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ベター・パートナー!  作者: 鷲野高山
第二章 シュラハト・フェスタ編
55/67

番外編 ~彼、彼女が無名であった理由~ 2-1、ルアンナ・ブラフィルドの場合

かなり間があいてしまいましたが、読んでいただきありがとうございます。

番外編パート2です。

では、どうぞ。

 ルアンナ・ブラフィルド。

 その名が示すように、彼女は日本人ではなく、その生国は、日本より海を渡った先の国であった。


 澄んだ水を思わせる宝石の如き蒼の瞳に、光り輝くブロンドの髪。

 愛らしく整ったその顔、その容貌は、可憐にして利発さを伺わせ。

 裕福な家庭に育ち、両親からも多大なる愛情を注がれ、蝶よ、華よと愛でられる。そんな、恵まれ、望まれ、羨まれた誕生。それが、ルアンナ・ブラフィルドという存在であった。


 また、彼女は頭もよかった。家柄、容姿と、賜ったものの陰に隠れることなく、その俊英さは煌々と光り、周囲の同年代の男女を圧倒していた。


 そして、それだけに留まらず。――彼女には、シュラハトの才能もあった。


 シュラハトの世界は、単純で、それでいて残酷だ。

 ジェネラル向けの才能(異能)があれば、ジェネラルに。ソルジャー向けの才能(異能)があれば、ソルジャーに。そのどちらもなければどちらにもなれず、また才能があったとしても、ジェネラルかソルジャーかを己で選ぶことはできない。

 

 シュラハトという競技は、世界的に有名であり、人気である。

 憧れの選手があり、舞台があり、と、その世界へ足を踏み入れることを希望する人数のなんと多いことか。

 しかして、現実は非情である。

 なりたくても、憧れても、その資格すらなく諦めざるをえない。そうして涙を零す人数の、なんと多いことか。そして運よく才能があったとしても、望んだ方の才能ではないことに嘆息する人間もまた、少なくない。

 頑張りや努力などは、才能(資格)があって初めて意味をなす。持たざる者にとっては、いくら努力しようと全くの無駄、無意味であり。その日々は、未来永劫日の目を見ることはない。


 重要なのは、生まれ持った才能の有無のみ。

 観戦する人々に娯楽を、夢を与えるのとは裏腹に、実に分かりやすく、残酷な世界だ。


 そんな世界で、彼女は――ルアンナは、またしても恵まれていた。

 シュラハトに憧れていた。その舞台に立つ才能(資格)があった。そしてその才能(異能)は――彼女の望んだ、ソルジャーであった。


 ジェネラルではなく、ソルジャーを希望した理由は単純。ルアンナは、子供心に思ったのだ。

 ――その一挙一動に衆目を、喝采を受け、戦場を舞うソルジャーのなんと眩しく輝いていることか。それに比べ、戦わずに後方に控えるジェネラルはなんと形容すればいいものか。


 無論、ジェネラルとてただ舞台の後方に控えて立っているだけではない。

 だが、いくら俊英であれ、それでもルアンナは子供であった。ジェネラルという存在の意味を、その凄みよりも、はっきりと目に見えるソルジャーの動きに、栄光の方に意識が傾いてしまうのは、仕方がなかったと言える。


「――やったっ……やったわっ! 私は、ソルジャーになる……ソルジャーに、なれるのよっ!!」


 故に、自身にソルジャーの才能があることを知ったルアンナは喜びを爆発させた。

 彼女の両親も、そんなルアンナの姿を見て嬉しげに目を細め、否定することなくその背を押した。

 そして当然の如くルアンナは、自身の進路を一般の学園ではなく、シュラハト向けの教育機関へと向けたのである。



 ――時は進み。齢十を越えたルアンナの姿は、その国は勿論、全世界的に見ても十指には確実に入るとされる名門校にあった。


「ルアンナ、またこれから行くのよね? そろそろコツは掴めてきた?」

「ええ、もう少し……もう少しで発現できると思うのだけれど……」

「あら、本当!? やったじゃない、早く我らが学年主席……じゃなかった、お姫様の天能、見てみたいわぁ……あ、何か聞きたい事があったら、何でも聞いてね?」

「もう、からかわないでよっ! ……でも、うん、ありがとう!」


 成績は、学園主席での入学。

 親しい友人は何人もでき――学年主席であることなど含めお姫様とからかわれたりはするが――特に不自由もなく楽しい学園生活。

 だが、一つケチをつけるとするならば。ルアンナの――自身の天能が、未だ発現させられていないこと。


 いくら天能が自らの一部といえど、だからといって生まれて間もなくその力をすぐに引き出せたり、自在に使いこなせることができる者はそうそういない。

 勿論、例外はあるらしい。ただ、近年の研究では、年齢が上がるにつれて徐々に天能が身体に馴染み、コントロールしやすくなるのだとされている。それまでは幼い身体に負担をかけないため、眠りについているのが一般的なのだとか。

 もっとも、あくまで眠りについているだけで、力の存在が消えているわけではない。故に、天能を発現できなくとも、その有無は検査によって幼かろうがいつでも確認できるというわけだ。


 まあ、研究はあくまで一般的にはそんな傾向にある、というだけの話で、無論個人差がある。

 同じ齢であっても、既に発現し行使できる者と、まだ表にすら引き出せない者がいるというのはよくある話だ。


 そのため、シュラハトの教育機関へと進む条件は、天能を宿しているかどうか。発現、行使できるかではないので、未だ天能を発現させられていないルアンナでもシュラハトの教育機関に在籍できている、というわけである。


「私の、天能」


 友人達と別れ、ルアンナは一人、校内を歩く。

 向かう先は、特別訓練場。特別、と言えば聞こえはいいが、その実態は未だ天能が発現できていない者専用の――つまりはマイナスの意味での――訓練場である。

 一人で向かっている理由は、簡潔。彼女の友人達は、皆既に天能を発現させており、行く必要がないから。


「もう少し、だと思うんだけどな……」


 先程友人に向けた言葉は、決して強がりではない。あと、もう少し。本当にすぐそこまで、感じているのだ。

 ルアンナは、子供のように無邪気な、しかして周囲を魅了するような美しい笑みを湛え、歩く。


 ――自分の天能は、契約武装は、どういうものだろうか。

 幼少、自らに力があると分かってから今に至るまで、何十、何百と己に問いかけ、その先を想像した言葉。


 武器は、剣かな? 槍かな? それとも――。


 幻視するは、想像の中での己の契約武装。

 人気があるのは、剣だ。だが、槍も捨てたものではなく、剣に負けず劣らず恰好いい。

 足取りは軽やかに、ルアンナは期待に胸を膨らませる。

 いささか物騒さは拭えないが、これがシュラハトの常なのだ。


 どんな人と、パートナーになれるのかな。仲のいいジェネラルの女友達? それとも、男の人――?

 

 次いで思いを馳せるは、自身のジェネラルたる人物。

 友人の次に、顔に靄のかかったまだ見ぬ男性の姿を思い浮かべてしまい、サッとルアンナの顔に朱が差す。

 ルアンナとて、異性の気になる乙女なのだ。咄嗟の想像に、イヤイヤ、と顔を左右に振り、顔に昇ってきた熱さを吹き飛ばす。


 そんな乙女の内心など分からない傍から見れば、彼女はただの残念な美少女に思えるが、しかしそんなルアンナの天能に期待しているのはなにも彼女自身だけではない。

 現段階では天能を発現できていないとはいえ、なんといっても、彼女は入学試験の学年主席である。

 座学も試験内容ではあるが、それだけでは主席には届かない。もう一つ加味すべきは、天能。

 今は行使できずともよい。ただ、その大きさというのは、発現できずとも大まかだが計測することができる。


 才能があったとて、それが僅かであれば小さく。可能性、力を秘めたものであれば、大きく。

 つまり、今は発現できていないとしても、学年主席であるルアンナの価値は非常に高かったのである。

 そんな彼女であるがゆえ、周囲、こと学園側からの期待は大きく、将来を嘱望されていたといっても過言ではない。

 ルアンナ自身も、己の天能はきっと素晴らしいものなのだろうと、そう信じて疑わなかった。


 家は裕福で、容姿に優れ。学業も優秀で、天能の才能もある。

 そのどれか一つでも、持たざるものからすれば垂涎もの。

 それを彼女は持ち、周囲はそんな彼女に期待し、憧れ、羨んだ。


 ……しかし、彼女は恵まれすぎた。

 

 成功を重ね続けてきた人間が、初めてその生に躓いた時。

 そうしてようやく、見えてくるものがある。ルアンナのように、賢くとも純粋な少女なら、尚更に。ここにきて、初めて気付くのだ。

 光は反転し、昏く。

 彼女はこの後、それを思い知ることになる。触れることになる。


 ――が、その程度。

 と、嘲笑う者もいるだろう。

 その程度が、なんだ。()は、それ以上を知っている、と。


 しかし、栄光の道のみを歩んできた彼女は、脆かった。例えその程度であったのだとしても。


 だが、だからこそ。

 ――彼らは、出会う運命と相成ったのだ。

次話もこの番外編の続きとなります。

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