第4話「触れられない影」
朝霧透は、モニターの中のユイをじっと見つめた。画面越しの彼女は、まるで消えかけの影のように揺れている。昨日まではただ可愛いと思えたその姿も、今は胸をぎゅっと締め付ける何かに変わっていた。
「……ユイ、どうして……いや、いや……わからない」
透はつぶやくが、言葉は自分の胸に跳ね返るだけだった。善意が、無意識のうちに何かを削っている感覚――それが正しいのか、間違っているのかすら、わからなくなる。
ユイは画面の向こうで手を振るでもなく、体を揺らすでもなく、ただそこにいた。手元の消しゴムを指で転がす。その動きは意味を持たず、生活のノイズの一部のように自然だった。
透は一瞬、別の行動を取ろうと考える――カメラを切る、椅子から立ち上がる、雨音を聞きながら深呼吸する――しかし、どれも選ばれなかった。頭の片隅で、選ばれなかった行動たちが小さく呟き、心の中でざわめく。
「ねえ……透くん……」
ユイの声が、かすかに震える。言葉の端は、風に吸い込まれたように消え、残るのは胸に残る響きだけ。透は反射的に手を伸ばすが、モニターの冷たい表面に触れる指先は、何も伝えられない。
生活ノイズがさらに意識に押し寄せる――冷蔵庫の低いうなり、カーテンが壁に触れる音、秒針の跳ねる音。透の心もそのリズムに引きずられ、息が少し詰まる。胸の奥で何かが崩れる感覚、まるで小さなトラウマ状態に触れたような感覚が走った。
「……お願いしないで……見ているだけ……かな……」
言葉は口に出した瞬間、意味を失いかけ、透はすぐに自分を否定する。正しいか間違いかはもうわからない。
ユイは、ほんの一瞬だけ微笑んだ気がした。その笑顔は希望とも絶望ともつかず、ただ揺れる光のように胸に残る。透はその光を追いかけながら、何もできずに、ただ見続けるしかなかった。




