勇者パーティー結成
国王より正式な認可を戴き、晴れて勇者となったフィーネ一行は、勇者軍全軍の指揮権を得た。また、全ての検問所や関所を自由に通行する権利、飲食の無料、土地を与えられた。
これだけで十分すぎる褒賞だというのに、魔王軍を討伐した暁には一層の名誉が与えられる。
ましてや魔王が討たれ、既に魔王軍は瓦解寸前。前線からの情報では、魔王軍は遅滞戦闘に努めて、内戦の収束と新たな魔王の誕生を待っているということだった。
今なら誰でも抑えられる。ということで、勇者パーティーへ参加したいという人間の数は尋常ではなく、この場に集まった四人は勝ち抜いて来たまさに英傑だったのだ。
「新たな魔王。それまでが、私たちのタイムリミット。ゴールが決まった旅路へ、私が導く」
勇者フィーネの言葉を受けて、他の三人はそれぞれ頷いた。
片や、教会の利益のため。
片や、亜人族の権利向上のため。
片や、金のため。
まるで四人の村に人狼3人。主義主張が違う今の勇者パーティーになんら連帯感はなかった。
「あなたたちを私は全力で信頼します。旅の初めの言葉はこれだけで良いでしょう。旅の終わりで、もっといろんな話をしましょう」
勇者は冷たい表情をふっと溶かして、笑みを見せた。
「私はフィーネ・アークライト、勇者よ」
「ふっ……あはは、何その自己紹介。ウケる。私はミラ。ハーフエルフの魔法使い。これでも、王国の誰よりも魔法を使える天才なんだから」
「よろしく、ミラ」
「……僕はアーヴェル。聖騎士だ」
「よろしく、アーヴェル」
「おいおい、緩い流れだな、襲撃されたってのに呑気におしゃべりかよ」
「そーいうあんたはどこの誰で何が出来んのよ。良いから答えなさい」
「俺はヴァイス。固有魔法は持たないが、金策と策略とほんの少しの一般魔法が使える。よろしくな、勇者殿」
「よろしく、ヴァイス」
全員と握手を交わしたフィーネは聖剣を引き抜いて天に突き立てた。
「噂で知っての通り、私は聖剣を抜いた継承者だけれど、聖剣の力がほとんど使えない。辛うじて加護が使える程度。だから剣術を磨いた。私のことは信じなくていい。でも、この件は、絶対に嘘を吐かない」
聖剣は数多の伝説を残してきた。フィーネは自己紹介よりも実績のある剣の正当な継承者。とりあえず信頼する程度の力が剣にはあったのだ。
勇者パーティーは、今までにない程凸凹で不安定な編成のまま旅を始める。
目的は、各所に点在する魔王軍の拠点を叩き、魔王城に向かうこと。
各地を平和にし、魔王軍を撃破することが勇者に与えられた使命だった。
「フィーネ、さん」
「フィーネで良い。私もあなたをミラと呼ぶ」
「じゃあフィーネ。次に行く場所に当てはあるの?」
「それはヴァイスが考える。そのためにこのパーティーにいるのだから」
「その通りだが――」
ヴァイスは右腰から拳銃を抜き、聖騎士アーヴェルに向ける。
アーヴェルはあまりに無機質な瞳で両腰から二刀の剣を一瞬で抜き、ハンドガンを叩き切った。
カチッと剣を納め、アーヴェルは逆に足のケースからハンドガンを取り出した。
銃口をヴァイスに突きつけ、一気に状況は一触即発だった。
「何のつもりですか」
「いやな、小僧。お前は教会から神託の魔法術式を与えられ、勇者を守るために未来を予知するはずだろう?」
「勇者を守るのが僕の使命です」
「じゃあなんで、あの黒鎧と魔王軍の襲撃を予知できなかった」
鋭い問いに、フィーネとミラは口を挟むのを辞めた。
全ての視線を集めたアーヴェルは拳銃をくるっと回して持ち手をフィーネに差し出した。
「僕の神託に、あの黒い鎧はかからなかった。あなたを守るための未来予知の外から、まるで扉を蹴破って入って来たように」
「へえ、どう信じろって言うんだ?」
「信じられなければ僕を撃ち殺してください」
「ほう。神に誓えるか?」
「誓います。僕は教会の聖騎士。勇者を守るために作られた。あなたが死ねば、僕も用済みになる。殺す理由よりも殺さない理由の方が多い」
「なるほど、理性的で合理的な回答だ、気に入った。とりあえず信じよう」
「てか、あんたも金で買ったって噂だし、マフィアって噂だけど? 本当は裏で繋がってんじゃないでしょうね」
「そう言うお前は亜人だ。魔王軍は全員亜人で構成されてる。どっちが怪しいかな」
「ほんっと、そう言う枠組み嫌い。あんたみたいなのを黙らせるために、私は魔王軍を討つ」
「みんな、ご飯、食べましょう」
フィーネの突拍子のない提案が、どんな言葉よりも鋭く全員を黙らせた。
人間は何を言っているのか分からないと思考のために押し黙ってしまう。
「美味しいお店がある。よく、父が連れてってくれた。話はそこででもいい? お腹が空いちゃって」
「……はあ、もう、何でもいいや」
「そうだな。飯食いながら作戦と行こう。それまでは、取りあえず連中は、神託を――」




