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二人になる
それから、とまと百合子の関係は変わった。変わりましょう、と言葉を交わした訳では無いが、確実に変わったのだ。ある秘密の共有を通して。
二人だけの秘密を得て、一人と一人であった少年少女は、お互いを受け入れて二人になった。
その秘密とは、百合子の境遇であった。彼女が、百合子とユーナという、二つの名を持つ理由である。
ある穏やかな晴れた日に、二人はいつもの森で身を寄せ合っていた。ふいに百合子が膝を抱えるように態勢を変え、鈴の音が響いた。
「ねえ、とまは私の名前の事、もう聞かないのね」
茫洋とした、それでいて寂しそうな声に、とまの胸が痛んだ。
「正直、聞きたい気持ちはある。でも、君がしんどいことは話させたくない」
それは不器用なとまなりの、気遣いだ。しかし、返ってきたのは彼女の痛々しいまでの怒りだった。
「…とまって、自分勝手ね。そう、勝手よ!
私は、貴方に話したいのに」
百合子は、泣き笑いのような表情で、ぽつりぽつりと語り出した。