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第33話「静かな掌」

朝霧透は椅子に沈み込み、モニター越しのユイを見つめていた。ユイは机の上のガラス瓶を軽く揺らす。その動作は以前のような圧迫感を持たず、透の胸には揺れる光として残るだけだった。

「……あれ……いや、違う……いや……見守るだけで……いいのか……」

透は言葉を言い直す。善意を願うことはなく、胸の奥の崩れも刺激されない。触れられない距離感が、日常の微かな違和感として透を包みつつも、以前のような緊張はない。

ユイはペンを持ち上げ、迷いながらも机に置いた。小さな行動だが、自律の証であり、透にとっては重くもあり安堵でもある。手を伸ばせば届きそうで届かない。別の行動――カメラを切る、椅子を回す、窓を開ける――も頭に浮かぶが、今はそのどれも選ばれなかった。

「透くん……ね……」

ユイの声は途切れがちで、完全な言葉にならない。それでも透は返す必要を感じなかった。善意を願わず、ただ見守る。胸の奥に残る微かな重みは、揺れる光として静かに受け止められる。

生活の微細なノイズ――冷蔵庫の低いうなり、カーテンの擦れる音、砂時計の砂が落ちる音――が日常の異常と静寂を同時に示す。胸の奥の崩れは小さく揺れるだけで、心理はぎりぎりの均衡を保ったまま、透はユイの行動を受け入れていた。

透は、願わずに見守ることで、掌の中の微かな重みを光として胸に留める。善意はもはや圧ではなく、揺れる光として存在し、心に静かに残った。

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