京香先生の意外な真実
博美がいなくなってから数日が経過したある日、帰宅中の隆博の携帯電話に着信があった。
(おっ?誰からだ?おお、あいつだ。)
隆博は相手の名前表示を確かめて電話に出た。
「もしもし!どうした?」
「よぉ、俺だ!久し振りだな。」
「お前の番号は登録してあるから分かるよ。」
電話の相手は、隆博の小学生時代の友人、藤村である。小学校教師を勤め、今日は勉強会で隆博が住む街で開催されたことから滞在しているとのことだった。
「時間あるなら明日飲もうぜ!」
「おお、構わんよ。」
翌日、隆博は藤村が滞在するビジネスホテルのロビーに立っていた。
「よぉ寺垣!待たせたな。」
「いや、ついさっき来たばかりだよ。」
「なにデートで待たせたみたいなこと言っちゃってよ。」
「そんなつもりねぇよ。さぁ行こうぜ!」
隆博と藤村は近くの居酒屋へ足を運んだ。
「それじゃ、久々の再会に。」
「乾杯!」
二人は最後に会ってから現況を話し、後に話は学生時代の頃に差し掛かった。
「なぁ寺垣。小学校の頃の保健室の先生知ってるか?」
「ああ、あのブスのことか。」
「それは五年の途中に変わった先生だ。それより前にいただろ?俺らが入学した時に入って来た先生のことだよ。えっと・・・・・。」
「稲本京香・・・だろ?」
「ああ、そうそう。お前、けっこう可愛がってもらってただろ。周囲から羨ましがられてたぞ。」
「あれは俺がただケガばかりしてたからよぉ。保健室使う頻度が高かっただけだ!」
「照れるなって。なあ隆博、実は俺、京香先生の秘密を知っちまったんだよ。聞いてて鳥肌立っちまってよぉ。」
隆博はそれを聞いて表情を変えた。
「お前、京香先生の何を知ってるんだよ。もったいぶらねえで教えろよ!」
「おっ、乗り気だな。実は京香先生、いろんな男を抱いてたんだよ!」
“ブフゥ~ッ!”
隆博は飲んでいたビールを吹き出しそうになった。
「ゲホッゲホッ・・・それ、マジかよ」
「おい、大丈夫か?まあ、俺が赴任した学校の教頭がさ、教師時代に京香先生に体の関係を迫られたんだと。」
隆博は京香の思わぬ事実に、唖然とした。
「それだけじゃねえ。他にも数人、京香先生に相手された奴がいたみたいでさぁ、かなりのヤリマンだったんだなぁ。」
隆博はそれを聞いて藤村に詰め寄った。
「お、お、お前それ、本当なんだろうな。」
「ま、まあ、聞いた話だから本当かどうかは知らんけど・・・って、お前怖えよ!」
「あ、悪い・・・。でもよぉ、そんな京香先生に娘がいるんだぜ。」
この話をした瞬間、藤村の口が開いたままになった。
「何でお前がそんなこと知ってんだよ。お前、教師じゃないよな。」
「はっ!」
隆博は無意識に博美のことを話そうとしていた。仕方なしに、ここは博美から聞いたことを要約して話した。
「実はさ、だいぶ前に合コンで会った子の顔が、どうも京香先生にそっくりでさ、名字も稲本だったから後で声を掛けたら、ビンゴだったんだよ。」
「京香先生だっていくら何でも結婚はするだろ?子供もいたって変じゃないよ。」
「でも、結婚していれば当然、旦那の姓を名乗るわけだから、稲本なのはおかしな話なんだよな。」
「そんなの、もしかしたら後で離婚して先生側に付いたかもしれないし、旦那の苗字が稲本だから変わらなかったってことも考えられるだろ。」
「それがよぉ。京香先生は結婚してなかったんだよ。それでさ、娘の年齢を聞いたら、ちょうど先生が辞めてから一年以内に産まれてるんだよ。よく考えてみろ。おかしくないか?」
藤村は腕を組んで考えてみた。
「確かにおかしいな。あの時、京香先生は朝礼で、学びたいことがあるから辞めたんだよ。別に結婚したなんて話はなかったもんなぁ。だったら素直に、妊娠したから辞めますって言えばよかったんだ。で、相手した奴と結婚すりゃそれで幸せだったんじゃないのか?」
「娘の話ではさ、京香先生の相手した奴、妊娠が発覚してから連絡取れなくなったそうだ。仕方なしにシングルマザーとしてその娘を育ててきたみたいだ。」
「へぇ、てか、何で京香先生は結婚しなかったんだろな?」
「実は一度結婚してたけど、旦那の暴力が原因で、俺たちが入学する頃には離婚したそうだ。その時には子供はいなかったって。まぁ、結婚しても同じ目に遭うのが嫌だったんだろうな。でも自分の子供は欲しかった。だから手当たり次第いろんな男と体の関係を持ったに違いない。」
「そいつと結婚してりゃ良かったろうに。勿体ない。」
「いや、結婚しなかったって言うより、結婚できなかったんだろ。」
「お前、結婚できなかったって、それどういうことだ?」
(いけねっ!言い過ぎたか・・・・・ああ、後ろには引けねぇ。)
「これは俺の見解だけど、京香先生は恐らく、関係がバレたら大問題になる奴を相手して妊娠したんじゃないのかなぁ・・・・・。」
「まさか小学生か?」
藤村は隆博の顔をじっと見つめた。隆博は体に緊張が走った。自分の口から出たことがここまで発展してしまうとは思いもしていなかった。
(いかん、俺、追い詰められてる・・・・・。)
「いや、いくら何でも性の知識もない小学生を相手するのは、教師として失格だろ。そりゃないか。」
「そ、そりゃそうだろ。ハハハ・・・。」
隆博と藤村は、共に笑い合った。
「ちょっと疑問に思ったんだけどさぁ、もし女が男を犯したら強姦罪になるのか?」
藤村は首を横に振った。
「そういう誤解が結構あるんだよな。強姦罪は、男が女に対し、強制的に性行為をした場合に適用されるんだ。だから女が男を無理やり犯した時に適用はされないんだよ。まぁ、男にお願いして”あいつを犯せ”と言われた場合は別だけどな。」
「てことは、女はやったもん勝ちじゃねぇか。」
「いや、この場合は”強制わいせつ罪”が適用されるから、罪であることには間違いない。でも、女が男を犯して訴えられた話は聞かないな。」
「確かにニュースでも見ないからな。」
隆博が気になっているのは、それだけではなかった。
「あとな、女が男を勝手に犯して勝手に妊娠して勝手に育てた場合って、男にも責任あるのか?」
「ぶっ飛んだこと聞いてくるなぁ。てか、身を前に乗り出しすぎだぞ。」
今、京香の娘の博美が住み着いている隆博にとっては重要な話だった。
「実は一回、そういう相談を受けたことがある。この場合、その子供を認知しなければ、男は責任を負う必要はない。」
「そりゃそうだ。勝手に犯して妊娠して生んだんだから自業自得だよな。」
(ってことは、俺が認知しなければ博美には養育費を一銭も払う必要は無いってことだ。)
「おい!どこ見てんだよ。やっぱ変だぞ。てか、なんでこんな話になったんだよ。」
「あ?ああ、何でもねぇ。変なこと聞いちまったよ。とことん飲もうぜ!」
「無理はするなよ・・・・・。」
時間は過ぎて行き、閉店時間を迎え、二人は外に出た。またいつの日か飲みに行くこと約束し、藤村はホテルに、隆博はアパートに帰った。
隆博はアパートに着き腰を下ろすと、突然笑い出した。
「なんだ、京香先生がビッチだったとはなぁ。いろんな男に抱かれてやがったんだ。俺まで巻き込まれたんだからよぉ。そりゃ妊娠するわなぁ。で、それで産んだ子に俺の名前を一字取って付けただと?ヘッ!バカバカしい。そのせいでこっちは勝手に親父呼ばわりされたんだ。あーあ、この一か月間を返してほしいぜ。まったくよぉ・・・・・。」
隆博はそのまま横になり、朝を迎えた。