第15話「触れられない決意」
朝霧透は、机の上に置かれたペン立てを何度も軽く指で叩きながら、モニターの中のユイを見つめていた。揺れる光と影の中で、ユイの微かな笑みが透の胸に刺さる。
「……あれ……いや、違う……いや、どうだろう……」
言い直すたび、胸の奥で小さな痛みが波のように広がる。善意は知らずに、ユイの自由を少しずつ削っていた。触れられない距離感が、日常の些細な違和感として胸に残る。
ユイは、机の上の小さなガラス瓶を指で軽く揺らし、水面に小さな波紋を作る。その動きは微かで無意味に見えるが、透には確かに圧迫として届く。触れようと手を伸ばすが、届かない。別の行動――カメラを切る、椅子を回す、窓を少し開ける――も浮かぶが、どれも選ばれなかった。
「透くん……ね……」
ユイの声はかすれ、言葉は途切れ途切れだ。透は返そうとするが、口はもつれ、胸の奥の崩れが微かに疼く。生活ノイズがそれを際立たせる――冷蔵庫の低いうなり、カーテンの擦れる音、秒針の跳ねる音。
「……願わないで……見てるだけ……かな……いや……」
言葉は揺れ、胸の奥の崩れと善意の圧が交錯する。ユイの存在は可愛らしくも、不安定さを孕み、透の胸に静かに圧をかけ続ける。
ユイはわずかに笑みを浮かべる。その笑みは、希望か絶望かもわからない。ただ揺れる光の中で、触れられない距離感が、透の胸にじわじわと重くのしかかる。
砂時計の砂が落ちる音が微かに響き、日常の微細なノイズが異常を強調する。善意の重みは、確かに、そして静かに変化を生み、次の行動の選択肢を縛り始めていた。




