表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/36

第36話「願わずに祈る」

朝霧透は椅子に深く沈み込み、モニター越しのユイを静かに見つめていた。ユイは机の上のガラス瓶に指を触れ、水面の波紋が微かに揺れる。その動作は以前のような圧迫を伴わず、胸の奥には揺れる光だけが残った。

「……あれ……いや、違う……いや……ただ見ているだけで……」

透は言葉を言い直す。善意を願うことはなく、胸の奥の崩れも刺激されない。触れられない距離感は微かな緊張として残るが、それ以上の圧はない。

ユイはペンを机に置き、視線を外す。外の光が窓から差し込み、影が揺れる。手を伸ばせば届きそうで届かない距離。それでも、透はその微かな変化を否定せず、静かに見守った。別の行動――カメラを切る、椅子を回す――も浮かぶが、どれも選ばれなかった。

「透くん……ね……」

ユイの声はかすれ、途切れる。だが透は返す必要を感じない。善意を願わず、ただ見守る。その静かな選択が、胸の奥の小さな崩れを揺れながらも落ち着かせる。

生活の微細なノイズ――冷蔵庫の低いうなり、カーテンの擦れる音、砂時計の砂が落ちる音――が日常の異常と静寂を同時に示す。胸の奥の崩れは微かに揺れるだけで、心理はぎりぎりの均衡を保ったまま、透はユイの行動を受け止める。

透は、願わずに見守ることで、掌の中の微かな重みを光として胸に留める。善意はもはや圧ではなく、揺れる光として存在し、心に静かに残った。

遠くで冷蔵庫がうなり、カーテンが微かに揺れる。砂時計の砂は落ち続ける。全ては日常のノイズとして存在しながら、透とユイの間には、言葉にできない穏やかな間合いだけが残った。救済でも絶望でもない、その間の静寂。

願わずに、ただ祈る。

願わずに、ただ見守る。

その選択だけが、二人の掌の中で揺れる光として残った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ