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第6話「触れられない声」

朝霧透は、椅子にもたれながらモニターを見つめていた。ユイの姿は、先ほどまでよりもわずかに揺らいでいる――それがただの画面の反射なのか、彼女の不安定な存在そのものなのか、透には判断できなかった。

「……ユイ、今の……いや、違う……いや、わかんない」

透は言い直す。胸の奥で微かに痛む感覚が、昨日よりも少し強くなっている。善意を持って見守るつもりだったはずが、知らずに何かを削ってしまっているような気配。

ユイは机の端に置かれた小さなガラス瓶を指で軽く揺らす。水の中の気泡がふわりと浮かび、破裂せずに散る。透はその一瞬を見つめるが、触れることはできない。触れようと手を伸ばすたびに、指先は空気の中をすり抜ける感覚。

透は別の行動も考えた――カメラを切る、窓を閉める、部屋を歩く――しかし、どれも選ばれなかった。選ばれなかった行動は頭の隅でざわめき、胸の奥で微かな痛みを広げる。生活ノイズがその痛みを強調する――冷蔵庫の低いうなり、壁に触れる風、時計の秒針が跳ねる音。

「……透くん……あのね……」

ユイの声はかすれ、言葉は途切れる。透は反射的に返そうとするが、思考がもつれ、舌が回らない。胸の奥の痛みは、トラウマ状態の手前までじわじわと広がる。

「……お願い……しないで……見てるだけ……かな……」

言葉は繰り返すたびに揺らぎ、意味は曖昧になる。透はそれを理解できず、ただ胸の奥で何かが崩れる感覚に身を任せるしかなかった。

ユイは、ほんのわずかに笑ったような表情を見せる。その笑顔は希望でも絶望でもなく、揺れる光のように透の胸に残る。指先の届かない距離で、存在そのものが揺らぎ、透の心に小さな圧迫をかけ続けた。

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