第五話 リュウの夢1
ーーミ〜ン、ミンミンミ〜ン。
アブラゼミが鳴く八月の中頃、ハツカネズミの三兄弟、チュウ・シュウ・リュウは町外れの祖母、ウメの家へと遊びにきていた。昔は薬局をやっていたその実家はウメの夫が十年ほど前に他界した際に店を降ろし、集落の中央街へと移された。それ以降は金銭的な問題で地域の老人会に入るかリュウ達と一緒に暮らすかと選択を余儀無くされたが、本人たっての希望で今もまだ元薬局だった家に住んでいる。
いつもお互いを訪ねる時はウメの実家か以前焼け落ちたリュウ達の家を変わりばんこに訪れているリュウ達はその理由で祖母の家に来ていた。
縁側でスイカをたべながら、ハツカネズミの三兄弟達は種の飛ばし合いっこをし、誰が一番飛ぶかを競い合っていた。
「やった〜‼ 僕の勝ち‼」
ガッツポーズと共に、茶色の毛の、次男シュウが嬉しい悲鳴ならぬ、雄叫びをあげていた。
「流石だな、シュウ……」
「兄ちゃん、すげ〜!」
自分達の記録より三十センチほど遠くに飛んだスイカの種は今はアリの手によって運ばれている。よって正確な距離は分からないが、自分達の種より遥に遠くとんでいることに二人は感心していた。
「じゃあ今度は早食い競争だ!」
チュウが目の中に闘志の炎を燃やしながらリベンジとでも言うようにそう言った。そこへ三つのコップと麦茶の容器を手にした祖母、ウメがやってきた。
「あんまり食べすぎてお腹壊さないようにね。はい、麦茶ですよ」
それぞれのコップを傍らに置き、麦茶を注ぎながら心配そうな声を出すウメ。しかしその声とは裏腹に彼女の表情はとても和やかで嬉しそうだった。
「ありがとう、ばあちゃん‼ じゃあリュウ、早速だが号令を頼んだ‼」
お礼を言いながら、スイカの種を口に含む長男、チュウ。シュウも次の種の為にスイカを平らげていく。リュウは空気を大量に吸い込みながら大きな声で数えはじめた。
「三、二、一、発射‼」
チュウの飛ばした種は緩やかな弧を描き、真っ直ぐに落ちていく。少しの沈黙の中、小さな音とともにその種は落ちた。
「やった〜‼ 新記録だ!」
先ほどシュウが飛ばした場所より五センチほど遠い場所にその跡があった。シュウの負けた〜、という声が少しの間響く。
「あれっ?でも早食い競争じゃなかったの?」
……………………ハッ‼
静かに見ていたウメが呆れた様子でそう告げると、少し恥ずかしそうに頬を赤く染め、誤魔化すようにチュウが、
「き、気を取り直して号令頼んだ、リュウ」
語尾を濁しながらそう言った。込み上げてくる笑いに耐えることが出来ずに、全員が腹を抱えて笑い出す。終いには、床を転がり出すシュウ、リュウとそれを見て余計に赤くなるチュウをよそにウメは穏やかな口調でぼそりと誰にも聞こえない声で呟いた。
「全く、じいさんに似て勝負事になるとどこか抜けてるんだから、チュウは」
しかし彼らを見るウメの目線はどこか安心した様子であった。ちなみに、早食い競争はシュウが勝利した。
◇◇◇
「で、これと僕の夢となんの関係があるの、ばあちゃん⁇」
困惑した様子でリュウがウメに聞く。確かにはたから見るとなんの関連性もないウメの昔話はリュウにとっても、シズネにとっても、いつの間にか戻ってきたジュウにも意味のわからないものだった。しかしウメは静かに微笑みながら言葉を繋いだ。
「まだお話は終わってないのよ、リュウ」
ウメはそう言うとまたポツリと語りはじめた。