第19話「掌の重み」
朝霧透は、モニターの前で椅子に沈み込み、視線をユイに固定していた。ユイは、机の上の小さなガラス瓶の水をそっと指で揺らす。その微細な波紋は、胸の奥に鋭い圧迫として届く。
「……あれ……いや、違う……いや……どう言えばいい……」
透は言い直す。善意は知らず、ユイの自由を少しずつ縛り、触れられない距離感を胸に刻む。
ユイは、突然指を止め、ペンを手に取る。置く場所を迷うわずかな時間、その選択の動作が透の胸に重くのしかかる。手を伸ばせば届きそうな距離、しかし実際には届かない。別の行動――カメラを切る、椅子を少し回す、窓を開ける――も浮かぶが、どれも選ばれなかった。
「透くん……ね……」
ユイの声はかすれ、途中で途切れる。返す言葉を探す透の口はもつれ、胸の奥の崩れが微かに疼く。生活ノイズがそれを際立たせる――冷蔵庫の低いうなり、カーテンの擦れる音、砂時計の砂の落ちる音。
「……願わないで……見てるだけ……かな……いや……」
言葉は揺れ、胸の奥の崩れと善意の圧が交錯する。ユイは可愛らしくも、不安定さを抱え、透の胸に静かに圧をかけ続ける。
ユイは視線を逸らし、小さく息を吐く。その微かな動作は希望でも絶望でもなく、揺れる光として透の胸に残る。掌の中の距離感は、じわじわと重くなり、善意の圧は確実に透の心を縛り始めていた。
生活の微細なノイズが、日常に潜む異常を強調する。善意の重みは、静かにユイの行動を縛り、透の胸に圧として残り続ける。




