番外編 ~彼、彼女が無名であった理由~ 1、縣恭介の場合
サブタイトルの通り、このお話は番外編となります。
1話の文中にあった、無名でありながら日本一をとった。隠れてないのでもうお分かりかと思いますが、これは堅一達のことです。
この番外編では、なぜ素質や力があったのに無名であったか、また堅一達との出会いのエピソードを書いています。
第一回は縣恭介。本来は二章が終わった後に入れようと思いましたが、酒の飲酒量に比例して強くなる、という天能も出たのでここに入れます。
次回予定は、ルアンナの場合。こちらは、二章最終話の後に入れる予定です。よろしくお願いします。
今でこそプロとして密接に関わっているが、しかし縣恭介は成人となるまでシュラハトとは無縁の生活を送っていた。
無論、シュラハトの存在自体は有名ではあったため知ってはいたのだが。恭介が学生生活を過ごしたのは、シュラハトの教育機関ではなく一般の学校であった。
何故なら、恭介は知らなかったのだ。己の身体に、秘密があったことを。
縣恭介がその身に宿る異能を認知するようになったのは、齢二十を過ぎてのことである。
彼の能力――天能の発動条件は、アルコールの経口摂取。天能の有無を調べる検査でもしなければ、実際にアルコールを摂取しない限りその力は公にならない。
そして、恭介の両親は、その検査を恭介に受けさせていなかった。検査は絶対に受けさせる必要があるというものでもなく、すくすくと成長しても恭介に異常な点――つまり天能が宿っているような素振り――が見受けられなかったためである。
だがまあ、飲酒だけがアルコールの経口摂取の方法かというと、そうでもない。例えを上げれば、ブランデーを含んだチョコレートといったものからでも、アルコールの経口摂取は可能だ。
ゆえに、微弱に摂取した可能性もゼロとは言い切れないわけだが、しかし恭介はその時まで己の変調に気が付くことがなかったわけである。
二十歳にもなり、酒を飲むように――アルコールを摂取するようになった恭介は、すぐに己の身体の変化に気付いた。
身体が、異常に熱くなってくるのである。もちろん酒の影響はあるだろうが、それだけではない。恭介が初めて酒を飲んだ日、彼はグラスを片手で握りつぶして粉砕した。別段、力を強く込めたわけではないというのに。
異様な昂揚感に、無限に溢れ出るような力。
その初めての感覚に戸惑いながらも、恭介は自分を押さえることができなかった。つまり――力に振り回されるように、暴れたのである。
元々やんちゃな気質であり、また体格に恵まれて大柄だった彼の暴れようは、それはもう凄まじかった。
そして運が悪かったとでもいえばいいのか、恭介が初めて酒を体験したのは、そこそこ親しい知人数人で訪れた居酒屋。
結果、器物損壊、威力業務妨害と、さらにその影響で、少なくない怪我人が出た。
無論、現行犯で警察の御厄介。天能持ちの犯罪者を専門とする部隊が動かなかったのは、あくまで酒で暴れたという認識であったためだろう。
恭介の体内のアルコールが、力が抜けはじめ、大人しくなってきたところをようやく数人がかりで取り押さえた、という終わりであった。
その、暴風の如き暴れよう。こと、常人では壊せないようなものを呆気なく粉砕する尋常ではない力。怪我人のみで済んだのは僥倖であり、下手をすれば死人が出てもおかしくはなかったのだ。
それを目の当たりにした恭介の知人は恐れ、また距離を置き。彼らによって恭介の起こした事件の情報は広まり、知人は全て恭介から離れていった。
これが、ただ酔って暴れただけなら、反省の材料となりつつも笑い話となっただろう。だが、それではとても済まされないほどの、大暴走であった。
酒を飲んで大事件を起こした厄介者。よほど親密であるならともかく、好き好んで関わりたくない部類であるのは誰しも当然のことだろう。
そしてそれと引き換えに。ようやくこの時恭介は、己の身に天能が宿っていることを知ったのである。
「……ふぅ」
初めての飲酒による事件を引き起こしてから数か月後、縣恭介は人気のない深夜の公園のベンチで一人、月を見上げながら缶ビールを手にしていた。
あれ以来、恭介は居酒屋に行っていない。いや、行けるはずもなかった。
自宅で飲むにしても、狭く、色々と壊してしまうので駄目だ。
では、飲まなければいい。
極論、それが最も平和的解決であったが、しかし恭介は忘れることができなかった。
酒の味を、ではない。酒を飲んだ時に感じた昂揚感、そして今まで感じたことのない力を、だ。
それを、遠慮することなく振り回すことができれば、どれだけ気持ちのいいことだろうか。
どうにも悶々とした気持ちを抱えて、数日。我慢の限界を越えた恭介はある日、夜遅くに人気のない場所を探し、この公園に辿り着いた。
酒といったら、やはりというわけでもないが、ビールである。そんな単純な思考で用意したのは、スーパーで購入した缶ビールだ。事件を起こしたとはいえ、それは年齢的に問題なく購入が可能であった。
おそるおそるそれを袋から取り出し、見つめ。無意識に生唾を飲み込む。
プルトップを開けば、その際に生じる微かな音が、静寂とした公園に反響した。
「…………」
一瞬の間。次いで、恭介は一気にそれを呷る。
――そして、その苦みに顔を顰め、思わず吐き出しそうになった。
なんとか堪え、強引に口の奥へと通す。それも束の間、ゴホゴホッ、と咳き込んだ。
「こんなに苦ぇのかよ……」
あの時に飲んだのは、初めてということもあり、軽めのサワーであった。ビールは、今日が初めて。
それでも、やはり捨てるのも勿体なく。大の大人がちびちびと、一口、二口。
すると徐々に、それは現れてきた。
血液が沸騰するかのように熱く、湧き上がる力。
その影響かは分からないが、飲んでいくうちに、気付けばビールも別段苦いと思えなくなっていた。
ベンチに缶ビールを置き、徐に立ち上がる。
何をしようか。ふわふわとする頭で考え、取り敢えず恭介は拳を振るった。
「……ははっ」
笑い声が、思わず口から突いて出る。
実際、それは大きな快感を伴うものであった。
ストレスの発散に似ているが、またそれとは違った感覚。
次に、足を蹴り上げる。ビュッ、という風切り音と共に、公園の砂を巻き上げた。
それからはもう思うがまま、自由に動いた。
拳を、足を、がむしゃらに振り回す。仮想の的を幻視し、思うままに乱舞する。
実際の対象がないのは不満といえば不満だが、ただ振り回すだけで自然と溜飲が下がっていった。
――これは、いい。
恭介の唇の端が、吊り上る。
その日を境に、恭介は度々これを続けることになった。
それからまた少しの月日が経過した、ある日。
恭介は、いつもの如く人気のない深夜の公園に来て、酒を飲んでいた。
いつも通りに来て、いつも通りに拳や足を振り回し、少し酔いを醒ましてからいつも通り帰宅する。
そんな、いつも通りのこと、のはずだったが。
しかし、この日は違った。
「――やあ、お兄さん。こんばんは」
幼い響きを残す声。
がむしゃらに身体を動かしている時に、それは恭介の耳に飛び込んできた。
邪魔された、という感情と、深夜の公園に似つかわしくないその声に、恭介は動くのを止めて眉を顰める。
果たして、恭介が予想していた通り。振り返った先にいたのは、二人の子供であった。
黙然としているのは、黒髪の少年。その顔に表情らしい表情はなく、ただただ恭介を見据えている。
そして、朗らかな口調で恭介に声をかけてきた――白髪の少年。全体的に髪が長いが、殊更前髪は長く、見下す形となる恭介からその表情を窺い知ることはできない。
「なんだ、お前等? 子供が遊んでるような時間じゃねぇぞ」
ぶっきらぼうに、恭介は返答する。
近くには、彼らの親らしき存在はない。その上、見た感じ、中学生にもなっていないような子供だ。
相手にするのも馬鹿らしく、恭介は身体を動かしに戻ろうとする。
だが、恭介の意識は再び少年達へ向けられることとなった。
「ねえ、お兄さんは、面白い力を持っているね」
唐突なその言葉に、あん? と恭介は訝しむ声を上げる。
「その力で、シュラハトをやろうとは思わないの?」
その予想外の言葉に少々戸惑うも、恭介はしっし、と手を払った。
「……いいから、さっさとお家に帰んな坊主共。お子様は、もう寝る時間だぜ?」
「答えてくれたら、僕達は行こうかな」
相も変わらず顔が分からないが、朗らかな声の白の少年。
一体、何がそんなに面白いのやら。
はぁ、と恭介は溜め息を吐く。
「ないな。そら、これでいいだろ、分かったらさっさと――」
「でも、その力を活かさないのは、僕は凄く惜しいと思うよ」
恭介の言葉を遮るように、白の少年は当たり前のように言い放った。
何なんだコイツは、とこめかみを押さえつつ、恭介が問う。
「……んで、何が言いてぇんだ?」
「うん、だからさ――」
すると、少年は言ったのだ。
先程から変わらない朗らかな、それでいて確かな自信に満ち溢れた、その声で。
「――僕達と頂点、目指してみない?」
は? と恭介がポカンと口を開ける。
一瞬、何を言われたのか分からなかった。――いや、今でも分かっていない。
「……何の頂点だって?」
「シュラハトで、日本――やがては、世界の頂点へ」
「…………」
シュラハトには、関わらない。
これは、白の少年の問いに対し適当に答えたのではなく、恭介の本心であった。
事件を起こし、己の天能が発覚した日、連行された恭介は、問いを投げられていた。
つまり、シュラハトに関わるか、否かを。
選手を目指すのであれば、と言葉を続けられたのに対し、否、と恭介はすぐさま答えた。
天能があると知ったからといって、そんな気にはならなかったのだ。
なぜなら、シュラハトの選手を目指す者は、ほとんどの者が幼い頃からその力を自覚し、切磋琢磨しているものである。この年でいきなり、というのは些かどころではない抵抗があった。
それに、選手を目指すのであれば、自分はソルジャーとなり、パートナーたるジェネラルとやらを探さねばならないのだろう。そんなのより、一人、自由で気楽にやるのがいい、というのが恭介の考えだった。
シュラハトに関わらず生きていくのなら、飲酒の際は充分に注意すること。また問題を起こせば、今度は対天能持ちの犯罪者の部隊に所属する者が、恭介を捕まえるだろう、などとかなりの厳重注意を受けたのだが、それもこうして発散すれば問題はないし、満足でもある。
と、自分が意外にも考えているのに気付き、恭介は自嘲するように鼻をならした。
所詮、子供の戯言。一体何を真に受けているのか。
それに、仮にその気になったとしてもだ。こんな子供では論外。
「ああそうかい、そんじゃ、精々これから頑張るんだな。俺は言った通り、シュラハトには関わらねえからよ」
軽く流し、ヒラヒラと手を振る。
「じゃあ、僕達と勝負、しようよ」
「勝負だあ?」
まだ食いついてくるのか、と恭介は呆れながらも問い返した。
「うん。僕はジェネラルで、こっちはソルジャーの堅一。この二人で、お兄さんと戦うんだ。それで僕達が勝ったら、お兄さんはソルジャーとして僕達のチームに入る」
恭介は無言で、二人の少年を見た。
どこか掴み所のない、白の少年。一言も口を開かず、子供にしては鋭い眼で恭介を見る黒の少年。
なるほど、ジェネラルとソルジャーなら、これまでの話はまあ分からなくもない。
しかし、だ。
「おい、いい加減にしろよ坊主共。俺は、ガキの遊びに付き合ってやるほどお人好しじゃねぇんだ」
普通の子供ではないといえど、恭介から見ればやはり二人はただの子供でしかない。
まだそこそこにしか動いておらず、身体は満足していない。だが、恭介は興をそがれたと言わんばかりに、公園の外へと足を向けた。
飲酒の回数が増えるにつれ身体は慣れてきたのか、以前のように酒を飲んだだけで暴走することはなく、ある程度力の制御ができるようになりつつあったのだ。
「――逃げるんだ?」
「あ?」
だが、白の少年が発した一言により、その挙動がピタリと止まる。
「こんな子供二人を倒せないほど、お兄さんは弱いんだ?」
「……そこまで言ったんだ、覚悟はできてんだろうな」
振り返り、脅かすように凄む。
しかし、それで少年達がたじろぐことはなく、むしろ黒の少年が白の少年の前に立ち、恭介と向かい合った。
「もちろんだよ。もし僕達がボコボコにされても、お兄さんにやられた、とか言いつけたりしないからさ」
黒の少年の後ろに立ちながら、肩を竦めるように白の少年が言った。
それがどうにも馬鹿にされているようで、ピキッ、と恭介の青筋が立った。
「……上等だ! ガキだからとはいえ、一切容赦はしねぇ! 一発ずつぶん殴って、すぐに終わりにしてやらぁ!」
まだ体内に残っている力を解放し、恭介は勢いよく二人の少年に迫る。
だが、それでも二人の子供に怯むような様子が見受けられない。
なら、二人に一撃入れて、速攻で終わらせる。――終わらせられると、恭介はそう確信していた。
「――任せたよ、堅一」
「ああ」
その声が、聞こえるまでは。
白の少年が、迫りくる恭介から距離をとるかのように、後方に跳んだ。
恭介がそれを視認した、瞬間。
「がっ!?」
腹部に強烈な衝撃。恭介の息が詰まる。
目線を下げれば、いつの間に懐に入ったのか、黒の少年の拳が恭介の腹に突き刺さっていた。
「ぐっ……おらぁ!」
痛み、そして子供にしてやられたという屈辱を堪えながら、黒の少年に向けて腕を薙ぎ払う。
だが、黒の少年は軽やかな動きで危なげなくそれを躱した。
二人の距離が離れる。
「――さ、本気で来てよ、お兄さん」
白の少年の凛とした声が、深夜の公園に響く。
大きな余裕を含んだそれに、ギリッ、と恭介は歯噛みする。
「らぁああああっ!!」
そして。
気付けば、相手が自分が散々馬鹿にしていた子供だいうのも頭の中から消え、恭介は拳を振り上げて吶喊していた。
――――――――
気付けば、恭介は大の字となって地面に仰向けで横たわっていた。
胸が大きく上下するほど呼吸は荒く、全身がきりきりと痛む。
目を開けば、そこには漆黒の夜空が広がり、ぼんやりと月が輝いている。
その光景は、恭介の心に落ち着きを与えていた。
「ふぅ……」
吹き抜ける夜風に身を任せ、恭介は大きく深呼吸する。
と、その時。視界の隅に真っ白の髪が映った。
「僕達の勝ち、だね?」
「……ああ、どうやらそうみてえだな」
白の少年の問いに、恭介は否定することなく言葉を紡いだ。
目線だけを動かせば、そこには横たわる己を立って見下ろす、黒の少年の姿が見えた。
「じゃ、回復するよ、お兄さん」
と、不意に、淡い緑色の光が恭介の身体を包んだ。
お? と若干の驚きと共に、恭介は首を動かして自身の身体を見る。
優しく、心地よい光だった。
四肢から疲労が抜けていくのを感じ、恭介は未だ光が漂う中、上体を上げる。
ふと見れば、自身を包む緑の光が、同じように黒の少年の周囲にも集まっていた。
「今のが、坊主――いや、お前さんの天能とやらかい?」
そう恭介が白の少年に問いかければ、そうだよ、と白髪を揺らして彼は頷いた。
まもなく消失した、緑の光。恭介の中にあった疲労は、さっぱり感じられなくなっていた。
「しかし、まさか子供一人にやられるとはなぁ……」
しみじみと、恭介は呟く。
なにせ、一歳二歳どころではなく、何歳も離れていそうな子供に、である。
戦う前には微塵も考えなかった敗北。正直、今でも信じられない気持ちがなくはないのだ。
すると、その恭介の呟きを受けてか、白の少年が若干不満そうに口を尖らせた。
「酷い言い種だね、お兄さん。一応、僕も堅一と一緒に戦っていたんだよ。確かに、僕の天能は回復だから、他のジェネラル達と比べて出番は少ないほうだし、視覚的に派手なサポートもできないけどさ」
認めつつも、といった口振り。その声に悲哀は感じられず、しかし本心ではそれを悔しく思っているのか、否か。
それを恭介が知る由もないが、一つ、分かったことがあった。
「そんなことはない。俺は、お前が後ろにいるから安心して戦える」
「あはは、ありがと、堅一」
黒の少年の、大きくはないが強い意志を感じさせる声。朗らかに笑いつつも、微かな喜色を滲ませる白の少年。そこには確かに、目で見えずとも大きな絆、信頼関係があった。
「そうか……坊主達二人に、だな。悪かった」
自分は、黒の少年一人に負けたのではない。ジェネラルとソルジャー、つまり白の少年と黒の少年、その二人に負けたのだ。
それを理解すると同時に、恭介にはその関係が眩しく映った。
今の自分には、そんな関係の人間はいない。
無論、学生時代には友人、知人と呼べる存在はいたにはいた。だが、絶対の信頼を寄せる大親友がいたかというと、そうでもなかった。
そして、少なくはないが多くもなかったそんな人間は、恭介の起こした事件によって、皆離れていった。
恭介自身、それは仕方のないことだと思っていたし、絶対の信頼を寄せられる存在を渇望していたわけでもなかった。
なのに――どうしてだろうか。
眼前の、恭介よりも幼く、また小さいはずの二人の子供が。羨ましく、また大きく感じられる。
「――じゃ、お兄さん。ソルジャーとして、僕達のチームに入ってくれるかな?」
未だ地面に腰を下ろしたままの恭介に差し出される、手。
その手を突っぱねることができなかったわけではない。
実際はただの口約束。逃げようと思えば、逃げることは可能だったと思う。
子供の口車に乗せられ、その結果敗北を喫する。しかも、己は無様に横たわっていたのに、相手は問題なく立っていられたほどの惨敗である。
羞恥が生まれるのは、どうしようもないことだろう。
けれども――不思議と、不快感はなかった。
「……ああ」
そして縣恭介は、その手を取った。
それから、一年も経過していない、ある日。
「――恭介、はいこれ」
ソルジャーとなることを決め、日々を特訓していた恭介に、白の少年が一つの箱を差し出した。
突然のそれに、なんだ? と恭介は首を捻る。
小さくはない、そこそこの大きさを有した白い箱。プレゼント、だろうか。しかし、今日は恭介の誕生日ではないし、贈り物をされるような記憶もない。
それでも、促されて箱を受け取った恭介に、開けてみて、と白の少年は言った。
「……瓢箪、か?」
入っていたのは、茶色の瓢箪。
中ほどに紐が巻かれ、結わえ付けることが可能となったタイプのものだ。
これは、と視線で問う恭介に対し、白の少年が宣言する。
「今後、恭介はこれにお酒を入れて戦闘に臨むこと。とんでもなく強い相手は別として、これ以上のお酒を使わずに、相手を倒し切ることを常の課題としよう」
「むぅ……」
反応に困り眉を顰める恭介を前にして、白の少年は箱の中の瓢箪を取り上げると、そのまま恭介の腰元へ結わえ付けた。
そして、少し離れてから恭介の全身を見て、一言。
「うん、よく似合ってるじゃないか」
恭介も自身の腰元を見つつ、
「ありがてぇけどよ、この大きさなら、全力を出せるほど酒が中に入らないぞ?」
率直な疑問を白の少年にぶつける。
すると、白の少年は微かに笑い、首肯した。
「それでいいんだ。並の相手に、一々全力は出さない。天能の力に頼りきりじゃない、自身の技術で倒すんだ。そうすれば、恭介は今よりもっともっと強くなれるはずだよ」
「……ふむ」
なるほど、特訓の一環というわけだ、と恭介は納得する。
だが、そこで終わりではなく、それにね、と彼は続けた。
「一戦ごとにお酒をガバガバ飲んでちゃ駄目だよ。ほら、飲みすぎは身体によくないでしょ?」
茶化すような、それでいて恭介のことを心配しているような、そんな言葉だった。
「お、おう……そうだな」
「うん、それでよし。それじゃ、皆の所へ行こう」
若干面食らい、呟くような返答となった恭介。
そんな恭介に、白の少年は満足気に頷くと、背を向けて歩いていった。
「…………」
残された恭介は、しばらく腰元に結わえ付けられた瓢箪に目を落としていたが。
「……へへっ、嬉しいねぇ」
鼻に手をやり、少々照れつつも満更でもないといったように笑みを零す。
傍目には、ただの地味な色をした瓢箪。それでも、恭介はその瓢箪から、白の少年との絆と、その気遣いが感じられた。
その瓢箪を、別のジェネラルと契約した今でも、縣恭介は大切に使い続けている。
ルビ振ってますが、黒の少年は過去の堅一です。
白の少年の名は、まだ出ません。番外編ではなく、本編で。なぜ恭介のことを知っていたのか、或いは偶然出会ったのか、そういうのも本編です。




