第四話 両親の思い
干支戦記〜エト戦記〜第四話まで書き上げました。誤字脱字があれば、どうぞ教えてください。これからもよろしくお願いします。
秘密基地から式場へと戻ってきたリュウは自分のことを探していたらしい父親に叱られていた。
「リュウ! どうして勝手に外に出たんだい? 帰るって、父さん言ったじゃないか」
「ごめんなさい、父さん……」
怪我や汚れがないか確認したリュウの父親はとりあえずほっとした様子でリュウと目を合わせる。
「もう兄さん達とは一緒じゃないんだ。頼むから一人で出歩かないでくれ」
そこにゆっくりした足取りでリュウの祖母、ウメがやってきた。
「まぁまぁ。 ジュウ、まずはリュウがどこに行ったか聞くのが先じゃないかい? それにそろそろ帰らないと日が沈んで暗くなる。 ひとまず説教は置いといて帰りましょ」
「母さん……」
まだ言い足りなかったリュウの父親、ジュウも日没まであと三十分くらいしかないことに気が付き渋々中断することにした。
「続きは後でだ、リュウ。 もう心配させないでくれ」
少し過剰な心配だと自分の中では分かっているつもりでも、二人の子供を失ったばかりのジュウの心には、そんなことを考える余裕は無く、リュウだけは無事であって欲しいという願望からか、どこか祈るようにしかしはっきりとジュウはそう告げて家族と一緒に式場を後にした。
◇◇◇
香ばしいかおりが鼻をくすぐる。
家に着いたリュウ達は、先に帰っていたリュウの母親の作っている料理の醤油を焦がす匂いに誘われ、それに反応するかのように腹までが鳴りながら食卓についた。
「お帰りなさい。 今日は焼きおにぎりよ。食べる前に手を洗ってそれから食べてね」
すでに椅子に着いていたリュウとジュウは急いで立ち上がると、我先にと洗面所へ向かった。
「チュウやシュウがいればもっと賑やかだったろうにねぇ…………」
がっかりとした暗い表情でリュウの祖母、ウメはそう呟いた。無言のまま頷くリュウの母親の目の周りには、未だに涙のあとがあり、その顔がどれだけ涙に溺れ、その心がどれだけ崩れ落ち、砕け散っていったのかを物語っていた。
「そうですね、お義母さん……。」
また出てきそうになる涙を無理矢理作った笑みで抑えようとするが、その雫はとどまるどころか、次第に大きくなって、乾いた頬を伝っていく。流れ出した涙を拭いながら、良く家の中を駆けずり回っていた自身の息子達を思い浮かべ、リュウの母親 シズネは少ない言葉でそう返した。
「母さん、手洗ってきたよ。もう食べてもいいよね?」
リュウはそう言うと、いただきますと言って食べ始めた。リュウが米を咀嚼する音だけが聞こえる。普段とは違い、今日の食卓は清閑で悲しみに包まれていた。
「お父さんは、リュウ?」
中々戻ってこないジュウのことが気になったシズネは息子にそう尋ねた。
「父さん(モグモグ)ならまだ(モグモグ)顔洗ってるよ」
口いっぱいに焼きおにぎりを詰め込みながらリュウは答えた。そこで、リュウの祖母、ウメが割り込むように声をあげた。
「リュウ、どうして勝手に外へ行ったんだい? 皆に心配かけちゃいけませんよ」
するとリュウは戸惑うことなくこう告げた。
「兄さん達に会えると思ったんだ。だから池に行って、秘密基地にも行ってきたんだ。」
自分が感じたことやどこを歩いたかを詳しく話すリュウ。その姿を他の兄弟達と重ねながらうんうん、と頷くウメとシズネ。話している途中で本のことを思い出したリュウは自分が見つけた本を差し出す。それをみたウメはやや嬉しそうにこう言った。
「とうとう、リュウの手にもわたったんだね、その本。 じゃあリュウももう自分の夢を書いたのかな? 後でおばあちゃんがリュウの名前も書いてあげるからね」
何故かこの本のことを知っている自分の祖母に疑問を感じたリュウだが、始めの方に丁寧な字で書かれていた兄達の名前を思いだし、きっとあれを書いたのはばあちゃんなのだろうということで、とりあえず彼は納得した。そしてリュウは困惑気味に尋ねた。
「ばあちゃん……。僕の夢ってなんだろう? 」
この質問に対し、またも嬉しそうな様子でウメは答える。
「あれま、覚えてないの、リュウ? そうね、小さかったもんね。 じゃあ私が教えてあげましょう」
ウメは遠くを見ながら、まるで遠い昔のことを思い出すようにポツリと語りはじめた。