第一話 三つ子のハツカネズミ
「オギャー‼」
甲高い産声と共に三つ子のハツカネズミが生まれた。黒毛の子はチュウ、茶色の毛の子はシュウ、そして他に見ない群青色の毛を生やした子はリュウとそれぞれ名付けられた。その子供達は毎日スクスクと成長し、わんぱくで手をつけられないほど、とまではいかないがどんどんと活発なものになっていった。
◇◇◇
五年の月日が経ち、彼らの誕生日から約一週間ほど過ぎた頃、五回目となる大晦日の夜にその悲劇は起きた。
「火事だ‼‼」
その日の夜、ハツカネズミの集落で火災が発生した。町中の大人達による必死の消化活動にも関わらず、火は収まるどころか次第に大きくなり、炎となって多くの家屋を焼き尽くしていった。そんな中、わんぱく育ち盛りの三つ子のハツカネズミも必死になって火の渦から逃れようとしていた。
「こっちだ、シュウ‼」
チュウがあらん限りの声を張り上げ弟のシュウを呼んでいる。しかしその声は煙にやられたのかかなりかすれていて今にも壊れてしまうかのように細く弱々しかった。
「兄さん危ない!」
突然ガタっと大きな音がしたかと思うと、大きな柱が彼らの上に倒れてきた。声を出したシュウとその場から少し離れていたリュウは難なく逃れることが出来たものの、逃げ遅れた長男チュウが不幸にもその下敷きになってしまった。
「兄さん‼」 「兄さん‼」
慌てて駆けつけてきたシュウとリュウにこのままでは全員危ない、と考えたチュウは彼らにむけてありったけの力を込めて叫ぶ。
「シュウ‼ リュウを連れてはやく逃げるんだ‼」
「でも兄さん一人置いていけない!」
シュウが戸惑いを隠せない様子でそう答えると、
「うるさい!はやく逃げるんだ‼」
チュウが自分の長男としての威厳を保つように怒鳴り返した。最後の力を使い切ったチュウは意識を失ってしまった。
「リュウ、このままじゃ兄さんが危ない。お前は先に行って誰か大人を呼んでくるんだ!」
シュウはチュウが意識を失ったのを見届けると今度はリュウに向けて声を張り上げた。
「でもそしたら兄さん達が……」
「ぐずぐずしてる暇はない。はやく行くんだ‼」
弟リュウを急かし、木材をどかしはじめるシュウ。しかし悲劇はこれだけでは無かった。
「ニャー‼」
黒い影と共に一匹の猫が彼らの前に現れた。
「まずい、猫だ‼」
そう叫んだ時はもう遅い。黒い影は下敷きになっているチュウに狙いを定めると一直線に走り出していた。
「やめろ‼」
シュウが果敢に飛びかかるものの、その圧倒的な体格差から簡単に振り払われてしまう。リュウも二人のために飛び出した。
「や、やめるんだ‼」
リュウが抵抗する猫の尾を掴んだ時、突如大きな火花が猫の前を横切った。驚いた猫は自分の尾を思いっきり振り、リュウを運良く窓の外へ放り出した。放り出されたその瞬間、今度は大きな爆発音と共に爆風がおこり、リュウをさらに遠くへと飛ばした。ドンッという音とともにリュウは着地したが、あまりの衝撃から彼の意識はぼやけはじめた。
燃えていく家と悲鳴を聴いたリュウはそのまま気絶してしまった。
最後にギロリと光る紅い目を見ながら……。