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第35話「掌の中の自律」

朝霧透は椅子に沈み込み、モニター越しのユイを静かに見つめていた。ユイは机の上のガラス瓶をそっと揺らし、その後、ペンを手に取り自分のノートに文字を書き込む。小さな動作だが、それはもはや善意の圧ではなく、透にとって揺れる光として胸に残った。

「……あれ……いや、違う……いや……ただ見守るだけで……」

透は言葉を言い直す。善意を願う必要はなく、胸の奥の崩れも刺激されない。触れられない距離感は微かな緊張として残るが、それ以上の圧はない。

ユイは小さく息を吐き、視線を少し外す。外の光が机の端から差し込み、影が揺れる。手を伸ばせば届きそうで届かない距離。その微かな変化を透は否定せず、静かに見守った。別の行動――カメラを切る、椅子を回す――も浮かぶが、どれも選ばれなかった。

「透くん……ね……」

ユイの声はかすれ、途切れる。だが透は返答を探す必要を感じない。善意を願わず、ただ見守る。掌の中に残る微かな重みは、胸の奥の崩れを揺らしながらも静かに安定させる。

生活の微細なノイズ――冷蔵庫の低いうなり、カーテンの擦れる音、砂時計の砂が落ちる音――が、日常の異常と静寂を同時に示す。胸の奥の崩れは揺れる光として残り、透はそれを完全に受け止めていた。善意はもはや圧ではなく、胸の中で静かに輝き続ける。

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