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第2話「声にならない声」

朝霧透は、昨日の配信の録画を流しながら、机に突っ伏していた。画面の中の自分の笑顔は、どこか他人事のようで、少し気持ち悪かった。

「……笑ってるつもりだったんだけど……いや、笑えてないかもしれない」

指先で髪をかき上げる。窓の外では、昨日の雨がまだ小さく残っていて、カーテンが揺れる。透はその揺れをじっと見つめながら、心の中でユイの声を探した。

モニターの角で、ユイが机の上のメモ帳に鉛筆で何かを描いている。絵の内容は、透には読み取れなかった。

「……あ、描いてるのか……でも……いや、読まなくてもいいのかも」

透は手を止め、同時に別の行動も考えた――椅子を回して本棚の奥を覗く、引き出しを整理する、空のカップを洗う――しかし、どれも選ばなかった。選ばれなかった行動は、頭の中で小さなざわめきになり、生活ノイズの一部として混ざっていく。

「ねえ……透くん」

ユイが小声で呼ぶ。だが、声は途中で途切れ、言葉の最後は風に飲まれたように消える。透は耳を澄ませながらも、答えを返せずにいた。

彼の胸の奥では、昨日より少しだけ痛みが増していた。痛みの正体を探そうとしても、手に取れるものではない。正しいとか間違いとか、善意とか悪意とか、すべてが濁っていて、透はその濁りの中にじっと立ち尽くすしかなかった。

机の上の砂時計を、また無意識に指で押す。砂は零れ落ち、音が小さなリズムを刻む。そのリズムに合わせて、透の心も揺れる――どうすればいいのか、何が望ましいのか、誰も教えてくれないまま。

ユイは小さく笑った気がした。だが、それが本当の笑顔か、単なる錯覚かは、透にはわからなかった。

「……願わないで……見てるだけ……かな、いや、ちょっと違うかも」

透はつぶやく。言葉は正確には届かず、ただ空気の中で揺れるだけだった。

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