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第7話「微かな距離」

朝霧透は、机の上のペン立てを無意識に触っていた。ペンの角が少し欠けていることに気づき、指先で撫でる。別に意味はない。ただ、触れることで胸の奥のざわつきが少しだけ落ち着く気がした。

「……あれ、これ……いや、関係ないか」

言い直す。善意と無関心の境界は、いつも透の中で揺れていた。ユイの存在は、見守りたいという思いと、触れられない距離感の間で揺れ、彼の胸に小さな痛みを残す。

ユイは、窓際の小さな植物を見つめていた。葉の先が少し茶色く枯れかけている。それを見て、透は手を伸ばして水をやろうかと考えたが、すぐにやめた。別の行動――カメラを消す、部屋の掃除を始める、雨音を聞きながら深呼吸――も頭に浮かんだが、選ばれなかった。

「透くん……」

ユイの声はかすかに震え、途切れ途切れだ。透は返す言葉を探すが、適切な言葉は見つからない。心の奥で、善意の行為が彼女の自由を少しずつ縛っているのではないかという疑念が芽生える。

生活ノイズが微かに押し寄せる――冷蔵庫のうなり、風で揺れるカーテン、砂時計の砂が落ちる音。透の胸は、じわじわと圧迫される感覚に包まれる。まるで日常の中に、触れられない距離が埋め込まれているかのようだ。

「……願わないで……見てるだけ……かな……いや、ちょっと違うかも」

言葉は何度も揺れ、繰り返されるたびに意味が薄れる。透は理解できないまま、ただ胸の奥で小さな崩れを感じる。

ユイは、何かを考えるように窓の外を見つめる。微かな笑みを浮かべるが、それは本当に笑顔なのか、ただの錯覚なのか、透にはわからない。触れられない存在の距離が、胸の奥の痛みを静かに押し広げるだけだった。

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