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第4話:開幕

この部は、ギリシャ神話をモチーフとした内容が色濃くなっています。ギリシャ神話について知っておいていただけるとより深く内容を理解できるかと思います。

また、神話を知らなくてもある程度は理解できるよう書いているつもりですが、物語が進む上で解らないような箇所があれば、感想にて御指摘いただけると幸いです。

 神々()すら()巻き()込ん()だ壮()絶な()親子()喧嘩()が終結してからえーっと……何年だっけ?

三千年は経ったっけ? 四千年は経ってない気がすっけど……うーん、最近年感覚があんまないなぁ。人間達は曜日感覚がないだけでブツクサ言われることがあるらしいけど、私からしてみると時間管理のレベルが高すぎて笑えてくる。


「ククク……ああー、暇だぁー!」

大声で心からの声を叫びながら、勢いに任せて高笑いする偉丈夫。


「あのー……お父さん? 何を一人で笑っているのですか」

松葉杖を突きながら、1人の男が宮殿の階段を上ってくる。階段の途中から、彼の父であるらしいその偉丈夫に声を掛けて来たのだ。


「おおー! 我が息子ヘパちゃん! きょーはどしたの~」


「……少しは威厳なり尊厳なりを持って立ち振舞いを決めてはいかがですか……そんなことだからお父さんは────」


「あーもう五月蝿い! わかったから! わかってるから! で!? お前が鍛冶場から離れて私のところに来たってことは、なんか用があるんじゃないの!?」


「……キュクロさんの寿命がそろそろ本格的に危ないから、余力のあるうちに新しい雷槍を作らせろ、と言ったのはお父さんではないですか……。仕上がったので持ってきましたよ、これです」


 ヘパちゃんと呼ばれた三十代そこそこのその男は、手に持っていたいかずちを偉丈夫(といってもここまでの立ち振舞いを見てもらえばわかる通り、外見だけの話だが)に手渡す。


「おぉ……こいつぁ上々の出来だ。うぅむ、我が息子ながら流石だな」


「……試し撃ちもせずに出来の良さなんてわかるんですか?」


「わからん!」


 勢いよく断言する父親を見て呆れ返る男。情けないとばかりに左右に頭を振る。……そんな息子を前に、その偉丈夫は唐突に座っていた玉座から立ち上がると……雷を手に宮殿の外際まで行き外界を見下ろした。


「とぉりゃッ!」


 掲げた右腕を一気に降り下ろし……ズヒューンという豪快な音を立てながら……右手に持っていた雷の塊から、稲妻が放たれる。──続いて、二撃。三撃。


「おお! あの死にかけからこれほどまでの雷槍を……! 相変わらず凄いなぁ、全盛期とまではいかないにしろ久々の快感!! 楽し~!」

満面の笑みで何度も腕を上下に振る、その偉丈夫。あっちに撃ってみたりこっちに撃ってみたり……非常に感心している様子だ。


「お、お父さん……そんな調子に乗って乱射してたら間違って地上人を撃ち抜くことも……」


「大丈夫大丈夫、そんな馬鹿な失敗するわけないじゃん! はっはっはっは! ………………ぁ」


 高笑いをするのを急に止め、激しく上下させていた腕の運動が唐突に止まる。……偉丈夫の顔から見る見るうちに血の気が失せてゆき……。


「……あ……?」

 まさか、と言わんばかりの辛辣とした表情で自らの父親を見つめる、その男──────。






 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄






 開口一番に言われたのは、なんとも場違いな軽いノリでの……謝罪の言葉だった。


「ごっめ~ん! 間違えて撃ち殺しちゃった! 許してちょ!」


「……」

 絶句するしか、ない。

河原の土手で寝ていたら、雷に撃たれて死んだ。空は晴れていた気はするが……それは今大した問題じゃないだろう。

 俺が死んだこと、それもこの際どうでもいい。


 俺は、ただただ目の前に立つ巨人に圧倒されていた────。


「ほんと、まじごめん!」

巨大極まりないその体を、必死に──俺のサイズに合わせるかのように──しゃがんで身を屈め、俺の身長の二倍はあるかという、とてつもなく大きな両手を勢いよく合わせて謝ってくる。

合掌の勢いで凄まじい暴風が産み出され俺を吹き飛ばそうとするが、なんとかその場に留まり……気圧されながらもその巨人を見つめる俺。


 許しを乞われているわけだが、許すとか許さない以前に、俺の口は喋り方を忘れていた。


「……お父さん。そんな風に顔を近付けられたら、ただでさえ混乱しているだろうに怖がらせてしまうだけでしょう。ほら、いつものように玉座に戻って。……そう。話すべきことを話さないと。早く手を打たないと、バレるのも時間の問題ですよ?」


 言われるがまま、というように……若い見た目の巨人に従う、おっさん巨人。


 奥まった位置にあったこれまた巨大な石造りの椅子に座ると、なんとも偉そうに頬杖を突きながら、こちらを見据えてきた。


 不意に若い巨人が杖を突き、足を引き摺りながらそのおっさん巨人に近付くと……。


 ゴツン────唐突にその頭に殴る。


「なんですか! その態度は! それが許しを乞う神の態度ですか!」


 うん、許しを乞う人、みたいに言わないでください。というかやっぱりか、やっぱり神なのか。あんたら神なのか。まぁそりゃ神様だろうね、如何にもって雰囲気だしてるもんね。


「イつつ……そ、そんな怒らなくても良いじゃん。尊厳がどうこうとか言ってた割には、ちゃんと神らしく振る舞ってるのに怒るとか理不尽にも程が……」


「ええい、つべこべ言わずまずは誠心誠意謝りなさい!」


「ちぇっ。……まぁ……その、人間よ。間違って殺してしまってその……すまなかったな、うん」


 しばしの沈黙が流れる。……………………あれ? もしかしてこれ俺の反応待ち?

気が進まないのは事実だが、これ以上場を固まらせたままでも埒が明かないので意を決して話始める。


「………………あ、あの……謝られても全然状況が理解できてないんですけど……」


「あー、それもそうですよね。うーん……と、それではまず確認から。貴方は、自分が死んだという自覚はありますか?」


「え? あ、はい……」


「あるのでしたら手っ取り早い。本来であれば人1人が死んだところで神が干渉する、なんてことはないんですが……今回は神が直接手を掛けて殺してしまっているので、ここに呼び出しているわけです。……理解は出来ていますか」


「えーっ……と、つまりはそこのおっさんが俺を間違って殺したと?」


「そうそう、そうです。この方が手に持っているのは、過去の神々の大戦でも使った【雷槍】の新作なんですが、如何せん威力の程を(わきま)えていないといざと言う時に役に立たないので……その、試し撃ちの際に誤って撃ってしまったのが、貴方というわけです」


「は、はぁ……」


「それで、なんですが……このまま貴方に冥界に行かれしまうと、叔父上……あ、叔父は冥界を司る神なんですが、その叔父伝いに他の神々に『父が人間を殺してしまった』ということがバレるわけでして。……相当こっぴどく怒られることになるんです。主に叔父に。そんなわけでこちらとしては貴方を冥界へ行かせるわけにはいかないんですよ」


 随分仰々しく、それも業務的に喋るんだなぁ、と思う。神様ってんならもっと偉そうにしてていいだろうに。


「冥界に行かせるわけにはいかない…………って、それはつまり?」


「生き返らせる、という方向になるかと」


 げぇっ……せっかく、家族を変に悲しませることになる自殺でもなく、加害者に慰謝料その他諸々の迷惑がかかって被害者加害者両方とも不幸になる事故死でもなく、【天災】というある種のどうしようもない事象によって死ねたのに……。またあの虚無感に苛まれる日々に逆戻りかよ。さすがに勘弁してほしいな。


 生き返らせる、という言葉にあからさまに嫌な態度をしたのが伝わったのか、都合よく若い巨人が助け船を出す。


「生き返らせる……といってもですね。貴方が住んでいた地球に戻る、というのは少し難しいんですよ……」


「……?」


「地球のように文明レベルの高い世界だと、信仰心の薄い人々を中心に【復活】という通常では有り得ない事象に過剰反応を示しかねないんです。……というより、これだけ情報機関が発達しているとまず間違いなく騒ぎになります。……そしてその騒ぎが神々に伝わると……」


「結果的にバレちゃうってことね、なるほど」


「全くもってその通りです……面目ありません」


「いやぁ、あなたのせいじゃないですよ」

そう、話を聞く限りだとこの礼儀正しい方の神様は別に悪くない。

……で、肝心の悪い神様はというと……。


 こちらの話を上の空で聞きながら玉座にどっかりと座って、呆けている。……なんというか……こんなのが父親じゃ苦労するだろうなぁ、この神様。


「そこで、いくらか文明度合いの低い世界に生き返らせる、というのがこちらとしてはベストなんですが……」


「はぁ……」

転生ってやつか。

ん? これってもしかして俺の思い通りに事が運んでないか?


「最初から人生をやり直すよりはある程度成長した段階で生き返らせた方がいいか……体はこちらで用意しますが、それでいいですか? なんなら魂だけの状態で下界へいってもらって、適合率の高い体を探すというのも手ですが……」


「あ、じゃあ用意してもらう方向で……」


「承知しました。ちょっと準備してきますね」


そういって背を向けると、奥手の方にある階段を下って何処かへと行ってしまう、若い巨人。


 ……え? なに、しばらくの間俺このおっさん巨人と二人きり……?


「私のせいですまんなぁ……」


うわぁ……話し掛けられたくねぇと思ったところに話し掛けられた……。


「い、いや……気にしないでください……」


「うーん、とは言ってもなぁ。まぁ……なんだ、私に出来る範囲ならなんでもしてやる。それで勘弁してくれ」


「は、はぁ……」

曖昧に返事をしたところで、思い付く。


 そうだよ……そうだ。これじゃん。俺が死ぬ前にやりたかったことって。


 鬱憤晴らし。


 この展開を利用しないでどうするよ。これこそチートでハーレムな人生を掴むチャンスじゃん!


「あ、あの!」


「ん?」


「俺、この生き返りにあたってちょっとした特典が欲しいなーって言うか! 前世の俺は特に目立った特技も才能もなかったんで、なにかしらそういうの貰えませんかね! 神様の力で!」


緊張しつつも、とにかく聞こえるように声を張り上げながら言う。


「……うーん……そうさなぁ、そういう……身体能力とか、才能とか、適性っつーのは魂の構造で決まるからなぁ。ちぃっと難しいなぁ……まぁ、私に出来ることならしてやれっけど……」


「た、例えば……?」


 そう尋ねると、腕を組んだままうんうん唸り出してしまうおっさん巨人。えぇ……もしかしてこのおっさん、全然大したことない神様なんじゃ……。肝心の出来ること、がショボかったらチートもハーレムも無いんだが。


 そこへタイミング良く? 若い巨人が戻ってくる。

そうだよ、こっちの巨人に協力してもらえればなんとかチーレムに近づけんじゃね? 少なくともおっさん巨人よりはマシそうだ。


「ん? どうかしたんですか?」


「あぁ……ヘパ。準備は出来たのか」


「え? ええ。前にパンドラを作った余りがちょうど有りましたので」


「あぁ、パンドラの余りか。なるほど、体を用意するってのはそういうことな」


 ……若い巨人が持ってきたのは……泥? な、なんだか嫌な予感が……。


 シックスセンスとでも呼ぶべき直感で、なんだか嫌な空気を感じ取った俺。不安げな顔で佇んでいると、唐突に若い方の巨人が俺に近づいて来る。


「え? ちょ、あ、あの……」

急に近づいてこられると流石にビビる。そんなわけで一人たじろいでいると、目の前に立った巨人が一言、失礼しますと言ってきた。────かと思うと、俺を片手でつまみ上げてひょい、と自分の手に乗せる。


 ────これはビビりすきて声が出なかった。


 圧倒され過ぎてそのまま巨人の手の上にへたり込むと、目の前に等身大の泥が置かれた。みるみるうちに形が変わっていき……予想的中とばかりに、人の姿とわかる泥人形となる。


 ま、まさかこれが俺の新しい体……?


「あぁ、そうだ人間。私の眷属になるっていうのはどうだ?」


「け、眷属?」


「腐っても私は神だからな、私の眷属になればまぁ多少は強い魂に造り変えることが出来る。雷の扱いも多少なら出来るんじゃないか?」


 このおっさんの場合、腐っても神、じゃなく、腐った神のような気がするが……雷の扱いか。疑問系なのが少し気になるが、悪くはなさそうだな。


「じゃ、じゃあお願いします……」


「よし来た」


 おっさんが若い巨人に目配せをして、手を差し出すように促す。若い巨人が俺を乗せた手をおっさん巨人に向けると、おっさん巨人は両手を俺に被せてきた。被せられている俺からしてみると、さながら手で出来たドームに入ってる感じだ。

な、なんかくすぐったい……ふ……ふふ…………ん?


 次の瞬間、俺の体は宙に浮いていた。────翼だ。翼が生えている。俺の体から。

ついでに言うと、泥人形からも羽が生えていた。


「ふぅっと。まぁ羽は私の眷属の証みたいなもんだ。受け取っとけ」


「…………あ、え、あの……お、俺高所恐怖症なんですけど……」


 生まれて初めて(────いや。死んで初めて、か)空を飛んで、開口一番がそれかよ。……とは自分でも思ったが、今浮いてる場所は地上から軽く50メートルはある。高い所が苦手な俺にとっては死活問題。

 正直俺は空を飛びたいとかいう人の心理が理解できない。


「あぁ、んじゃ新しい体に羽はない方がいっか。んじゃブチッと」


 そう言いながら泥人形の羽をもぎ取り、若い巨人から泥人形を受け取る。


「それからまたすぐ死なれたりしてバレても困っからな、死ににくいように半人半神(デミゴット)の属性もやっとこう」


 手を被せながら上機嫌に泥人形を愛でる。淡い光が包んだかと思うと……あれ? 外見は特に何も変わってない。


「父さん……いくらなんでもそれはやりすぎじゃ……」


「あぁ? 別にいいじゃん、これ以上の力を持たせて転生させたっつう前例もあるわけだし。お前もなんかプレゼントしてやれよ」


「あ、あれは生け贄として殺してしまった人間を擬似神に昇格させてから転生させたってだけでしょう……。うーん……気は乗らないんですが、じゃあ僕からも後々プレゼントを渡しますよ、はぁ……」


 何が何だかわからないうちに話がまとまったようで、俺の頭上で飛び交っていた理解不能の会話が止まる。


「まぁそんじゃ、楽しくやれよ。しばらくは他の神にバレねぇようにシラバックレねーとなんねぇから……こっちから話し掛けたりとか、干渉するってのは無理だろうけど……まぁ、何年か経ってほとぼりが冷めりゃサポートなりなんなりしてやっから」


「は、はぁ……」


「おっといけねぇ! 肝心の転生させる世界がまだ決まってなかったな。おいヘパ! お前んとこで空いてる適当な世界ねぇか?」


「僕はまだ母さんに世界を持っていいと認められてないので主神格にすらなってないですよ……。後、デミゴットにするのは結構ですけど成人しないとちゃんと機能しないってことも言わないと……」


「あれ、お前まだ主神格じゃないんだっけ? あれそうだっけか? ……んじゃあ、私の世界でいっか。……前にも使った気がすっけど適当にこの辺で……と。おし、じゃあな、達者でやれよ~人間」


 そう言いながら息を吸い込むと、ふぅっと吹き掛けてくる。合掌の時とは比べ物にならないほどの、凄まじい強風に煽られた俺。

 堪らず吹き飛ばされ、そのまますっぽりと後ろにあった泥人形にはまった。かと思うと──────。


 俺は、神々の住む遥か上空から、見たこともない下界へと落とされたのであった。







 ……そうだな、これはきっと幕開けだったんだろう。

英雄に転生するだろう俺の、壮絶で壮大な英雄転生記の…………偉大なる歴史(チーレム計画)の、幕開けだ。

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