一気に消沈した様子のクソガキ。なんだなんだ?


「おし……じゃあ本題だ。まずは教えろ、どこで覚えた? あんな高度な幻術魔法」


「……げ、幻術魔法?」


「知らばっくれるなよ。お前、それで気を失ってただろ。自分の体力使い果たして」


 うーん……今一覚えてない。引き摺られ続けて苛ついて、いい加減離しやがれこのくそガキ! ……ってなったところまでは覚えてっけど……あぁ、あれか? もしかして俺、おっさんの雷使ったのか?

……それくらいしか高度な魔法なんて使えないと思うし、何より他に思い付かないし。


「ちげぇよ。多分それ、雷魔法」


「か、雷? はぁ? 伝説上の魔法なんて使えるわけねぇだろ。神代級の魔法使い並だぞ? ……お前俺をからかってんの? 確かに雷って言われりゃ、それっぽい外見の幻術だったけど……あんな攻撃魔法実際にあったら、それこそ伝説級だ。ふざけんな」


「ふざけてねぇって……お前らが主神様だのなんだの言ってるあのおっさんに貰った力なの!」


「しゅ、主神様? よーしわかった。少し痛い目見ねぇとわかんねんだな、歯ぁ食い縛っとけよ────」


「だ、あぁもう! だぁらさ、嘘じゃねぇって──!」

パジリッ────!


「!!」


 火花のような何かが俺を蹴ろうとしているコイツの後方へ走り抜けたかと思うと、その後ろの壁がゴウッと燃え上がる。そして直後襲い掛かってくる圧倒的疲労感……。ありゃ? また感情任せで使っちまったか?


 目を皿にして燃え上がる壁を見つめるコイツ。あいや、振り返ってるわけだから俺からは顔は見えない。ので目を皿にしてるかはわからんが、要するにそんくらい驚いてる様子だってことだ。


 不意に壁に向かって歩き出すと、燃え盛る木壁に向かって手を振りかざす。

「へ……、なんだよこんな幻術。見せ掛けだけ御立派でもほら、この通り触ってみても熱くもなんとも────」


「あっ、おい馬鹿やめろっ!」


「んだよ、いい加減本当のことを話す気に……うアッツッ!?」

火傷した手をおさえて片足で飛び回るクソガキ。滑稽だな、笑える。


「────ヴうん!」


コホン、とでも言うように握り拳を口元に当てる。カッコつけやがって。


「何? 信じる気になった?」


「まぁ……その、なんだ。信じる信じないは置いておいて、とりあえずお前の話を最後まで聞く気には、なったよ」


「おう、じゃあまずこの縄ほどきやがれ。早くしねぇとここ焼け落ちるぞ」






 ──────速やかに燃え上がる廃墟から脱出すると、少し離れた土手に腰を掛ける俺達二人。焼け崩れるその様を見ながら……俺は、自分の身の上話を始めたのだった────。

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