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ベター・パートナー!  作者: 鷲野高山
第三章 パートナー解消?編
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十話 彼女にとって、彼にとって

1章以来のちょいギレ堅ちゃんです。

本話の文中、後は以前の文中でも設定で出してますが、堅一の天能である呪いは感情によってその効果が増します。ただしデメリットはその分発動に消費する体力も高くなること。

ちょっと具体的に何倍とかの数値は出しませんが、あくまで分かりやすく例えるなら身体強化は平常時は1.5倍、プチ怒り時は2倍みたいな。

感情が強くなればなるほど倍率も上がります。負の感情MAX時がチートというか最強モード。

まあそれはまだまだ先ですね。

では、どうぞ。

 迎撃のために重心を低くしていたことから、咄嗟に避けることは叶わず。

 その視覚的にも派手な桃色の光線の眩さに、反射的に堅一は目を瞑ってしまう。


「……?」


 直撃してしまったのは確か。だが、ダメージは無い。ついでにいえば、体にもこれといった変化は無いように思えた。

 しかし堅一は己の両腕を見下ろし、目を細める。

 そこにあったのは、両腕を覆うように静かに明滅する、桃色のオーラ。いや、腕だけではない。

 堅一の全身を包むように、見るだけで頭の痛くなるようなその色は、存在を主張していて。


「ハハッ、当たったな? そんじゃ、じっくり甚振って、惨めな姿を晒させてやるよ」


 そんな堅一の前に立つは、相手のソルジャーである海銅。

 勝ち誇ったように笑い、剣を肩に担いでいる。

 相変わらずの態度だが、またしても根拠なき自信か。それとも、それほどまでに桃色の光線は意味を持つのか。


 動かずにいる堅一をよそに、海銅は部分強化の天能を行使するどころか、悠然と歩を進める。

 すると海銅は、そのまま真正面から、剣に両手を添えた大振りで攻撃のモーションに入ったではないか。


 慌てて回避をするまでもない。むしろ、攻撃を仕掛ける隙すらある。

 そう判断した堅一が、右腕を引き絞った、その時だった。


 ――ウチを見て?


 突如、脳内に直接届けられるように声が響く。媚びるような、甘ったるいようなその声色。聞き間違えようもない、相手のジェネラルの久世のものだ。

 瞬間、堅一の意思とは無関係に、彼の首が見えない力に強制されたかのようにぐるりと回った。

 向いた視線の先には、久世の姿。彼女は制服の前のボタンを少し外し、同年代に比べて豊かな胸元をまるで堅一に見せつけるように覗かせていた。

 下着こそ見えないものの、日焼け跡も加わり煽情的ともいえる光景が堅一の視界を埋める。


「……がっ!?」


 その、直後。

 衝撃と痛みが堅一の身体を走り抜け、思わず声を上げる。

 ぐらついた意識の端で、海銅が剣を振り下ろしているのが見えた。いかに隙だらけの攻撃といえど、それ以上の隙を堅一は相手に晒したのだ。であればその結果は必然。


 ……魅了系の天能かっ!


 乱された思考の中で、よろけつつもなんとか足を踏ん張り。倒れることなく、距離をとるようにして少し後ろに下がる。

 珍しい部類ではある。そう多くはないが、女性だけでなく男性にも使い手がいる、その天能。

 数回程度ではあったが、堅一は過去にその系統の天能の使い手との対戦経験があったため、一度でこの現象――即ち天能の正体を看破できた。


 魅了。かけた相手の精神に作用し、その行動に影響を与えるタイプの天能である。

 例えば、容姿。例えば、声。行使者によって方法は異なるが、己を武器として相手に揺さぶりをかける。対象が異性の場合は効果が高く、反面、同性に対しては例外を除きさほどの効果は望めない。


 そしてこれは、行使者の魅力が高ければ高いほどに強力な天能となる。

 久世は、世間一般から見れば美少女と呼ばれるであろう容姿をした生徒だ。加えて言えば、少々小柄ではあるもののスタイルもよい。見た目や言葉遣いが俗にいうギャルっぽくはあるが、それはそれでいいという層も世の中には一定数いるだろう。


「おらおら、さっきまでのスカした態度はどうしたよっ!?」


 煽るように吠えながら、追撃をしてくる海銅。再三再四、剣を高々と掲げ迫りくる。

 堅一は、舌打ち一つをするので精一杯。その思考、意識は冷静ではなく、久世のことで溢れさせられている。

 まともに考えることもできぬままながら、本能的に敵の動きに対応しようと上段に手甲を構える堅一であったが。


 ――ウチは魅力的でしょ?


 またもや、頭の中に囁かれる久世の声。

 視線が強制的に奪われ、引き寄せられる。今度は姿勢を変え、まるで胸元を強調させるように腕を組みながら、パチリとウインクをする久世の姿が。


「下がガラ空き、だぜぇ!!」


 放たれるは、剣ではなく、海銅の天能により強化された前蹴り。

 それは、剣による攻撃に備えて上段にガードを固めていたせいで無防備となっている堅一の腹部へとまともに入り。


 呼吸が一瞬止まった。駆け抜けた衝撃により身体をくの字に曲げつつ、吹っ飛ばされた堅一はやがて地面に尻もちをつく。

 久世の天能により思考が妨害され、天能(呪い)をかけられずに素の状態での手痛いダメージ。

 蹴りを受けた腹を無意識に押さえる堅一の前に、海銅は立ち塞がる。


「落ちこぼれは落ちこぼれらしく、大人しくしてりゃいいものを……4クラスのくせして俺達上位クラスに突っかかるから、こういう目にあうんだぜ?」


 どちらかといえば、突っかかって来たのは堅一達ではなく海銅達――主に久世だったはずだが。

 どうも海銅の中では都合よく記憶が改竄されているらしい。


それ(魅了)もいつまでも続くわけじゃないが、落ちこぼれ一人ぼろぼろにする程度、わけはない」


 剣を構えながら、海銅は鼻を鳴らす。


 残存体力でいえば、まだ危険域ではない。

 が、今ので恐らく堅一と海銅の残り体力は一気に差が縮まった。この状況が続き一方的に攻撃を受ければ、ひっくり返されて敗ける。

 しかし、まだ勝利の芽は潰えていない。魅了の天能を受ける前であれば、堅一の方が優勢であった。

 つまり、魅了の効果が解けるまで耐える。或いは――。




「クフフッ、効いてる効いてる、ウチの魅了。男女のパートナーの相手は、これだから楽しいんだよねー!」


 少し想定外はあったが、自身のソルジャーの圧倒的優位な状況。そしてそれを為しているのが己の天能(魅力)

 その事実に、久世は含み笑いをし、同時に過去相手をしてきたパートナー達に思いを馳せる。


 シュラハト(試合)中、久世の天能に打ち抜かれ、魅了が発動して惨敗。その様を異性のパートナーに咎められて言い合いになり、喧嘩別れのように契約を解消したペアというのはそれなりにいる。

 しかも、今回に関しては折角親切心で4クラスのゴミなんかは止めておけと注意してやったのに、相手のジェネラル(市之宮)の態度ときたら。


 ……さてさて、今回のパートナーも試合後に契約解消するかな?


 堅一()が己の虜となり惚け。姫華()が嫉妬と絶望に顔を歪ませる。

 その光景が訪れるのを楽しみとしながら、久世はニンマリと笑う。

 悪いのは、あくまで魅了されて敗北する者。その後にそのパートナー同士がどうなろうと、久世の知ったことではない。

 パートナーというのは、所詮彼女にとってアクセサリーのようなものだった。

 飽きれば契約を解除するし、いいのがいれば乗り換え、目を付けた者に既にパートナーがいる場合は奪う。仮契約で慎重に契約を検討する、なんてこともほとんどしない。

 それが、久世真理愛というジェネラルにとっての、当たり前。

 故に、彼女は。


「それじゃ、駄目押し行くしっ!」


 いつものように、そんなつもりはさらさらもなく。

 ただ相手を揺さぶるためだけに、己の虜とせんがために。投げキッスと共に、それをやった。

 それが、一線を越えるものとは当然知りもせずに。




 ――そんなパートナー()捨てて、ウチのパートナーにならない?


 そんな久世の声が脳裏に届いた時。

 スッ、と堅一の顔から表情が消えた。動揺、悔恨、苦痛。一切合切の色が。

 その胸中を満たすのは、もはや久世の顔でもその誘惑でもない。それよりも強く燃え上がるのは、怒り。

 元々、その種火はあった。気に入らない相手だった。

 己のことはもはや慣れており――それでも当然気分がいいものではないが――仕方なしと割り切れる堅一であったが、戦闘前にあの女(久世)はこちらのパートナーをも虚仮にしたのだから。

 当然、勝つ気ではあり、様子見を除けば手加減するつもりもなかった。

 だがそれでも、まだ感情は冷静の範疇ではあった。


 ……パートナーを捨てる、だと?


 本気か冗談かは別として。ただパートナーへと、契約を誘われただけなら、ここまで感情の箍は外れはしない。

 市之宮姫華然り、天坂舞然り、過去に堅一に声をかけた幾人かのプロを含むその他ジェネラル然り。

 あくまで彼らは、現在堅一に契約中のジェネラルがいないと見て、誘いをかけたにすぎない。

 だが、アレは違う。堅一にパートナーがいると知った上での妄言。


「おらぁぁっ!!」


 無言で座り込む堅一に向けて振り下ろされる、海銅の剣。

 このまま動かなければ当たる。

 久世の天能の効果を知る、もしくはその身に受けた覚えのある観戦者達。そして攻撃者たる海銅と、天能をかけた張本人である久世はそれを確信し。


「――ふざけんなぁっ!!」


 だが、怒りによって制御を取り戻した理性が、かけられた魅了の力を完全に追いやり、堅一の身を覆っていた桃色のオーラを弾き飛ばす。

 天能封じの呪いで無効化したわけではない。魅了系のような精神に影響を与えるような天能は、例えば麻痺などの物理的な影響とは異なり、気の持ちよう次第では自力で突破することが可能な部類なのである。


 咆哮と共に、堅一は身体強化の呪いを発動。

 反撃がくるなど露ほども考えていないであろう海銅へ、立ち上がる勢いのままにカウンター。その天能(呪い)特性(・・)ゆえ、その速度は今までの比ではなく。

 刃が届くよりも先に、堅一の手甲が海銅の顔面に叩き込まれ、大きく吹っ飛ばす。


「えっ!?」


 驚愕の声を上げたのは、恐らく久世だろうか。

 しかし堅一はそんなことは気にも留めずに、後方にいる姫華の元へと近づいた。


「回復、頼む」

「は、はいっ!」


 端的に告げれば、姫華は少し緊張したように返事をしながらも手を翳した。

 それは、堅一の顔がいつも以上に険しく、声も硬いものであったからか。

 けれども堅一を包む、緑色の淡い光。久世の自己主張の激しいそれとは異なり、優しい光が堅一の体力を回復する。


「……悪い。やっぱり一騎討ちとなると――いや、競技は関係無いか。まだまだ俺はこの程度みたいだ」


 思考を落ち着かせるように堅一は、フーっと長く息を吐く。

 何が起こるか分からないのがシュラハト。それは、今のように敵の天能を知らなければ当然として、知っていても尚、不測の事態というのは起こり得る。


 相手の術中に嵌り、天能(魅了)をくらった。そこから突き崩された。

 それまでは優位な戦況だったというのは、理由にはならない。

 思えば、久世の天能のヒントというのはあった。その効果を匂わす彼女の発言だったり、光線を受けた海銅の反応だったり。予測を立てられる材料はあり、確信まではいかずとも気付ける要素はあったというのに見逃した。魅了という天能の存在を知っていたにも関わらず。


 そう内心で振り返る堅一を、黙って姫華は見守っている。


「だが、ある意味丁度いい。俺は今、怒ってる。……この意味分かるか、姫華?」


 一つは、無様を晒した不甲斐ない自分に。

 もう一つは当然、他ならぬパートナーのことで愚弄してきた相手に。

 怒りはある。だが、己を見失うほどではない。そして堅一はこれを奇貨と捉えていた。


「意味、ですか?」


 理由、ではなく意味。それに丁度いいとは。

 問われた姫華はすぐには思い至らず、問い返すしかできない。


「俺のこれ(呪い)は、怒りとか憎しみとか、そういうのが強ければ強いほど効果が高くなる。とはいえ、その分消費体力も多くなるが」


 だが間もなく返って来た答えに姫華は、あっ、と小さく声を上げた。

 堅一の天能にそのような条件、もとい特性があるのを思い出し、発言の意図を理解したのである。


「今の中では一番分かりやすいのは身体強化か。……兎に角、もう終わりにさせる。普段との違いをよく見ていてくれ」


 最後にそう言い残し、堅一は姫華から離れた。

 その全身から目に見えぬ、しかし確かに黒い怒りを撒き散らさせて。


「ちょっと、何でまともに動けるし!? ウチの天能(魅了)が切れるには、まだ早かったはずなのに!!」


 堅一と姫華が話していた間。時間を置いていたのはあちらも同様。

 とはいえ、思い通りにならなかったからか、久世は顔を真っ赤にさせて喚くだけ。

 カウンター攻撃によって吹っ飛ばされていた海銅は、痛みに少し顔を歪めながらも立ち上がっており。久世の近くで息を整えている。


「いいだろ、真理愛。切れたなら、もう一度かけるだけだ。……おい、よくもやりやがったな! 覚悟しろよ4クラス、次こそ終わりに――」

「悪いが、もうそっちの戯言に付き合うつもりはない」


 こちらを指差す海銅の言葉を遮り、切り捨てる。

 それは決して大声ではなく、むしろ暗い響きを伴っていたが。しかし不思議とこの場にいる全員の耳に余すことなく届いた。

 思わず海銅が閉口したのは、その声色に、放たれる雰囲気に怯んだがため。


「――っの、4クラスが! さっきから生意気なんだよっ!」


 だがその事実に気付いた時、海銅は憤激した。

 格下、それも4クラス(落ちこぼれ)相手にも関わらず瞬殺どころか圧倒すらできていないこと。むしろ何発か攻撃をもらい、この瞬間に至っては逆に圧された。

 脚力を強化、剣を横に構えて堅一に肉薄する。


 対する堅一もまた、身体強化の呪いを自身にかけて駆ける。今まで海銅が攻撃を仕掛けた際は、基本的に待ちの姿勢で受けに回っていたのがまるで嘘のよう。

 人が変わった、にしては言い過ぎではあるが、唐突な戦闘スタイルの変更。


「なっ、俺より速っ――!?」


 直感的に海銅は、その速度が己より上であると悟った。悟らされた。

 だが、その感覚を捻じ伏せ、否定する。

 有り得ないと。格下が、自分より速いはずはなく、目の錯覚に違いないと。強引に思い込む。


「くたばれぇっーー!!」


 共に強化状態の両者は、中心付近にて接敵。

 剣を下から掬い上げるように振るう海銅。だが、堅一の姿は既にその上空にあった。

 空中でその身の上下を反転。切り上げられ、高い位置にある海銅の剣。その両手を、回転しながら掴み。


 上空で一回転をするように着地、その勢いも利用して海銅をぶん投げる。


「おおおっ!?」


 その一瞬の出来事に、今しがた何が起きたのかを海銅は理解できていない。

 分かっているのは、両腕を掴まれた感覚。それと、自身が宙にいることのみ。


「優斗っ!?」


 その光景を、信じられないといった顔で久世が見上げているが。

 それではジェネラル失格である。

 何故なら、堅一は動きを止めていない。

 久世の視線は完全に海銅にのみ固定されており、堅一の動きが見えていない。否、意識していたとして果たして彼女に捉えられたかどうか。


「……嘘」


 果たして、それは誰の呟きであっただろうか。

 投げ飛ばされた海銅の、その先。同じ高度まで跳び上がった堅一の姿がいつの間にかそこにあり。

 タイミングを合わせるように振りかぶられた右足が、飛んできた海銅の背に叩き込まれる。


「がはぁっ!?」


 ポーン、とさながらボールのように。碌な抵抗もできず、呆気なく弾き飛ばされていく海銅。

 倒れることも許されず、しかし契約武装たる剣だけは手放さないまま。その身体は、投げ飛ばされた場所に戻るように、地面に落ちていく。


「く、そ……」


 だが、またしてもその先で回り込むように現れる、堅一の姿。

 息は絶え絶え。だが、僅かに霞んだ視界の中でなんとかそれを認識した海銅は。


 ――ガキィンッ!


 三度目こそはされるがままとならず、何とか剣を前に突き出すことに成功した。


「へぇ、仮にも2クラスか」


 それでも、今の黒星堅一にとっては大した問題ではない。

 差し込まれた剣ごと、拳を振りぬく。身体強化の呪い、それも普段より効果が上昇した状態は、その護りをいとも容易く貫き。


「ぐっ――ま、真理愛ーッ! 何でもいい、援護を!」

「……はっ! オ、オッケー! これ以上、好きにはさせないしっ!!」


 吹っ飛びながらも海銅が助けを求めたことにより、ようやく我に返った久世は。

 上空の海銅へと狙いをつけるように手を向ける。


「もう、それはさせない」


 それとほぼ同時に。堅一が真理愛を睨んだ。


「ウチの愛、優斗に力を! 届け、ゾッコンビーム!!」


 久世が叫び、海銅に向けて天能を使おうとする、が。


「……あ、あれ? ゾ、ゾッコンビーム! ビーム!! ――ちょっと、何で出ないのぉ!?」


 桃色の光線は、その手から放たれることはなく。

 懸命に久世は何とか出そうと挑戦するも、しかし全てが徒労に終わる。


「おい、真理愛! 援護は!?」

「やろうとしてるしっ! でも、何でかウチの天能が使えないの!!」

「はぁっ!? どういうことだよ!?」

「ウチにも分かんないよ!!」


 ダメージは大きく、しかし漸く堅一の連続攻撃から逃れた海銅は、片膝を着きながら真理愛に怒鳴る。

 怒声を受けて、真理愛もまた己に非はないと怒鳴り返す。

 混乱する二人。だがその真実に到達できることはないだろう。


 天能封じの呪い。

 契約武装を除き、対象の天能を一時的に封じて使用不可の状態にするという、堅一の天能(呪い)の中――現時点で使えなくなったもの含め――でも反則級な効果を持つ一つだ。

 過去、様々な場面でその効果を遺憾なく発揮してきたこれが失われていないというのは、非常にラッキーだったと言えよう。


 ともかく、これが久世の天能の行使を阻む元凶。

 だから久世のせいではない。無論、擁護するわけはないが。

 加えるならば、久世はてんで役に立たなかったわけではなく。

 堅一が彼女に向けて天能封じを発動させたことにより、海銅への追撃の手は一度止まり。彼は態勢を整える時間を得たわけなのだが。


「っ、優斗! アイツが来てるっ!!」

「くそ、一体何が起こってんだよ!」


 動き出した堅一にいち早く気付いた久世が、警告を発し。

 苛々したように優斗が振り向き、堅一の姿を、その顔を見る。


 ――ゾクリ。


 黒い瞳と目が合った。

 そう感じた瞬間、言い知れぬ悪寒が、海銅の背中を走り抜ける。

 無意識に一歩、後退。しかし捕らわれたかのように、視線を外すことができない。

 まだ距離があるはずなのに、まるで高みから見下ろされるかのような――。


「ええっ!? 優斗が二人ぃっ!?」


 が、素っ頓狂な声を上げた彼のジェネラルが、その意識を現実に呼び戻す。

 頭だけで振り返れば、久世がポカンと大口を開けて、海銅を見ていた。


「真理愛! さっきから何を言ってんだ!?」

「あ、え……」


 その姿に乱暴に問いかけるが、しかし答えは返らない。

 チッと内心で舌打ちを一つ。彼女が当てにならないと判断した海銅は、ダメージで少々ふらつきつつも自由になった身体で堅一を迎え撃つ。


 走りながら力を振り絞り、腕力を強化。

 今までは、こちらから攻撃を仕掛け、その空振った隙を突かれていいようにされた。

 相手の武器は手甲。リーチとしては海銅の剣が勝る。

 ならばと海銅は考える。ギリギリまで相手を引きつけ、敢えて懐に飛び込ませてから一突き。これしかないと。


 そうして、彼はタイミングを計り。


「――前の優斗、早すぎっ! 違う、そうじゃないしっ! ああもう、後ろの優斗はどうなってんのぉ!?」


 錯乱しているとしか思えないジェネラルの言葉は無視。

 予め脳内で組み立てていた通り、果たしてその時は訪れる。


「おらぁっ!!」


 必中を期した一撃。

 後ろ手に剣を引いて構え、突き出された海銅の剣先は、敵の身体に触れ――ることはなかった。


 久世は錯乱していたわけではない。本当に彼女には、二人の海銅優斗が見えていたのだ。

 その正体こそは、先日のシュラハト・フェスタで戻った堅一の三つ目の能力。

 先見の呪い。


 幻影にて海銅の行動の先を見た堅一は、その本物の剣戟が幻影の軌跡をなぞる、直前。

 飛び込むような形で身を深く沈め、その剣閃の下を搔い潜ると。

 床に手を着き、その反動でバネのように全身を跳ね上げながら、足裏を突き上げたのである。


 それは海銅の顎を捉え、その身体を上空へ打ち上げる。

 勢いのままに態勢を戻した堅一は、一息吐く間もなくすぐさま追いかけるように跳び上がり。

 まずはアッパーカットの要領で一撃。海銅の身体に更なる高さを与えると。

 その打ちあがった先にすら回り込み、大きく体を回転させての踵落とし。


「――ッ!」


 もはや言葉を発することもできず。反発する力が加わり、今度は真っ逆さまに落ちていく海銅。

 それが地面へと到達する前に、落下の途中で追いついた堅一が腹に一発。

 落下速度は早まり、海銅の全身は大の字となって床に強く打ち付けられた。


 ――が、まだ終わりではない。


 堅一は空中に身を躍らせながら腕を引き絞り、狙いを定める。

 もはやピクリとも動かぬ海銅。

 落下する勢いのまま、堅一の手甲が最後の一撃を加えようとした、その時。


「そこまでっ! 勝負ありだっ!!」


 天坂舞の制止の声が、地下に響いた。

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