5 エロス保険医注意報、発令中です。
シルバ兄が廊下を進んでいく。
周りの生徒はこっちを見ると道を開けていく。
夕方の放課後のこの時間に通る生徒は多くはないが少なくもない。
最悪だ。
何がって?
私は、まだお姫さま抱っこの体勢のままでいることだ。
抜け出せないことは分かったので、もう諦めることにした。
きっと、この兄だから妹の役に立てて嬉しいだけだろう。
だが、周りの視線は痛い。
まぁ兄妹でお姫さま抱っこはきついよな。ついでに兄はシスコンだし。
シ「もう、大丈夫か?」
シルバ兄が聞いてくるが、何がでしょうか?
視線なら現在進行形で大丈夫じゃないですよ、兄上。
そんな事を視線に込めて見るとシルバ兄は嬉しそうに笑った。
え? 嬉しそうだと? 何故だ? ドMでしたか、兄上? シスコンの上にドMでしたか?
開発スタッフさえも知らないドン引きな設定があったことに若干ひいていると、どうやら目的地に着いたようだ。
ガラッ
兄上が扉を開けてくれる。が、下ろしてはくれないようだ。
過保護だなー、もういいってのに。
「ん? シルバスか?」
保健室に入ると、声をかける金髪保険医に目もくれず、そのまま進んでベッドに寝かしてくれる。
ありがたいが、悪い所はないので寮に戻らせてくれ、兄上。
そしてここにはいたくない。
シ「ディノス、俺の妹の具合が悪そうなので、しばらく休ませてくれ」
ディノス「あ? お前に妹って居たっけ?」
だるそうに椅子にもたれながらそう言う、少し長めの金髪の保険医、ディノス。攻略可能キャラだ。
ちなみに純血の吸血鬼なので日中は少しだるそうにしている。
そんな事より、この人は危険だ、危ない、狙われてしまう。
主に貞操が。
手ははやいし、口は上手いし、女好きだし、保険医だし。
とにかく危険だ。
シルバ兄はわかってるのか? エロス保険医とここにいるとどうなるのか。
シ「あぁ、今日から転入なんだ」
恨めしそうな目で見るが気づかずに話を進めてしまう。このやろー。
ディ「へーぇ、今日からなんだ、だから見かけない子なんだね」
ちらりと視線を向けられる。
やめろ、見るな。含みのある言い方をするな。
シ「俺の妹だからな、手を出すなよディノス」
お、分かってたよ、シルバ兄。良かった良かった、牽制してくれたよ、この調子でよろしくね兄上。
ディ「はいはい、手は出しませんよ、で、シルバスは何か用?」
シ「妹を守ってやってくれ、しばらくしたら迎えにくる」
え!? はぁ!? 嘘でしょ!? 守るとか! 兄上、止めてくれ、置いていかないでくれよ!
守ってくれないよ、ディノスは! エロス保険医は!
ディ「あぁ、別にいいぜ」
シ「じゃあ、頼んだ」
軽く会話を交わして、心の中で叫ぶ私を置いて出ていく銀髪の兄上。
ディ「んで、妹ちゃん名前は?」
残されたのは、金髪の吸血鬼でエロス保険医のディノスと、保健室のベッドに座る私。
ヤバイね、この状況。
そしてゆっくりと近づいてくるエロス保険医。
ユ「……言わなきゃいけません?」
咄嗟に出ちゃったよ、本音。
だが、本当にあなたに言いたくないぜ、ディノスさん。
知られるとひたすら名前を耳元で呼ばれる、なんてシーンがゲームにはあったはずだ。なにその拷問。
ディノスさんはエロスな上、いい声をしているから、それは避けたい。
ディ「ふーん、別にいいよ言わなくても」
ニヤッと笑いながら、ギシッとベッドを軋ませて私の横に座る。
いやいや、座るなよ。
いや、顔近づけるなよ。
ディ「言いたくなるようにいじめる、ってのも嫌いじゃないしね」
ぐはっ、エロス。
流石、エロス。
ばっ、と距離を取りつつ牽制する。
ユ「っ……兄上が怒りますよ」
ディ「シルバスは手を出すな、としか言ってないよ、ね?」
だから顔を近づけて言うな。せっかく開けたら距離が縮まった。
ディ「ね、妹ちゃん、名前、教えてよ」
吐息混じりに囁くエロス。
ディ「いいでしょ? ね?」
逃げても追ってくるエロス。
っ……く。
そして一進一退の攻防の末。
ユ「っ……あぁ、もう! ユウですよ! ユウ・フジサキ! はい、これで満足ですか!?」
私は負けた。
この状況から早く逃げ出したい。その一心で叫ぶ。
ディ「あぁ、満足だ。これからもよろしくな、ユウ」
横を見ると、確かにニヤッと満足気に笑う金髪の保険医。
顔をまた近づけてきたと思ったら、背中にゾワッっと!
――きっと耳に息を吹きかけられた。
……っ!
理解するや否や顔に血液が集まる。
あぁ! もう!
ユ「このエロス保険医がぁああ!」
エロスからの攻撃に耐えきれなくなって私は叫びながら保健室を飛び出した。
いや、無理だって! キツいよ、耳が! ラスボスだよ! あの人!敵う気がしないよ!
[おまけの保健室]
ディ「クッ……ハハッ……いやぁ、しかしエロス保険医かぁ、始めてだなそんな事言われるの」
ディノスは一人保健室で笑いを堪えられずにいた。
笑いに呼応するようにベッドが軋む。
ディ「ふーん、ユウちゃん、ね……面白い子だ」
ニヤッと笑って身動ぐとギシッとまたベッドが軋みをあげた。
何かすいません
何がって?
初登場のエロス保険医の事です
真面目に仕事しろよと思います
さて、次の更新は二日後になります
定期的に更新したいと思うので、よろしくお願いします。