少年と涙
この子を、生かして高校までは卒業させて
お金は出します
ダメ親の経歴は欲しく無いの
そこまで面倒見てくれたら、私の遺産も保険金も、叔父さんにあげるから
誓約書には、それだけが書かれていた。
そこには、我が子に掛ける情などなかった。ただ自分勝手な女がいるだけなのだ。
幼いとまは、心の何処かで、母親の愛情を信じていたのかもしれない。
読み終えたあと、枯れていた数年分を取り返すように、少年は泣き続けた。声も上げずに、嗚咽だけを漏らして。
小学校、中学校、高校でのとまの境遇は、想像に難く無いだろう。子供は無邪気で残酷だ。それでも、金に目のくらんだ叔父と親戚の暴力から逃れるためには、通い続けるしかなかった。
しかし、高校の頃初めて、とまは自分を嫌悪しない人間に出会う。それがヒロタカだった。
高校生にもなれば、いい加減嫌悪と疎外に慣れっこになってしまっていたが、彼が現れてから、とまは生まれ変わったように人間らしくなった。
しかし、人間らしさを覗かせるのはヒロタカと2人のときだけで、それ以外のときは沈黙を守った。
どのような扱いを受けようと、そうしておとなしく居るのが身を守るのに有効だと、身体に染み込んでしまっていた。
苦しいと声を上げることさえ、許されないと思い込んでいた。
ヒロタカに出会ったときは、彼を受け入れるのにずいぶん抵抗したんだったな、ととまは思った。何も信じられずに闇の中に座り込んでいたから…。
ふいに、自分を取り巻く闇よりも深い、艶やかな黒がなびいた。
それからふわりと揺れる白。
知らないはずの懐かしさに、熱いものがこみ上げる。
とまは回らない頭で考える。
それ、は、一体、誰だったか………。