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灰色の花  作者: 風子
8/9

目覚めと愛しさ

百合子は、音も立てずに僕のなかに溶け込んでいた。


悪夢から目覚めたとまは、唐突にそのことを理解した。百合子を受け入れるのに、ほとんど抵抗は無かったのだ。彼女が纏う灰色の空気は、不思議な温かみを持ってとまの胸に宿った。


「惚れたとか、そんなんじゃない」


その言葉は、少年が“惚れる”という感情を知らないがゆえだった。

確かに、愛しさは彼のなかに息づいているのであった。自覚するのは、まだ、もう少し先だろうが。


気づけば、とまは洋館の森に足を向けていた。これほど身体が軽いのは初めてで、嬉しいのか怖いのか、妙な気分がしていた。

心地よい、夕方。

あの鈴の音色が、橙の光と共に踊った。


「あら、御機嫌よう。岩木さん?」


「とまでいい。こんな苗字、捨ててやりたいくらいだから」


「そうなの。じゃ、とま。お会いしたかったわ」


百合子の言葉に、我知らず涙が込み上げた。あの悪夢のせいか、驚くほど涙もろくなっていた。


「百合子」


「なあに?」


「百合子、会いたかった。いや、会いに来てしまったわけだけど」


「嬉しい。とまと私、きっと似た者どうしよ。仲良くなれるに違いないわ」


以前より砕けた口調と表情で、美しい少女はいたずらっぽく微笑んだ。

とまの胸が、どくんと鳴く。

ユーナとは何なのか、身体のどこが悪いのか、聞きたいことは沢山あったが、その笑顔を見ていると全てどうでもよくなってしまった。


「お近づきの、しるし」


その言葉が終わらないうちに、とまの手の甲に艶やかな黒髪と、清らかな頬が触れた。

百合子が、その可愛らしい頬を、少年の手の甲にすり寄せていたのだ。

どこの国の作法だろうか。しかし、人形のような百合子に、その動作はひどく似合っていた。


「改めてよろしく、百合子」


確かめるように名を呼んで、とまは少女の黒髪に、激情で震える指先で触れた。

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