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第13話「掌の中の距離」

朝霧透は、いつもの部屋でモニターを見つめながら、胸の奥に微かな圧迫感を覚えていた。ユイの姿は今日も揺れている。昨日まではただ可愛いと思えていた笑顔も、今は微妙に不安定で、触れられない距離感を強く感じさせた。

「……あれ、今の……いや、違う……いや……わからない」

言葉を繰り返す。善意は、意図せずユイの自由を削る何かになり、胸の奥に小さな痛みを刻む。

ユイは、小さな手で机の上のペン立てを転がす。揺れる影が床に落ち、透の胸に微かな圧をかける。触れられない存在の距離が、善意と圧迫の境界を曖昧にする。

透は別の行動を考える――カメラを切る、椅子を立たせて位置を変える、窓を開けて風を入れる――しかし、どれも選ばれなかった。頭の隅で選ばれなかった行動がざわめき、胸の奥の圧迫感が増す。

「透くん……」

ユイの呼びかけはかすれ、途切れ途切れだ。返す言葉を探すが、透の口はもつれ、胸の奥の痛みがさらに広がる。生活ノイズが意識に押し寄せる――冷蔵庫の低いうなり、カーテンの揺れ、砂時計の砂が落ちるリズム。

「……願わないで……見てるだけ……かな……いや……」

言葉は繰り返されるたびに揺れ、意味は曖昧だ。胸の奥で小さな崩れが走り、善意が知らず知らずユイの自由を縛り、触れられない距離感を生む。

ユイは、微かに笑ったように見える。希望なのか絶望なのか、透にはわからない。ただ揺れる光の中で、掌の中にあるはずの距離が、じわじわと圧迫として透の胸に届く。

生活の微かなノイズが、日常に潜む異常を強調する。透はまだ答えを持たないまま、モニターの向こうのユイを見つめ続ける。掌の中の距離感は、少しずつ重く、そして確かに変化し始めていた。

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