表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベター・パートナー!  作者: 鷲野高山
第二章 シュラハト・フェスタ編
50/67

二十三話 絡新婦

二話、連続といわないかもしれませんが、今日と明日で続けて投稿します。

まずは一話、サブタイトルの読みを、念のため。「じょろうぐも」です。


明日の投稿は、堅一ちょこっと覚醒?回。あとは微調整なので、0時ちょいすぎにできるかな、と思います。遅れたらすみません。


では、どうぞ。

『おおっと、これは……これは、面白くなってまいりましたぁっ!』


 ババァン! という擬音が聞こえてきそうなほど、胸を張って堂々と宣言したルアンナ。

 そんな彼女の姿に、そしてその宣言の内容に。先程、堅一が山形一臣を一瞬でも圧倒した時と同じように、会場がどよめいた。

 一時的に空気を化していたアナウンスの声にも力が入り、全体の熱気が高まる。


『黒星選手、お見事! 学生の身でありながらも、プロ相手に遜色ない立ち回りを見せてくれました! そして――』


 ――先程とは、違った方向で。


『――兄弟という、血の繋がりを活かしたコンビネーションで戦う山形三選手。対して、ルアンナ選手と黒星選手は……なんとなんと、愛のコンビネーションで挑むと宣言したぁ!』


 舌回りは絶好調。

 ある意味会場が盛り上がった今、ここぞ、とばかりにアナウンスが更に盛り上げようとする。


「いや、俺は何も言って――」


 その言い種は、まるで堅一も同時に宣言したかのようで。

 アナウンスを耳にした堅一は、フィールド上で反論の声を上げるが、


『お二人は、一体どういう関係なのでしょうかっ! 縣選手の相方と、縣選手の弟子、それ以上の何かがあるのでしょうか!? 私、ルアンナ選手の一ファンとして、非常に気になるところであります!』


 その声は、興奮したようなアナウンスに呆気なく掻き消される。


「…………」

「いいじゃない、いいじゃない。最っ高に盛り上がってきたわねっ!」


 ……よりにもよって、アナウンスがこいつ(ルアンナ)のファンなのか。

 どうしたものか、と無言になる堅一をよそに、テンションが上がり満足気に頷くルアンナ。


「ルアンナ……お前、どうなっても知らないぞ。……というか、どうにかしろよ」


 そんな自らとは正反対の様子の彼女に、堅一はたまらず苦言を呈す。


試合(これ)が終わったら、冗談でした、なり妄言でした、なり。……まあ、そこまで本気にとられないだろうが……いいな?」

「えー、私は別に、困ることなんて……むしろ、ウェルカムなのにぃ」


 まさか、本気にする人間などそうはいないとは思うが。せいぜい、そこそこに仲が良く、茶目っ気混じりの一言、程度の認識だろう。

 そう考えつつも、念のため釘を刺す堅一。

 対してルアンナは、ぷー、とまるで幼子のように頬を膨らませる。


 そんな、二人を前に。


「……馬鹿にしやがって」

「お、落ち着け、落ち着くんだ、兄者」


 対面では、青筋を浮かべて再びいきりたつ山形一臣に、それを押さえようと必死な彼の弟。

 今回に限っては、ある意味山形一臣の反応は正しいかもしれない。……いや、正しいのだろう。


「……取り敢えず、今は試合に集中だ。こっちはちゃんとしろよ、ルアンナ」


 若干の同情を彼に感じつつ、堅一は手甲を構える。


「私を誰だと思ってるの? 大丈夫、心配は無用よ、堅ちゃん」

「…………」


 まったく、数瞬前にやらかしておいて、どの口が言うのだろうか。

 もはや取り合う気もなく、閉口する堅一。

 空気を読んでか、再びのアナウンスが会場に響く。


『――さぁて、両者、大きく戦意を滾らせ、睨みあいます』


 ……が、実のところ、堅一はそこまで心配はしていなかった。

 確かに、時折ポンコツ化するルアンナではあるが――やる時は、真面目にやる。これ以上は面倒臭い、というのも確かにあるが、追及なく閉口したのは、そんな彼女の一面を知っていたからだ。


『山形三選手の連携プレーから始まり、続いて山形一臣選手と黒星選手による激しいぶつかり合い。会場を、大いにどよめかせてくれました』


 そして実のところ、ルアンナと堅一の相性というのは、悪くは無い。

 ――いや、むしろ、いい。


『――しかし、タッグ戦の醍醐味は、フィールドに立つ全選手が入り乱れての戦い。いわば、ここから! ここから、試合は大きく動いていくでしょう!』


 チラ、と堅一は傍らのルアンナに視線をやる。 


防御()の三男、攻め(両手剣)の長男に、二人の兄弟を後ろからサポートする次男。雷、風、水、と、この兄弟のコンビネーションを突破するのは、容易ではありません!』


 その視線に気付いてか、ルアンナはゆったりと微笑んだ。


『対するジェネラルは、壁使い。自在に展開される壁は、防壁としてだけでなく使い方によって形を変える。正しく、ジェネラルとしての腕が問われる天能でありましょう。それを見事に扱いこなすは、四十川選手!』


 そして彼女は、ここにきてようやく、対戦相手を真の意味で見る。――つまり、戦う相手として。


『そんな彼のソルジャー、縣選手の代理。学生でありながら、見事、2リーグのプロ、山形一臣選手に痛打を与え、会場を沸かせてくれました、黒星選手! 彼の天能はまだ詳しく分かりませんが、続いてどのように私達を驚かせてくれるのか、大いに期待したいところであります!』


 この場に立つ中で、唯一今まで契約武装すら展開していなかったルアンナ。

 そんな彼女の両手に現れる、それは。


『そして、彼女もついに動きます。この戦場における、紅一点。美しき、可憐な華。いつもとは違う相方と、一体どのような連携を見せてくれるのでしょうか! ――絡新婦(じょろうぐも)の異名を持つ、ルアンナ選手!』


 毒々しくも妖しげな色を放つ、紫色の手甲鉤であった。




「……いくわよ、堅ちゃん。久方ぶりのタッグだけど――まさか、私との戦い方、忘れたなんて言わないわよね?」


 妖艶な笑みを浮かべて両手に装着された手甲鉤を構える、ルアンナ。

 その問いに、堅一は言葉を発さず、しかしコクリと頷けば。

 ルアンナもまた、満足そうに頷き。


 その両腕を――契約武装たる手甲鉤を、頭上に掲げた。


 ――手甲鉤。

 暗器の一つに分類され、手甲から鉤爪の伸びた形の、攻守共に可能な武器である。

 ルアンナのそれは、手甲部が毒々しい紫色。

 それより伸びる鈍色の鉤爪は、それぞれ片手に、五。つまりは、両の手の数を合わせて、十。

 これだけを見ればまあ、色や爪の数に差異はあるとして、極ありふれた普通の手甲鉤である。

 

 ……だが、そこはルアンナ・ブラフィルドの契約武装。堅一に言わせれば、普通であるわけが、ない。


「――発射(シュート)


 ルアンナが呟くと、同時に。


 ――ビュッ! という風切り音。


 勢いよく発射されたのは、鉤爪(・・)

 彼女の宣言した通り、片手五本の内の二本、つまり両手合わせて四本が、まるで意思を持っているかのように。ルアンナの手から離れ、後方――つまりフィールド全体の内半分、堅一達寄りへと、バラバラに突き立つ。


 ――ザッ!


 その音、連続して四度。

 フィールドに突き立った鉤爪が、陽光を受けてギラリと鈍く光る。

 それを見るまでもなく確認したルアンナは、ボソリと唱えた。


「――連結(コネクト)


 が、しかし。

 何事も起きることはなく、見た限りではフィールド上に大きな変化は現れない。……だがそれは、ルアンナという人間のことを何一つ知らない者が見た場合の話だ。

 見える、見えないは別として。彼女を知る人間は、何が起きたのかを理解している。

 無論、当人であるルアンナは勿論のこととして、堅一も。ゆえに堅一は、今しがたのルアンナの行動を、こう認識している。


 ――巣の一部が、形成された。


 傍から見ただけでは、些細な変化すら認識することのできない、ルアンナの行動。

 しかし実際は、変化は確かに起きているのだ。

 つまり――手を離れ、フィールドに突き立った鉤爪と、元々その鉤爪のあったルアンナの手甲部分が、極めて細い糸で繋がった、という変化が。


 だが、その糸というのが、本物の蜘蛛の糸のように目立つ色ではなく、かつ細い。

 普通の人間であれば、そこにあると認知していなければほとんど気づくことはなく、またあると認知していてもよほど目を凝らして分かるかどうか。距離の関係はあるが、大体はそんなレベルの見難さ。

 よって、観客席に座る者のほとんどは、張られたこの糸が見えていない。ただ、ルアンナのことを知っているから、理解はしている、といった状況。


 自分より後方、斜め後ろに突き立つ四本の鉤爪を見回して、堅一は呟く。


「自陣に四、か。まあ、無難だな」

「ふふっ、忘れた? 堅ちゃんと組む時は、いつもこの配置よ」

「……そう、だった……なっ!」


 そんな二人の間に突如噴き上がる、水柱。

 呑気に言葉を交わしていたが、今は試合中。相手の――山形三造の、水による攻撃であった。


 堅一は、会話を切り上げ跳び退って回避。相手を前にして会話、という余裕を見せておきながらダメージを負ったならば油断大敵にもほどがあるが、幸いにも水滴一つ浴びることなく、ダメージは喰らっていない。

 では、ルアンナは。

 結論からいえば、彼女もまた、堅一同様に回避している。

 だが、その回避の仕方はといえば。普通の回避とは、少々異なっていた。


 回避をするのならば、跳び退るなり、移動するなり――とにかく、身体を、脚を動かさねばならない。

 しかし、彼女は自然体だった。身体の重心はぶれることなく、堅一のように、回避のために大きく身体を動かしてはいない。

 だが、回避している。元いた位置から、いつの間にか大きく離れている。

 その光景を見ていた者はきっと、こう言葉にするだろう。

 まるで、何かに引っ張られる(・・・・・・)かのように、ルアンナの身体が移動した、と。


 ――つまりは、これがソルジャー、ルアンナ・ブラフィルドの戦い方。

 武装特化型の天能。手甲鉤の爪部分を発射し、フィールドのあちこちに突き立てたそれらとの間に糸を繋ぐことで、巣を形成。ルアンナ自身と繋がるその糸を引き寄せるなどして、予備動作なく移動、回避を可能とする。

 巣の一部と化した鉤爪とは別に、発射せず手元に残っている鉤爪は、攻撃に。繋がる糸は、サポートに。

 多数の糸を操り戦うその姿は、まるで蜘蛛を連想させる。


 ゆえに、彼女に献ぜられた異名が――絡新婦。

 美しき女の姿に化けることができるとされた女朗蜘蛛、日本各地に伝わる妖怪の名である。


 ……が、彼女が絡新婦と呼ばれる所以は、それだけではない。


「――おおおおぉぉぉっ!」


 水柱の回避により宙に跳んだ堅一に迫る、人影。

 両手剣を振り上げて咆哮を上げるのは、もう一人の相手ソルジャー、山形一臣だ。その視線は、滞空する堅一へと真っ直ぐに向かっている。


 跳躍していた堅一の足は、まだ地面に着地していない。よって、急激な身体の移動は不可能。更に言えば、着地したとして、間に合うかどうか。

 それを見越しての、山形一臣の突進。


 ガード。いや、ただのガードでは不味い。身体強化をすれば、なんとか凌げる可能性はある。

 それか、ジェネラル(四十川)に頼るか。或いは――。

 堅一の脳裏に、複数の選択肢。その、刹那。


「――連結(コネクト)連結(コネクト)連結(コネクト)っ!」


 彼女の、声。同時に、右腕に何かが巻き付く感触。

 耳に届いたそれに、堅一は思わず表情を緩め。脳裏に浮かんだ選択肢を、破棄した。


「――ふんっ!」


 確信と共に、山形一臣が右足で地を強く蹴り、跳ぶ。

 突進から一切のスピードを緩められていないそれに、かなりの重さ、威力が伴っているのは想像に難くない。

 その勢いのまま、空中の堅一目掛けて叩きつけられる、両手剣。


「貰ったァっ!」


 必中を期した一撃。タイミング的にも、速度的にも、申し分ない。

 今度こそは、当たるはずだった。少なくとも、今の堅一の力量では。

 だが――この戦場には、もう一人。堅一の味方の、ソルジャーがいる。


 ぐんっ、と、堅一の身体が何かに力強く引っ張られるように、浮かんだ。

 ただ剣閃のみが流れ、攻撃の対象(堅一)を見失った両手剣は、虚しく地を叩く。


「……くそっ、今度こそあの女かっ!」


 確実に入るはずであった一撃をスカにされ、山形一臣は原因へと怒りの視線を向けた。

 その先には、腕を力強く振り上げた状態の、ルアンナ。


 ――絡新婦の伝承には、こういったものがある。


 ある男が滝壺のそばで休んでいると、どこからともなく現れた小さな蜘蛛が、男の足に糸を絡みつけてきた。その蜘蛛は、何度も往復しては、男の足にまた糸を絡みつける。

 最初はそれを不思議そうに、また興味深く見ていた男であったが。絡みつく糸の数が増えるにつれ、いよいよ訝しみ。その糸を近くの木に結んだところ、突如巨大な蜘蛛が滝の中に現れ、男が今しがた糸を結んだ木が滝に引きずり込まれていった、というものだ。


 このような、絡新婦によって危うく滝に引きずり込まれそうになった人間の伝承は、日本各地に存在する。無論、これ以外にも絡新婦の伝承は存在するが、まず有名な伝承だ。

 そして、ルアンナは。この伝承と似たように、何度も繋げることで糸を強くさせることができ。先の堅一のように、糸を結びつけた存在を力技で動かすことができるのだ。


 ――つまりこれらが、彼女が絡新婦という異名を持つ所以である。


解放(リリース)っ!」


 ルアンナの唱えた言葉により、堅一の身体を引っ張っていた()が、消える。

 その変化に動じず、冷静に着地しようとする堅一であったが。


「――ふふっ、はい、お帰り」


 その着地点に、ルアンナ。

 まるで待ち構えていたかのように両腕を広げた彼女は、落ちてきた堅一を抱きとめる。

 その両手には毒々しい手甲鉤が装着されているが、無論、堅一を傷つけるようなヘマはしない。


「……お前な」

「分かってる。この瞬間に、他にやることはあった」

「分かってるなら――」

「――ねえ、覚えてる、堅ちゃん?」


 憮然とする堅一に、ルアンナは肯定しつつも、しかしそれを遮り、腕の中の堅一に囁く。


「昔――貴方と、初めてのタッグ戦の練習をしていた頃。糸で引っ張った貴方を、よくこうやって私が抱きとめてたわよね?」

「……まあ、そんなこともあったな。俺は、何度も無事に着地できるといったのに、お前は暫くやめなかった。全く、余計なお世話だったよ」

「そうね」


 堅一の呆れたような物言いに全く動じる様子はなく、ルアンナはふんわりとした笑みを零しつつ、堅一を地面に下ろす。

 

「でも、久しぶりの――本当に、久しぶりの、タッグでしょ? なら、勘を取り戻す程度の、軽いウォーミングアップぐらいしなきゃ、ね?」

「…………」


 その声には、今までのふざけなど、全くなく。

 むしろ聞いたことのない、まるで長年待ち焦がれ、期待していたものがようやく訪れたような、そんな気持ちが込められていた気がして。

 だが、それも一瞬のこと。


「私が堅ちゃんを信じてるのは当然として。堅ちゃんも、私を信じ、身を任せてくれた。それを再確認できれば、充分。――私達のシュラハト(戦い)、存分に見せつけてやりましょ?」


 次の瞬間には、プロ選手として、一人のソルジャーとしての風格を漂わせるルアンナ・ブラフィルドが、そこにいた。

ちなみに、ルアンナの糸は他にも使い方がありますが、まだ出てません。なので、これで全てではないということで。


書いてたら予想以上に長くなってしまったので、前々から後書きなどで予告していた「第三の呪い」は次と次の次になります。決着も次の次あたりになるかと思います。本当は、今日と明日で一話分のはずでしたが、長さの関係で分割しました。すみません。

ちなみに、サブタイトルは「開眼、第三の呪い(仮)」です。


それでは、明日も読んでいただけたら幸いです。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ