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魔王は死んだ。勇者が殺した

「報告いたします。勇者軍の斥候部隊が我が国の領土に侵入したとのことです!」

「馬鹿な、停戦協定を知らんのか、野蛮人どもめ」

「どうするのだ! 先代の魔王様が討たれてまだ一月、こちらは誰が次かも決まっておらぬのに!」

「とにかく時間を稼がせろ」

「報告です! ガレドー将軍討ち死に、西側の戦線が機能しません!」


 阿鼻叫喚。目の前に迫る脅威に、魔族たちは焦りを表情に滲ませた。

 絶対的な支配者、魔王の死はそれほどまでに、大きな混乱を生んでいた。


「静かにできないのか? 魔王軍の参謀であり国のトップ陣が揃いも揃って情けない」


 俺は巨大な箱を抱えながら、かつて父が座っていた玉座の前まで歩いて行った。

 騒いでいた元父の忠臣たちは俺に敬意を示す様子もなく、何なら苛立っていた。


「ルカ様。あなたも魔王様のご子息ならばお分かりでしょう。国が、終わりかけているのです」

「格なる上は、勇者側と和平を交渉するほかありませぬ」


 俺の横にある巨大な箱に視線を注ぎつつ、にじり寄って来た。

 箱を開けると、中から巨大な金の盃が姿を現した。宝石が三つついていて、一つはくすんでいた。

 さっきまで騒いでいた連中は息を呑んで様子を見守る。


「生贄を捧げると願いを何でも三つ叶えてくれる聖杯。親父が大量の人間と40種類の生物を殺して発動させた。お陰で国が出来た上に豪華な城まで立った。魔族も数が増えた。考えたことはあるか? お前ら。この聖杯は使うべきか」

「ルカ様。お気持ちは分かりますが、今連中に聖杯を渡して講和すれば、少なくとも我々の滅亡は防げます」

「で? 新しい勇者が生まれて戦争するって? 冗談じゃない」

「ではどうするおつもりですか!」

「これで勇者を殺せばいい」

「よもや聖杯を……いけません、それが何なのか、我々は半世紀調べてよく分かっていないのです!」

「このままだと負ける。勇者は講和しない」

「なぜそんなことが……まさか、あなたのお力で見たのですか」

「なんで神が俺に未来を見る魔法なんて与えたと思う? 俺に止めてほしいんだよ。必ず勇者が勝つ世界を」


 聖杯の解放条件は親父が達成している。使える願いは二つだけ。内1つを、勇者を殺すことに使う。約束された勝利のために。

 未来で親父は聖杯を使っていなかった。使わなくても勝てると慢心したのだろう。

 こういうものはさっさと使えばいい。手を抜くから、英雄譚なんてものが生まれるんだ。


「聖杯よ、我が願いを叶え給え。勇者を、殺せ!」


 聖杯に願いがこめられ、盃が光り輝く。

 まるで電気が爆ぜるように、聖杯から吹き飛ばされた。

 強烈な痛みに叩き飛ばされ床を滑るように転がった。

 なんだ……。

 理解する間もなく、目に激痛が走る。

 馬鹿な、願いを叶えるより前に、弾かれた? しかも……未来が見えない。力諸共、奪われた? そうか……親父は聖杯を使わなかったんじゃない……聖杯じゃ、勇者を殺せなかったんだ。教えとけよ、そんなもん。

 すぐに治癒魔法を目にかけて傷は治すが、どうやら本当に未来視の魔法回路が破壊されて使えないようだ。とんだ、しっぺ返しを受けた。


「ルカ様、もうよろしいでしょう。幸い、聖杯は使われていない判定のようですし」

「俺の魔法と引き換えにな。あと、講和はしない。おまえなんか跡形も残らない程拷問を受けるぞ」

「ご冗談を……」

「俺はまだ死にたくないんでね。それに……これは魔王の息子としての意地だ。仕方がない、プランBと行こうか」

「ルカ様、これ以上はもうおやめください。何よりあなたは、それを使う資格を有していません」

「魔王の息子を魔王として認めないと?」

「次の魔王は魔族の中から力ある物がなるべきだとの声があります。我々魔王軍参謀も同意見です」

「ああそうかい。では二つ目のお願いしまーす!」

「ルカ様!」

「俺の考えた最強のパーティーで、癒社を倒したい!」


 願いは受け入れられ、杯は再び輝き始める。

 ずっと疑問に思っていた。勇者(れんちゅう)は徒党を組んで敵である俺たちを捺そうというのに、俺たちは単体のパワーを持つ魔族が一人ずつ相手をすることに。

 まるで伝統が如く押し付けてくる運命のいたずらか、勇者は甲で魔王はこうあるべきだっ決まりに従って動かされていることが、ウザかった。

 それに、俺の見た未来じゃ、まるでどっちが勇者か分かったものじゃない。

 聖杯は輝きを増し、熱を帯びる。床には見たこともない模様の魔法陣が出現し、ゆっくりと、煽るように回転した。

 恐れが先行して固まる使えない参謀共を後目に、俺の願いに呼応して……彼らは現れた。

 光と共にこの世に降り立った人影は跪いた状態から立ち上がる。

 茶髪の背丈が低い少女。首には化け物の頭蓋骨を模したネックレス。

 目隠しを着けた金髪の修道女。

 見るからに弱層で杖を持った青い髪の少女。

 汚れた鎧を着けた人間。手には禍々しい剣。聖剣に見えるのは気のせいか。

 合計四人が俺の願いに呼応して、魔王城玉座の間に召喚された。どいつもこいつも見た顔ぶれじゃないが、目を見ればわかる。こいつら……今にも目の前に突然現れた俺をどうにかしようって目だ。

 いいね……諦めてない。何か目的があって生きようとする人間の目。まるで俺の目だ。


「何と言う事を……! まだ聖杯が何かわかっていないというのに、勝手に使ったばかりか、どこの誰とも知らぬものを呼ぶとは!」

「どこのものだと? 貴様、余を誰と心得てそんな口を叩いている。痴れ者が」


 幼女に見えるような若い少女の口から出たことが信じられない圧のある声色。

 見ろ、参謀共が筆頭魔王候補である俺ではなく彼女にかしずいているじゃないか。


「おいおい、自己紹介もまだだろ」


 鎧は間髪入れずに俺に剣を向ける。首僅かに傾けていなければ、奴の刃は間違いなく俺の首を撥ね飛ばしていた。

 ご機嫌な連中を呼んでしまったようだ。


「この剣……聖剣にそっくりだな。お前、どっかの時代の勇者か何かか?」


 鎧に問いかけるが、ソレは怒り狂ったように刃を素早く横に向けて、俺の首をさらに狙う。

 指を鳴らして奴と場所を入れ替え、「まあ落ち着け」と父の玉座に座らせた。


「さて、勇者の紛い物と、そこの幼女、冗談じゃなければ言ってくれ。お前の首飾り、千年前に滅んだレクルギア王朝のものじゃないか?」

「いかにも、朕は神聖レクスギア帝国皇帝、ミミ・レクスギアである。自己紹介は満足か? ここはどこか今すぐ教えぬと貴様の首を撥ねるぞ」

「そこのシスターのお姉さん。名前を聞いても?」

「余を無視するとは良い度胸じゃな小僧」

「……リラ・オルタノート。ここは、地獄ですか?」

「魔王城です。なるほど。そこのちっこいの。そうそう、青髪の君。名前は?」

「ユ、ユリエル・フロスティアです。ここは、聖堂じゃ、ないんですか?」

「魔王城です。なるほど、最期のお前は」

「黙れ」

「じゃあソレで。自己紹介しない奴に名前を決める権利はありません。さて、大体よく分かった。お前らは大体500から1000年前に処刑された、この世を席巻した大犯罪者です」


 理解が出来ないのか、理解したうえで適切な言葉が見つからなかったのかは分からない。

 だが、彼女たちは一言も発さなかった。諦観と達観の間で瞳が揺れ動く。

 共通認識として、「まあ、どう死んでもおかしくない」と言ったような空気感があった。


「俺も歴史の勉強はサボり気味だから何とも言えないが、虐殺幼帝、ミミ・レクスギア。1000年前に大陸を支配した帝国の帝。敵味方問わず撥ねた首の数は帝国歴史上最多。最後は革命者、後の勇者エルギアにより討伐。 

えー、リラ・オルタノート。450年前かな、民衆を地獄へ導く死の女神。宗教戦争に周辺諸国を巻き込み、終わらぬ戦いの末、一般市民を虐殺。その後、聖騎士、後の勇者アルヴァ―トにより処刑。

ええっと、ユリエル・フロスティア。大物だな。原初の魔女。最初に魔法で人を殺した人間。諸説あるがその伝説は2000年前から。その後は……うわ、魔女狩り始まってマジで関係ない人死んでんじゃん。こっちは教会が最終的に処刑したそうだ。あと、ソレ、お前の聖剣は歴史にない。この中では浅い方だな」


まあ、初対面で首刎ねようとするんだ、碌なもんじゃない。

驚いたな。魔王の息子の前に、稀代の犯罪者たちが集まった。聖杯さん、これが俺の望んだ勇者を倒せるパーティーなのか?


「勝ったものが歴史を作る、か。成る程、道理じゃ。どうやら本当に死んだようじゃの、余は」

「私はまだここが地獄である可能性を否定できませんが、あなたが私たちを蘇らせたのですか?」

「いいや、勇者を倒すパーティーを絶賛募集したんだ、この聖杯を使って。おっと、その顔を見ると、聖杯を知っているのはそこのシスターくらいかな?」

「はい。私はそれを守るために戦ったので」

「余は知らぬな」

「う、ウチも……です」

「お前は――」

「黙れ」

「はいはい。今から皆さんには協力して、勇者を倒してもらいます。報酬は、願いをなんでも叶えます。この聖杯で」

「それで勇者を殺せばよいではないか」

「試みました。結果俺の固有能力の魔術回路が死にました」

「願いを叶えるという根拠は」

「時代も違う上に数千年前に死んだ奴が生き返っているのは根拠にならないか?」


 訪れたのは沈黙。悪名だろうとなんだろうと、歴史に名を残す程だ。ある程度の思考能力と柔軟性は持ち合わせているだろう。

 そして、柔軟性と順応性の高さは天才的な判断を加速させ、全員に共通の認識を生んだ。

 別に目の前のこいつを殺して聖杯奪えばいいんじゃね?

 この瞬間から、輝かしい召喚からの勇者を倒す魔王譚がただのバトロワですゲームに昇華された。


「一つ聞きたい。その聖杯とやらはうぬにしか使えぬのか?」

「生贄が必要だが支払えばその後は誰でも使えるって言ったら?」

「礼を言うぞ。うぬが呼んだのは、数千年に跨る大悪党なんだろう?」

「主よ、我にあの悪魔を滅ぼす力を与え給え。神罰顕現(ロンギヌス・オルタ)


 動いたのはシスター。

 手にはハンドガンというには大きすぎる拳銃二丁。物体精製の術式。こいつ、450年前にもうハンドガン出して戦ってたのかよ。

 銃を構えると同時に連射。銃弾を交わした瞬間、既に剣を取り、態勢を立て直していた鎧、ソレ。


「悪刀」


 紫のオーラを纏った剣が下段から切り上げられる。

 速い上に、俺の防御術式が当たると同時に爆ぜ消えた。こいつの魔法もさすがに強力だな。

 仕方なく剣の腹を手の甲で弾いてバック転でかわす。


「すみません、すみません」


 着地したら足元を凍らされた。ここへきてスタンダードかつ学校で習うような氷魔法。

 しかし……魔法発動までが尋常じゃなく速い。適当に発動させたのか範囲も広すぎる。これを、一瞬で?


「詰み(チェックメイト)だ、若き王よ」


 背後を取られた。

 小さな体躯は自信満々そうに俺の玉座に座り、聖杯を手に取っていた。

 なるほど、こいつにとって、俺を殺すことが勝ちではない。アレを奪い取ることが勝ち……。いつから動いていた? いくらなんでも速すぎる。魔法か?

 穏当に、逸材ぞろいで面白い。

 指を鳴らそうとした瞬間、全員の視線が聖杯に向いた僅かな隙をついて、ソレが指を切って来た。

 戦いのセンスって言うか……決闘者の嗅覚って言うのか? 中々鋭い物がある。

 斬れていない方の手を着られた手に被せて一瞬で治癒。治した指を鳴らして幼帝の傍に行って聖杯を奪い取る。

 すぐさま飛んでくる銃弾と氷結を、地面を叩いて全て途中で破壊。

 逆に浮き上がった弾丸と氷の破片を蹴りで返す。

 ほぼ全方位に弾丸が飛び散り、ふたりを無力化。もう一度指を鳴らしてソレの傍に行くと、篩われた剣をあえて受ける。右腕が飛ばされるが、どうしたって勝利の合間に生まれる隙をついてソレの胴体を蹴り飛ばして壁にぶち当てた。

幼帝以外は無力化。即座に腕を再生させ、指を鳴らして移動。

 幼帝自身も、首を掴み上げる。苦悶に表情が歪むが、最後まで諦めるつもりはないようだ。


「なんだ、うぬ、その魔法の数は……」

「俺の魔法は特殊でね。未来が見えるし未来で見た魔法を使えるんだ。未来は常に変わるから、存在せずに消える魔法まで俺は使える。それと、未来で俺はある光景を見た。魔王が勇者に殺され、勇者が再び聖杯を使う未来だ」


 幼帝の首から手を離し、椅子に座らせる。

 俺だってそんなものが見えてなきゃ、焦って聖杯を使うなんてことはしなかった。

 生きたいだけだ。死にたくないだけだ。もっと言うなら、世界を平和にしたい。


「俺の親父は聖杯を使うために40億の人間と30種類の生物を生贄に捧げ、聖杯を起動し、この国を作った。意外と最近の話しなんだ。ギリ百年経ってない。魔族は新たな土地と聖杯を使って勇者の軍と戦い続けた。そんな親父も、死んじまった」


 懐から取り出した縁入りの写真を取り出してその辺に投げる。どうせこの部屋には親父の肖像画がある。嫌でも見れるさ。


「勇者を殺そうとして聖杯を使った俺も未来を視る能力を失った。恐らくだが、親父が勇者と相打ちになったのも、勇者を殺そうと聖杯に願って魔法を奪われたからだろうさ」

「あまり愉快ではない話ですね。まさか聖杯を使う人間が現れるとは。なんのために、私は戦ってきたのでしょうか」

「リラ・オルタノート。聖杯を守る目的で創設された、氷理教会の人間だったか? 大丈夫、お前の死は無駄じゃない。俺の親父が使うまではしっかりと守られていたよ」

「そんなもの……」

「あ、あの、氷理教会の方、なのですか……」

「そうですが?」

「ユリエル・フロスティア。お前を捕らえたのは氷理教会の人間だったな。因縁深いものが集まったわけだ。さて、そんな因縁も、これがあれば全て払拭できる。もし勇者を倒せれば、この聖杯の最後の願いを使わせてやる」


 改めて、不可能を可能にした者への明確な褒賞を提示しておく。

 何でも願いが叶うなんて魅力的な話だ。勇者は殺せないようだが、それ以外は大体叶えてくれるだろう。何せ、国ひとつ、大陸一個が出来てしまったのだから。


「質問、よろしいでしょうか」

「どうぞ、シスター」

「神に会うことも出来るのですか?」

「神らしきものがこの世界にいるのなら」

「あの……魔法、消せますか?」

「それくらい叶えてくれるだろうさ」

「私の国を復活させることはできるか?」

「ああそれは出来る。現にこの国が出来ているから。お前はどうだ? ソレ」

「黙れ」

「はいはい。話は分かったな? これは尋常じゃない生贄と引き換えに願いを叶える何かしらの装置だ。しかも親父のじいさんのじいさんも存在は知っていたらしいって日記に書いてある。いつからあったか何故あったのかは知らないが、この際関係ない」

「関係ないことはないであろう。うぬの父君が実際につこうておる。その、実に下品な装置を」

「その通り。魔王なんて言葉が親父のために生み出されたと思うと感慨深い」


 歴史上、多くの支配者がこの世界を統一戦と願い、その度に英雄が夢を打ち砕いた。

 砕かれた欠片を集め直すように、さらに次の暴君が生まれ、英雄が倒す。この永久機関を抜け出したのが、親父だ。

 親父は聖杯を使って魔族の王となり、また世界で一番生物を殺した稀代の咎人となった。

 歴史を紐解けば、そこまで大量に人を殺せば最早英雄と呼ばれるらしい。

 俺は床に落ちた聖杯を起こして軽く腰掛けた。


「魔王と恐れられた親父は世界を支配しかけたが、勇者と呼ばれた男、ギデオン・アークライトに討たれた。勇者の英雄譚は数知れず存在する。魔王っぽい支配者も多かったからな。だがこいつは本物だ。何せ、魔王を殺したんだから、御伽噺から抜け出したようなもんだ」

「なるほど、それでさっきからそこの参謀とやらがこそこそと連絡を取っているわけだ。うぬ、もうじき死ぬんじゃないかの?」

「ご明察。魔王が死に、勇者も死んだが王国の勇者軍残党の方がこっちより強い。速く次の魔王を決めたいところだが、息子ってだけじゃ魔王になれないらしくてな。俺の命は風前の灯火、だ」

「ご愁傷様じゃ」

「話を前に進めましょう」

「進めとるぞ。より愉快にな。馬鹿なうぬらにもわかりやすく教えてやろう。代表面しとるこの男は魔王じゃないのに願いをひとつ使って余らを召喚しおった。他の魔王候補とやらがそんな行動を許すわけがなかろうて。その内捕まって死ぬ。さて、小僧。担保は何じゃ? 余らは次の持ち主のために戦っても同じとことじゃが」


 さすがは戦の天才にして悪逆幼帝と呼ばれるほどの傑物。千年のブランクを感じさせない吹っかけ振りだ。

 ようするに、俺に資質があるのかを問うているんだ。俺が死ぬのをその辺で見学して、殺した俺より件局があるであろう奴に従う方が得だ、と。

 ああ、他の連中も意義がないようだ。本当にもう……あれ。


「おい、ソレの奴どこ行った?」

「出口から出て行きましたよ。勇者を殺すとだけ言って」

「え? 勇者ってまだ出て来てないけど?」

「なるほど、次の勇者が勇者になる前に先手を打つつもりか。賢いのぉ」

「感心してる場合じゃ――」

「ルカ様! これ以上の暴挙は許せません、その玉座から離れてください!」

「あのー、次から次へと問題増やさないでくれない? あとこれ玉座じゃなくて聖杯ね」

「最早世迷言を仰っている立場でないことをいい加減ご理解ください。拘束しろ」


 騒ぎの間にかき集めたのか、魔王軍の兵士たちが甲冑と剣を引っ提げて俺を囲った。

 鉄砲飛び交うこの時代にしちゃ古風な装備だが、逆に魔王軍は魔法の出力の桁が違う。

 よりオールドに、よりファンタジックに、そしてフィジカルに戦うのが主流。

 全員が一千九に戦える剣術を持つ……だけの話だ。


「おいお前ら、俺のことは知ってるな? 魔王の息子だ。歴史上、魔王と名乗る者は何人かいたが、魔王と呼ばれ、また魔王を自称する人間は実は親父一人なんだ」

「その者の言葉に耳を傾けるな! 口で人を殺せれば殺す男だ!」


 勘のいい参謀様だとこ。まあいい。


「俺たちがやろうとしているのは世界の統一だ。勇者が勝ち、聖杯を得れば奴らは確実に使う。俺はその未来が見えている。つまり俺は再び世界で大量虐殺が起きないように戦うわけだ。お分かりか? 次に聖杯が使われた時、生贄になるのはお前か、お前らの家族か」


 ぴたりと、兵士たちの動きが止まった。魔族とは言え、いや、魔族だからこそ、自分や仲間への気持ちはそこらの人間より強いんだ。

魔力量が人より多く、多少見た目が違うからってだけで亜人と同じくくりにされ、虐げられてきたのだから。


「お前らが俺ではなく、そこの参謀の首を取るというのなら、お前たちは俺の直属親衛隊として取り立てよう。それとも、お前ら、自信あるか? 俺の戦いを見てただろ?」


 兵士たちの答えはあまりにも速く、単純に導き出された。


「お前たち……何をするつもりだ! 私は魔王様直下の貴族にして魔王軍参謀であるぞ、止めろ、やめ――」


 兵士の一人が跪き、ようやく黙った参謀の首を差し出してきた。


「ご苦労。では他の兵士にも同じことを伝えろ。俺につくか、他につくか。この首はお話合いに使え」

「ご命令のままに、魔王様」


 魔王様、か……まったく、おだてられているような気分だな。

 この俺が……親父の代わりになれんのかねぇ。

 まあいい。始まってしまったものは仕方がない。もう少し穏便に済ませる予定ではあったが、こっちはこっちで片づけるとしよう。


「おい、幼帝陛下。今度はそっちの番じゃねえか? 俺につくのか、どうなのか」

「ふむ。見せろ見せろと言って見せぬというのも芸がない、か。よかろう。とりあえずうぬにつくとしよう。まずは、先に向かった、あー、ソレじゃったか? 奴を利用する」

「利用?」

「ああ。おい、そこの修道女とちっこいの。お前は私より大きいが本当にちっこいな。ふたりともついて来い。どうせ、やるつもりなんだろう? 余の力を見る機会でもある」

「私は構いません。どうせ戦うことしか出来ない。あなたの力を見せてください」

「ウチ、ウチは……その……人殺し、嫌、です」

「面倒な連中じゃのう。まったく久しぶりじゃぞ、余に意見するとは。まあいい。おいガキ魔王、勇者は今いないんだな?」

「そう名乗る奴は」

「そもそも勇者の定義は」

「魔王を殺す奴。聖剣って言う、この聖杯と同じような魔道具が扱える適合者を現代では勇者と呼んでいる」

「聖剣伝説は余の時代でもあったが、そうか、今はそう言う扱いか……何故殺せん」

「勇者本人が持つ固有魔法と、聖剣のクソ強い力が厄介なのと、あと神託魔法。向こうにも未来が見える奴がいる。僧侶だ」

「大体わかった。固有魔法だけならまだしも魔道具に、そこの修道女が使っていた面妖な武器。やれやれ時代が変わったのう」

「銃のことでしょうか。1000年前にはありませんよね」

「1000年前は弓と馬が最強でな。ううーーん」


 幼帝は小さな体を大きく伸ばした。ちっこい。ユリエル・フロスティアも小さいがそれよりも小さい。なんだここは。いつの間に小動物のふれあい広場になった。


「久しぶりのシャバの空気じゃ、味合わせてもらうぞ」

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