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第9話「揺らぐ呼吸」

朝霧透は、モニターの前で肩を落とし、呼吸を整えようとしていた。ユイは小さく手を動かしていたが、その動きは微かに途切れ途切れで、まるで自分の存在が確定していないかのようだった。

「……あれ……今の……いや、違う……いや、わからない」

透はつぶやく。善意を持って見守るつもりだったのに、胸の奥には圧迫感が広がる。触れられない存在を前に、何をすればいいのかがわからなくなる。

ユイは、テーブルの上の小さなガラス瓶の中で泡が浮かぶのを見つめる。透は手を伸ばそうとするが、指先は届かず、ただ見つめるだけになる。別の行動――カメラを消す、椅子から立ち上がる、窓を開けて風を入れる――も頭に浮かぶが、どれも選ばれなかった。

「透くん……ねえ……」

ユイの声はかすれ、途中で途切れる。透は返そうとするが、言葉がもつれ、胸の奥の痛みが強まる。生活ノイズが意識に押し寄せる――冷蔵庫の低いうなり、風で揺れるカーテン、秒針の跳ねる音。

「……お願い……しないで……見てるだけ……かな……いや……」

言葉は繰り返すほどに曖昧になり、透は理解できず、胸の奥の圧迫に身を任せる。

ユイは、微かに笑ったように見えるが、それが希望なのか絶望なのかはわからない。触れられない距離感が、胸の奥に静かに圧をかけ続ける。

透は指先を机の上で揺らし、呼吸を整えようとするが、胸の奥の痛みは少しも消えない。生活の中の微かなノイズが、彼の精神をじわじわと削っていく。

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