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第3話「揺れる指先」

朝霧透は、カメラの前に座りながらも、手元のスマホをつい見てしまった。画面に映るのは、昨日と変わらない通知欄。未読はゼロ。

「……あれ、誰も……いや、待って、気のせいかも」

言い直すたびに、心臓の奥がちくりと痛む。善意なのか、ただの自己満足なのか、それすらよくわからない。

ユイは机の端に置かれた紙飛行機を指で転がす。飛ばすでもなく、握りつぶすでもなく、ただ指先で遊ばせている。透はその指先の揺れに目を奪われるが、同時に、別の行動を想像する――窓を少し開けて風を入れる、椅子を倒して座り直す、カメラの角度を変える――どれも選ばれなかった。

「透くん……あの……」

ユイの声はまた途中で止まり、言葉は空気の中に漂った。透は返すべき言葉を探すが、舌がもつれて思うように出てこない。

「……いや、ちょっと違う……なんていうか……うまく言えないな」

窓の外の雨は止みかけ、街路灯の光が濡れたアスファルトを照らす。透の視線は、ユイの手元から街灯へと流れるが、どちらにも届かない。生活ノイズが小さく耳に刺さる――冷蔵庫の低いうなり、壁に触れる風のざわめき、時計の秒針が跳ねる音。

「……ねえ、透くん……」

ユイが再び呼ぶ。今度はもう少しはっきりした声だったが、続きは言われなかった。透は息を飲む。何かを返すべきだと頭では思うが、何を言えばいいのかがわからない。

砂時計の砂が少しずつ落ち、透は手でそっと止める。止めた瞬間、胸の奥がざわつき、体温が少し下がった気がした。

「……願わないで……見るだけ……かな」

言葉を繰り返す。だが今も、それが正しいかどうかは、やはりわからない。

ユイは笑ったような、泣いたような表情で窓の外を見る。透はその視線を追いながら、何も決められないまま時間だけがゆっくり流れていくことを感じた。

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