魔王パーティー完成
「今こそ魔王軍を叩くべきではないのか」
「向こうは今内戦中だという噂。すぐにでも勇者を決め、全軍を率いて討つべし」
「今日はその認定式と聞いたが、よもや、あの……」
「黙れ、来たぞ」
人だかりは、精一杯平静さを顔面に貼り付け、一呼吸吸い込むと道を開けた。
国王の座する玉座へ進む、赤い絨毯。豪奢な扉から伸びる栄光への道の始まりを、今ゆっくりと、歩く人影があった。
中央を歩くのは、美しく凛として静かな少女。
白金の長い髪に、カチューシャと雪の華を模した髪飾り。
きゃしゃな体を守る銀の鎧は必要最低限を守り軽装を重視したせいで夜や露出度が高い。
その隣は、赤い髪の少女。明るいオレンジと紅、とにかく派手なローブを見に纏っている。
頭の上にぴょこっと魔法帽を乗せている。自分の背丈ほどある杖を軽く回して行進する。
さらに横に、灰色の髪をした少年。左右非対称な変わった鎧を見に纏い、黒いマントを羽織った幸薄げな表情の少年。中世的な顔立ちで、どことなく悲劇のヒロインにも見える。
最後は紫髪の青年。片眼に飾りのついた眼帯と耳にはピアス。毛皮のボアジャケットを羽織り、意気揚々で威風堂々たる姿は誰よりも勇者らしい。
若き四人の勇士を見る群衆の目は、冷ややかなものだった。
「やはり、勇者の娘」
「しかし彼女は聖剣を抜けるだけで力は使えないはず。叶うのか、魔王軍討伐が」
「それにあの横の、ハーフエルフの魔女だ。亜人だぞ。魔族は亜人種のはずだ」
「まだいい。教会の犬が紛れ込んでいる。灰髪の少年、教会の聖騎士と聞くが」
「恐らく、討伐隊に教会がいたという事実がほしいのだろう。ほら、聖杯を失って以来、教会は力を失った」
「まだわかる。よこのあいつ、武器商人ではないか。よもや、金でパーティーの枠を買ったと?」
「噂では、裏でマフィアともつながっているとか」
好き放題言われる勇者パーティーは、あまりに歓迎されない状態で国王の前に跪く。
形式的な、儀礼だった。勇者という聖剣を持つ者に国王が名を出し、魔王を討伐する。
これは、互いにどちらの立場が上かと分からせるための、形式的な儀礼。
「フィーネ・アークライト。そなたを聖剣の継承者と認め、勇者の称号を与える」
「光栄です」
「そして、聖騎士、アーヴェル。大魔法使い、ミラ。参謀役、ヴァイス。そなたらを勇者パーティーとして公認し、魔王軍討伐の名を下す」
『ありがたく」
四人は形式的にかしずいた。
他の声は聞こえない。各々が全員、自分自身の願いと夢と、そして譲れない物のために、魔王軍と王罰の旅路を進む。
物語の冒頭にインクが落とされた輝かしき歴史に刻まれる新たな一ページは突如、修正されることになる――
ソレは音もなく現れた。
ソレの存在を誰も認識することが出来なかった。
勇者を守る聖剣の加護も、勇者の未来を祝福する神の神託も、全てが「問題ない」と。これは正しい物語なのだと言わんばかりに、歴史が勇者に一太刀浴びせた。
突然の事態に、誰も反応できない。唯一、反応出来たのは、斬られた後の勇者だった。
素早く政権を抜き、既に次檄を加える構えを取っていた黒い鎧の剣を受ける。
斬り結んだ瞬間、まるで魂に語りかけるようなおぞましいオーラが剣から漏れ出る。
「何者だ、貴様」
「黙れ」
ソレは何も語らなかった。
勇者フィーネの力任せの一撃を軽くいなして距離を取る。
深い傷を負ったフィーネは血の気が引いたように顔が白くなる。
赤い絨毯に濃い赤を落とすと同時に、ふたりは今一度床を蹴る。
先に間合いに入ったのは黒い鎧。飛び出すと同時に回転。両足によるスタンプで攻める。
対するフィーネ、剣を横に倒してさらに踏み込むと、足裏に剣を刺し込んだ。
急なカウンターを前に黒鎧は先にフィーネの襟首を掴んで逆に自分の後ろへ投げる。
互いの攻撃は当たらず、位置が変わっただけ――
では済まされない。
着地と同時にふたりは何故か、さっきよりも近い距離で斬り合っていた。
今度は単純な力任せ。小細工と技量をねじ伏せるという選択を選んだ両者の剣戟は鋭く、近くにいた物はその戦闘の圧に吹き飛ばされる。
「聖剣……そんなものが、勇者の証、だというのなら」
「紛れもない、証だ!」
剣を叩きつけ、がら空きの胴をフィーネが蹴る。吹き飛んだ黒い鎧は床を掴んで何とか静止するが、半壊しかける程床が抉れ、近くの柱が傾いた。
轟音と誇りと破片が舞い、破壊の中心に立つ黒い鎧の姿に誰もが息を呑む。
「勇者など、いない」
「私が勇者だ」
「なら、死ね」
握り拳で抉った床を砕き、紫のオーラで欠片をフィーネへ弾き飛ばす。
普通なら群衆のように慌てふためいて逃げ惑うところを、フィーネは逆に落ち着いた。
目を閉じ、呼吸を整え、欠片を避け、砕き、進む。
最小限の動きで避ける。無理なら壊す。そして進む。まるで組み込まれたプロセスかのように、当たり前のように離れ業をやってのけた。
「悪刀」
「良い魔法だ」
紫のオーラが聖剣と打ち合った瞬間、弾け飛んだ。
さらに、聖剣が光り輝き、黒い鎧の足場が砕けてバランスが崩れる。
間髪入れずに、一太刀。
攻撃のせいで僅かに緩んだ黒鎧の隙をついて、フィーネはソレの胴体に深々と重い一撃を加えた。
フィーネは聖剣を床に突き刺し、あろうことか剣を足場にして跳躍。重い蹴りを打ち込んだ。
黒鎧は壁に直撃するまで吹き飛ばされたが、最後まで立ったまま耐えた。
「理外からの攻撃に適応した……そうか、それが、聖剣の力。憎い」
「私は聖剣の力を引き出せない。だからこそ、剣の腕を磨いた」
聖剣を床に突き刺した剣を天井に掲げる。
丁度天井が砕け、陽光が彼女に一筋の光を浴びせる。
まるで、英雄譚の主人公が誕生する瞬間――
絵画に描けば家宝になる程の美しい絵面に、群衆は思わず拍手で称えた。
「なーるほど。大体わかった。ソレよ、ここは分が悪い、退くとするぞ」
突然現れたのは、茶髪で小さな少女と、金髪で目隠しをした女性。そして、あまりに自身がなさそうな水色の髪の少女だった。
「貴様ら、何をしに――」
「ソレを気絶させろ、リラ」
金髪の女性は無言で黒鎧を巨大なハンドガンで叩いて黙らせる。
仲間かどうかも定かではない人ぶれに、フィーネははっきりと困惑した。
「何をつったているのだ勇者パーティー! 速くそのものらを捕らえぬか! ここは、国王陛下の玉座の間であるぞ!」
「ほう。王か。あとで歴史書を読み漁るとするが、朕をおいて王を名乗る度胸を認めてとりあえず不敬は不問に処するぞ」
「あなたは、何者だ」
「朕はレクスギア王朝最後の皇帝、ミミ・レクスギア。新しき人間どもよ、その目に刻め、今ここに、朕は魔王代理として宣言しよう。うぬら全員、地獄に送ってやると!」
「レクスギアだと!」
「ふざけるな、10000年も前に滅んだ御伽噺だ! 今の歴史教育要綱にすら入ってない!」
「大体、そんな物が何故、魔王についている!」
「いや、レクスギア家は竜人族の血筋、亜人だ。魔王軍に迎合するのはおかしくない」
「おしゃべりな連中だ。修道女、2、3人殺せ」
即座に動く修道女をの弾丸を、フィーネはあまりに人間離れした速さで叩き切った。
「2、3人殺すなら、先にあの方からのようですね」
「ちっ。今の、分かってないとできない動きだ。神託とやらは本当のようじゃの。それに、僅かだが天井がブチ抜かれたせいで群衆の立ち位置が勇者寄りになっていた。なるほどなるほど、聖剣とやらの力はおおむね理解した。手こずる訳じゃな」
「どういたしますか? 彼女を相手にすると、そろそろ後ろの方々が黙っていないかと」
「潮時じゃ。ちっこいの」
「は、はい!」
ちっこい魔法使いらしきものが杖も使わず、詠唱もせず、単純に氷の塊で壁をぶち抜いた。素早すぎる上に、物量が普通じゃない。
さらに氷の道が空へと出現し、ぶち抜かれた天井からは空を舞うドラゴンの姿があった。
逃がすまいと踏ん張るフィーネだが、深追いを辞めるよう忠告するように、出血が足を鈍らせた。
「ほう……では、王国とやら、また会おう。まあ、生きてればの話だが」
銃火器を持つ兵士がぞろぞろ現れ、王国上空でスタンバっていたレシプロ航空機が間もなくと横着する言う瞬間、建物が一気にぐらついた。
全員、大きく体を左側に揺らされ、侵入者たちの背後に瓦礫が落下。
とてもじゃないが後は追えない。
頼みの空機は修道女に撃ち抜かれ、生まれた隙をドラゴンに強襲されて次々落下する。
くしくも――フィーネが後を追っていたら、フィーネは瓦礫に巻き込まれ、死んでいた。
「次はない」
「こちらのセリフじゃ。聖剣、まあまみえようぞ」
後に新生勇者と魔王軍が邂逅したこの事件は戴冠事変と呼ばれ、後世に語られることとなる。
勇者はたった一人で実力を見せつけるも、国民は目の当たりにしてしまった。
今まで、傷一つ付けられることのなかった勇者が、凶刃の倒れたという事実を。




