7 気づいているのか?(ゼイン視点)
紫髪の殺し屋、ゼインさん視点です
いつものように仕事をこなした後、オレは西校舎から少し離れた所にある森に来ていた。
ここには武器の手入れや日々の鍛練の為に来ている。
部屋でやってもいいが、部屋にはルームメイトがいるからか、煩わしくてしょうがない。
さて、大切な仕事道具を綺麗にするか。向こうであらかたは拭き取っておいたので後は磨いたりするだけだ。
オレは手入れ道具と武器を取り出し磨き始めた。最近ではもう魔法で手入れを出来たりするが、オレは手作業で手入れするタイプだ。
もはや、自分の半身並に慣れ親しんでる武器を戦いの場で壊れるならばまだ良いとして、こんな場所で魔法で手入れしたがために壊れたりしたら最悪だ。
まぁ壊れはしないのかもしれないが、気持ちの問題的に嫌だ。
なんかこだわりを持っているのかもしれない。
しかし、最近は仕事が少し減ってきたな。
磨きながら、少し思う。
昔が多かっただけなのか、何なのか、最盛期に比べると三分の一も減っている。
不景気? なのか、ただ平和なのか?
「ま、殺し屋なんて商売流行って良いわけねぇよな」
ボソッと自嘲気味に呟いてみる。
ガサ……。
少し遠くの茂みが軽く音を立てた。
聞かれたか……!?
バッ
武器をかまえ、腰を浮かせる。
森になんて普通の生徒は、そうそう来ないと思ってたせいか油断していたようだ。
殺し屋失格だな。
カサ、カサと音は近づいてくる。
オレは息を殺し、音が近づいてくるのを待つ。
音はだんだん近づいてきて。
カサ……。
という音が他の場所から聞こえて、鳴っていた音は止まった。
二人いるのか?
気配的に一人だと思っていたが、何かおかしい。
何故か分からないが、よくない気配がする。
誰だ?
オレが不可解な気配を感じて動けないでいると。
パンパン、と手を打つ乾いた音が鳴って。
「鬼さん、こちら、手の鳴る方へ」
女の声が聞こえた。
出てこいと、言うのか?
一応、オレは気配を殺している。だから、さっきの別の場所からの音に反応しての事だと思うが。
……。
もう一人の方は出る気はねぇか。少しだけ待ってやるが何かが動く気配は無い。
出てやるか。独り言を聞いてないか、確認しないとな。
オレから離れた少し遠い位置だったが、エルフだとかだと、そんなのは関係なく聞こえる。
「……誰だ? お前」
相手の真正面の茂みから相手の背後の木のそばに移動し。
威嚇するように聞く。女は途端に振り向き、恐怖に顔を歪ます。
聞いてたのか? やっぱり。
しかし、目の前の女はエルフではない。
少しふわふわしている短めの黒髪、幼げな顔、そして大きめの黒目。ガキだ。
大人っぽいエルフじゃ有り得ねぇな、髪の毛は基本的に金髪や茶髪が多いし。
じゃあ、聞こえていたわけではないとすると。
なんでこの女はこうも怯えてる?
しばらく、女は観察するようにオレを見ると。
女「……はぁ……出てきちゃいましたか、鬼さん」
ため息をついた。
意味が分からない。ため息をつく理由も、急に怯えを引っ込めたのも。
オニサン、という単語も。
お兄さんか? なんか違う気がするな。聞いてみるか。
ついでに会話をしてみて独り言を聞いたかどうか、反応をみてやろう。
ゼイン「オニサンとはなんだ」
オレが聞くと、あっ、と何かに気付いた素振りをして説明しだす。
女「えーと……鬼は人を傷つけたり、物を奪ったりする、悪者だけど……心優しいのもいたりする種族?」
なんだ、その種族は聞いたことがない。そんな人に害を与える種族なら知らない訳がないのに。
しかも、この女はオレをそのオニと呼んでいた。
つまり、オレの事を。人を傷つけたり、物を奪ったりする悪者だ、と言いたいわけか。
やっぱり聞いていたのか?
その上でこの女は
ゼ「オレを悪者だと、そう言うのか? 女」
心優しいとか、なんとか言い訳のように付け加えてたが。関係ない。
方法は分からないが、こいつは聞いていた可能性が高いのだろう。
殺し屋は悪い印象しか抱かれないのを知っているが。真正面に悪者だ、と言われると。
――さすがに苛つくな。
女「ち、違います。私の国では追いかける役の鬼を作り、鬼は追いかけて他の子に触るとその子が鬼役となって……追いかけあいをするという遊びがありまして……」
意味が分からない。何故、今遊びの説明をする。
女「その遊びの時に、鬼役に挑発の意味合いであれは使いまして……」
“鬼さん、こちら、手の鳴る方へ”
オレが姿を見せる前にそんな事を言っていたのを思い出す。
ゼ「挑発……か?」
オレが殺し屋だと知っていて、挑発……。
これは宣戦布告か? こんな弱そうな女に勝てると思われ、挑発されたのか?
なめられたものだな。
殺気が抑えられずに辺りに広まる。
女「……っ……という訳なんで、迷子になって困ってます。助けてください!」
女は目をさ迷わせた後、ガバッと頭を下げた。
は? どういう訳だよ。
迷子? これは……油断を誘う罠か?
オレが理解出来ずにいると女は更にいい募った。
女「寮に連れていってください!」
学園の生徒か。……それじゃあ少し様子を見て、知っていると確信を得たら。
殺すか。
ゼ「……はぁ、意味が分かんない」
ため息をついて相手が油断をするように口調を柔らかくする。
女は気づかないのか、少し安心したような顔をした。
その顔を見て、意地悪してやろうかと思ったオレはわざと嫌がるようなあだ名を付けてやった。
ゼ「来い。連れていってやるよ、鬼女」
嫌そうな顔を女はした。
その顔を見て、してやったりとばかりにニヤリと笑うのを抑えられなかった。
[おまけの帰宅後]
寮に近づくにつれて誰かがいると気付いた。
綺麗で頭が良いと有名な銀髪のシルバスと、女好きの金髪保険医ディノスだ。
シルバス「どこ行ってたんだ! ユウ!」
シルバスは急に走ってこちらに近づくとガバッと鬼女に抱き付いた。
鬼女からも腕を回すと。
鬼女「ごめんなさい、兄上」
と言いやがった。
兄上? だと? 鬼女とシルバスが兄妹か?
ディノス「ほんとだよ、心配したんだよ」
ディノスが横から口を挟んでくる、よく見るとその頬は、うっすらと腫れている。
何があった?
鬼女が睨んでいるのを見てピンときた。大方手を出そうとしたのだろう。この保険医は節操がないからな。
ゼイン「……届けましたので」
しかし、鬼女がシルバスの妹だったとは。
バレていたと確信を得ても、すぐに手を出せなくなってしまった。作戦を考えなければと。
オレは気配を消して去ろうとしたが……。
シ「待て」
シルバスはオレを呼び止め、鬼女からゆっくり離れた。
シ「さて、三人とも。
――話を聞かせてくれるよね」
久々に一般人にゾクリとした。