表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/25

第16話「微かに揺れる掌」

朝霧透は、椅子に深く沈みながら、モニター越しのユイを見つめていた。彼女は、机の上の小さなガラス瓶の水を指で揺らし、波紋が広がるたびに胸の奥に微かな圧迫感を生む。

「……あれ……いや、違う……いや……どう言えばいいんだろう」

透は言い直す。善意は、意図せずユイの自由を削り、胸の奥でじわじわと圧迫を生む。触れられない距離感が、日常の些細な違和感として胸に残る。

ユイは小さく眉をひそめ、手を止めた。指先の微かな震えは、触れられない存在としての不安を透に伝える。透は手を伸ばそうとするが、届かない。別の行動――カメラを消す、椅子を少し回す、窓を開ける――も浮かぶが、どれも選ばれなかった。

「透くん……あの……」

ユイの声はかすれ、途切れる。透は返そうとするが、言葉はもつれ、胸の奥で小さな崩れが広がる。生活ノイズがさらに意識を押しつぶす――冷蔵庫の低いうなり、カーテンの擦れる音、砂時計の砂の落ちる音。

「……願わないで……見てるだけ……かな……いや……」

言葉は揺れ、胸の奥の崩れと善意の圧が交錯する。ユイの存在は可愛らしくも、不安定さを孕み、透の胸に静かに圧をかけ続ける。

ユイは、微かに視線を動かし、どこかを見つめたまま小さく息を吐く。その微細な動きは、透にとって希望でも絶望でもなく、ただ揺れる光のように胸に残る。触れられない距離感が、じわじわと掌の中に重くのしかかる。

生活の微かなノイズが、日常に潜む異常を強調する。善意の重みは、確かに、そして静かに変化を生み、次の行動の選択肢を制限し始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ