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ベター・パートナー!  作者: 鷲野高山
第二章 シュラハト・フェスタ編
53/67

二十六話 残り50%

『……お、おぉっと、戦況をお伝えする立場であるはずの私も、ついつい見入ってしまっていました』


 理解できない、といったように立ち尽くす兄、山形一臣。それを背に庇い、険しい表情で円盾を構える弟、山形三造。

 対し、優艶と微笑むルアンナに、一番少ない体力にも関わらず気にした様子もなくどこか晴れやかな笑みを浮かべる堅一。

 そんな真逆の両者の構図の中、思い出したようにアナウンスが響いた。


『今は消えてしまいましたが、あの瓜二つの分身は山形一臣選手の天能だったのでしょうか!? そしてその分身と思われる片方の山形一臣選手の攻撃がいくつか直撃しているように見えた黒星選手ですが、大きくダメージを受けた様子は見受けられず、その体力バーはまだ半分残っています! 一体全体何がどうなっているのでしょうか!? 私、この試合を見て驚かされているばかりであります!!』


 ざわつき、混乱する会場の空気に拍車をかけるような、怒涛というべきアナウンスの声。

 ただ、混乱こそしているとはいえ、試合開始直後にあったような、落胆だとか、失望だとか、そういう空気は既に消失していた。観客は魅せられていたのだ。無名の新人プロ――どころかそれに劣る無名の学生たる黒星堅一というソルジャーの試合に。


 一体何が起きているのか。驚きつつも、きっとああだ、いや違うこうだと、観客達は己の推論を展開する。見応えのない外れだったと決めつけていたはずの試合に、いつの間にか多大なる興味を持っていることなど、気にも留めない。


 もっとも、それで正解に到達できるものでもなく、真実を知る者はほんの一握りだ。

 この会場にいる殆どの人間が現状を完全に理解できておらず、逆に全てを理解している人間は両の手の指があれば充分に数えられる。

 そして、今この瞬間――。


『――先見の呪い。使用者(堅一)が目を合わせた対象の未来の幻影を創り出す。この幻影は対象となった者以外(・・)が存在を認知することができ、対象者の過去、現在を除いたあらゆる時間の中から使用者が定めた時間を映す。効果時間、効力の高さは、消費する体力及び負の感情により増減する』


 そこに一人、加わった。

 ソルジャーとジェネラルの繋がり(契約)により、脳裏に流れた情報を読み取った市之宮姫華である。

 その呪い(戻った力)の名を見た姫華は、最初こそ無意識にパチパチと目を瞬いた。

 が、それも最初だけのこと。


 思わずその内容を何度も読み返し、そこまでしてようやっと理解する。


 これは、今まであった堅一の二種類の能力(呪い)とは違い、発動条件たる体力バーの消費に加え、対象の目を見るという条件が追加された、相手の(未来)を見ることのできる能力。


 幻影というのだから、実体はないのだろう。アナウンスが告げていた通り、姫華から見ても、幻影の山形一臣の攻撃は、堅一にヒットしている――というより堅一の身体を通り抜けているように見えた。

 しかしノーリアクションだったので錯覚かと思っていたが、つまりそういうことだ。その僅か数秒後に幻影と同じラインをなぞった本物の山形一臣の攻撃を、堅一は躱していたのだ。


 アナウンスではないが、堅一の現ジェネラルである姫華とて、驚かされるばかりである。

 事実を知れる立場でなく、全く無関係であったなら、アナウンスや他の観客のように驚き、混乱するばかりであっただろう。


 ……やっぱり、堅一さんは、凄い。


 能力もそうだが、この大きな舞台で、それも2リーグの現役のプロ相手に、臆せず堂々と戦っている。

 ほぅ、と吐息を漏らし、姫華はバトルフィールドに立つ堅一を見下ろした。


「堅一さん、楽しそう……」


 目に映りこむのは、姫華の初めて見る種類の笑みを浮かべた堅一。


 ――自ら望んであの場所に立つのでしょう? だったら、表情を固くするんじゃなくて、少しでも楽しまないと。


 それを見た姫華の脳裏に、ルアンナに言われた言葉がよぎる。


「でも……」


 しかし姫華は表情を僅かに曇らせ、会場に設置されたディスプレイを見やった。

 そこに表示された堅一の体力バーは、残り半分。

 堅一が先程の戦闘で、新たな力である先見の呪いと、身体強化の呪いを同時行使しているのに、姫華は気づいていた。それに、相手はプロ。いかに両の呪いを駆使したとして、堅一が一撃も貰わないという保証は、どこにもない。

 まだ半分、ではない。もう、半分。


 そんな、姫華の不安そうな雰囲気を感じ取ったのか。


「言われただろう、ルアンナ(アイツ)に。――パートナーを、信じろと」


 横から、厳しくも優しい、声。

 同時に、ポン、と姫華の頭に載せられる大きな手の感触。


「忘れたかい? それは何も、自分がこうして見ているだけの時でも例外じゃないぜ?」

「あ……」


 心に深く入り込んでくるようなその言葉に、姫華は隣に座る縣恭介の顔を仰ぎ見た。


 なに、大丈夫さ。

 そう言いつつ、恭介は姫華の頭から手をどかす。


「弐条学園といえば、弐の名を関する名門校。ともなれば、一学年といえど、さぞかし結構な数の生徒――ソルジャーの金の卵が集まったんだろう」


 ――だから、誇れ。

 姫華の瞳を覗き込み、短く。恭介は、ニヤリとしてそう言った。


「そのかなりの数の生徒の中から、アレをピンポイントで引っ張り出した嬢ちゃんは間違いなく本物だ。不足かもしれんが、俺が保証する」

「…………」

「それに、アレも――堅坊もまた、な。もっとも、戦い方が少々危なっかしいのは否めないが……ともかく、どっしり構えていろよ、嬢ちゃん」


 無言で聞き入る姫華を前に、恭介がバトルフィールドへと視線をおとす。


「ソルジャーは、一人で戦うんじゃない。その意味を俺達に教えてくれたのは、他ならぬ黒星堅一というソルジャーだ。だから、俺達はアレに敬意を持ってるし、感謝もしてる。だからそれを今度は俺達が、嬢ちゃんに教える番なのさ」

「……はい」


 まあ見てな、と姫華に促し、恭介は黙った。

 気持ちを切り替えた姫華は、一度目を閉じてゆっくりと深呼吸し。

 バトルフィールドにいる堅一を心の中で応援し、その勝利を信じる。

 そんな、素直な姫華の横で。


 ……ま、もっとも堅坊の体力が零になるなんて状況、あの堅坊大好きバカ(ルアンナ)が許すわけないだろうがな。


 思っていても言わなかったことを心の中で呟き、恭介は苦笑した。



「――頭が冷えたか、兄者?」


 円盾を構える山形三造が、相対する堅一とルアンナから視線を逸らさず、背後に庇う山形一臣へと言葉をかける。

 そんな状況でいつまでも尚呆けているようなら、山形一臣はプロとしてやっていけていないだろう。

 山形一臣は、聞いた。弟達の、そして響いたアナウンスの声を。

 そして思い出す。偶然では片づけられない相手(堅一)の動きを。


「……ああ。実感はないがお前達やアナウンスの話からするに、だ。俺のしようとしている動きがどういうわけか分身として現れ、それが俺以外に見えている。そうだな?」

「そう。そしてその原因、というより天能は恐らく――」


 三兄弟の視線が、一斉に堅一へと向けられる。


「――あの少年のものだ」

「だろうな」


 この場において、あの少年の情報だけが全くなかったのは確か。一臣の十八番である麻痺を打ち消したり、パワーが上がったりと、そういう能力だろうというのは戦闘を通して分かったが、それ以上に山形三兄弟にとって堅一は謎すぎた。

 侮りがあったとはいえ、プロである山形一臣の一手先をいったこと。先が見えていたとしても、余すことなく対処できたこと。

 極め付けは、まるで緊張もなく、落ち着いた戦いぶり。まるで、百戦錬磨のソルジャーの如く。学生とは思えぬくらいに戦い慣れしている。


『景二。勝つためには、どうするべきだと思う?』

『……ルアンナプロは、1リーグ所属とはいえ、手は割れている。手強い相手には違いないが……勝率を上げるのなら、不確定要素であるあの学生を、先に脱落させるべきだと思うが』

『だな。体力的にも、奴が狙い目か』


 意見は、すぐにまとまった。というより、確認する必要もなく、それが三兄弟の総意であった。


「行くぞ、三造! 二人がかりで、奴を潰す!」

「応! 兄者はあまり前に出すぎるなよ!」


 狙いが堅一に絞られ、一臣と三造が駆けだす。


「あらあら、そう来たわけね。堅ちゃん、ここが最後の見せ場よ、大丈夫よね?」

「ああ」


 三兄弟の意図を組み、堅一はルアンナと短く言葉を交わす。

 息を整えるように、深呼吸を一つ。迫る二人を見据え。

 そうして堅一とルアンナは、相手を迎え撃つため、地面を強く蹴った。



「ハァッ!!」


 先制は、三兄弟側。

 両陣営のソルジャーが接敵まで後数メートルといったところで、山形一臣の前を走っていた山形三造が円盾を横にずらし、その拳を地面に打ち付けた。


 噴き上がる、水柱。

 しかしそれは、直撃コースではなく、堅一の数歩先の地面からであった。

 避ける必要はなく、しかしそのまま駆けては突っ込んでしまうので、堅一は止む無くその足を止める。


 ……直撃を狙ったなら、明らかにタイミングがずれている。読み違えたか? それとも足止めか?

 だが、一瞬の思考の中で堅一はその可能性を棄却し、本能に従って体勢を低くして頭の位置を下げた。

 

 刹那、視界に映りこんできたのは、横に切り裂かれる水柱。

 それができるのは、この場において両手剣を持つ山形一臣しかいない。

 あわや、というところで堅一の頭上を通過していく凶刃。


 だが、一臣の攻撃が空振りに終わったからか――いや、或いはもともとそのつもりだったのだろう。


「オオオッ!!」


 自身の創り出した水柱を突っ切り、山形三造が円盾ごと吶喊してきたのである。

 円盾という巨大な面積を以てした突撃は、小さな動きでは避けられない。


 すなわち態勢を低くして咄嗟に動けない堅一では、自力での回避は困難。

 しかしそこに、堅一を守るように、両者の間に四十川の防壁が現れる。


 円盾ごと突撃してきた山形三造と、四十川による防壁の激しい衝突。


「兄者達ッ!」

『ああっ!』

「応よ!」


 ミシリ、と四十川の防壁が嫌な音を立てる中、振り向かずに叫んだ三造の声に、後方に控えていた山形一臣が、両手剣を一閃し。その更に後方で戦局を見据えるジェネラル、山形景二が片手を上げる。

 その標的は――視界を塞ぐための目くらましとして活用された、水柱。


 四十川の防壁は、あくまで一面――正面に対してのみの護り。

 今まさに襲い来る、雷を纏った滝のような水による頭上からの攻撃は防げない。

 だが、ここまで時間を稼いでくれれば、最低でも直撃は自力で免れられた。のだが。


「――連結(コネクト)連結(コネクト)連結(コネクト)!」


 堅一の左腕が、ぐいっ、と引っ張られ、身体が空中に引き上げられる。

 直後、堅一が数舜前までいた地面を、降り注いだ水が叩いた。


「逃がすかぁっ!!」


 が、三兄弟の攻撃は止まない。

 狙いを一点に引き絞っている彼らは、執拗に堅一を追撃する。


 ルアンナによって空中に逃れた堅一に追いすがるように。円盾を頭上に構えた山形三造を踏み台に、山形一臣が飛び上がった。


「やっぱり、来るか」


 滞空する自身を追って迫る一臣の姿を見て、冷静に堅一は零した。

 それは予想通りで、今更焦りなどはしない。

 狙いを絞られている、というのは厄介だが、その分先見の呪いを行使せずとも動きが読みやすいという利点がある。


 さて、どうするかと考え――くいっくいっ、と合図のように己の左腕が小刻みに引っ張られているのに堅一は気づいた。

 地面を見下ろせば、堅一と繋がっている――無論、糸でである――ルアンナが、見つめていた。


「……アレか」


 言葉がなくとも、堅一はその意図を察した。彼女とは過去に何度もシュラハト(戦場)を共にしているのである。そう簡単に、その経験が無意味になることはない。

 ……察してしまった自分が嫌になるが。


 ルアンナから視線を外した堅一は、再び自身に向かって飛んでくる山形一臣を見た。

 接触までは後僅かといったところ。リーチにおいては、手甲である堅一が劣るゆえ、どちらかといえば分は悪い。

 鋭く瞳をぎらつかせた、捉えたと言わんばかりに、両手剣を振り上げる。その刀身に雷の力が巡り、煌めいた。

 隙のでかい大振りであろうと、空中戦では構わない。ガードごと思い切り叩き伏せればいいのだから。

 そんな思惑が、見て取れた。


 対して堅一は、山形一臣と視線を合わせ、先見の呪いを発動させる。

 再び現れる、もう一人の山形一臣(幻影)


「兄者、気を付けろ! 例の能力だ!」


 地上から、上空を見上げる山形三造が、警告を発する。

 これにより、山形一臣にばれた。――だが、構わない。


 続いて堅一は、身体強化の呪いをかける。

 その対象は、自身、そして――ルアンナ。


 直後、堅一の創り出した山形一臣の幻影が、堅一の身体を両断する。

 だが、あくまで幻影。しかしてそれは、数秒後に本物が振り下ろす剣戟。

 そのラインを、確かにルアンナは見た。すなわち、対象となった者――つまり山形一臣以外が見ることのできる、未来を。


「落ちろぉぉおおおおっ!!」


 幻影に一拍遅れ、本物の山形一臣の両手剣が、堅一を叩き潰さんと閃かせられる。

 振り下ろされる、その剣。

 ルアンナが、腕を大きく振り上げる。


 風切り音が、堅一のすぐ横を通り抜けた。

 ルアンナの補助があったとはいえ、空中という足場のない世界で掠りもしなかったという現実に、山形一臣の目が見開かれる。

 呪いによって強化されたルアンナにより、堅一の身体が、更に大空に近づくように。山形一臣を飛び越すように、引き上げられる。


 すれ違いざまに、堅一は器用にも空中でくるりと一回転し、山形一臣の肩に踵落としを放った。そして体力に余裕もないため、先見の呪いを解除。

 ガッ、と呻き、山形一臣は落ちていく。その様を見下ろす堅一。見る者によっては、それがまるで狙いを定めているように見え。


「兄者ッ!」


 その光景に嫌なものを感じたのか、山形三造が落ちていく兄の元へと走り出した。

 ――が、堅一とルアンナの狙いは。


「堅ちゃんっ――」


 ルアンナの糸が巻き付いていない右腕を、堅一は引き絞る。


 ――兄、山形一臣ではなく。幻影に惑わされし、もう一人。


『……っ! 早まるな、三造!!』


 敵のジェネラル、山形景二が何かに気付いたように、弟へと警告を送る。

 が、遅い。


 振り上げていた腕を、ルアンナが勢いよく振り下ろした。


「――ハンマーッ!!」


 刹那、滞空していた堅一が、放たれた弾丸のように、地面へ向かっていく。

 その先には、標的と思い込んでいた山形一臣、を助けに入ろうとしていた、山形三造の姿が。


「ぐっ!? ……ぬぉおおおおお!!」


 山形一臣にかけられた先見の呪いに気を取られ、実は自身が標的だったとは思いもしなかった山形三造。

 突然の急襲であったため、避けることは叶わず。しかし何とか山形三造は円盾を頭上に掲げることに成功していた。

 だが、その衝撃は凄まじく、踏ん張る時間もなくすぐさま片膝をつかされ。じりじりと、着実に体勢を低くさせられ。みるみる体力が削られていく。


「くっ、おおおおおっ!!」


 だが、全身全霊の気合いを込め、力を振り絞る。

 盾の契約武装を持つソルジャーは、その護りこそが本領。ならば、なんとしても崩されるわけには。

 己が誇りをかけ、歯をくいしばり。ひたすら、耐えに耐える。

 それが功を奏し、なんとか耐えきったらしい。突如重圧がなくなり、息を整える三造であったが。


「――ハンマーッ!!」

「がっ……」


 そんな隙は与えないと、襲い来る容赦のない強烈な二撃目。

 高所から繰り出されのに加え、こちらは山形三造の与り知らぬところであったが、堅一とルアンナに双方にかけられた身体強化の呪い。

 一瞬でも気を抜いたその隙が、命取り。今度は一秒とももたず、大ダメージ。ルアンナが叫んだように、振り下ろされたハンマーの如く降った堅一の銀の手甲が、山形三造の防御を完全に貫いた。


「三造っ! おのれっ!!」


 それに激昂するのは、堅一を落とそうとして逆に落とされた、山形一臣。

 その視線は、倒れ伏す山形三造の傍に降り立った堅一に固定されている。


 迫る山形一臣に、体勢を整え、すぐさま対応しようとする堅一であったが。


「……あ、兄者」


 その微かな声に、思わず振り向く。

 荒い息で地面に横たわりつつも、山形三造は地面に拳を叩きつけようとしていた。


 挟まれた。

 一方の対応をすれば、もう一方への対応が疎かにならざるをえない。その逆も、然りだ。


 迷っている時間すらも、惜しい。

 故に、堅一がとった行動は。


「……な、に? 天能、が……」


 今にも水柱を上げようとしてた山形三造の攻撃を、天能封じの呪いで一時的に止めさせる。

 だが、その僅かな時間で、山形一臣に距離を詰められた。


 散ったのは、火花。


 雄叫びを上げて、山形一臣が両手剣で斬りかかり。

 両腕をクロスさせ、手甲で堅一がその刃を受ける。


 互角、ではない。

 口元を吊り上げる山形一臣に対し、堅一に浮かぶは苦悶。

 拮抗は僅か最初の数秒のみであり、雷を纏って明滅する両手剣に、銀の手甲がじりじりと、着実に押し込まれていく。


 ……やはり、素の状態では数十秒ともたないか。


 ギリギリと次第に両腕の振動が激しくなり、痺れる。

 そんな堅一の防御に、限界を見て取ったか。

 凄絶な笑みを浮かべる山形一臣の両手剣が、激しく発光する……が。


「――やめなさいっ!」


 突如として、その体躯が横に吹き飛び、堅一の両腕にかかる圧力が消失する。

 糸を使い、駆けるよりも早く移動してきたルアンナが、その勢いのまま山形一臣の脇腹を蹴り飛ばしたのだ。


「ぐっ……くそがっ!」 


 だが、山形一臣もただでは終わらない。

 雷の力が溜められていた両手剣を、吹き飛ばされながら痛みを堪えつつ振り抜く。

 発射される閃光であったが、しかし。結果的にそれは、悪足掻きでしかなかった。


 ルアンナは糸を使った高速移動で、いとも容易く閃光を避けた上で更に吹き飛んでいく山形一臣の背後に回り込み。

 持ち前のバトルセンスで予感していた堅一は、動揺することなく跳んだ。


 山形一臣の遠距離攻撃が両者に外れ、地面に炸裂した、と同時に。


「まずは……」

「……一人目!!」


 正面、そして背後から。山形一臣を貫く衝撃。

 堅一の殴打と、ルアンナの蹴りが、山形一臣の身体にまともに入っていた。


 一瞬の、停滞。


 ――カラン、カラン。


 山形一臣の手から両手剣が滑り落ち、地面が渇いた音を立てる。


『あーっと、ルアンナ、黒星両選手による同時攻撃が綺麗に決まったぁっ! 山形一臣選手、大ダメージ! そして――』


 直後、ズシン、と山形一臣の体躯が力なく地に落ちた。


『――ダウンですっ! 山形一臣選手、脱落!!』

「……あ、兄者ーっ!!」


 よろよろと立ち上がった山形三造の悲痛な叫びが、響く。

 ディスプレイに表示された山形一臣の体力バーは、零となっていた。


「……堅ちゃん、どういうつもり?」


 だが、それに一片の喜びもなく。

 地面に降り立ったルアンナが、険しい顔で堅一を見つめる。

 同じくディスプレイに表示される堅一の体力バーは――本当に僅かとしか言えないほど、少なかった。


「俺のギリギリまで持ってけ、ルアンナ。……俺はここまでだ」


 対し詰問された堅一は、小さく笑い、答えた。

 山形一臣が脱落する、その直前に。堅一は己の体力バーを零となるギリギリまで削り、ルアンナに身体強化の呪いをかけたのである。

 二人の一撃によって沈んだ山形一臣であったが、その多くのダメージは、身体強化の呪いをかけられたルアンナにより与えられていた。


「相手の油断と混乱、そしてお前と組んだってのが大きいが、復帰戦にしてはプロ相手に中々善戦できたもんだ。もう、上出来だろう」


 あっちが俺を知っていて、且つ本気で最初から来てたら、どう転んでいたか分かったもんじゃない、と堅一は苦笑する。

 次いで堅一は、肩を竦めた。


「それに、俺に花を持たせようとしてくれてたんだろうが……このままじゃお前の実力がこの程度だと、思われかねないぞ?」

「堅ちゃん……」

「身体強化がなくても余裕だろうが――最後に少しくらい本気見せて、終わらせて来い」


 二人の視線が、重なり合う。

 だが、相手はもう一人残っている。当然そんなことは忘れていないので、交差は刹那であった。


「うん、分かった」


 ややあって、ルアンナが頷く。

 そして、残った相手――山形三造を見据え、しかし言葉は背の堅一へと向けて。


「貴方は色々変わっちゃったと思ったけど、やっぱりそういうところは変わらなくて、安心した」


 彼女は、言った。


「そんな貴方だから、私は――」


 ――それよりほどなくして、勝敗はついた。

戦闘はこれで終了です。

次話は『二章最終話 例え影であったとしても(仮)』

二章は次話で終わりですが、番外編として、二章途中にもあった恭介の話のルアンナバージョンを投稿します。

つまり、厳密に言えば残り二話で二章終了です。

読んでいただき、ありがとうございます。次話もよろしくお願いします。

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