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ベター・パートナー!  作者: 鷲野高山
第一章 パートナー契約編
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一話 過去の栄光

 人が、人を使役する。

 世界は、いつだってそんな光景で満ち溢れていた。


 では、その光景とは。

 仕えるべき主人とその従者か。それとも、仕事においての上下関係か。 


 ――答えは、否。


 とはいえ、それらも決して間違いではない。むしろ、正解であると言えるだろう。

 しかし、それよりも明確で、より身近な形が、この世界には存在する。


 使役される側は、ソルジャー(戦士)。使役する側をジェネラル(指揮官)と呼称する、それは。

 人間(ジェネラル)が、己と契約した人間(ソルジャー)を使役し、戦い合うのだ。


 ――シュラハト(・・・・・)

 その光景は、そう呼ばれている。


 世界ではそれが当たり前のように認知されており、各国では、育成のための教育機関はもちろん、公式な大会がいくつも行われ、ジェネラルとソルジャーの強化に力を入れている。


 有り体に言ってしまえば、一種のスポーツ、あるいは娯楽と言えなくもなかった。


 しかしそれは、ただの戦闘では断じてない。

 ソルジャー同士が激突し、ジェネラルは戦闘の指示及び援護、補佐。

 互いに、人知を超えた力(・・・・・・・)を発揮し、ぶつかり合う。それが、シュラハトの常。


 その力を総称して、天能(てんどう)という。

 天才、というものが天より与えられた才能であるならば。天能とは差し詰め、天より与えられた異能力。


 その未知なる力はさながら、お伽噺でしかない魔法や、常人には理解できない超能力とでも言うべきか。


 ――だが。

 いつから、そして何のために。人々にその不可思議な力(天能)が宿ったのかは、公にされていない。

 確かなのは、誰もがソルジャー、ジェネラルになれるわけではなく、生まれながらの才能や素質がいることだ。

 あまりに謎が多いその力。しかし世界は、当たり前のようにそれを認め、受け入れていた。



 そして。

 かつてその「シュラハト」にて、日本一となった者達がいた。

 戦いがあるのなら、勝者がいるのは必定。日本一が決定するのは当たり前と言える。


 しかしある年、その結果を聞いた者達は皆、耳を疑った。


 その頂点に輝いたのは、さして知名度の高くないチームであり。その上ジェネラルは(よわい)(10)になったばかりという、まだ幼い少年だったのである。

 年齢制限がなく、屈強な大人達が参加する大会での、正真正銘の日本一。

 確かに、そのジェネラルと契約するソルジャーの中には、ジェネラルの倍以上の年をもつ大人もいたが。

 ――それでも、あまりに若い。


 人々は驚愕し、されど彼らを知って興奮した。


 ジェネラルは複数のソルジャーと契約することができ、一つのチームとなる。

 そして、その若き覇者であるジェネラルと契約したソルジャー達は、精鋭揃い。圧倒的、それでいて華麗さも伴った力は人々を魅了した。

 しかし、讃える者がいれば、そうでない者もいるわけで。その功績を「まぐれ」や「二度目はない」と否定する声もあった。


 だが、それでも。それは確かに、彼らの名が竹帛に垂る瞬間となったのである。


 ――しかし、突然にその時は訪れた。

 日本一をとって僅か数日後の、チームの解散。

 チーム内の不和、ジェネラル死亡説などが囁かれたが、そのどれもが憶測であり、理由は知られていない。


 死亡説が囁かれる原因となった若きジェネラルの失踪。そのジェネラルがいなくなっては、と残されたソルジャー達は別のジェネラルと契約をすることになる。


 精鋭である彼らを自分のソルジャーに、と申し出るジェネラルはそれはもう多く、引く手数多。

 バラバラになったチームは、事実上解散。それはもう呆気なく消え去ることとなった――のだが。


 ただ、一人。他のジェネラルと契約しなかったソルジャーがいた。

 勧誘がなかったわけではなく、むしろその逆。他のソルジャー同様に次から次に話が舞い込んでいた。


 知勇兼備の能力的に優れたジェネラルから、能力的には見劣りするものの特別容姿に優れた美人のジェネラルまで。それはもう様々なジェネラルが契約を希望したが――しかし()が首を縦に振ることはなかった。


 それでも、しばらく勧誘は続いたものの。一年、また一年と時が経てば、誘いを諦めるジェネラルが続出。結局、彼は誰とも契約することはなかった。


 何年も経てば、人の記憶とは薄れるものだ。それも、長年人気を誇った者であるならまだしも、ポッと出といっても差し支えないチームのソルジャーの一人。

 やがて、彼のその後を気にする者は徐々に減っていき――やがて彼は、シュラハトの表舞台から姿を消した。


 もっともそれは、彼だからであり、他のソルジャーであれば、記憶に残す者は多かっただろう。


 と、いうのも。

 まず、彼は地味であった。その身に宿る(天能)に派手さがなく、戦場に立っていて尚、周囲に比べて目立つことがあまりなかったのだ。単純な話、周囲が華やかすぎたために、その陰に埋もれてしまったのである。

 それに加えて、公式戦の出場記録の少なさ。

 彼を間接的にしか知らない人々の中には、チームにいられた理由を「ジェネラルと特別仲がよかったためのお情け」と、陰口を叩く者もいた。


 そして、契約の勧誘を拒んだことから、彼はソルジャーとして生きるのをやめた。そう人々は噂し――年月の経過が、やがて彼という存在を忘れさせた。


 容姿はもちろんのこと、その名前さえも、実際に目にしてようやっと思い出せるかどうか。

 

 ――しかし、ただ一点。人々の記憶の奥底に、鮮烈に刻まれたものがある。


 ああ、そういえば。

 彼もまた、ジェネラル同様に、年若い少年のソルジャーであった、と。

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